共にロマンを介する者なれば
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
〈ロボキチ〉こと羽刈 鋳造は生粋のプラモデラーだ。
リアルの風体はチンピラそのものだが、その外見に反して精細なプラスチック加工技術を持っている。
ハッキリ言おう。
こと、プラモデル制作において、〈ロボキチ〉は俺より上だ。
伊達に雑誌に載るような作品を生み出しているわけではないということだ。
その差は、いかに俺がゲームで脚光を浴びようが埋まらない。
本来なら、金剛さんにプラモ作りを教えるのも、羽刈の方が適任なくらいなのだ。
事実として、羽刈の手掛けたプラモデルには人の目を引く魅力がある。
こだわり抜いたプラモデルは芸術品に等しい輝きを放つ。
羽刈 鋳造の作品は確実にその域の物だ。
しかし、それは同時に玩具としての側面が薄れることを意味する。
例えば、…一目で有名な芸術家の作った物だとわかる彫像があったとしよう。
新たに発見されたそれは誰の目から見ても確実に”芸術”だと断言できる様な見事な彫像。
その彫像には俗っぽさや安っぽさなど微塵も感じない。
故に、下手に触ろうとせず博物館など、保護や鑑賞を目的とする施設へと送られるだろう。
まぁ順当な想定だ。
しかし、この発見された彫像が”羽刈 鋳造の作ったプラモデル”だった場合、様相はガラリと変わる。
そもそも、彫像とプラモデルでは歴史や加工技術など価値基準が違うのだから当たり前だという意見もあるだろうが、そこはひとまず目を瞑っていただこう。
重要なのは誰が見ても一目で”芸術品”だとわかるということ。
価値基準の話になるとややこしくなる…原価はプラスチックの方が高いのかもしれないし…一点物や付加価値でそこはいくらでも変わる。
少なくとも、俺や羽刈みたいな人間は重たい彫像よりも再販未定のレアなプラモデルを欲しがるだろうしな。
話を戻そう。
発見されたプラモデルはプラスチックでありながらプラスチック感を感じない見事な色合い、質感の物。
汚し表現であれば、まるで本当の戦場で戦ってきた兵器が手の中にあるようなリアリティを伝えてくるし、グラデーション表現であれば、虹や夕焼けを見た時の様な光の織り成す鮮やかさが目に叩きつけられる。
プラモデルを知らない人間が見れば、それがまさかプラスチック製だなんて思わないだろう出来栄え。
…ここまでは、俺にもできるかもしれない。
ちょっと良い塗料を使い、熟練した道具を用いれば…なんとか。
ただ俺なら、確実にそこ止まりだ。
芸術品…というより、ただの綺麗な物で終わる。
しかし、羽刈 鋳造は違う。
プラモデルを芸術の域に押し上げながら、玩具としての魅力を失わなせない。
綺麗だと思う。
リアルを感じる。
相当な手間暇のかけられた物だと想像できる。
価値のある物だと理解させられる。
博物館とまでは言わないが、貴重な物として保護すべきだと頭には浮かぶだろう。
だけど…!
”《《触って、動かしてみたい》》!!”
羽刈鋳造は、そう思わせる物を創るのだ。
それこそが、奴の特異な想像力と手技によって生み出される作品。
芸術の多くは鑑賞されることが本懐だ。
見えない絵に価値は無い。
ならばプラモデルの本懐とはなんだ?
当然、用途による。
玩具としてなら遊ぶことだし、芸術を目指すなら魅せることになるだろう。
ならば芸術的玩具は?
羽刈鋳造の示した正解の一つがこれだ。
”《《遊びたくなる様な芸術品》》”。
「ロマンだぜ」
その言葉に含まれる輝きは羽刈 鋳造自身、上手く説明できないのだろう。
しかし確実に心を震わせる衝撃があるからこそ求め続ける価値がある…。
《《そいつ》》は俺にもわかる。
……………………
〈フルカゲ〉の奴が作るプラモは悪くねえ。
むしろ良い。
しかし…、多少の自画自賛も入ってるが、俺みたいな奴が謙遜する方がむしろムカつくだろうから、思ったことをそのまま偉そうに言わせてもらう。
俺の作ったモンに並ぶか…と言われると、そこまでじゃねえ。
そもそも比べるもんじゃねえし、比べてわかるもんでもねえんだけど、あくまで技術的な話ではだし、一塩加えるだけで簡単にひっくり返る程度の評価《差》ではあるが…。
…《《惜しい》》とこまでは行ってる…そしてその”《《惜しさ》》”が味を出している…と俺は見ている。
あんまり上手く説明はできねえ…俺は感覚派だからな。
まあ、なんつーか…奴の作ったモンは俺とは違うロマンを感じんだ。
それが『バープラ』に来て、上手いことハマりやがったのが〈スケルトン〉だと、俺は考えている。
…ブッちゃげるぜ。
『バープラ』で、俺はあいつに負けている。
話に聞いたレイドボス〈バスター・ゴリラ〉。
三人で共闘した〈宇宙〉エリアで待ち構えていた〈アイギス〉。
もしもやり合ってたのが俺なら…あの野郎ほどの戦果を挙げられたとは思えねえ。
機動力偏重《特化型》・武装《手ブラ》・クリア外装・着脱できるシステム……。
作品の出来栄えでは負けてねえはずだ。
だが、〈スケルトン〉ほどの性能を俺の作品は叩き出せてねえ。
ならたぶん、技術《腕》の問題じゃなくて好みの問題だ。
『バープラ』っつーシステムの好みが〈スケルトン〉だったってことだ。
…思うとこが無いわけじゃねえが、それは呑み込むしかねえことだ。
好き嫌いに言及できるほど俺は偉くねえ。
好きになってもらえる作品を創れなかった俺に否がある。
そこに口を出すのは、無粋どころか恥だ。
むしろこいつは、ストライクゾーンにブチ込んだ〈フルカゲ〉を賞賛してやるとこだろう。
”好き”だとか”好みだ”って言葉を勝ち取るのは簡単じゃねえんだ。
……それに、〈スケルトン〉だけじゃねえ。
仮に俺が〈スケルトン〉に乗っていたとしても……やっぱり大した戦果は挙げられてねえと思う。
つーのも…実のところ俺は機体の操作が大して上手くねえんだ。
俺はどっちかっつーと…っつーか、明らかに操縦者じゃなくて整備兵よりの人間だからな。
ロボットを作る奴であって動かす奴じゃねえんだ。
〈ジーク〉なんかとは根本的に違う。
比べんのもおこがましいレベルだろう。
それで言ったら〈フルカゲ〉の野郎も似たようなもののはず…だと思ったんだが…あいつは違った。
あいつは整備兵でありながら操縦者もできるタイプのキャラだった。
自分の手で作ったからこそ、一番うまく扱えるっつータイプだった。
このタイプはなんつーか…システムとの適合率が高えんだ。
自分の手足を作ってる様なもんなんだから当然だろう。
平たく言やぁ、パイロットとしても奴は俺より上手い。
現実のプラモを突き合わせりゃあ8割俺に軍配が上がるが、『バープラ』でやり合えば土をつけられるのは俺の方。
……《《だからこそ、ロマンの気配がする》》。
敗北濃厚の勝負…それをひっくり返せたら?
熱いよなぁ?
大逆転。
大番狂わせ。
強者を弱者が倒す。
そんな光景にワクワクしねえ男はいねえ!
自分が認めてる男が相手ならば尚更だ。
…第一位のことの責任の一端は俺にもあるが、この一戦だけは頭空っぽにしてもらうぜ。
プラモデラーとして。
男として。
友人として。
そして、同じくロマンを理解する者《同士》として。
誰もが魅入る、胸躍る殴り合いをしようぜ。
もう一人のダチが『自分も闘りたい』って言いだすくれえの、派手なぶつかり合いを。
…………………
二機の巨人が岩山に囲まれた谷に降り立つ。
一方は両の手に武器を持たず、硝子の様な外装を身に纏ったフレームそのものを見せ付ける様な機体。
そのコックピットには白いスーツを着た黒い長髪の女が同じく白い帽子を目深にかぶり、ニヤリと笑っている。
一方は両手に持った二丁のバズーカ砲を両肩で支え、その巨体を足から噴射する空気で浮かせた機体。
こちらはパイロットである軍服幼女の姿を見ることはできないが、闘志が漲っているのは誰が見ても理解できるだろう佇まい。
二回戦第一試合?
いいや、違う。
この場こそが本日の《《ベストバウト》》の舞台だ。
その技術に憧れはある…。
自分に無いものをもっている…。
羨みはすれど、比べるものではないとわかってはいる。
なればこそ、両者とも持ち合わせているものでは負けるつもりはない。
一方は頂に進み、辿り着いた答えを示すために。
一方は去り行く友に灯りを送るために。
さあ、殴り合おう。




