表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
天剣を地に落とせ
66/85

怪物と英雄の境目

年内最後の更新です。



 〈ジーク〉のやったことは大したことじゃない。

 

 〈トリプル・ホイール〉の接近から逃れるため、超高航度へと離脱した〈ジーク〉は、まず地上に向けてグレネードランチャーで広範囲爆撃を実行した。

 ブッ放している〈ジーク〉ですらどこに着弾するかわからない無差別な範囲攻撃は、しかし〈カロリッパー〉の恐るべき反射神経で回避され、砂の混じった爆風を巻き上げただけで終わる。


 実際、〈ジーク〉もこの程度で第一位を殺れた(ころせた)とは考えていなかっただろう。

 勝敗が決まったウインドウが現れないということは、爆撃をなんらかの方法でしのいだと判断し、生存しているのならば〈トリプル・ホイール〉はノーダメージと想定すべきだと思った。


 そして、これを凌がれるのならば、中距離から普通に|マシンガンが当たるとは思えない《目に見える直線的な攻撃は無駄》。

 現に狙撃は正面から対応された。


 ——普通に撃っては当たらない。


 第一位ナンバー・ワンプレイヤー〈カロリッパー〉に風穴を空けるには、例え無駄弾になったとしても突飛とっぴな使い方をする必要がある。

 だから〈ジーク〉は超高航度という高さで、さらに”高さ”を求めて二丁のマシンガンの全弾を《《真上に向けて》》解き放った。

 〈ジーク〉のいた超高航度は普通に自由落下で地上へ降りるのにも分単位の時間がかかる高さだ。


 つまり、弾丸は時間差を付けて降りてくる。


 物理エンジン(重力)に従い、失った威力を落下の加速で補って。


 銃弾という”物質”は威力の減衰はあっても、ビームの様に空中で霧散むさんしたりはしない。

 何も無い空に放っても消滅したりはしないのだ。


 〈ジーク〉は最後に一発だけ残ったグレネードランチャーも真上に撃ってから、再び狙撃に移行するべく、地上へと向かったのだ。

 

 こんな目隠し撃ち(めかくしうち)も良いところの、雑な射撃が当るとは思っていない。

 第一、爆撃すら凌ぐ相手に効果があるのか?

 最初の狙撃の様に驚愕ビックリはさせられるかもしれないが、効果はそれくらいだ。

 だから、あくまで狙いは意識の誘導ゆうどう

 本命はその驚愕ビックリの隙を狙撃で刺すことだ。

 

 当たれば、大儲け(おおもうけ)

 当たらなくても、|どうせ当たらなかった弾丸《無駄弾》が砂煙を上げるだけ。

 ならば、やらない理由は無かった。


 ——賭けというよりは、”やらなかったら確実に無駄になるからやった方がマシ”程度の策。



 そして、再度の超高航度への離脱を〈カロリッパー〉に妨害され、片翼を失って墜落する間際。


 頭部のカメラに接続されたままだった狙撃銃のスコープが光を捉えた。


 ——都会の空で見る星の様な、小さな光点。


 それを見た瞬間、”次善の策(誘導)”は”本命《キメ弾》”に変わったのだ。


 光点の正体はマシンガンの銃弾よりも重いせいで、いち早く地上へと向かっていたグレネード弾。

 〈ジード・フリート〉の墜落地点へと、まるでグレネード弾が数多の銃弾を引き連れる様に落ちて来ていたのだ。

 あのグレネード弾の着弾から数秒後、その地点の周囲(ポイント)に”銃弾の雨(バレットシャワー)”が降る。


 〈ジーク〉にはそれがわかった。


 グレネードランチャーの最後の一弾(ラストバレット)は”銃弾の雨(バレットシャワー)”が着弾する地点ポイント時間カウントをしらせるためのアラートだったのだ。


 そして”銃弾の雨(バレットシャワー)”が着弾するまでのカウントを頭の中で数えながら、リスクの高い近接戦を仕掛けて〈トリプル・ホイール〉の足を止めた。



 墜落地点がちょうど罠のど真ん中になったこと。

 片翼が壊れ、移動に制限がかかったことで”待ち構える”という選択に説得力が生まれたこと。

 


 …幸運、としか言いようがない。

 だが、これは当然のことだ。


 ”怪物退治”の逸話において、勝利の女神()というものは英雄に微笑むもの。


 逆に”怪物”の側は理不尽な不運に襲われたり、整合性の無い罠にかかったりする。






 「……はぁ……はぁ……はぁ………」


 

 まもなく砂煙が晴れ、勝者の姿が観戦者にも見えるだろう。


 砂のカーテンの中で勝者はただただ、思う。


 ——強かった。


 この勝敗は運によるものだ。

 自分はただ、ほんの少し、相手より運が良かっただけ。

 頭の位置がほんの数ミリ、ズレていたら先に死んでいたのは自分だった。


 砂煙が晴れる。


 物理エンジン(重力)に従い、落ちて来た”銃弾の雨(バレットシャワー)”に全身を貫かれ、見るも無残なボロボロの機体が二機。

 お互いに寄りかかって、まるで支えあう様に立っていた機械の巨人の片方が倒れる。


 倒れたのは〈ジード・フリート〉。

 立っていたのは〈トリプル・ホイール〉。



 「…大英雄…伝説の……ジークフリートは、竜の血を浴びて不死身《怪物》になった……でも、背中に張り付いていた葉っぱのせいで完全な不死身にはなれなかったんだ……」



 華々しい初陣とはとても言えない。

 愛妹の作ったボロボロの赤い巨人が、もうまともに動かないことを悟りながら、〈カロリッパー〉が独り言を漏らす。



 「…でも…それっておかしいと思うんだよ……、竜《怪物》の血が葉っぱごときに負けるとは思えない……(怪物)が負けたのは英雄にだけだ……」



 誰かに聞こえているとは思えない、その程度の呟き。

 実際、この独り言に価値を見出しているのは〈カロリッパー〉だけだろう。



 「…たかが葉っぱが、竜《怪物》の力を捻じ伏せた…?違うね……英雄が選んだんだ……不死身《怪物》にならず、人間であり続けることを……」



 同じくボロボロになり、砂の地面に倒れ伏す〈ジード・フリート〉を見つめながら〈カロリッパー〉は伝説の英雄(ジークフリート)目の前の英雄(ジーク)が重なって見えた気がした。


 伝説の悲惨な結末を…ではなく、勝利した後も竜《怪物》に負けなかったその偉大な思いを。


 もしも、〈カロリッパー〉が敗北していたら…きっと新たな”怪物”が誕生していたはずだ。

 怪物に勝つとはそういうこと。



 ——”英雄ジーク”は”怪物”に落ちなかった。


 

 ——英雄のまま、怪物を凌駕し、人間のまま負けた(勝利した)


 

 それが惜しくもあり、羨ましくもあった。



 「……本当に…お見事、だよ」


 

 勝者は数多の英雄を屠ったという怪物《竜》も、こんな気持ちになったのだろうか、と思いを馳せる。


|フィクションのストーリー《実在したかもわからない物語》に。



 ………………………

 

 



 「おら、次の対戦相手の部屋にいつまでいんだ!テメエは!」


 〈ロボキチ〉の控室から追い出された(蹴りだされた)俺は自分の控室ではなく〈ジーク〉の控室に向かった。

 廊下を足早に進む。

 

 「…引退ってどういうことだよ…!〈ジーク〉…!」


 〈ジーク〉の控室もそんなに遠くない。

 通りに出ると、そこには道を塞ぐ様に〈カロリッパー(けんどう きりか)〉がいた。



 「古野、一応聞くけど…どこに行く気?」


 「お前にゃ関係ねえ、どけ」


 「さすがにダメ」


 「あぁ!?」


 語気が荒くなる。

 健堂は真顔だ、それが余計にイラつく。

 胸倉を掴みそうになるのだけは何とか堪える。


 試合中の会話だけでは、どういう事情なのかはわからなかったが〈ジーク〉の引退にこいつが関わっているのは確かだ。

 というより、原因の可能性が高い。


 「…引退試合で、思うような結果が出せなかった選手がどんな表情をするのかくらいは覚えてるでしょ?」


 「…っち……!」


 瞬時に、健堂がここにいる意図を理解する。

 励ますつもりならともかく、問い詰める感じで向かっていた今の俺が〈ジーク〉に会うのは無神経というものだ。


 健堂は敗者の尊厳を守るために勝者の義務として、ここに来た。


 「…あと、引退は私のせいじゃないらしいよ……私は私のせいだと思うけど、〈ジーク〉は私のせいにするのが嫌みたい……スゴイよね…」


 「……カッコいい奴なんだよ」


 「うん、強かった。今まで私を一番追い詰めたのは古野だったんだけど、〈ジーク〉はそれを越えちゃった」


 「……場合によっちゃ、許さねぇ」


 「…古野に許しを請うのは相手が違うと思うから、別の言葉を使うよ。〈ジーク〉の気持ちを尊重してあげて」


 「………」


 健堂は勝者として、なにより自身を追い詰めた強者として〈ジーク〉を尊敬しているのが伝わってくる。

 そして自分の責任(やらかしたこと)も理解しているし、その責任を取らせない〈ジーク〉の気持ちを尊重している。

 

 俺の行動が余計であることも理解した。


 だが、今こいつの顔を見続ける気分にパっと変わるわけじゃない。


 無言できびすを返し、自分の控室に足を向ける。


 「……古野、〈ジーク〉は怪物に片足を突っ込んでまで、怪物《私》に勝とうとした。…たぶん、それは〈ロボキチ〉君も同じだよ」


 「………」


 「負けないでね。私を”一番”追い詰めたのは古野 千景(ふるの ちかげ)であってほしい」



 背中にかけられた熱を感じる言葉に、振り返らずに手を上げるだけで答える。


 

 言われるまでも無い。

 


 〈ロボキチ()〉の凄さは良く知っている。



 負けるつもりはない。

作者は物理学とかまったくわからない人です。

恐らく、作中の銃弾の動きに対して「いや、ありえん」と思う方もいるでしょうが、”これはそういうゲーム”の話なんだなぁ”、”ゲームの中ではそういうルール”になるんだなぁ”と思ってください。

創造したものが動き回ってる世界なんだから、銃弾だって想像した通りの動きをしたっておかしくないよね、ってことで。

現実から離れるから空想は面白いのです。



2024年ももう終わりですね。

2025年もよろしくお願いします。


トーナメントはいつ終わるんだろうね?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ