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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
天剣を地に落とせ
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英雄VS怪物


 「っち…外した…!」


 〈砂漠〉のバトルステージ最端にある大きめの岩で、腹ばいになって二丁の狙撃銃を両脇に抱える様に構えた〈ジーク〉がつぶやく。

 

 …いけない、いけない…思わず舌打ちがでてしまった。

 これは〈ジーク〉らしくない。


 「…当然の様に弾道から位置を割り出すか…」


 スコープの中では〈トリプル・ホイール〉が砂煙を上げながら迷いなく、まるでスピードスケートの選手を連想するフォームで、こちらに向かって疾走していた。


 …〈フルカゲ〉の情報通り、〈トリプル・ホイール〉に確認できる武装は二つだけ。

 背中にラックされている接近戦用の硬質ブレードと遠距離用の狙撃銃。


 聞いた話でも体験談としても第一位〈カロリッパー〉の攻撃は放たれれば、即死。

 一振りが、一度の引き金が、文字通りの必殺。

 

 ”特に剣は振らせたら致命的”とは機体の情報と共に書かれていた〈フルカゲ〉の所感だ。

 

 〈ジーク〉もその意見には頷かざるを得ない。

 実際、この遠距離でも〈ジーク〉は狙撃銃ではなく、ブレードに手が伸びないかに注意している。

 

 この距離で敵の狙撃による反撃より、近距離でしか攻撃できないブレードを警戒する理由は殺傷力の差だ。


 狙撃銃での遠距離攻は銃弾が放たれてから、着弾するまで数舜の余地がある。

 〈ジーク〉と今のL,v99 の〈ジード・フリート〉ならその余地で十分な対処をできる自信がある。

 しかし、ブレードの一閃には恐らくその余地すらない。


 なればこその遠距離戦。

 

 リロードが終わり、狙いを定める。

 すでにこのポイントからの移動は確定だが、その前にもう一度狙撃を試みる。

 引き際は肝心だが、狙うべき所で及び腰だと奴は消せない(殺せない)


 ただ、一度目の狙撃の様に、悠長に狙いを定めている時間が無いのも事実。

 〈トリプル・ホイール〉は基本的に地走機体。

 バトルステージに恵まれたとはいえ、地面が蹴れるなら、それなりの速さでこちら捉える。

 

 「っ…!」


 腹に力が入り、頭に血が上る。


 先ほどまで蛇行による前進を続けていた〈トリプル・ホイール〉がスコープの中で走行中にも関わらずジャンプや宙返りを交え始めた。

 狙撃者を前にして空中へ身を晒すことがどういう意味を持つのかは言うまでも無いだろう。


 ふざけはじめた…!


 まるで、『ただ走るだけではつまらない』『早く撃ってこい』と誘っている様だった。

 

 「嘗めやがって…!!」


 舌打ちの反省は無に帰した。


 ドォッドォオオオ!!!


 微妙にタイミングをずらした二射が再び放たれる。

 腹ばいで両脇に二丁の狙撃銃を抱える様に構えて撃っているので、現実なら反動で胸骨や肋骨を痛めるところだが、機械のボディであればこの程度は何の問題もない。

 スコープも直接除くのではなく、直接視界に投影…機体頭部のカメラで統一してターゲットサイトを表示している。


 弾丸の狙い所はどちらも必中必殺のタイミング。

 地面を蹴って両足が浮き、回避行動が取れないであろう”空中滞空時”。

 そして空中から大地へ再び地面と接触し、敵の座標が固まる一瞬の”着地地点”。


 〈アイギス〉攻略時、常に動きながら狙撃を外さなかった〈ジーク〉であれば、問題なく当てられる。

 

 しかし、〈ジーク〉が引き金を引いた瞬間。

 〈トリプル・ホイール〉が宙で《《舞った》》。

 

 そして遅れてくる硬い物同士がぶつかった音と銃声。

 

 「…クソっ!!」


 無事に着地し、まるでただのパフォーマンスであったかの様に平然と前進を再開する〈トリプル・ホイール〉の両手には、いつの間にか右手にブレード、左手に狙撃銃が握られている。

 

 空中でブレードを抜き放って一射目の弾丸を斬って迎撃、同時に狙撃銃で早打ち(クイック・ドロウ)し、着地を狙った弾丸も撃って弾いたのだ。



 言うだけならやったことはシンプルで、なんなら簡単そうにさえ聞こえる。

 『こんなことは大したことじゃない』、という態度のせいで抱かされる安易な印象。

 その印象が間違っていると気づくのにわずかな時間ラグが必要になるほどの佇まい。


 …人間技じゃない。


 どちらか片方でも極大の集中力が必要な神業を空中で、しかも同時にやってのけたのだ。

 あれが、同世代の少女だと言って誰が信じる?


 正に人の形をしているだけの怪物バケモノだ。

 

 完全に逸脱している。


 だが…それが何だ?


 ここは『|バーチャル・プラモデル・オンライン《ゲームの世界》』だ。

 現実から逸脱した非現実ならここにもある。


 「ちょっと高い所にいるからって調子にのるなぁ!!」


 立ち上がって、バーニアを全開にする。

 瞬間、音を置き去りにする加速力であっという間に遥か上空へ到達する。

 ほとんど、瞬間移動。

 一条の線を一瞬だけ残して空へ昇る様は、まるで地上から宇宙ソラへ帰る流れ星の様だった。

 もはや、最速の座は〈スケルトン(フルカゲ)〉では無いと言わんばかりの閃き。


 一瞬で〈トリプル・ホイール〉の射程距離から抜け出した〈ジーク〉は背部から伸びるウイングに懸架された武器と狙撃銃を入れ替える。

 

 今の〈ジード・フリート〉は普段の限られた武器種で最大限の成果を求めるスタイルでは無い。

 最大推力、最大積載量の背部大型ウイング(バックパック)には計四つのウェポンラック。

 今しがた仕舞った狙撃銃が二丁。

 両手で使用することが前提の大型マシンガンが二丁。

 そして、両手に持ち変えたグレネードランチャー二丁。

 

 左右腰部には近接用のエネルギー溶断ブレードが二刀。

 

 各種類二つずつ。

 三種六丁・一種二刀の計四種八つの重武装。


 パーツレベルを上げ、重量を気にする必要の無いほどの馬力を得たからこその”フルウェポン”。

 〈ロボキチ〉の好みドンピシャの最終決戦仕様だ。


 グレネードランチャーを地上で使う気は無い。

 狙撃銃の弾丸を正面から切り捨てる相手に多少の広範囲攻撃が通用するとは思えない。

 だから空中ここで全弾撃ち尽くす。


 ボン!ボン!ボン!ボン!ボン!………!


 狙撃銃に比べれば、可愛らしさすらある発砲音を聞きながら、中学を卒業した時に貰った卒業証書を入れる筒で男子が遊んでいた時の音がこんなのだった、と場違いな思い出を連想する。

 

 狙いは付けない。

 恐らく、あの狙撃への対応は〈ジーク〉の思考を読んでのものだ。

 そもそも、狙撃銃を仕舞った時にスコープも解除されているので、相手の精確な位置などわからない。

 

 なるべく、隙間を作らない様に上空から地上を爆撃し続ける。

 反撃を許さない高度から行われる十数秒の一方的な爆撃の雨。

 それがどれほど恐ろしい攻撃なのかは言うまでもない。

 

 移動しながら発射を繰り返し、弾道を微妙に変えながら地上を爆撃する。

 グレネードランチャーの残弾が右手の一発のみになった辺りで、背部の大型ウイングから発される熱量が無視できないものになってきた。

 

 「そろそろ限界か…!」


 いかにL,v99の〈ゲーム内機体〉とはいえ、永遠に空中を陣取れるわけではない。

 バーニアに熱が溜まれば、冷却のために地上へ着陸する必要がある。

 その仕様があるからこそ、バトルステージの上昇高度に制限が無いのだ。


 爆撃がどれほどの効果をもたらしたのかはわからないが、まだ決着を告げるウインドウは現れていない。

 つまり、両者生存。

 ならば、敵は五体満足だと想定するべきだ。


 そして、相手はようやく手の届く場所に降りてきた獲物を逃すほど、甘くは無い。

 

 




 ………………




 

 「スゲェ…〈ジーク〉優勢だ…!」


 「あぁ…!たぶん〈ジーク〉は〈アイギス〉戦のオマージュをしてる」


 〈ジーク〉の鬼気迫る奮戦ぶりに感嘆の声を漏らす俺と、冷静に状況を分析しようとする〈ロボキチ〉。


 〈ロボキチ〉の言う通り、〈ジーク〉の戦術は手出しのできない距離を作り、敵を一方的に攻撃し続けるという、俺達にとっては記憶に新しい〈宇宙戦艦アイギス〉のとった戦術に酷似している。


 遊びの全くない、激寒戦法ではあるが、その有効性は俺達の知る通りだ。


 そもそも、あの健堂 斬加(けんどう きりか)を相手に後手の対応を押し強いている時点で快挙なのだ。

 スポーツ剣道と『バープラ』でルール(状況)が違うとはいえ、そこは中学時点の俺が無理だと諦めたルート。

 それを、力業で切り開いている。


 「…ホントに勝っちまいそうだな」


 「いいや、まだわからん。俺にはあの第一位が〈アイギス〉の嬢ちゃんを攻略できないとは思えねえ」


 俺達三人が全力、かつ絡め手を用いて、なんとか攻略に成功した〈アイギス〉を、第一位〈カロリッパー〉ならば絡め手無しの真っ正面から攻略できるんじゃないのか、と言外に〈ロボキチ〉は言っているのだ。

 

 …できるんだろうなぁ。

 そう思えるくらいには、健堂 斬加は人間を辞めている。


 だが、それを言ったら今の〈ジーク〉も同じだと俺は思う。




 それはつまり、健堂 斬加という怪物に〈ジーク〉が近づいていることに他ならない。

〈ジーク〉の乗機〈ジード・フリート・フルウェポン〉。

最終決戦仕様カスタムの〈ジード〉。

武器を懸架する大型ウイングのバックパックが特徴的なカスタム機。

本来、このバックパックは重量が重く、〈ゲーム内機体〉のバックパックの中では最も多く武装を積める飛行ウイングではあるが、代わりに加速力が死んでいるというパーツでした。

それをレベリングで無理やり推力を上げ、尚且つ、ウイング以外のパーツも加速に特化したことで、レベル80とかの時点で〈スケルトン〉に匹敵するスピードだったのがさらにお化けになりました。

コンセプトは多武装と高速移動による疑似的な多対一を強いること。



実は〈ゲーム内機体〉のレベルカンストは相当厳しい道のりです。

〈ジーク〉がいとも簡単にカンストしたのは第八位の称号効果によるものと、〈宇宙〉エリアで隠しボスをソロ討伐したどころか、経験値として効率的に狩り続けたから。


普通は無理。

気が遠くなる。


だからこそ、開発者はその性能を保証した。

本気で作った作品が素晴らしい物になるのと同じ様に。

本気でゲームに打ち込んだ者への当然の報酬として。

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