怪物とは驕るもの
トーナメントのバトルステージは決勝戦を除いてランダムで決定される。
といっても、〈海〉や〈宇宙〉などの、機体によっては身動きが取れなくなる様なステージは無い。
精々が〈森林〉や〈砂漠〉などの足回りが悪くなる程度のステージ。
そこは普段の〈コロッセオ〉と同じだ。
ただ一つ、普段の〈コロッセオ〉と違う点がある。
それは天井の高さ。
通常、〈コロッセオ〉での試合は天井に逆さになったもう一つの〈コロッセオ〉があり、天井の〈コロッセオ〉に触れることで重力の向きが変わるギミックがあった。
それが今回、天井に蓋をする逆さの〈コロッセオ〉は無い。
青空の下でのバトルだ。
つまり、飛んで上昇する分には制限が無い。
さすがにバトルフィールドの広さを無制限にすると、接敵に時間がかかり過ぎたりと、問題が出てくるので、横の広さに限界はあるが、それでも普段より広めにとられているはずだ。
天井が無い、やろうと思えばバーニアの許す限り上昇ができる。
これは有利だ、と〈ジーク〉は考える。
〈ジーク〉の愛機たる〈ジード・フリート〉は空中戦で力を発揮するタイプの機体。
〈フルカゲ〉達三人を除いて到達者のいない〈宇宙〉エリアで〈ジード・フリート〉のパーツレベリングを行ったかいもあり、現在レベルはカンストの99。
現状、〈ジード・フリート〉の機体性能は限界値まで高めてある。
当然、空中にいられる時間だって増えた。
地の利はこちらに分がある。
基本的に〈ジード・フリート〉の陣取るべき場所は空中なのでステージがどこであろうと、さしたる影響はない。
そして、情報戦。
どういうルートで手に入れたか知らないが、〈ジーク〉は〈フルカゲ〉から第一位〈カロリッパー〉の新機体の精細な情報を入手している。
相手の機体は情報通りなら足場の影響を無視できない。
こっちは第一位の手の内がわかっているが、相手は〈ジーク〉がどれだけ進歩したかを知らないのもプラスだ。
|独占中の未到達コンテンツ《〈アイギス〉》による機体強化、地の利、敵の情報…。
人によってはもうこの時点で勝利を確信できるほどのリード。
しかし、第一位の怪物を退治するにはそれだけでは足りない。
一つ、絶対に必要なものがあると〈ジーク〉は考える。
そして、それが自分にあるのかは…これから確かめるしかない。
……………………………………
「さて…初陣な、わけだけど…」
スポーツの選手が試合前に柔軟体操をして体をほぐす様に、機械の肩をグルグルと回したり、伸ばしたりしている、燃える様な赤い機体が〈砂漠〉のバトルステージに一機。
第一位プレイヤー〈カロリッパー〉こと、健堂 斬加は新たな愛機の感触を楽しんでいた。
鳥を模した三角形のシルエットの頭部。
ロボットであるというのに、丸みを帯びた流線形の細いボディ。
何より特徴的なのは、両足合わせて計六つのホイール。
一足に対して三つのホイールが足をグルリと囲っている。
正面を向いているホイールが一つも無いことから、単純に直進するだけでも複雑さが伺える脚部を指して、製作者である妹はこの機体を〈トリプル・ホイール〉と名付けた。
…その妹は今回のトーナメントに対して猛反対し、珍しいことに口も聞いてくれないくらいの大喧嘩中なのだが…まあ、それはこれが終わった後どうにかするつもりだ。
古野のこともトーナメントのことも直前まで黙っていたから、きっとそれが気に食わなかったのだろう。
仲直りをどうするか、は後で考えるとして、まずは愛妹お手製の新機体を無事に乗りこなすことをその第一歩としよう。
妹はあれでいっぱしの創作者だ。
健堂 斬加の存在ありきでデザインされた、この〈トリプル・ホイール〉が満足のいく出来栄えだと証明できれば、溜飲を下げる材料になるかもしれない。
「うーむ…、運は無かったなぁ…初陣は走りやすい場所が良かったんだけど…確か《《あの子》》は空中戦が得意だし…」
ランダムで選ばれたバトルステージは〈砂漠〉。
ホイールを駆使して地面を高速で走行する〈トリプル・ホイール〉との相性は最悪だ。
砂が滑って走れない、というほどでは無いが、走り出しは遅れるし、何よりホイールの回転で巻き上がってしまう砂煙が鬱陶しい。
対して、相手は第八位〈ジーク〉…なんだったっけ…あぁ、そうだ。
人呼んで〈お人良しのジークフリート〉。
初心者狩りを狩ったりして、ゲームの治安維持に貢献している姿から付けられた二つ名だ。
〈ゲーム内機体〉〈ジード〉を愛用する、かの大英雄の二つ名を持つプレイヤー。
《《ロールプレイ》》でそんな二つ名を掌中に収める程度には人格者のフリが上手い。
しかし、残念ながら私の目にはただの偽善者、偽物にしか映らない。
まあ、別にそこはどうでも良い。
何かのフリもゲームの楽しみ方の一つ、個々人の自由だ。
分不相応だとは思うけど。
重要なのはただ一点。
古野が『バープラ』で一番最初に出会い、仲が良い。
っ…。
思考が必要の無い方向に逸れた、本筋に戻そう。
特質するべき点は、機体。
一見すると特に変わったところの無い〈ゲーム内機体〉だが、中身は別ものだ。
あれは明らかに、既存の〈ゲーム内機体〉の動きを越えていた。
そしてそれは〈ジーク〉だけじゃない。
〈ロボキチ〉の機体もおかしかった。
ならば恐らく、古野も…。
彼らは、何らかのインチキでシステムの定めた上限を取っ払っている。
チート…では無いだろう。
ここの運営にはなかなかの切れ者がいる。
そんな萎える行為を許すほど甘くはない。
…面白い。
さすがは古野 千景と言えよう。
このインチキのおかげで、私が用意した四人の順位称号持ちなど物の数では無くなった。
実質、このトーナメント大会は〈フルカゲ〉達三人と第一位〈カロリッパー〉の四人の勝負だ。
強いて言うなら二回戦第一試合でその〈フルカゲ〉と〈ロボキチ〉が当たってしまうことが心配ではある。
万が一、そこで〈フルカゲ〉が負ければ決勝戦の相手は〈ロボキチ〉だ。
賭け自体は自分の勝ちだが、なんとも締まらない幕引きになることだろう。
できるなら、隣のブロックに〈ロボキチ〉が来てほしいところだった。
そうなれば、より歯ごたえのある敵と闘えたし、勝利の形もより完全なものとなっていたはずだ。
そして、確実に決勝戦で古野と殺しあえる。
「…まあ、問題ないでしょ!」
古野が決勝に上がって来ること、これから対戦する相手、両方を指して問題ないと断じる無敗の怪物。
そして、ちょうど思考に結論を出したタイミングで、《《来た》》。
ボォオオオン!!!
「…まあ、そうだよ…」
〈トリプル・ホイール〉の背後で、砂煙が上がる。
砂煙が上がる一秒前に半歩移動していなければ頭部を撃ち抜かれていたであろう軌道。
狙撃だ。
「…ねぇ!?」
独り言が言い終わる前に、今度は慌てて動く。
一射目は半歩。
余裕を持って回避したが今度は違う、思いっきり砂の地面へとダイブした。
ボォオオオン!!!
一射目に遅れて一秒後。
半歩動いた先に…いや、動かされた先に次弾《キメ弾》。
「連射!?」
狙撃銃で?
いや、無理だ。
連射ができる風にデザインされた狙撃銃は〈ゲーム内機体〉には無い。
つまり…
「狙撃銃の二丁持ちかぁ!!」
随分と殺意が高い。
先ほどの思考の中に〈ジーク〉というプレイヤーの性能は含まれていない。
その必要が無かったからだ。
しかし、その評価から改める必要が出てきた。
初手でこの私を驚かした。
その快挙にあなたは気づいている?
ジーク葉美「絶対殺す」(目を光らせて、二丁の狙撃銃をランボー風に構えながら)




