スラッガーの魔球
「よぉ!お互い無事に勝てたな!」
「…次に対戦する相手んとこにそんな気軽に来んなよ」
トーナメントは一試合ずつ行われる。
俺は〈ロボキチ〉が、危なげなく勝利したのを確認したので、再び〈ロボキチ〉の控室へやって来たのだった。
「それにしても、エグイ戦法とってたよなぁ」
〈ロボキチ〉の対戦相手は〈ジーク〉によると第四位の称号を持つ実力者。
俺も今さっき第二位と対戦したばかりだから実感を持って言えるが、順位称号持ちは、いかに〈アイギス〉攻略済みというアドバンテージがあろうとも侮れる相手では無い。
だからこそ、〈ロボキチ〉は〈アイギス〉による恩恵を最大限使用した。
〈ロボキチ〉の使用機体は変形機でありながら、変形機構を阻害するほど武装を搭載した、まさに『機体バランスなんざクソ食らえ』を体現した〈リアルプラモ〉。
ディスプレイするのなら確実に台座を用意しなくてはならないであろう、その機体の名は〈ナパーム・スラッガー〉。
俺と〈ジーク〉にとっては〈アイギス〉攻略時にも使用された、おなじみの機体だ。
〈ロボキチ〉は『バープラ』を一度”引退”して戻って来た所謂”復帰勢”なわけだが、俺が見ている限り〈ナパーム・スラッガー〉は復帰してから一番乗り回している機体だと思う。
開幕、飛行形態ではなく人型のロボット形態で出撃した〈ナパーム・スラッガー〉。
再スキャンを経て、性能の見直しとスキルの獲得を果たした〈ナパーム・スラッガー〉なのだから、俺と組んで2on2をやった時よりも扱いやすくなっているはずだ。
…最初は俺もミサイルと格闘を併用した《《まともな》》闘いをするのかと思った。
しかし、違った。
登場時の姿こそ以前と違ったが、やったことは以前と同じだったのだ。
すなわち、搭載したミサイルの開幕《《全ブッパ》》。
もともと、スキャンする前からミサイルの性能だけは良かった〈ナパーム・スラッガー〉だ(〈ロボキチ〉は『ミサイルが本体』とまで言っていた)。
それが、通常では考えられない量、向かって来るのは確かに脅威だろう。
だが、相手は第四位。
順位だけ見れば〈ジーク〉よりも上のプレイヤーだ。
…ここでも、俺は技量に秀でたプレイヤーの恐ろしさを見た。
第四位の機体は二丁拳銃を装備した青い〈ブル〉だった。
アップデート前までは第一位や第二位も愛用していたみたいだし、トッププレイヤーに人気の〈ゲーム内機体〉なのだろう。
無差別に、だが、視界を覆うほどの物量で飛来するミサイル群に対し、第四位〈ネライ犬〉は二丁拳銃の引き金を引いて迎撃をし始める。
マシンガンですら無い…本来はサブウェポンの枠であろう単発撃ちのハンドガン二丁では全てのミサイルの迎撃は到底間に合うわけがない。
しかし、結果から言えば〈ネライ犬〉の青い〈ブル〉はミサイルの弾幕を抜けて見せた。
直撃するミサイルと通り道にあると邪魔なミサイルだけに狙いを絞って迎撃したのだ。
弾幕に穴を作りだし、そこを真っすぐに突っ切った。
バーニアをフル稼働し、《《トップスピードで前に進みながら》》。
撃つべき的を瞬時に定めながらの全力飛行、その最中ただの一発も無駄弾を打たなかった”命中精度”。
もたらされる結果は、一点突破の最短ルートによる急接近。
〈ナパーム・スラッガー〉のミサイルはその名の通り焼夷弾頭。
爆炎から線を引いて飛び出した青い〈ブル〉は各所に炎を纏わせながらも二丁の銃口を〈ナパーム・スラッガー〉に向ける。
放たれる弾丸は確実に急所へ叩き込まれるだろう。
ただし、それは引き金を引くことができていたら…の話だったが…。
突如、最後尾の、つまり一番最後に発射され、〈ブル〉に一番近い位置にあったミサイルの一つが《《Uターン》》した。
自動追尾とかの挙動では無い。
ミサイルは完全に〈ブル〉とすれ違い、明後日の方向へと進んでいた。
どう見てもロックオンはされていない、仮にされていたのだとしても、もうそれはロックが外れた後の挙動だったはずだ。
それが突然、まるで誰かがラジコンで操縦しているかの様に軌道を変え、背後から〈ブル〉を襲った。
あとは引き金を引いて、トドメを射すだけだった〈ネライ犬〉には避けられるはずもない。
第四位〈ネライ犬〉の駆る青い〈ブル〉は爆炎と共に散った。
「あれ、何個かマニュアル操作できるミサイル混ぜてたんだろ?ミサイルの飛翔速度もなんか早かったし、Uターンしたミサイルに至っては再加速してた。…たぶん、《《セットするスキルを全部ミサイル関連のにした》》んだな」
スキルを全てミサイル関連のものにすることで、ミサイル特化の能力をさらに尖らせる。
スキャンした〈リアルプラモ〉に発現するスキルは、数が限られるうえに、ある程度のバランスに配慮したランダム。
そう、バランスが配慮されるのだ。
それはつまり、違う系統のスキルがそれぞれ配られるということ。
一系統のスキルで固めるなんてこと普通はできない。
まして、全てのスキルを一つの武装関連のものに統一するなんてことは。
だが、〈アイギス〉を攻略した俺達は別だ。
攻略難易度・激高の宇宙戦艦〈アイギス〉の正体は〈機体性能の拡張施設〉。
〈リアルプラモ〉の場合、発現する可能性は存在したが、機体の容量と配られるスキルのバランスの問題で除外されたスキルをセットできる。
要は通常、自前の〈格納空間〉でスキルのセッティングをしても、選べるスキルは最初に配られた数枚の手札のみだが、〈アイギス〉で調整すれば機体という山札から好きにカードを選べるのだ。
だから、普通はあり得ない”一武装の性能特化”なんて戦法がとれる。
〈アイギス〉攻略の有無。
その差がよくわかる試合だったと言えよう。
「いやー…俺もこっち側だから人のことは言えんが、やっぱ卑怯くせえなぁ」
「ロボバトルの戦場に美プラで出て、レイドボスの攻撃技使って闇討ちした奴にだけは言われたくねえ」
いや、しょうがないでしょう…俺は『バープラ』始めて一か月経ってない初心者で相手は第二位のベテランだ。
「ルールに抵触したわけじゃないから良いんだよ…我、初心者ぞ?」
対戦エリアに閉じこもってフィールドに出なかったり、入り口を見つけてもバグだと思って飛び込まなかった君たちが悪いんだ…。
戦闘技術の向上を重視した彼らとフィールドの探索に力を入れた俺達の差とも言える。
「オメエみてえな初心者がいるか…。プラモデラーとしてはそこそこ腕あるくせに…ったく…!」
〈ロボキチ〉の対面の椅子に座りながら、壁のモニターをチラ、と見る。
今、流れているのは一回戦第三試合。
〈スタリアン〉vs〈T‐4〉
〈ジーク〉が言うには彼らも順位称号持ち。
普通ならどちらも優勝候補に名前が挙がるプレイヤーなのだろうが、残念ながら内情を知る俺達からして見れば、どちらが勝っても次の対戦相手が絶対王者〈カロリッパー〉か〈アイギス〉攻略者〈ジーク〉であるので、実質詰んでいる。
中々、白熱している様だが、ぶっちゃげ今の俺達は〈ジーク〉と〈カロリッパー〉の試合待ちだ。
「なぁ…〈ジーク〉勝てると思うか?」
「普通に考えれりゃ無理だろ」
だよなぁ…。
〈ロボキチ〉と〈ジーク〉はすでに第一位〈カロリッパー〉と対戦し、二人がかりで敗北を喫している。
それは即ち、俺が昔、味合わされた様に”健堂 斬加”を思い知ったということ。
いかに〈アイギス〉攻略で機体の性能が〈リアルプラモ〉に匹敵しようとも、〈ゲーム内機体〉では〈ジーク〉自身が勝機と見出した”現実では不可能な戦略や攻撃”は難しい。
第一位に勝つには例えば、先ほど〈ロボキチ〉がやった様な”尖った闘い”が必要不可欠。
〈ジード・フリート〉では”お利巧”すぎる。
それが、俺達の共通見解だった。
「…でも、『私が消す』って宣言してたんだよなぁ」
いつも優しく、礼儀正しい。
それでいて、誰もが認める確かな強さを持っている〈お人良しのジークフリート〉。
いつもより少し荒い雰囲気はともかく、彼の英雄はこれまで、己が宣言したことは必ず実現してみせた。
少なくとも、〈フルカゲ〉と出会ってからは全て。
それは、無理だとわかることは『無理』と言える人間だということに他ならない。
その〈ジーク〉が勝つと宣言したのだ。
敗北前提、少しでも俺達のために第一位の情報を引き出すという感じはしなかった。
”ここで、私が殺す”。
あれはそういう目だった。
「だーから言ってんだろ…普通に考えりゃ、って……おら、始まるぞ」
モニターには爆発と共に〈スタリアン〉『WIN』の文字。
あの日、〈ロボキチ〉が〈ジーク〉の何を庇っていたのか…俺はまだ聞かされていない。
実のところ、参加者は〈ジーク〉を除いて全員〈リアルプラモ〉の新機体を用意しています。
〈カロリッパー〉の選考基準はそこでした。
ただ、本命である第一位と当たるまでは皆、手の内を隠したがったので一回戦では使い慣れた〈ゲーム内機体〉を使用していました。
(第二位はやること変わらないから普通にガチ機使ってた)




