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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
天剣を地に落とせ
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開戦の轟砲


 第二位ナンバー・ツープレイヤー〈ロック〉に油断の二文字は無かった。

 大型アップデートと共に『バープラ』に現れた硝子ガラスの外装の機体。

 それを操る白い殺し屋。

 映像を見ただけでもその機体性能、特に機動力は脅威の一言だ。


 仮に、だ。


 仮に、かの白いギャングがフィールドで無差別にPKを始めたら、どれほどの被害が出る?

 止められる者…いや、逃げられる者はいるのか…?


 幸いなことに、噂で聞く限り〈フルカゲ〉というプレイヤーは、その様なゲームスタイルでは無いらしい…。

 しかし第一位ほどでは無いとはいえ、日々、様々なプレイヤーから対戦を望まれる身としては”恐ろしい”の一言だった。


 そして、とうとうこの日が来てしまった。

 まさか、トーナメントの一番最初に対戦することになろうとは。


 第一位が主催するこのトーナメント大会。

 ほとんどの参加者がそうであるように〈ロック〉の目的も第一位〈カロリッパー〉の打倒であった。


 第一位との対戦経験が現状最も多く、最も惜しい闘いをするプレイヤー。

 それが他プレイヤーから見た第二位〈ロック〉だ。

 しかし、その評価が的外れであることを〈ロック〉は誰よりも痛感している。

 相対しているからこそ、わかる。

 第一位はこれまで、《《ただの一度も》》、全く本気をだしていない。

 縛り(しばり)プレイで、淡々《たんたん》と、作業の様に剣を振るっているだけだ。

 それなのに、勝てない。

 しかも奴は勝者のはずなのに、いつもつまらなそうな顔をするのだ。

 それが悔しい。

 眼中にすら入ってないと、いつも思い知らされる。

 いつしか、あの”最強”の打倒をすることが〈ロック〉の目標となった。

 

 そんな第一位が、新機体を作ったのでトーナメントを開く、と言いに来た。

 

 「君も新機体あるんでしょ?対戦しようよ」


 そう言って、トーナメントの招待券を受け取った。

 『こいつ俺のこと覚えてやがったのか…?』というのが最初の感想。

 次に、『え?こいつ〈リアルプラモ〉使うの?それもう太刀打ちできなくね?』。

 そして、ようやく『なんか楽しそうだったな…』と思った。


 その理由がアップデート後の〈リアルプラモ〉環境に歯ごたえを感じてなのか、それとも新機体をお披露目することに対してなのかはわからない。

 ただ、ようやくお互いが楽しめる試合ができるかも、と思ったのだ。


 何を隠そう、『バープラ』のサービス開始当初は〈ロック〉も〈リアルプラモ〉を使うプレイヤーの一人だった。

 〈ゲーム内機体〉を使った方が楽しめると考えてからは使っていなかったが、アプデの入った今なら〈リアルプラモ〉の方が楽しめるだろうと考えてちょうど制作し始めていたところに飛び込んできた誘い。

 …久しぶりにニッパーを握っていて心底良かったと思う。


 降って沸いた出来事にモチベーションが高まったこともあって、〈ロック〉は結果的に自分史上最高の機体を仕上げるに至った。

 機体名〈ワン・オクロック〉。

 主に美少女プラモを目玉商品とするメーカーが何を思ったのか、突然出したオリジナルメカブランドのプラモ。

 そのシリーズの中でも特に重装甲の機体〈クロック〉を特に改造などせずに、綺麗に、かつ忠実に仕上げることで完成度を高めた一品だ。

 



 バトルのステージは〈森林〉。

 〈ワン・オクロック〉は木々の生えていない見晴らしの良い広場の様な場所で〈スケルトン〉が来るのを待っていた。

 右手に構えたタワーシールドと左手に持っているメイスをいつでも動かし、対応できる様に、気を張りながら、襲撃者が来るのを待ち構える。


 「さぁ、どっからでも来い…殺し屋…!」


 〈ロック〉のバトルスタイルは至極シンプルだ。

 ”肉を切らせて骨を断つ”。

 あえて、敵の一撃を受けて耐え、敵の動きが止まった瞬間に返礼の一撃を持って戦いを終わらせる。

 HPではなく、頭部や胴体などの重要部位の破壊を持って撃破判定とする『バープラ』においては、まさに一撃必殺を追い求めたスタイルと言えよう。

 前提として敵の攻撃を最初に受ける必要があるので、受け所をミスれば先に自分が死ぬリスクのある戦法だが、〈スケルトン〉相手ならば問題は無い。


 (反射は考えなくていい…。〈スケルトン〉は高機動に重きをおいた機体…。正面から〈ワン・オクロック〉と殴り合えるほどの防御力もウエイトも無いはずだ。射撃武器も無いからジワジワとこちらを削ることもできない。ならば取れる択は一つ…!超高速の接近攻撃!)


 一撃必殺の手札は相手だって持っている。

 〈スケルトン〉のそれはガードを許さぬ超速の一刺しを頭部、もしくは背後から胴体に刺し込むこと。


 しかし、こちらは”待つ”ことも戦法の一部だが、あちらは動かなければ状況を動かせない。

 何より、互いに一撃決着を狙うなら、攻撃箇所は頭部か胴体に絞られる。

 つまり、狙う攻撃箇所が割れている。

 これは受け側に取って、かなりのアドバンテージだ。

 

 脚部など他の部位を狙うのなら、それはそれで良い。

 〈ワン・オクロック〉は生存力とパワーが取り柄の機体だが、〈スケルトン〉は一度でもまともに食らえばその性能を十全に発揮できまい。

 攻撃の試行回数が増えるのならば、やはりこちらに利がある。


 懸念があるとすれば、攻撃が当たるのか?ということだが…それも大丈夫だろう。

 〈ロック〉には本気では無いとはいえ、あの第一位と打ち合った経験がある。

 仮に、一撃離脱の戦法を取られても、盾で受け、メイスを当てる自信はあった。


 「〈ワン・オクロック〉は足が遅いからな…。いつまでだって待ってやる…!まだか?早く来い…!」


 

 広場の中心で上下、左右、前後方の全方位を警戒する〈ロック〉。

 まともに〈スケルトン〉と闘えば、勝利者は順当に彼だっただろう。

 

 しかし、彼は思い違いをしている。

 白い殺し屋〈フルカゲ〉の代名詞は確かに〈スケルトン〉だ。

 しかし、彼はゲーマーではなくプラモデラー。

 当然、作ったプラモデルが〈スケルトン〉一つだけとは限らない。

 また、必ずしも〈スケルトン〉で闘うわけではない。



 チカっ!と。

 森の中で何かが一瞬光った様に見えた。

 直後。

 

 「は?」

 

 視界が真っ白に染まった。

 音は無い。


 そして今度は辺りが真っ暗になったかと思うと。


 『LOSE!』


 第二位ナンバー・ツープレイヤーである自身の一回戦敗退を示すウインドウが表示された。




 数秒前まで視界をさえぎっていた木々の消失。

 一直線にえぐれた地面。

 巨大な竜でも寝っ転がったのかと思うような、森の惨状。

 その始点である最端に全身を深い黒のマントで覆い隠したツインテールの少女が立っていた。

 水色の髪の毛先に火が灯っている様な、特徴的なグラデーションの髪色。

 少女の右腕からはパズルが崩れる様に数秒前まで大砲の形をしていた物が欠片となって地面に落ち、消えていく。


 約二名を除いて、知る由も無いがその水色の少女は高難易度宇宙戦艦〈アイギス〉を直接攻略したプラモ(機体)

 その名を〈ブルー・シート〉。

 かの悪名高きレイドボスより、その”最大”を簒奪さんだつした美少女プラモである。


 「…ガン待ちとか…格ゲー勢、怖っわ…」


 勝者である〈フルカゲ〉の表情に余裕の色は無い。


 いかに第二位のプレイヤーが操る〈リアルプラモ〉といえど、〈宇宙戦艦〉すら一撃で叩き折ったレイドボスの劣化必殺技、その不意打ちには耐えられるはずもなかった。


 しかし念のため、盾を持っていた右側ではなく、メイスを持っていた左側から撃ったというのに、一瞬光っただけのマズルフラッシュに反応して盾を構え直したのが見えた。


 …もしもこれが、劣化ゴリバスではなく、普通の狙撃だったら…間違いなくれていなかった。

 そうなれば、サイズ差の暴力による無残な死が待っていたはずだ。

 隠しておいた方が良かった手札を出し惜しみせずに切ったのは結果的に大正解だったと言えよう。

 

 『WIN!』


 「順位称号持ち(ランカー)…侮れないな」


 


 

 王者であるが故に他の参加者より少しだけ豪華な控室で観戦していた第一位〈カロリッパー〉はこう考える。


 〈フルカゲ〉に在って、第二位〈ロック〉に無いモノ。

 それは、《《どんなことをしても》》勝つという執念。


 第二位は正々堂々とした闘いにこだわりすぎだ。

 まあ、ロボで闘うのがメインのゲームなのだから正しくはある。

 しかし、そんな奴はそこら中にいくらでもいるのだ。

 

 私が面白いと思うのは、嘘も盤外戦術ばんがいせんじゅつも戦略の内だと割り切って、悪びれも無く使える…そういう悪い顔の似合う男なのだ、と。

〈ロック〉は普通に闘ったらフルカゲもロボキチも問題無いくらい強いです。

 ただ、性根が真っすぐな人なので、虚をつく様な戦法に弱い。

 でもヘタな戦法なら叩き潰せる技量があるから彼は第二位なんですね。

 え?ジーク?

 あいつは今バケモンと化してるから…。

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