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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
天剣を地に落とせ
58/85

開幕直前

トーナメント大会は招待券が渡されてから二週間後です。

明記し忘れてました。

今話で触れるから許して。


 「よお!〈ジーク〉久しぶりだな!」


 プレイヤー同士が己の機体と実力を競う対戦エリア。

 その通称でもあり、目玉の施設でもある〈コロッセオ〉の入り口で後方から声変わり前の幼女の声が聞こえた。

 粗野だが、十分な親しみを感じる声音、〈ロボキチ〉だ。

 

 「〈ロボキチ〉さん!お久しぶりです!」


 「おう、この二週間、自分の機体の調整なんかですれ違いだったからなぁ」


 今日は第一位〈カロリッパー〉の主催する招待制トーナメント大会当日。


 この二週間、〈ジーク〉は〈ジードフリート〉のパーツレベル上げを、〈ロボキチ〉と〈フルカゲ〉は新作の〈リアルプラモ〉の作成と調整に集中してきたのだ。

 お互い、ログインしていることは知っていたが顔は合わせていなかった。


 理由は二つ。


 一つは”第一位打倒”という同じ目的を掲げていても、勝者の座が一つしかない以上はライバルであるから。

 今回の戦いは1on1。

 情報の共有はあっても直接的な協力は無い。

 既知の相手であろうとも試合で当たればお互い遠慮はしないだろう。

 ならば、隠せる手の内は隠しておいた方が良い。

 

 二つ目は単純に活動場所の距離。

 現在三人の拠点と化している〈宇宙戦艦〉こと〈アイギス〉。

 プレイヤー目線で見れば、機体の強化調整施設でもある、あの船は三人が過ごす場所として十分な広さではあるが、多くのプレイヤーが利用できる広さか?と言われれば残念ながら不十分だ。

 そのため、当初は〈アイギス〉攻略の設定を高難易度にすることによって攻略者の人数を絞る狙いがあったのか、もしくは〈アイギス〉の他にも同じような役割の戦艦なり施設があるのではないか、と考えていた。

 その答えはメインユニットの役割を担うNPCである銀髪の少女に、船を動かしてもらおうと頼んだ時に得られた。


 『エネミーのいる場所まで移動したいのですか?わかりました、それでは《《新しく船を出しますので》》、そちらを乗機としてお使いください』


 そう言うと、自分が居た戦艦の隣に全く同じ戦艦が現れたのだ。

 …思えば攻略時、この〈宇宙戦艦〉はプレイヤー数に応じて、戦力、つまり戦艦を用意していた。

 つまり、〈アイギス〉を攻略することができればプレイヤーそれぞれが乗機となる〈宇宙戦艦〉を持てるのだ。

 これならば、いくら攻略者が現れようとも問題ない。


 その様にして、三人が独立して動けるのであれば、レベル上げに適した強敵のいる宙域、デブリ帯など機体の試し乗りに適した宙域、と分かれて動くのは当然で、広大な〈宇宙〉エリアで顔を合わすことは無かったのだ。


 「〈フルカゲ〉の奴はまだいねえのか?あいつともしばらく会ってねえんだけどよ」


 「え?〈フルカゲ〉さんとも会って無かったんですか?」


 辺りを見回しながら言った〈ロボキチ〉の言葉に驚く。

 〈ゲーム内機体〉を使い、レベル上げの必要があった〈ジーク〉が二人から離れた宙域にいたのは間違いないのだが、〈リアルプラモ〉を使う〈ロボキチ〉と〈フルカゲ〉の二人はてっきり近い場所で活動していると思っていたのだ。

 なんなら、リアルで新作のアイディアなど相談していたものとばかり思っていた。


 「ああ、全く会わなかった。俺もどっかで、一回くらいはかち合うと思ってたんだがよぉ…〈アイギス〉の嬢ちゃんに聞いたら、『口止めされてますので』とか返されたし…あの野郎め…」


 「口止め…初見殺し的な機体を作ったんでしょうか?」


 秘匿の必要がある新作プラモだったから、可能な限り人目につかない様に動いていた?


 「さあなぁ…まあ、それならまだマシだ。最悪なのは新作が完成してなかったパターンだな。色々と作ってみては試すためにログインして…を繰り返してたから、そもそもログイン頻度が少なかった…ってやつ」


 少し、ありそうな可能性ではある。

 なにせ〈フルカゲ〉の場合はあの〈スケルトン〉を超える機体を作らなければならないのだ。

 制作が難攻していても不思議ではないのかもしれない…。


 「…大丈夫でしょうか?」


 「大丈夫だろ、最後に来たメッセージは第一位の新機体に関する情報だったし、あいつは勝つ気のはずだ」


 そう、それぞれが準備のために動き出してからすぐ、どうやってか知らないが〈フルカゲ〉は〈カロリッパー〉の機体情報を掴み、SNSで送って来たのだ。

 第一位が〈リアルプラモ〉を使うことは想定していなかったので、その情報を目にした時、〈ジーク〉は二人を無茶な賭けに乗せてしまったんじゃないか、と思い愕然とした。

 しかし、〈フルカゲ〉から送られてきた情報をよく読んで見ると、得意であろう戦い方のみならず、苦手なことまで…まるでその機体を作った本人のごとく、微細な情報が書かれていたのだ。

 情報源はかなり気になる所だが、この情報のおかげでまだ希望が持てているとも言える。



 「やあ、お二人さん。私に勝てる算段はできたかな?」


 

 …聞き覚えのある女の声だ。

 突然声を掛けられ驚く気持ちはあれど、向き合わないわけにはいかない。

 

 「…第一位」


 「あぁ?これから殴り合うっつー相手んとこにいったい何の用だぁ?敵情視察でもしにきたんか?」



 「ははは!そんな盛り下がることはしないよ、一応主催者だよ?それに…君たち程度ならそんなことする必要もないしね」



 「ちっ…舐められたもんだぜ」


 軍服幼女の顔が見るに堪えない表情になっているが、侮られるのは仕方ないことだ。

 実際、私達は一度、二人がかりで完膚なきまでに敗北している。

 

 「じゃあ、何しに?主催者として参加者に挨拶回り?」


 〈ジーク〉が問う。

 何度も話した間柄でも無いのに、〈カロリッパー〉の口調は気安いものだ。

 かくいう〈ジーク〉も言葉に棘が生えるし、〈ロボキチ〉に至っては完全に悪人のそれ。

 


 「君たちと同じかな?〈フルカゲ()〉の出迎え。私の予想だと、そろそろ来る頃合いだと思うんだけど…今回はどうかなぁ…ちょくちょく予想を外してくれるから」



 まるで、自分の予想は外れない、世界は自分の思い描いた通りに進むと言わんばかりの発言。

 そして、予想を外してくれることを期待している様なニュアンス。

 やっぱり気に入らない。


 

 「あ、来た」



 見ると、〈コロッセオ〉目の前にクラッシックなオートバイが一台止まる。


 長い黒髪を背中に流す長身の女性。

 白いスーツに丸いサングラス。

 ヘルメットの代わりと言わんばかりに被っているのはスーツの色に合わせた白い中折れ帽子。

 映画に登場するギャングのような姿の、このプレイヤーこそ、『バーチャル・プラモデル・オンライン』大型アップデートと共に現れた新星。


 〈スケルトン〉の〈フルカゲ〉。


 人目のある場所で数回、戦っただけで〈白い殺し屋〉の二つ名を欲しいままとしたプレイヤーだ。

 …もっとも、彼は喜んでいないだろうが。


 バイクを降り、一直線にこちらに歩いて来る。

 周りの視線が集まるも、気にした様子は一切ない、堂々としたものだ。

 


 「よう、二人とも。二週間ぶりだな」


 いつもの様に、〈ロボキチ〉が軽口で答える。


 「遅せえよドベ、そのくだりもうやったわ」



 「俺はやってないでしょうが!」


 

 「バイクなんかに乗って来やがったくせにドベがよぉ!…本命は仕上げて来たんだろうなぁ?」


 

 「あたぼうよ。ちなみにバイクは俺の作品じゃなくて貰いもんだから悪く言うなよ?」



 二人の会話はカラっとしていて気持ちの良いものだ。

 もう少し見ていたい気持ちもあるが〈ジーク〉も会話に混ざることにする。


 「遅れるんじゃないかと思いましたよ」


 

 「悪いな、昨日夜遅くってさ。危うく寝過ごすとこだったぜ」



 「夜遅くまで、私のことを考えてくれてたのかな?」



 〈ジーク〉との会話を遮る様に、第一位〈カロリッパー〉が言葉を挟む。

 思わず、舌打ちが出そうになるのを堪える〈ジーク〉。



 「…そうだな」



 知己の仲である〈カロリッパー〉からの言葉に〈フルカゲ〉は動じることなく応える。

 …トーナメントを受けた時に比べて、落ち着いている感じがする。

 何というか…いつも通りの姿というか…揺らぎが無くなった?



 「…え?あ、そう…真顔で肯定されるとは思わなかった…かな」



 なんだこいつら惚気か、と〈ロボキチ〉が呟くのも気にせず、〈フルカゲ〉がニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

 彼のデビュー戦〈バスター・ゴリラ〉討伐の時にも見せたあの笑顔。



 「お前の吠え面を見るにはどうすれば良いか、ってな…今日こそ土ペロしてもらうぜ第一位ナンバー・ワン



 ここに来たのは乙女の恋心に応える紳士ではない。

 獰猛な闘争心を胸に抱いた、意地を張ることしか能のない、諦めの悪い男だった。

 バイクかー。いったい誰からのプレゼントなんだろうなぁー?男の子が喜びそうで、ゲーム内でも実用的な移動方法として使える〈リアルプラモ〉…。〈リアルプラモ〉ってことは受け渡しもリアルで行われたわけでぇー?男の子を落とす恋愛ってのはこうやるんだよお姉ちゃん…。

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