不義理
健堂 切活との関係性は悪いものでは無かった。
同級生で倒すべき敵と定めていた姉よりも親しみやすかったくらいだ。
これまでの・・・これからの人生も含めて、あの健堂 斬加の妹というだけで、大変な苦労を背負う宿命にある彼女に同情する気持ちもあったし、単純にアニメや漫画の趣味もあったからかもしれない。
正直な話、姉の斬加よりもキッカちゃんの方が友達っぽい関係だったと思う。
姉の方と再開して気持ちをぶつけられてしまった今となっては、当時の俺と妹の関係をどう思っていたのか・・・考えないわけにはいかない。
単純に引っ込み思案な妹に仲の良い先輩ができて嬉しかったのか。
自分が目を付けている男が、自分よりも妹に構うのを忌々しく思っていたのか。
あの天才の考えなど凡人の俺が想像したところで的を得ないだろうが、案外その両方を両立させていた、というおよそ中学生とは思えない複雑な感情処理をしていたのかもしれない。
姉として妹を微笑ましく見る眼差し。
他の女に嫉妬する乙女の眼差し。
同居するはずの無い二つの眼差しを右目と左目に片方づつ、同時に宿す健堂を想像し・・・やめよう。
ただ一つ言えることは古野 千景は健堂 切活に不義理をした。
まがりなりにも先輩だったくせに。
俺は中学を卒業し、剣道部の関係者との縁を切るために連絡先を軒並み変えた。
キッカちゃんはそれに巻き込まれたのだ。
俺からしたら仕方ないことだったとはいえ、本人からすると理不尽に感じて当然のことだろう。
姉や剣道部の奴等に巻き込まれる形で、何もわからないまま一方的に縁を切られた。
健堂 斬加の妹という理由だけで。
・・・・・・・・・・・・
「・・・久しぶり、キッカちゃん」
「お久しぶりです、古野先輩」
数年前まで通っていた中学校の近くにある喫茶店『茶船』で、キッカちゃんと数年ぶりの再開を果たす。
肌を隠して日差しを避けるのが主目的なのだろう、薄手のベージュのカーディガンにスカートという女の子らしい、全体的に白っぽい色味を意識した清潔感のある私服姿だ。
髪型は肩にギリギリ届かない位の長さのショートカットでヘアピンで前髪が目に被らない様に止めている。
パッと見、髪型は中学の時と同じに見えるが・・・もしかしたら微妙に変わっているのかもしれない。
俺に女子の髪型の変化なんて微妙な違いはわからん。
髪型についてはヘタに触れて波風立てるより、触れない方が無難だろうと判断する。
「とりあえず、座ってくださいよ。怒ってませんから」
待ち合わせの時間を指定した側のクセに後から来たこと・・・ではないだろう。
待ち合わせの時間にはむしろ早めに来た。
たぶん、中学を卒業してから一方的に連絡を絶ったことについてだ。
「うん、ごめん」
「だから怒ってませんってば・・・、飲み物、何飲みます?」
「じゃあアイスティーで」
キッカちゃんと会うのに、申し訳ない気持ちはやっぱり隠せそうも無かった。
自然と謝りながら、座ってしまったが、キッカちゃんは気にせず、店員を呼んで先輩の飲み物の世話までしてくれた。
後輩としての気遣いが行き届いてる・・・先輩として、せめて会話くらいはこっちからふろう。
「そう言えばお互い、私服を見たのは始めてか」
「そうですね、基本的に先輩と会うのは学校でしたから」
女の子らしい・・・普通に可愛らしい私服のキッカちゃんに対して、俺の服装は半袖のパーカーにジーパンという何の気合いも感じられないものだ。
女の子と会うのに、この服装は合っているのか間違っているのか・・・判断ができないくらい無知であることがこれほど不安とは・・・たまには服屋も覗くべきか・・・。
「私しかいない文芸部によく遊びに来てましたもんね」
「健ど・・・、君の姉に連れてかれたのがキッカケで、その後は体の良い溜まり場にしたって感じだったけどな・・・」
健堂、と言いかけて姉の方と被ってわかりづらいと思って言い直す。
当時の俺は、よく部活の無い日にキッカちゃんのいる文芸部の部室へと足を運んでいた。
というのも、学校に週間で発売する漫画雑誌を持ち込んでいた俺は、持ち込んだは良いものの、読む場所に困っていたのだ。
教師に見つかれば没収間違い無し。
教室には漫画に群がる同級生共。
今と違って、毎週喫茶店に寄れる小遣いもない。
そんな時、宿敵・健堂 斬加から提案を受けた。
静かに漫画を読める場所を紹介するから、読み終わったら私にも貸して、と。
敵視していた女子からの提案ではあったが、その時は剣道部としての時間ではなく、同級生としての時間だ。
さすがの俺も中学校生活の間、一時も休まず健堂 斬加を目の敵にしていたわけではない。
そんなわけで、紹介された場所が文芸部部室。
部員が一名しかいない、廃部寸前の場所だった。
キッカちゃんとはそこで知り合い、漫画やアニメの話で盛り上がったものだ。
「私は楽しかったんで良かったですけどね。・・・突然、連絡取れなくなったんでビックリしましたけど」
「うっ・・・ごめん」
「いや、すいません。怒ってないっていうのは本当なんです・・・なんですけど・・・やっぱり思う所が無いって言うのは嘘になったちゃうって言うか・・・」
「いや、それに関しちゃ弁明のしようもなく俺が悪いから。改めて、ごめん」
「・・・お姉ちゃんのせいですよね?わかってます、しょうがないです」
健堂 斬加の妹であることとはそういうことだ、とでも言う様にキッカちゃんは俺の不義理を呑み込んだ。
仲の良かった先輩との縁を切られる程度の理不尽は・・・納得はしていないけど、しょうがない、と。
「そのお姉ちゃんのことで、話があるんです」
「・・・まあ、タイミング的にはそうだよね」
健堂と再会したばかりのタイミングで、妹のキッカちゃんからコンタクトを取ってきた・・・偶然であるはずがない。
十中八九、トーナメントバトルのことだ。
ただ、何の話なのかがわからない。
健堂はあの場で伝えるべきことは全て伝えたはずだ。
ならば、キッカちゃんは何について俺と話をしたがったのか?
その答えは最悪の一言だった。
「お姉ちゃんの機体は私が作りました」
「ん?・・・え?、は?」
「機体名は〈トリプル・ホイール〉・・・元にしたのは〈アファム〉のライバル機体〈トリム〉です」
機体を・・・作った。
それはリアルでプラモデルを作ったということだ。
つまり・・・あのバケモノ染みた戦闘力を誇る健堂 斬加が型落ちの〈ゲーム内機体〉ではなく、スキルを伴った〈リアルプラモ〉で襲いかかって来ると言うこと。
「・・・・・・マジかよ」
思わず、店の天井を仰いでしまう。
〈ジーク〉が語った勝機に明確な亀裂が入った感じだ。
〈アイギス〉攻略というアドバンテージは変わらないので、崩れてこそいないが厳しい感じになったのは事実だ・・・。
俺達が立てた戦略の根本はゲームシステムによって生じる、絶対的な格差で殴るというもの。
その前提は第一位たる〈カロリッパー〉が型落ちの〈ゲーム内機体〉を使うと決めつけたものだった。
その前提・・・いや、思い込みが崩れた。
これは予想できたことだったはずだ。
というのも以前から〈ロボキチ〉と危惧していたことでもあったのだ。
『バープラ』で使う用の機体をゲーマーがプラモデラーから金銭などで買い取る様なことが増えるのではないか?と〈ロボキチ〉が危惧していたのだ。
依頼を受けて作品を作る・・・これ自体に問題は無いのだが、名が知れたプラモデラーにそういった作成依頼が殺到するのではないか、金銭での取引ならトラブルのリスクが・・・など、とにかく面倒ごとの臭いしかしない厄ネタだった。
今にして思うと、リアルで有名なプラモデラーでもある羽刈にはすでにそういう話が来ていたのかもしれない。
ただ、その過程や関係性はどうあれ、結果としてプラモデラーとゲーマーのタッグが生まれる、というのは恐ろしい未来ではあった。
もしも〈スケルトン〉を〈フルカゲ〉ではなく〈ジーク〉が操ったら・・・というのを想像してみて欲しい。
〈ジーク〉の技量+〈スケルトン〉のバカ性能。
たぶん、本当に手が着けられないことになるだろう。
「そう言えば、あいつ・・・工作とか芸術系の科目だけは苦手っぽいこと言ってたな・・・それでもなぜか最高評価もらってたけど・・・」
「ええ、まあ・・・基本的には人外ですから・・・文化的なことに苦手意識を持っていたのは本当だったと思いますよ?私の方がこういうのは得意なので、頼まれたんです」
「基本的には人外って・・・珍しく言葉が強いじゃないか、あいつと喧嘩でもしたの?」
何気なく聞いたことだが、中学時代の健堂姉妹の仲は良好だったはずだ。
本気で言ったわけじゃない。
しばらく会わない間にそんなこと言える様になったんだね、という意味を含んだからかい半分の冗談だった。
「はい、大喧嘩しました」
だから、この返答に俺はすぐ反応できなかった。
「今回に限って、私は姉の敵です」
裏話
カロリッパーこと健堂斬加は『バープラ』稼働初期からプレイしている古参プレイヤーですが、そう遠くない内に〈リアルプラモ〉関連のアプデが入ることを予想していました。
そうなれば、凡ゲーから神ゲーへと評価が一転することも含めて。
そして、恐らく古野千景もここに来るだろうと期待して・・・。
スケルトンデビュー
〈カロリッパー〉「あれ?この太刀筋・・・間違い無い、古野だ!!今すぐ会いに・・・」
〈キッカ〉「お姉ちゃん、アプデ来て専用機作れって言うんだから買い物付き合ってくれるよね」
〈カロリッパー〉「え、ちょっとだけインしたいんだけど・・・」
〈キッカ〉「私に自分の機体作らせておいて自分は寝っ転がって遊ぶんだ・・・ふーん・・・」
〈カロリッパー〉「・・・・・・」




