きっと勝てる。
ドォ・・・!ドドォ・・・!
〈ジーク〉が現われたことで、響いてくる音に今さら気づいてハッとする。
フィールドで鳴った、明らかな爆発音。
目の前のウインドウに意識を奪われて、近くの戦闘音にさえ気づいてなかったのだ。
「とりあえず人払いの迎撃を止めさせてくれませんか?〈ロボキチ〉さんが来れないので」
〈ジーク〉が健堂・・・〈カロリッパー〉に言う。
人払い?
〈ジーク〉だけじゃなく〈ロボキチ〉の奴も来たのか?
「・・・あなた達をここに招待した覚えはないんだけど?」
突然、割って入ってきた〈ジーク〉に健堂は敵意を隠そうともしていない。
「賭けに負けたとはいえ、見知らぬ他人を友人に紹介するんです・・・普通に考えて立ち会うでしょう?」
〈ジーク〉の雰囲気もいつもと違う。
言葉にトゲがある。
「なら心配しなくて大丈夫、私達リアルで友達なの。今、大事な話をしているから帰ってくれない?」
「それはできません。私にはわかります、〈フルカゲ〉さんは今・・・困っている。この状況は私達が勝手に作ったものです。放り出して帰るわけには行きません」
「もしかして空気読むの苦手な人?それ、お人好しとかじゃなくて、ただの鬱陶しい人だと思うよ?」
「あなたが鬱陶しいと思うかは関係ないです」
・・・・・・バッチバチだ。
〈ジーク〉が来る前も良い雰囲気とは言えなかったが、明確に空気がまずくなった感じがする。
しかし、黙っているわけにもいかない。
「・・・・・・健、・・・〈カロリッパー〉、とりあえず戦闘は止めてくれないか?察するに、誰かに人払いを頼んでいるんだろ?」
「・・・まあ、〈フルカゲ〉がそう言うなら・・・・・・ちなみに、この周囲の警戒をしてくれてるのはキッカなんだけど、覚えてる?」
キッカ・・・?キッカちゃんか!
健堂 切活。
健堂 斬加の一つ下の妹で、姉とは違い、一般的な普通の女の子だ。
こいつの妹ということで結構苦労していたからか、少し引っ込み思案な性格の子だったのを覚えている。
「って、おい!人がいる所で妹の本名を言うなよ!」
俺と健堂は顔見知りだし、キッカちゃんのことも知っているが〈ジーク〉は当然のごとく知らない。
妹のこととはいえ、本名を他人がいる所でいうなんて、ネットリテラシーとか無いのか。
しかし、ネット上で妹の本名を漏らしたというのに、健堂はニヤっと人の悪い笑みを浮かべた。
なに笑ってんだテメェ・・・。
「〈キッカ〉はプレイヤーネームよ。あーあ、〈フルカゲ〉が余計なことを言わなければ妹のプレイヤーネームが本名だってわからなかったのに・・・、まあ、これは侵入を許した〈キッカ〉というより、勝手に入ってきた人が悪いかなぁ」
こ、こいつ・・・!
〈ジーク〉に邪魔者だ、場違いだ、と言外に伝えるために俺を利用して、妹の本名を使いやがったな・・・!
これには〈ジーク〉も一瞬、気まずそうな表情をしたが、すぐに持ち直す。
「・・・申し訳ないですが、先程までの会話は聞かせてもらってましたから今さらです。〈フルカゲ〉さんが私達のせいで脅迫とかされてたら強行突入しないと行けませんでしたから、これは必要なことでした・・・もちろん口外はしません。あなたの名前とか、たぶん明日には忘れますから安心してください」
どこから聞いていたのか、というより、どうやって聞いていたんだろう?
俺と同じ疑問を抱いたのか、健堂が聞く。
「・・・参考までに、どうやって会話を聞いていたの?」
「・・・〈フルカゲ〉さんが〈荒野〉に向ったと聞きましたから、機体を索敵仕様にカスタムして探すことにしました。・・・とある条件を満たすと、索敵能力が飛躍的に上がって、結構遠くの音も拾えるんですよ」
とある条件というのは〈アイギス〉の攻略のことだ。
たぶん、俺が〈荒野〉に向ったというのも〈アイギス〉から聞いたな。
「盗み聞きって、マナー以前にモラルの問題だと思うけど?」
「脅迫は犯罪ですよ?・・・ストーカーならもっと悪質です」
・・・一言口を挟んだだけで、空気がさらにまずくなってしまった。
ファイアー・イン・ザ・オイルゥ・・・。
二人は数秒、睨み合っていたがやがて〈ジーク〉が口を開く。
「・・・・・・まあ良いです。〈ロボキチ〉さんも簡単にやられたりはしないでしょうし、言うことはたぶん私と大差ないはずですから」
なんとなくだが、たぶんもう少し穏やかだったんじゃないかなぁ・・・と思う。
言わないけど。
「何か言いたいことでもあるの?今朝方の負け惜しみ?」
「さっきも言いましたよ?思ったより察しが悪いんですね・・・『私達も混ぜてください』って言ったんですよ・・・トーナメントバトルに」
その提案に俺は驚愕していた。
話に聞いた通りなら、今朝、〈ジーク〉と〈ロボキチ〉は〈カロリッパー〉というプレイヤーの力を思い知らされたはずだ。
それなのに、また挑むのか!?
挑む気力があるのか!?
「・・・へえ・・・そうは見えなかったけど、思ったより骨があったんだ。それとも、何かを決断をしてきたのかな?一人称も変わってるし」
一人称?
そう言えば〈ジーク〉は普段と違って自分のことを”僕”じゃなくて”私”って言ってるけど・・・慇懃無礼な演出というか・・・あんまり仲良くない人との距離感的なやつじゃないのか?
「ええ、《《私の結末はもう決りました》》。でもそれは私の事情ですから、迷惑をかけた人には筋は通してからじゃないと、そこには行けません」
結末?
まるで死期が近いみたいなことを言ってないか?
「ふーん、でもダメかな。トーナメントはチーム戦じゃなくて個人戦。もし、あなた達同士がマッチしたら、ヌルイ試合になっちゃうかもしれないでしょ?それは次の試合のパフォーマンスに影響するし、なによりつまらない」
「このトーナメントはあなたが用意しているステージです。それで賭け試合をするのは余りにもアンフェアだとわかりませんか?あなたを《《追い落とせるかもしれない》》プレイヤーも参加させるべきでしょう?・・・私達三人は現状最高峰のプレイヤーと言っても過言じゃないはずです。あなたならわかりますよね?」
〈ジーク〉の結末への思考は、〈ジーク〉自身の言葉によって俺の中から吹き飛んだ。
追い落とす?
こいつを!?
「それとも、二回目は勝つ自信がありませんか?」
「・・・言うじゃん、気に入らないけど気に入っちゃいそう」
・・・マジかよ、〈ジーク〉。
〈ロボキチ〉もなのか?
健堂 斬加に挑んで戦意を保てた奴は中学ではほとんどいなかった。
俺も折れた。
一度・・・それも今朝に、力の差を思い知らされたはずなのに、まだ勝てるって思えるのか・・・!
「いいよ、参加を認めてあげる。その様子なら誰が相手でも手は抜かないでしょ」
〈ジーク〉の手元にウインドウが表示される。
恐らく、俺の目の前に出ているウインドウと同じ、トーナメントへの招待券だ。
〈ジーク〉は迷わず選択する。
見えないが、間違い無くYESを押した。
「〈ロボキチ〉君にも渡しておいて」
そう言って、〈カロリッパー〉の手元に手紙が現われる。
招待券をアイテム化したのだ。
それを〈ジーク〉に渡した。
「ありがとうございます」
〈ジーク〉と・・・恐らく〈ロボキチ〉もトーナメントバトルへの参加が決まってしまった。
この流れで俺だけ参加しないわけには行かないだろう。
でも、そんなことは関係ない。
この状況をあえて無視してでも俺はこのトーナメントから逃げなければならないのではないのか?
なぜなら、古野 千景では健堂 斬加には勝てない。
即ち、トーナメントへ出ることはほぼ確定で、健堂 斬加と付き合うことになってしまう。
しかし、過去のことがあって、古野 千景は健堂 斬加のことが好きなのかわからない。
そんな心中で女の子の好意に答えられるほど、古野 千景は大人じゃない。
結局、こうなのだ。
俺は本当にどうしようもない。
どうする?どうしよう?どうするべきだ?どうしたらいい?・・・・・・・・・。
「大丈夫です」
いつの間にか、また下を向いていた俺の肩に手が置かれる。
「過去のことは知りません・・・けど『バープラ』でなら、勝機はあります」
歴戦のプレイヤーの・・・いや、いつも俺がカッコいいと評していた・・・憧れてさえいたかもしれないプレイヤーの言葉。
「私を信じてください、あなたなら、きっと勝てます」
俺はYESを押していた。
昔追いかけた女の子と今憧れてる人の語らい。
折れた心をつなぎ合わせて、一歩踏み出す理由には十分。
ジークの持っている第八位の称号特典にはパーツレベルに付与される経験値の増加効果があります。
しあわせたまごと学習装置を装備している様な状態です。
ただし、〈アイギス〉を攻略しないとレベルシステムが使えないので、表記はありませんので気づいてません。
ほとんど使ってない索敵仕様のパーツが50レベルくらいあるのは異常です。




