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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
天剣を地に落とせ
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招待状の体を装ったラブレター


 「いやー、中学卒業ぶりだよね!まさか次に会える場所がゲームの中になるとは思わなかったよ!」


 久しぶりに友人と再会できたのが心底嬉しいとばかりのテンションで喋る金髪のプレイヤー。

 俺はきっと眉間に皺が寄って、険しい表情をしているだろう。


 プレイヤーネーム(PN):〈カロリッパー〉。

 『バーチャル・プラモデル・オンライン』1on1トーナメント大会優勝者。

 プレイヤーの頂点を意味する称号、第一位ナンバー・ワンを名乗ることを許された唯一のプレイヤー。


 その正体は俺の中学の同窓生で、同じ剣道部に所属していたチームメイト。

 『奴が中学を卒業するまで、中学剣道女子の部は頂点の名前が変らない』とまで言われた才能の厄災。

 神童、怪物、バケモノ・・・中学生にしてリアリティの感じられない様々な異名を実際に獲得していった傑物。

 わかりやすい言葉で表現すれば”完璧超人”。


 健堂 斬加(けんどう きりか)


 三年かけて、手も足も出なかったチームメイト。

 俺から剣道を続ける気を奪い去った元凶。

 

 健堂 斬加とは古野 千景(ふるの ちかげ)の挫折そのものだ。


 「な、・・・なんで、お前がこんなゲームをやってるんだ・・・?高校の剣道部はそんなに暇なのか・・・?」


 意味の無い問いだ。

 こいつが剣道の練習をいくらサボろうとも結果に大した差異は無いのだから、部活に入った程度で忙しくなるはずもない。

 

 「ああ、剣道はやめちゃった」


 返ってきた答えはあっさりとしたものだった。


 「高校に上がれば公式戦で突き技が解禁されるからさぁ、ちょっとは面白くなるかも、って思ってたんだけど・・・全然ダメ、《《負けられる》》気が全くしなかったんだよねー。これ以上は時間の無駄だと思ってやめちゃった」


 あっけらかんと言っているが、そんなの周囲が許すはずがない、絶対に一悶着あったはずだ・・・それも特大の。

 一体、どれほどの被害をだした。


 「今のところ、私が負けるかも、って思ったのは古野と最後にやった《《あの試合》》だけ」


 「・・・・・・っ」


 あの試合・・・俺の三年間を纏めてぶつけたあの試合。

 かつてのチームメイト達が偉業と称えてくれ、俺の中で何かが折れた、部内トーナメントの決勝戦。

 

 「その古野も剣道続けてるって話は聞かなかったし、そもそも同じ学校でもない限り、女子と男子で試合する機会ってないしねー」


 「一体、何の用なんだ・・・?」


 俺は今すぐこの場を離れたかった。

 とっととログアウトしてプラモを弄って現実逃避したい。

 普段なら可能な限りやりたくないと感じる表面処理ヤスリがけも今なら喜んでやれる。


 「これに招待したくって」


 健堂が指先でメニューウインドウを操作すると、俺の目の前にもウインドウが表示される。


 『〈カロリッパー〉から〈第一位争奪トーナメント大会・招待券No.8〉が送られて来ました。

  受領しますか? YES/NO』


 「第一位・・・争奪トーナメント?」


 「そ、第一位の称号って特別でさ、二位以下のランカーと違ってPKされると称号が奪われるとか、『一番強いんだから大丈夫だよね?』とでも言いたげな感じなんだけど・・・だからだろうね。挑戦者を受け入れる特権がいくつか与えられてるんだ。その一つが公式大会と同じ仕様のトーナメント大会開催券」


 ただの飾りだと思っていた順位付けの称号に特典があったという情報に、少し興味を惹かれてしまった。


 でもPKされたら第一位ナンバー・ワン称号が無くなるって・・・かなりのクソ仕様じゃないか?

 対戦で勝てなくても、フィールドにいる所を集団で囲んで倒せば称号奪れちゃうってことだろ?


 そんなの普通なら三日もたない・・・いや、このバケモノなら可能だろうけど・・・。


 『挑戦者を受け入れる特権』ってのは、第一位ともなると対戦希望者が大量に発生するからっていう処置かな?

 ぶっちゃげ、個人で大会を開くだけなら、ある程度のコミュ力がある奴なら誰でも実現できそうだし、特権というほど大したものには感じられない。


 「・・・PKした方が手っ取り早い仕組みだから、大会参加者が集まらなくて、最近名前が売れている俺に声をかけたってことか?」

 

 普通なら大会参加者は後を絶たないだろうが、〈カロリッパー〉の中身がこいつならあり得る話だ。

 つーか、こんなもん俺も出たくねえ。

 招待券の名前からして、優勝者は新たな第一位ナンバー・ワンになれるのだろう。

 第一位の称号を狙うなら一対一タイマンよりPKの方がまだ可能性があると考えるプレーヤーばかりになっていても不思議じゃない。

 集団で囲んでしまえば・・・あー・・・、ダメだわ・・・どんなに数揃えても、こいつ相手じゃ土ペロする光景しか思い浮かばないや。

 

 「ははは、参加者に困ってるわけじゃないよ。PKでも第一位ナンバー・ワンの称号は奪えるけど、三日で消滅しちゃうんだって。まあ、その間も一部の特権は使えるみたいだからメリットが無いわけじゃないのが、よくできてるかな?」


 「・・・強奪と継承の違いってわけか」


 「そういうこと」


 問答無用で襲いかかる通り魔と正面から看板を狙いに来る道場破りの差。

 まあ、確かに、それで報酬が同じだったら、不公平どころの話じゃない。

 

 俺が第一位ナンバー・ワン特権に興味があると見抜かれたのか、健堂は説明を進める。


 「この特権の良いところは二つあって、一つは参加者を私が選べること。もう一つは公式大会同様、決勝戦に近づくに連れてバトルのリミッターが解除されていくことなの」


 「バトルのリミッター?」


 「機体性能に補正が入ったり、エフェクトが特別仕様になったり・・・要するに、勝ち上がって行くに連れて、派手な試合になってくの」


 トーナメントバトルってそんな仕様だったのか、と内心で感心しているが、これ現実逃避入ってきてるな?


 「実際、決勝戦まで行くと気持ち良いよー!称号が目的じゃなくて、この仕様を味わいたいがために勝ち進もうとするプレイヤーもいるくらいだからね」


 「なるほど、確かにそいつは楽しそうではある・・・」


 「もちろん参加してくれるよね!」


 「いや、参加はしないかな」


 俺はキッパリと断る。

 確かに興味を惹かれる情報ではあったし、参加してみたい気持ちもある。

 しかし、わざわざ自分から、もう一度挫折を味わいに行く気はない。


 ここに呼び出された経緯もキナ臭い。

 たまたま顔見知りを見つけて、そいつが大暴れしてたから声をかけただけ、という線もあり得た。

 穿ち過ぎかもしれないが、それにしては狙い撃ちされている感じがする。

 〈ロボキチ〉と〈ジーク〉に賭けを持ちかけてまですることか?

 〈ロボキチ〉は何を隠そうとした?


 方針は変更しない、なるべく早くここから立ち去るべきだ。

 

 「悪いけど、そこまでガチってるわけじゃないし・・・今色々と忙しいから」


 これは本当。

 俺はあくまでプラモ作りがメインの趣味で、このゲームはカジュアルに楽しんでいるつもりだし、金剛さんにプラモ作りを教えている件も抱えているので、実際そんなに暇ってわけじゃない。


 かつての様に・・・目の前の少女に勝つためだけに、三年という時間をかけられる程に・・・準備をする暇はないのだ。


 そもそも、三年かけても勝てなかったのに、それ以下の準備期間で勝てるはずがないだろう。

 いくら〈スケルトン〉の性能が高く、名が知れ渡ろうとも、古野 千景では健堂 斬加に勝つことはできないのだ。

 

 「じゃあ・・・」


 俺は、NOを選択して、ウインドウを消し、フレンド登録を提案されない内に立ち去ろうと踵を返す。

 

 「待って!」


 思わず、振り返ると、さっきまでの楽しそうにしていた顔から一転、健堂 斬加は真剣な表情になる。


 「このトーナメントで私が優勝したら、付き合ってください」


 

 ・・・・・・・・・なんだそれ?

 公式トーナメントバトル仕様。

 一回戦から決勝戦に近づくに連れて、エフェクトや威力、機体性能などにガンガン補正が入って行く仕様。

 アニメ最終回のバトルとかで、どう見てもこれまでと威力とか出力がダン違いすぎね?まあ、最終回だし、派手でいっか!となる現象をバトルに組み込んだ。

 最終回だけじゃなくて、普段からその威力だせや、に対する一つの理由づけ。

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