魔王の追跡
〈ロボキチ〉が何か隠しているのはわかった。
結局のところ俺の前にある選択指は〈ロボキチ〉の頼みを聞くか否か、という二択であり、件の第一位様と会うかどうかである。
「一つ貸しだからな」
で、俺はそれを受けることにした。
理由はいくつかあるが、一番は俺次第でどうにでもできると考えたからだ。
賭けの内容は俺を”紹介する”ということだけで、別にフレンド登録させてくれというものじゃない。
会うだけ会って、気に入らなければ今後関わらない様にすれば良いだけだ。
それで賭けの話は終わり。
正直、むやみに交友範囲を広げるのは好きな方じゃないので、気は進まない。
だが、無理ってほどのことでもない。
貸しにするのが心苦しいくらいだが、勝手に人を賞品扱いした報いだと思ってもらおう。
「悪い、じゃあ、アイギスの嬢ちゃんに待ち合わせ場所のわかるアイテム渡しておいたから、そこに行ってくれ」
「時間は?」
「今日中なら、16時まではそこで待つってよ」
「早朝からずっとログインしてんのかよ・・・」
「無理そうなら別日にしろって言っとくが、どうする?」
「いや、今日中に済ましとくよ」
面倒事は早めに済ませるに限る。
早朝から来るかどうかわからない奴をずっと待ってるのはそいつの勝手だが、嫌がらせをする理由もない・・・親切にしてやる理由もないが。
「じゃ、またなー」
「ああ・・・・・・・・気をつけろよ、ありゃタダモンじゃないぜ」
「・・・とりあえず寝ろ、じゃあな」
何がタダモンじゃないのかを喋らせると話が終わらなくなりそうだったので、そこで通話を切った。
あいつ・・・たぶん、俺が電話するまで寝ないで待ってたんだろ。
確かに、マナーとかモラルに反した事案ではあったが、所詮ゲーム内での話なのだからそこまで気負うことないのに。
これが謝罪も何もなかったら俺だって、付き合いを考えるが、そういう奴じゃないことも理解している。
「〈ジーク〉の方が気になるが・・・、16時までだったな・・・」
とりあえず、飯だ。
脳みそ回すにもエネルギーがいるのだ。
何をするにもまずは飯って、偉い人も言ってた気がする。
俺が『バープラ』に再びログインしたのは15時半を過ぎた頃だった。
タイムリミットで言えばギリギリとなってしまったが、いくら夏休みの学生といえど日々のタスクが何もないわけじゃないのだ。
飯食って、皿洗いして・・・は当然として、全ての家事を取り仕切っておられるお母様からお使いを命じられればNOとは言えない。
しかも自転車を走らせた先で雨に降られてしまうのだから、ついてない。
〈アイギス〉(〈マザーブレイン〉だと長かったのだろう、〈ロボキチ〉達は〈アイギス〉と呼びだしたので、俺も便乗することにした、長え。)から〈P-ビーコン〉なるアイテムを受け取り、件の人物がいる場所に向う。
〈P-ビーコン〉によって示された場所は〈荒野〉エリア。
てっきり〈セントラルタウン〉で時間潰ししていると思っていたのだが、フィールドに出ているとは。
〈P-ビーコン〉に従って、〈スケルトン〉で〈荒野〉を移動すると、赤いカラーリングの〈ゲーム内機体〉が膝立ちしているのを見つけた。
どうやらパイロットは機体から降りているらしい。
フィールドで機体から降りるのはエネミーに襲われるリスクがある。
ピクニック目的でもなければ、気分転換以外でやる奴はいないだろう。
早朝からここにいるという話だったし、待ち過ぎて飽き飽きしてきてたのかもしれない。
あの〈ゲーム内機体〉・・・確か〈ブル〉だったかな?
確か、〈ゲーム内機体〉の中では最も近接戦に適した機体としてカスタムできる機種だったか。
膝立ちをしている〈ブル〉と向かい会わせになる様に膝立ちをし、胸部のコックピットハッチに意識を向けて開くと、意識が〈スケルトン〉からコックピットに座っていた〈フルカゲ〉へと移る。
赤い〈ブル〉の爪先に寄りかかる様にして、金髪の女がこちらを見ていた。
あいつが〈ロボキチ〉と〈ジーク〉を負かして、俺と会いたがった第一位と呼ばれるプレイヤーだろう。
第一位は日本人よりの顔立ちで、ちょっと高めの位置で髪を纏めてたポニーテールだった。
服装も袖がゆったりとした感じの物で和装っぽさを感じさせる。
刀を腰に佩いて、髪色を黒にしたら、時代劇にでてくる女侍に見えそうなキャラメイクだ。
「・・・待たせたみたいだな?」
待たせた側のクセに全く悪びれていない、偉そうな口調で言う。
俺は女ギャングらしいロールプレイで話すことにしている。
どういう要件だったとしても、適当にあしらう公算が高いからだ。
第一位だかなんだか知らないが、今の所、息の長い付き合いをする気はない。
〈フルカゲ〉に会いたい、というプレイヤーの目的なんてそんなに多くない。
〈スケルトン〉の作り方を聞きたい、ってのが大半で、後は名の売れたプレイヤーと知り合いになっておきたい、ってところだろう。
対戦がしたい、って可能性もあったが〈コロッセオ〉じゃなく、わざわざフィールドで待ち合わせたのだから、すぐに殴り合いを所望している、ってわけじゃないだろう。
ヘタしたらPKになってまうからな。
適当にあしらうということは多少失礼な態度を取る、ということだから普段からロールプレイを重視してゲームを遊んでいると思ってくれれば、そういうキャラ作りと解釈して、多少の素っ気なさは呑み込みやすいだろう。
俺は指定された時間内に来たのだから責められる謂われはないはずだが、トゲトゲしい返事がくると覚悟していた。
「・・・ふふふ、16時ギリギリ。今日中に来てくれるって予想が外れたのかと思っちゃった・・・」
しかし、返事というよりは独り言の様な声音には喜色が感じられた。
―ドクンっ!と心臓から普通より大量の血液が送られた様な気持ちの悪い衝撃。
あり得るはずがないが、まるで俺の行動を予想していたかの様な、言葉。
―何だ?何か・・・・・・、嫌な予感が・・・・・・。
金髪の女は俺が今日中に来てくれて嬉しい、というより自分の予想が外れていたかもしれない、という可能性が嬉しい様に見えた。
「久しぶりだね?《《古野》》」
俺の名字。
瞬間、ドバっと全身から冷や汗が流れたと錯覚する。
『バープラ』内で〈フルカゲ〉=古野 千景だと知っているのは〈ロボキチ〉だけだ。
だが、あの男が俺のリアル情報を他人に話すとは思えない。
例え、賭けに負けたとしても。
「・・・人違いだ・・・俺は・・・そんな奴は知らん」
シラを切ったが、無駄な抵抗だと本能が告げている。
「とぼけなくて大丈夫よ?この辺りに誰もいないのは確認済みだから」
―そういう問題じゃねえんだよ。
本名がネットの大海原に流れるのも大問題だが、得体の知れない奴に隠しているはずの自分の名前が割れているのも十分ホラーだ。
・・・固有名詞《本名》を知っているってことはリアルの古野 千景を知っているということ。
―リアルの知り合い。
「気づいてるでしょ?それとも、名乗った方が安心できる?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだ。
俺はもう・・・こいつが誰かわかっている。
「・・・・・・・・・・・・■・・・■ ・・・■■・・・・・・!」
掠れた様な声。
これが自分の喉からでた音だと気づき、思わず、舌打ちをする。
もう一度、今度はハッキリと発音するハメになった。
「健堂・・・斬加・・・!」
我が挫折。
比喩抜き、言葉の意味通りの”常勝無敗”。
フィクションの中でしか生存を許されていない様なバケモノ。
「そ!やっぱり気づいてくれてた」
ゲームとか現実とか、関係無い。
ボスキャラからは逃げられない。
固まる俺をよそに、魔王はとびっきりの笑顔で笑うのだった。
ボスからは逃げられません。
システムとか物理的に、とかではなく、その物語に生きる人間にとっては逃げた時点で負けだからです。
もしもボスが気まぐれで見逃してくれても、絶対に消えない黒星が一つできます。
この黒星はその後の足をいつまでも引っ張り続けます。
見逃してくれない場合は敗者の結果が迫ってきます。
いつか、必ず。
クソゲーですね。




