死んでも治らないバカは良いバカだ
「あー・・・最悪・・・」
〈ブルー・シート〉で刀なんか握ったせいだ。
嫌な思い出が夢にでてきたせいで寝起きが最悪だった。
人間、嫌な記憶ほど脳みそにこびりつく。
中学を卒業してから竹刀を握ること自体避けていたのだ。
プラモデルで刀を作って鑑賞する分には特に問題なかったので失念していた。
VR空間という現実と遜色ないどころか脳みそに直結している場所で刀を握ってしまえば、嫌でもあの頃の記憶を想起してしまうのは仕方ないことだろう。
時計を見ると・・・もう昼飯時だ。
昨晩〈ジーク〉達と別れた時すでに深夜の三時とかだったから当たり前か。
夏休みの学生なので、このまま二度寝を決め込んでも良いのだが、悪夢の続きをみてしまいそうなので起きることにした。
ベッドから起きて、掛け布団を畳み、カーテンと窓を開ける。
朝(昼)飯を食べて、プラモのヤスリがけでも進めるかな・・・と思っていたところで、スマホに着信があったことに気づいた。
「ん?ロボ?なんで?」
電話をかけてきていたのは昨晩会ったばかりの〈ロボキチ〉こと羽刈鋳造。
着信があったのは、朝の九時前だ。
「早起きだなぁ・・・」
何か早起きする用事でもあったのだろうか?
俺がログアウトした時点でド深夜だった。
あれからどれだけ夜更かししたのか知らないが、てっきりあの二人も今日は予定があるわけじゃないのだと思っていたのだ。
俺がまだ寝ていると悟ったのだろう。
スマホの通知が着信のすぐ後にSNSにもメッセージが来てると表示している。
「なんだろ?何か〈アイギス〉で新情報でも見つかったのかな?」
ロボキチ:すまん。直接謝りたいことができちまった。いつでも構わないから折り返しを頼む。
メッセージを見て、困惑した。
謝りたいこと?
それも『バープラ』内じゃなく、リアルの方から?
あいつは頻繁にバカやらかすが、道理はわかっている男だ。
そのあいつが”直接謝りたい”ってことは、なあなあじゃ済まされない様なことをしでかしたってことだろう。
なんとなく、嫌な予感がした俺は、すぐに羽刈へ電話をかける。
2コールで出た。
「もしもし」
「俺だけど・・・どうした?何やらかしたんだお前?」
「・・・先に言わせてくれ、この件、悪いのは全部俺で、〈ジーク〉に否はねえ」
「まあ、あの人が何かやらかすとは思えんが・・・」
「・・・会ってほしい奴がいるんだ」
「はぁ?会ってほしい奴?」
「・・・実はお前が落ちた後、〈ジーク〉と対戦エリアに繰り出したんだ。俺はスキル構成が偶然上手くいったって体で、〈ジーク〉は一般的な〈ゲーム内機体〉の性能に見える様に力をセーブする練習ってことで俺が連れ出した」
昨晩〈アイギス〉を攻略したことで、俺達の機体は他のプレイヤー達より一歩先んじたと言って良い。
俺と〈ロボキチ〉の〈リアルプラモ〉は選べるスキルの幅が広がり、スキル構成するうえでコンセプトの自由度が格段に増した。
〈ジーク〉の〈ゲーム内機体〉は単純に、しかし一目でわかるほどに性能が上がった。
・・・おおかた、スキルを弄ってる内に〈ロボキチ〉が対人戦をやりたくなったのだろう。
〈ジーク〉を『しばらくは〈ジードフリート〉の性能を隠すとしてもメインの機体が使えなくなるのは余りにも不便だから性能を抑えて動かす練習をしようぜ』、とか的を射る様な言葉で言いくるめて。
まあ、〈コロッセオ〉へ行ったことに関しては許容範囲だ。
〈アイギス〉の情報をどうするかは考えないといけないが、それで普段のゲームライフに影響が出すぎるのは面白くないし、せっかく苦労して手に入れたクリア報酬なのだから堪能したいと思う気持ちもわかる。
言い訳も考えていたみたいだし、これを責めるのは酷だろう。
「俺達が〈コロッセオ〉に行ったのは朝方だったから、たいして人はいなかった。だけど・・・そこでとあるプレイヤーに対戦を申し込まれて・・・俺達は二人とも負けた」
「とあるプレイヤー?いや、待て負けた?」
「第一位だ」
第一位。
それは『バープラ』内の対人戦において一番強いと証明した者だけが名乗ることを許された称号。
トーナメント大会の覇者。
トッププレイヤーの中のトップ。
〈ジーク〉ほどの実力者で第八位なのだから、その実力が生半可ということはあり得ないだろう。
しかし・・・。
「いやいや!第一位っつっても、ただの〈ゲーム内機体〉の使い手だよな?そりゃあ強いだろうけど!今の〈ジーク〉でも負けたのか!?」
「ああ、もちろん手加減なんて考えなかった。強化された機体性能を全開にして戦った」
俺達の機体は強化された。
中でも〈ジード・フリート〉は〈スケルトン〉と張り合えるだけの性能を手に入れたし、何より〈ジーク〉のプレイヤースキルが高かったのも相まって、一対一ではほとんど手がつけられない強さになっていたはずだ。
ハッキリ言って、今ならプレイヤー同士の力比べで〈ジーク〉が負けることはないと思っていた。
どんだけ強いんだよ・・・第一位。
「・・・第一位は伊達じゃないってことか・・・まさかあの〈ジーク〉と一対一でやりあって勝てるなんて・・・」
「一対一じゃねえ」
「は?」
「勝負の形式はバトルロワイヤル方式、俺と〈ジーク〉は組んで二対一だった」
嘘でしょ?
〈ロボキチ〉もスキル選択の自由度が上がったともなれば、より凶悪な作戦を試しに行ったはず。
その〈ロボキチ〉の作戦で襲って来る、強化された〈ジーク〉の機体とか・・・たぶん、〈スケルトン〉でも逃げられないぞ?
「俺らは半分ズルしてる様なもんだったし、そんだけハンデがあるんだから俺も負けるわけねえと思ってた・・・だから賭けにのっちまったんだ」
「賭け?」
「俺達に勝ったら、〈スケルトン〉の〈フルカゲ〉と会わせて欲しいって言って来た」
「おい・・・!まさか・・・!」
ここまで来たら、〈ロボキチ〉が何をやらかして、何を謝罪したいのか、見当はつく。
「第一位は俺達が何か掴んだってのに感づいてたみたいでな・・・さすがに〈アイギス〉のことまでは至らなかったみたいだったが、有名人に騒がれると面白くはならねえだろうし・・・賭けにのって俺達が勝ったら口を開かないと約束するって言われて・・・〈ジーク〉は止めたんだが、俺がその賭けを受けた」
「バカやろぉ・・・」
思わず、俺はスマホを持つのとは反対側の手を額にやった。
つまり、こいつは勝手に俺を賭けの担保にして負けたので、敗者の責任として第一位と賭けとは何の関係もない俺を引き合わせなければならないのだ。
何してんの?マジで。
「いや、本当にすまねえ・・・勝手をしたうえにこんなこと頼むのは本当に心苦しいんだが・・・会ってやってくれねえか?」
「・・・・・・」
「お前がそういうの嫌いなのもわかっちゃいるんだが、頼む」
「・・・・・・」
・・・勝手に賭けの賞品にされたことはムカつくが、現状、怒りよりも呆れが勝っているからか、冷静に頭が回る。
このは頼みは、他人が契約書に俺の名前を勝手に書いたから俺も関係者になった、みたいな筋違いにも程がある頼みだ。
もっと言えば羽刈鋳造らしくない頼み。
「・・・一つ聞きたいんだが、なんで〈ジーク〉をそんなに庇うんだ?」
「っ・・・!それは・・・」
「話を聞く限り、賭けを受けたのはお前、〈ジーク〉を巻き込んだのもお前だ。〈ジーク〉を責めるところはないはずよな?」
俺の知っている羽刈は、こういう冗談じゃ済まないタイプの責任を取る時は自分一人に集約させようとするんじゃないか?
今回の場合なら、どんなに自分の悪評が立とうとも、俺と会わせるという約束を反故にする気がする。
「なんで自分の責任をわざわざ強調して、そんならしくない頼みをしてる?」
「・・・賭けをした以上は男の約束だ。破る様なことはしねえってだけだ」
「よくわかった、いっぺん死ね」
バレバレなんだよバカ野郎。
ちなみに主人公とヒロインは高校生ですが、ロボキチこと羽刈 鋳造は大学生です(実は歳上)。
なので同じく夏休み中ではありますが、主人公よりも時間の融通が利きます。
ただ、雑誌に載せる作例を作ったりするので、時期によってはクッソ多忙。




