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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
天剣を地に落とせ
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挫悪折夢


 中学校に入って、剣道部に入部した。


 親に『高校は好きにして良いから中学では何かしらの運動部に所属しろ』、と言われたためだ。


 何も言われずとも部活には入るつもりだったので素直に承諾。


 剣道部を選んだのは球技が苦手だったのと、その頃から漫画やアニメが好きだったから竹製とはいえ”武器”というものに合法的に触れることに惹かれたからだ。


 剣道の理念からは大きく外れた動機で、今考えると、なんだこいつ…と思わざるを得ないクソガキ。


 さらに最悪なことに、このクソガキにはちょっとだけ才能がありやがった。


 もしも真面目に大会優勝とかを目指して努力していたなら、三年間の内一回くらいは大きな記録を残せたかもしれないくらい、と思えるくらいには。


 だが、クソガキはそうしなかった。


 クソガキは剣道部に入部した一年男子の中では一番の有望株だったが、剣道部に入部した新入生というくくりで見れば、二番目だった。


 ■■ ■■


 同じく、新入生として剣道部に入部した一人の女子生徒。


 最有望株なんて生優しいものじゃない。


 超新星スーパールーキー


 超高校生級。


 改めて思い返すだけで、嘘くさいというか、バカバカしくなるのだが、そいつは防具を始めて着けたその日に三年生の先輩達と顧問の先生を叩きのめした。


 いや、叩きのめしたというと暴力的に聞こえるが厳正な試合の結果だ。


 普通に全試合二本先取のストレート勝ち。


 一本も取られない圧勝だった。


 異常だったのはその後だ。


 その日始めて防具を着けた一年に負けた上級生と教師。


 メンツ丸つぶれなのだから絶対に良い顔なんてはできないだろう。


 試合の結果が(歪められ)ればまだ良い方で、普通に排斥さ(いじめら)れても可笑しくない。


 しかし、そんなことは起きなかった。


 負けた上級生や先生は一人残らず■■ ■■を笑顔で受け入れたのだ。


 「すごい!」「天才だ!」「これで三年間は優勝間違い無しだ!」「…「…。


 積み重ねてきた努力がたった今、無残にも敗れ去ったばかりだというのに溢れる賞賛の声。


 ■■ ■■は柔和な笑みで、だけど、どこかつまらなさそうに先輩達《負け犬》の相手をしていた。


 俺は誰一人悔しがらない姿に、『マジかよコイツら…』と思い、尊敬する気がなくなったのを覚えている。


 ただ、先輩達が悪いわけでは無かった、と俺が気づくのにそう時間は掛からなかった。


 それからしばらく経って、尊敬できなくなった先輩達と上っ面の関係を築き始めた頃。


 ■■ ■■の噂は黙っていても耳に入ってきた。


 成績優秀・運動神経抜群・品行方正・眉目秀麗………。


 ■■ ■■のことを好意的に見る人間は奴を『神童』と呼び。


 疎ましく思っていた人間は『怪物』と呼んだ。


 現実にそんな呼称で呼ばれる人間が存在するのかよ…と呆れたものだ。


 同時に、同学年で同じ立場だろうが!誰がそんな特別感のある呼称で呼んでやるものかよ!と子共っぽい反骨心を抱いた。


 「古野、今日部活来る?」


 ■■ ■■にそう声を掛けられた。


 今に思うと、あの頃の俺は剣道部内で唯一、■■ ■■のことを避けていたし、そのことを良く思っていない人間もチラホラいたから、出来た人間のフリが上手いあのバケモノは気にかけた素振りをする必要があったのだろう。


 「ああ、行くよ」


 短く、素っ気ない返事をした。


 「そう、《《頑張ってね》》」


 その一言がやけに感に触った。


 『どうせ私よりは下だろうけど』と言われた気がして。


 俺は決めた、奴に一泡吹かせる、と。 

 

 結論から言うと、その誓いはまあ、無謀だった。



 時間が経つに連れて■■ ■■のトロフィーは積み上がっていく。


 学力テスト・学年第一位 ■■ ■■


 第五十代・新生徒会長 ■■ ■■


 剣道部・主将 ■■ ■■


 代表的な、というか、俺が覚えているのがこの三つくらいで、実際にはもっとある。

 

 美人で頭が良くて、運動もできて、そのうえ、人格的にも高尚。

 基本的にやれば何でもできてしまう。

 どんな人間でも理解せざるを得ないカリスマ性。


 『こいつ本当に実在する中学生かよ…』


 それが正直な感想だった。


 もちろん、これ無理じゃね?と何度思ったかわからない。


 なんというか、格が違う。


 だが、俺は諦めなかった。


 意地を張り続けた。


 もし、俺に送られるトロフィーがあるのなら『三年間■■ ■■に意地で立ち向かい続けた』、という遠回しにバカと言われているものだろう。


 俺は■■ ■■に勝つのに剣道を選んだ。


 俺が奴に一番食らいつけそうな可能性がそれだったからだ。


 ■■ ■■の試合はいつも一瞬で終わる。


 その一打は何よりも早く、奴が二回竹刀を振れば試合は終わった。


 ――あのバカみたいな一振りをどうにかできなくちゃ、どうしようもない。


 普通にスポーツ剣道をやってたんじゃあ、たぶん無理だ。


 つーか、何なんだ?この競技?スポーツなのか武術なのかハッキリしろ。


 そんな面持ちで、俺は公式大会そっちのけで対■■ ■■用の剣術・戦法を考え、それを実戦使用できる様に試行錯誤し、練り上げた。


 もちろん、そんな奴が大会で使われるはずもない。


 中二病をこじらせたイタいだけのふざけた奴とまで言われた。


 何度も挫けそうになったが、止めなかった。


 ■■ ■■に勝つことを目的とするなら、普通に剣道をやるだけでは絶対に無理だとわかっていたし、■■ ■■に勝てれば、それだけで全てが報われるほどの偉業になると理解していたからだ。


 そうして、俺は理論上完全な後の先を実現する剣をものにした。


 俺の三年間の集大成。


 それがタイムリミットギリギリでものになった。



 そうして迎えた、中学三年生、最後の夏。


 受験のため、早めに引退する三年生のために開かれた剣道部内の勝ち抜きトーナメント戦。


 俺はここで■■ ■■に一泡吹かすと決めた。


 三年間、虎視眈々と狙ってきた。

 その積み重ねを今日、実らせる、と。



 最初は爽快だった。


 ロクに大会にも出られなかった、練習中もよく意味のわからない動きをする”剣道部のお荷物”が順調にトーナメントを勝ち上がって行くのだ。


 『あいつ、実はこんなに強かったのか』、と言われるのが気持ち良くなかったとは言えない。


 だが不十分だったのも事実だ。


 ■■ ■■に土を付ける。


 公式大会で優勝するよりも、部活内で尊敬される立派な人間になるよりも、それは難しく、価値のあるトロフィーだと本気で思っていた。


 トーナメント決勝戦の相手は当然■■ ■■。


 『バケモノを普通の人間に引きずり降ろしてやる』


 そんな凶暴な内心とは裏腹に静かに竹刀を構える。


 結果は……俺の惨敗。


 ■■ ■■の対戦者の中では最長記録の試合時間ではあった。


 そりゃあ、一撃しのげれば記録更新なのだから当たり前だとも思うが。


 『見直した』というチームメイトの言葉は素直に嬉しかったさ。


 『もっと真面目にやってればなぁ』と言う顧問の言う通りだと思ったよ。


 結局、三年間俺は何をやっていたんだろう?


 つまらない意地を張って、同学年の女子を負かそうと盛大に脇道へと逸れた。


 あれが規格外だったのはわかる。


 でも三年もかけたのに何もできないとは思ってもみなかった。



 「始めて”負けるかも”って思ったよ」



 そんな言葉は慰めにはならない。



 俺は剣道を辞めた。


 今さら、真っ当に剣道をする気はない。


 どうせ、卒業したら■■ ■■と会うことはないしな。


 あんなバケモノと頻繁に遭遇するほど世界も狭くないだろう。



 ………



 そういえば、押し入れに作りかけのプラモデルがあったな…。


 剣道を始めて、インドアな趣味から離れていたけど…。


 受験も終わったし、いい加減完成させようか…。


 どうせなら、ちょっと一手間加えて、しっかりと…。

嫌なことがあった日は、嫌な夢を見るものです

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