残蒼の黒い記憶
一区切りです。
―覆逸ノ太刀
中学生の(若干、中二病が入っていた)俺が剣道部で三年かけて開発し、練り上げた、絶対に斬られないための守りの秘剣。
読んで字のごとく、覆って、逸らすことで、後の先を狙う剣だ。
まず、自分の握る刀の切っ先を最外縁とし、自身を覆う”半円状の薄い膜”をイメージする。
そのイメージはしっかりとした物で、実際に目の前に薄い膜が展開されている様に見えるほどだ。
その膜の内側を自身の領域と区切ることで、膜の外には干渉せず、内側に入ってくる物だけに注力する、と定める。
つまり、この膜は結界だ。
薄い膜は、風が吹けば揺らぐ様なヒラヒラとした物で、空気の揺らぎですら形を変える。
〈マザーブレイン〉必殺の突きはよほどの威力が内包されていたのだろう。
俺の構えた刀の剣先とすれ違う前から、この薄い膜をユラユラ揺らしていた。
そして、刀の横を通り過ぎようとし、〈マザーブレイン〉のブレードの切っ先が膜に触れた瞬間、ヒラヒラと揺らめく膜に波紋が波打つ。
その波紋の中心こそが攻撃が通るルートだ。
俺はその波紋の中心点に向って、力を逸らす形に刀を構えるだけ。
瞬時に力を逸らせる向きに刀を握る技術。
刀を離さない握力と衝撃に合わせて力を入れる瞬発力。
剣技として必要な部分はこれ位だ。
それだけで、相手の攻撃は自分に当らなくなる。
イメージで薄い膜を作ることで、敵の攻撃ルートを直前で察知できる結界を張ること。
それこそが、鉄壁の秘剣 ―覆逸ノ太刀
その基本。
フェイントなど、距離の近い連撃を防ぐ場合はさらにイメージを進めて、自身の肌から五センチほど離した位置に結界《膜》を設定し、自身の身体に張り付かせる様に結界の範囲を絞ることで、”致命的な位置”にまで近づいた攻撃に対してのみ反応する様にする。
――例え迎撃が叶わずとも、この身に凶刃が触れること無し。
―故に、勝ちはなくとも負けも無し。
これこそ、俺が机上で考案し、三年かけて練り上げ、証明まであと一歩というところで《《破かれた剣》》。
つまりは負けた剣だ。
・・・・・・・・・
「降参です」
ボボボボッン!
背後で倒れている〈マザーブレイン〉から圧縮された空気が勢いよく抜ける音が響いた。
最初は倒された特撮の怪人みたいに〈マザーブレイン〉が爆死したのかと思ったが振り返って見ると、木端微塵にはなっていない。
「うぉっ!」
見ると、銀髪の少女の四肢が胴体から離れている。
足は太ももの中程から、肩は付け根から。
胴体と泣き別れしてしまっている。
野球ボールくらいの右肩だけは俺が斬り砕いて肩の部分だけだったせいか、ちょっと遠くに転がっていた。
「四肢を切り落とすだけで勘弁してくださる、とのことでしたので、このように手足は切り離しました」
「・・・・・・・・・」
・・・いや、確かにそんなこと言ったけどさ・・・・・・。
どうやら、『四肢切断して達磨で勘弁してやる』という挑発の言葉を真に受け、自ら機械パーツの手足を切り離したらしい。
で、『勘弁してやる』って言ったんだから、これ以上は攻撃しないよね?、と。
いや、ビックリするわ。
普通に手を挙げて降参してくんない?
もしくは白旗振るとか、ゲームなんだからリザルト画面だすとかさぁ・・・。
「・・・俺の勝ちってことで良いんだよな?」
「そう言っています」
「なんで?」
降参ってこのゲームありなの?という疑問だ。
〈対戦エリア〉なら降参はありだろうが、これはボス戦というかNPC戦。
世界観的に敵は問答無用でぶっ殺せって感じだと思っていたんだけど・・・。
降伏を受け入れる場合、こいつとの関係はこの後も続くわけで・・・。
「あなたが使っていた何らかの技の正体が未だに解明できません。解明できたとしても片腕でどうにかできるものでは無い、と判断しました」
「勝てない、と思ったから降参した?」
「?当然の行動だと思いますが・・・?」
いや、確かに当然なんだけどさ。
ゲームの敵ってこう・・・そんなこと考えずにプレイヤーをブチ殺そうとしてくるもんじゃねえの・・・・・・?
―もしかして、これイベント入った?
そう思いついて、あり得ると結論づける。
〈宇宙戦艦〉の討伐にかかりっきりですっかり抜けていたがここは前人未踏の〈宇宙〉エリアだ。
広いうえに、動きづらい。
探索のために最初に倒したボスがプレイヤーの足になる、というパターンは十分考えられる。
それに、〈マザーブレイン〉と違和感なく会話ができるのにも納得がいく。
普通、ストーリーに関わる様な奴でなければ、エネミーにプレイヤーと会話できるAIは必要ないだろう。
どうやって攻撃すれば良いのかのパターンだけで良いはずだ。
逆説的にこの〈マザーブレイン〉は重要な立ち位置のNPCであると考えて間違い無い。
「・・・降伏したあとは・・・何ができる?」
「何でも望むことを命令すればよろしいかと、私に拒否権はありませんので」
何か、いかがわしい質問したみたいになった。
慌てて問い直す。
「いや、そういうことじゃなくて!この艦はどういうことができるんだ?」
「そうですね・・・まず、この艦はあなた達に鹵獲されたという形になりますから、移動拠点として自由に乗り回すことが可能です。後は、機体の強化や調整が当艦でできます。」
移動拠点!
機体の強化と調整!
やっぱり〈宇宙〉ステージでの足になるという予想は当ってた。
それどころか拠点にもなるということは、この艦を活動拠点にもできるということ!
ゲーム内なのに人目を気にする俺にはありがたい話だ。
機体の強化と調整というのが良くわからないが、〈格納空間〉の様な場所がもう一つできたということだろうか?
どちらにしろ、プラスのになることは間違いが無い。
これはかなり魅力的な提案だ。
だが、落ち着け、まだ確認しなければならないことがある。
「降伏したフリをしてお前が裏切らないという保証は?」
こいつは結構、現実的な策を使う狡猾な敵だった。
無いとは思うが、この申し出自体が嘘である可能性はチラつく。
「・・・保証はありません。信じていただくほかないかと。」
・・・まあ、そんな所だよな。
戦略的な戦い方が印象的だったから頭をよぎってしまったが、これがイベントならこの質問自体が野暮だ。
見る感じ、罠に嵌める様な感じはしないし、これは疑いすぎだっただろう。
「しかし、あなたが道具を大事にしてくれる人物ならば、私はあなたを選ぶと約束できます」
「え?」
この受け答えでは不十分と判断したのだろうか?
俺はここから受け答えがあるとは思っていなかった。
「当艦はずっとあの岩の星を監視させられていました。なぜこのようなことをしているのか?という自問自答に答えはでませんでした。この状態を大事にされているとは考えられません。道具として生まれたからには役に立っているという状況が必要です。優れた道具は使い手を選びます。あなたが優れた道具の使い手なら私もあなたを選ぶでしょう。」
えーっと?
要は、石ころの監視なんて嫌がらせみたいな意味のわからない仕事には飽き飽きしていたと?
こっちにだって選ぶ権利があるのだから、もっと自分を有効に活用してくれる人に就く、ってことか?
なんか・・・ブラック企業から転職する人みたいだな・・・。
つーかコレ・・・もしかしなくても好感度とか、ギャルゲーの要素混じって来てない?
「・・・・・・・・・、OK!わかった!もう疲れたし!降伏を受け入れる!」
もう面倒くさくなって、一先ず先送りにすることにした。
実をいうと、久しぶりに集中して刀なんか握ったもんだから、脳みそが結構疲れている。
未来の俺がきっと頑張ってくれるさ。
「ありがとうございます、マイマスター。それではこれよりこの艦内を〈セーフエリア〉とします」
〈マザーブレイン〉が言葉を言い終わると、俺の手から鍔の無い刀が消える。
此処が〈セーフエリア〉とみなされたことで〈セントラルタウン〉の中と同様に安全な場所では武装できないためだろう。
「よし、じゃあ、外の二人を・・・まだ生きてるよな?」
そう言えばあの二人が持ちこたえられているか、考えていなかった。
やっべえ、結構時間経ってないか?
もしかしたら撃墜されて〈セントラルタウン〉に戻っているかも・・・。
「まだ生存しています。艦載機による迎撃を行なっていたので被弾はしていますが撃墜には至っておりません。」
「おぉ!さすがだな!じゃあ呼んで・・・ああ、いや、俺が呼んだ方が良いか・・・、通信繋げられる?」
その後、合流した二人はマントが脱げて肌面積がほとんど下着姿と変らない〈ブルー・シート〉と手足の無い銀髪少女を見て、どん引きするのだった。
「と、特殊性癖・・・!」
「〈スケルトン〉もそうだけどよぉ・・・おめえ、まさか露出狂・・・」
「なわけねえだろうが!!」
邪剣とか秘剣とかを大まじめに考えて、笑えないレベルまで高めたのに、正面からぶちのめされた黒歴史。




