大いなる黒へ蒼による逆襲7
悲報:主人公闇落ち(元が光落ち状態)
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―■■ ■■。
不意に浮かんできた苦い思い出。
挫け折れて、逃げて忘れた。
どうあっても無理だとわかってしまったから、現実から目を逸らすしかなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・
ギャリィィィィ!!!
「・・・!そこから足掻けるのですか?」
「・・・・・・」
答える気になれない。
この艦の主である銀髪の少女〈マザーブレイン〉。
その確殺の一突は三枚の〈六枚の布〉を貫き、〈ブルー・シート〉の腹も貫いて殺しきるはずだった。
パァッ!
貫かれた〈六枚の布〉の耐久値が尽きたことで、首元から胸部を隠していた基部のパーツごとマントが全て弾けて、消滅した。
視界が開けたことで、〈ブルー・シート〉の水着なのか下着なのかわからない胸部が露出し、マントの中で何が起ったのかが明確になる。
背中のマントを手繰り寄せていた左手に鍔の無い日本刀が逆手持ちで握られている。
鍔が無いのはマントを収納する関係上、邪魔だったからだ。
鞘は元から付いていない、常に抜き身だがプラモデルには良くあることだ。
その刀が〈マザーブレイン〉のブレードを横へと押し逸らすことで切っ先は〈ブルー・シート〉の右脇腹を掠めて空を抜けた。
「!」
〈マザーブレイン〉が追撃に右の銃口を向けるよりも早く、力任せに左腕を振り回す。
刀を逆手に持ったままの裏拳。
〈マザーブレイン〉は刃が途中で立っても当らない様に、十分な距離を意識して大きく後ろに飛び退がった様だ。
お互い刀が届かない距離を作る。
「お見事です。今の刺突を防ぐのは極めて難しかったはず」
「・・・・・・せぇ」
「実は刀剣の類が得意分野で?」
「うるせぇ」
送られた賛辞をにべもなく突っぱねる。
最悪の気分だった。
やっと忘れられていた嫌な思い出を思い出してしまった。
突然の変化を不可解に思ったのだろう。
「・・・わかりません、今の一瞬でなぜその様な精神状態になったのですか?」
俺の近接戦闘力の試算でもしているのか、戦術を組み立てているのか、それとも見てわかるくらい不機嫌になった俺を単に不思議に思ったのか、流暢に口を回し始めた〈マザーブレイン〉。
「分析した限り、あなたは基本的には常識的な人物のはず・・・斬って撃たれてが当たり前の場所で起ったことに怒りは覚えても、嫌悪はしない・・・生存のためなら仕方が無いと飲み込める人物だと考えていたのですが・・・」
〈マザーブレイン〉は今の攻撃が俺の機嫌を損ねたと考えた様だ。
まあ、キッカケはその攻撃なのだから、ある意味あってはいる。
ただ、嫌悪感が滲んでいるとしたら、それは俺自身に対してだ。
「・・・違う、お前の攻撃じゃない・・・こっちの問題だ」
少しだけ、本当に少しだけ、目の前の少女に申し訳なく思ったおかげで、少し落ちついてきた。
意識して息をゆっくり吐く。
「・・・久しぶりに刀を握ったら、嫌な思い出が出てきちまっただけだ」
「なるほど?興味がありますね、よろしければ聞かせて貰っても?」
「殺すぞ」
嫌な思い出だっつってんのに、喋れってか?
些細なことのはずだが、一瞬収まった苛立ちが再燃するには十分な発言だ。
決めた、八つ当たりはみっともないと思っていたが、そこまで煽るのならお前で湧き上がるストレスを解消してやる。
俺は無造作にゆっくりと歩き出す。
〈マザーブレイン〉が銃口を向けるが、発砲はしない。
斬りかかるそぶりが見えれば撃つだろうが、今はまだ牽制だ。
なるべく反応しないように歩く。
さっきから、やけに喋りたがっているし、俺が次に何をするのか興味があるのかもしれない。
―この辺かな
お互いに刀を構えたら、切っ先が交差する位置より少し前。
一歩踏み込むだけで刀が届く距離。
一足一刀の間合い。
右手のハンドガンを捨てて刀を両手で構える。
左手は柄尻。
小指、薬指、中指で刀を保持。
右手は脱力の状態で柄元の手前を包む感じで。
切っ先は相手の喉元にピッタリと向ける。
足は右の踵の横に左の爪先が来る様に少し空けて開く。
―剣道における正眼の構えだ。
足だけは我流で、両足裏とも地面に着けているが、それ以外はお手本のような構えを取れていることに少し驚く。
―もう二年も前のことで、刀を持ったのも中学を卒業してからは無かったはずなんだがな・・・
いや、考えて見れば三年かけて染みつかせたものが、二年で完全に取れるわけもない。
それもかなり、熱心に染みこませたのだ。
ひょっとしたら、一生物になっているのかもしれない。
「一般的な剣術の構えですね」
「ああ、ところで近づいて見て思ったんだが、お前の顔は人間みたいに見えるんだが、中まで機械だったりするのか?」
「機械・・・と言えば私の存在自体が全て機械仕掛けではあります。しかし、有機的な生体パーツを使っているか、と言う意味ならば、このボディの頭部と胴体は大体あなたと同じ作りです。逆に四肢は機械のパーツですから、アンドロイドよりはサイボーグの方が通りやすいかもしれませんね」
「そうか、じゃあ頭と胴体は斬ったら普通に血が出るわけだな・・・何色かは知らんけど」
「斬れれば、ですがね・・・ちなみに赤ですよ」
「へえ・・・じゃあ、その辺は狙わないでいてやるよ、四肢切断して達磨で勘弁してやる」
「それは、ありがた・・・」
ダン!!
前に出ている右足でしっかり地面を掴んで左足の裏で床を叩く。
首を串刺しにするつもりだったのだが、やっぱりブランクはあるらしい。
切っ先は銀髪少女の少し膨らんだ左胸に吸い込まれていく。
身体の連動を意識して、足の裏が床を踏み込んだと同時に左手による一本突きが完成した。
ギィン!!
〈マザーブレイン〉の持つ左のブレードが跳ね上がって、突きを弾くがその反動を利用して、右のハンドガンへと刀を当てる。
ガッ!カラカラ・・・
〈マザーブレイン〉の手から飛んでいったハンドガンが地面を滑る。
「シっ!」
今度はこちらの番だと言わんばかりに、〈マザーブレイン〉のブレードが不意打ちをかました俺に向ってくるが、もう一手くらいは打たせてもらう。
この後はお前に全ターンくれてやるつもりだからな。
ブレードを振りきる前に、踏み込みに使った左足に無理矢理力を込め、前へ。
ショルダータックル。
剣という武器は近すぎると振れない。
ナイフを近、槍を遠とするなら、刀は中距離の近接武器だと、あの頃教えてもらった。
ちなみに徒手空拳は超近距離から中距離まで、銃なら近距離から遠距離までいけるのだそうだ。
『だから銃は雑に強くて、つまらない』だったか。
「グッ!」
ドンっ!と肩を突き込むタックルに飛ばされて後ろに退がった〈マザーブレイン〉。
―上手いな、咄嗟に後ろに飛んで衝撃を逃した。
剣道人なら受け止め、踏みとどまるからこそ、肩が自然に狙ったのは胸部の心臓。
防具があっても衝撃が心臓を叩くはずで、結構苦しいはずだったのだが、上手いこと流したな。
「・・・生体パーツは狙わないと言っていませんでしたか?」
「”その辺”、な?つーか、しっかり反応してんだから信じてねえじゃん」
俺は”その辺は”狙わないでやる、と言ったんだぜ?
その辺というのが、頭のことなのか、胴体のことなのか、それとも両方なのかを勝手に判断したのはお前だ。
実際に狙ったのは首だけど。
「なるほど・・・構えが正当なものに見えただけに騙されました・・・あまりキレイな剣術ではないようだ」
「始発点はキレイな所だったさ。そこにバケモンがいたせいで邪剣になっちまったけどな」
最初の話術含めて邪剣。
剣道の試合において、竹刀を構えたら、対戦者同士が喋ることはない。
試合なら無駄な私語ということで、審判に注意、指導されることは間違い無い。
だが、例外もある。
例えば、同じ中学校の剣道部内で行なわれる、内輪ノリの試合とか。
これをやった時はどん引きされたものだが、それでも、そんなことをしてでも勝ちたかった相手が、昔いたのだ。
「不服なら、今度はお前から斬りかからせてやる、来いよ」
身体は自然と正眼の構えをとっている。
刀の柄を握らせて、忘却していた記憶を呼び覚ましたのはお前だ。
理不尽ではあるだろう。
だけど、そういうこともあるのだ。
機械じゃないんだから。
友人達から中学時代の自分の剣道が”邪剣”とか言われてたこと。
それを少しカッコいいとか思っていた自分がいたこと。
そんな搦め手を研鑽しても決して勝てない相手がいたこと。
黒歴史と言わずに何と言いましょう?




