大いなる黒へ蒼による逆襲4
「ありゃぁ、そろそろ限界かなぁ・・・」
遠くで駆ける光が二つ見える。
〈ロボキチ〉と〈ジーク〉だ。
狙撃に入る回数が減ってきている。
敵の砲撃が正確になってきているのかもしれない。
もう無理して狙撃しなくても良いのでは・・・とも思うが、口には出せない。
あの狙撃は無防備な〈フルカゲ〉を守るためにやってもらっていることなのだ。
敵が気づいてしまったら今の〈フルカゲ〉になす術は無い。
可能ならできるだけやってくれた方がありがたいのだ。
「それにしても、こいつは想定外のラッキーだったが・・・まあ考えて見れば当たり前か、機動兵器一機につき一戦艦は、無くはないにしても、たかが兵隊一人に戦艦は持って来ねえ」
今回も〈フルカゲ〉〈ジーク〉〈ロボキチ〉の三人で挑んでいるのに目前に迫った敵〈宇宙戦艦〉は《《二艦》》しかいない。
理由は考えるまでもなく、俺が〈スケルトン〉ではなく〈ブルー・シート〉で出撃しているためだろう。
『バープラ』において、スケールの違うプラモデルは区分けされない。
人間サイズの美プラもビルよりでかいロボットも何も変らずフィールドに放り出される。
しかし、『バープラ』は伊達にゲームシステムだけは神ゲーと称されていない。
スケールの差で性能に差は出ても、それで優劣が決まってしまう様なことはなかった。
索敵に特化でもしない限り、スケールの大きい側は小さい側を発見するのが難しくなっているのだ。
レーダー系に映らないのはもちろん、目視での発見も難しい。
意図的に近眼にされている様なもの、らしい。
機体に乗った状態で人間サイズのプレイヤーを見つけるには、動きを完全に止めて捜し物をするように目を動かなければいけないという感じに。
見つけづらいだけ?と思う奴はダイナマイトが使える蟻を想像してみてほしい。
気づかない内に接近していた小さな蟻が、気づかぬ内に関節などの急所に爆発物を仕掛けて行くのだ。
要はステルス・アクションだ。
ロボットを好むプレイヤーにとって『バープラ』は使用キャラの少ない対戦格闘ゲームという位置づけだったが、美プラなどの人間サイズを好むプレイヤーにとってはロボットサイズの敵に対して、特殊部隊の工作員の様なプレイングができるというわけだ。
当然、火力などあらゆる面でロボットに劣るし、流れ弾で死ぬ可能性も少なくないから人気のプレイスタイルでは無いが、そういったプレイングを好むコアなプレイヤー達は当然いる。
とはいえ、やはり単純な戦力だけで見れば、いないも同然だ。
あの〈宇宙戦艦〉がどういう基準で出撃数を決めているのかは知らないが、〈ブルー・シート〉はそこから外れることができたのだろう。
「・・・つっても、少し急がないとヤバいか」
意を決して扉に手をかける。
宇宙を漂っている、吸血鬼でも封印されていそうな長方形の棺桶。
その中から出てきたのは深い黒のマントで全身を包んだ少女。
水色のツインテールで毛先に火が灯っている様にグラデーションがかけられている。
宇宙服どころかヘルメットさえ被らず、宇宙空間に何事も無くいられるのは、あくまでこの身体は人形であるからだ。
棺桶のデザインも相まって、本当に吸血鬼の様に見えるかもしれない。
この棺桶型の格納ポッド〈ドールボックス〉は〈ゲーム内機体〉が装備できる店売りの装備である。
大して珍しくもなければ需要のある装備でもないありふれた物。
ただ、これはスケール違いの機体でチームを組むことを考慮した装備だ。
スケールの差は移動能力の差に直結するため、ミッションなどで指定されたエリアに移動するだけでも足並みが合わない。
そこであると便利なのがこの〈ドールボックス〉だ。
これは移動能力の高いロボット側が人間サイズ側を運搬できる装備なのだ。
と言っても、やろうと思えば手の平に乗るとかの力業で運べちゃうからあんまり使われないらしいし、〈ゲーム内機体〉の装備なので〈リアルプラモ〉勢には無用の長物どころの話ではないのだが。
ただ、この装備を見るに運営側は今回の様にスケール差を利用した作戦を想定している。
こういう自由度が垣間見えるとゲーマー達に神ゲーと呼ばれていたのもうなずけるのだが・・・、目の前の〈宇宙戦艦〉を見るとやっぱり、片方の足はクソゲーに浸けてるんじゃないか?と思わなくも無い。
まあ、人間サイズの機体を使っていて〈ゲーム内機体〉を使う友人がいる人にはとても便利な〈ドールボックス〉だが、この装備自体に飛行能力は無い。
あくまで運搬用のただの箱。
荷馬車の荷の部分。
なんなら今回は手榴弾扱いだ。
〈ブルー・シート〉を格納した〈ドールボックス〉を〈ジードフリート〉は〈ナパーム・スラッガー〉がスキルで武装を撒き散らかすのに合わせて、なるべく自然な感じで〈宇宙戦艦〉に向って放り投げたのだ。
宇宙空間で物体は慣性に従って進み続けるので、その法則に従って漂う〈ドールボックス〉は〈ブルー・シート〉という爆薬を秘めたまま、ゆっくりと敵の喉元まで接近することに成功した。
「〈ドールボックス〉の装備枠が結構自由に選べたのも地味に助かったな。〈ジードフリート〉の構成にケチつけずに済んだし」
手持ち武器の枠に装備して、手榴弾みたいに手放せたから、余計な荷物を〈ジーク〉に押しつけずに済んだ。
なにより生身で宇宙空間を遊泳しなくて良かったのは本当に助かった・・・。
〈ジーク〉が「これ使ったらどうですか?」と提案してくれなければ宇宙空間を何の寄る辺も無く漂うとかいう、地味な恐怖体験をするつもりだったのだから。
やはり古参プレイヤーは頼りになる。
出戻りのロボ野郎?
知らない変態ですね。
ちなみに最初にミサイルを迎撃させたのも布石だ。
飛んで来るものをわざと迎撃させ、武装を捨てて見せることで、スピード勝負に切り替えたと思わせる。
そして、その地点から急速に離脱した二人を追って、視線が捨てられた武装群から完全に外れることで、〈ドールボックス〉は捨てられたその他の装備として意識からも外れる、という狙いだ。
後は囮の二人が一塊になって逆時計回りに動いてくれれば、〈宇宙戦艦〉の尻か横腹にぶつかれる。
かなりの時間と労力を割いて〈ブルー・シート〉はここまでたどり着いた。
「よっと!」
マントの下から鞭を取り出して棺桶を蹴る。
水泳の時、プールの壁を蹴って推進力を得るイメージだ。
艦載機の存在が少し怖いが、恐らく、攻撃を加えるまでは大丈夫なはずだ。
射程圏内に入ったら鞭を振い、甲板の突起部分に巻き付け、引っ張ることで〈宇宙戦艦〉に取り付く。
〈宇宙戦艦〉のデザインは長方形のボートの真ん中にデカい建造物が乗っているシルエットで、赤城とか大和とかの日本の戦艦によくある感じだ。
こういうのもマニアから言わすと細部が全然違うらしいが、あいにく俺はミリタリーマニアではないからわからん。
今、重要なのは取り付いた位置だ。
足を付けたのは、実際の戦艦であれば戦闘機の発着だったりに使いそうな広い甲板。
この戦艦では戦闘機じゃなくてロボットが艦載機だが、甲板にはロボットの姿は無い。
「潜入成功だ」
見つかる前に行動しないといけないし、〈ジーク〉と〈ロボキチ〉の負担も減らしてやらなきゃな。
俺は壁づたいに移動し、そう苦労せずに内部に通じる扉らしき場所を発見する。
確かめるまでもなく、開かないだろうし、開けた瞬間に潜入がバレても困るので、ドアノブには触らない。
この扉を破壊して中へ進入するのは一仕事してからだ。
扉に背を着け、ななめ上を見ると、もう一艦の〈宇宙戦艦〉の横っ腹が視界に入った。
〈ジーク〉と〈ロボキチ〉を狙ってバカスカ砲撃を行なっている。
「安全圏から好き勝手やりやがって・・・!」
マントの中から筒を二つ取り出し、合体させて一つの長い筒を作る。
折りたたんでいたグリップを引き出せば、バズーカ砲の完成だ。
「てめえも十分卑怯な手を使ってんだ、闇討ち程度で文句は言わねえよな?」
手の中で〈ブルー・シート〉の最大火力武器であるバズーカがパズルをひっくり返した時の様にバラバラと崩れていく。
やがて破片の集まりと化したそれらは〈ブルー・シート〉の右腕を包む様にに集まり始める。
パズルが独りでに組み上がって行くように、新たな形を成す。
組み上がったのは肘から先の右腕を包む大きな筒。
その口径は元のバズーカの3倍近くあり、砲身は半分ほどに短くなっていた。
持ち手は無い。
大砲と右腕が一体化している。
もしも、この場に〈ジーク〉がいればその大砲を見て驚愕に目を見開いただろう。
左手でステータスウインドウを操作し、アイテムを取り出す。
〈フルカゲ〉が白い女ギャングの姿の時につけている丸眼鏡のサングラスだ。
それを耳に引っかける。
〈ブルー・シート〉は〈リアルプラモ〉なのでゲーム内のアバターアイテムを”装備”はできない。
だが”装着”はできる。
例えば、帽子のアイテムを装備していた場合、どんなに強い風が吹いても帽子は飛んでいかないし、自分で外して手放しても無くなることは無い。
対して装着は帽子を頭の上に置いているだけの状態と同じで、システム的にセッティングしている訳では無い。
要はオブジェクトを手で持つか、頭で保持するか、みたいな話だ。
そのため、取り外しが容易で、アイテムを無くす可能性もあるし、装備時の効果も得られないがスケールさえ合っていれば、飾りの装着は可能なのだ。
右腕を持ち上げ、左手で砲身がブレない様に支えつつ、右肩を背後の扉に押し当てる。
狙いはななめ上の〈宇宙戦艦〉。
その横っ腹。
「轟型機獣砲:劣化模像!!!」
レイドボス:〈自律強襲砲機獣:轟型〉。
通称〈バスターゴリラ〉。
その左腕。
かの『最大』は射線に入った存在を何でアレ消し飛ばす。
その凶光を受けて、し損じたのは記録上、ただの一機のみ。
その劣化模造品。
劣化版と言えども元々が桁違いなその威力は、黒い世界を蒼い閃光で染め上げ、宇宙を駆ける戦艦を叩き割った。
ロボ&第八位「あいつには負けられねえ!!」
主人公「漂流中暇だな・・・早くつかないかな・・・」




