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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
ブルーリベリオン
38/85

十人十色のプラモデラー


 「いやー、悪りい悪りい!〈スケルトン〉持ってったってことはてっきり知ってるもんだと思ってよ」


 「まあ、そのつもりだったから良いんだけどさぁ・・・空気を読めよな」


 私がプラモデルの先生を頼んだ男の子は驚くことに、あの〈フルカゲ〉その人だった。

 まさか私がプラモデルに興味を持つキッカケを作った人物に先生を頼んでいたなんて・・・。


 そしてリアルで会うことになるなんて・・・


 「それで?何しに来たんだよ羽刈、待ち合わせは〈ギャラクシー〉だろ?」


 「プラモのスキャンだよ、明日だろ?遠条さんに聞いたら、お前いるって聞いたからもう渡しちまおうと想ったわけよ」


 〈ギャラクシー〉というのはわからないが『明日』というのはあの宇宙戦艦にリベンジするために3人で集まる約束のことだ。

 〈エンジョウ模型店〉に来たのは明日に備えてプラモのスキャンをし、スキルを獲得するためだったらしい。

 どうやら本当にこの羽刈と呼ばれたチンピラ風の男は〈ロボキチ〉と呼ばれていたあの軍服幼女の様だ。


 「ほらよ」


 「ん、サンキュ」


 という短いやりとりで羽刈が持っていた紙袋が〈フルカゲ〉へと渡される。

 あのPVPの報酬のプラモデルだろう。


 (そういえば、リアルで受け渡しするって言ってたもんなぁ・・・)


 ぼんやりと現実逃避して黙っていると突然というか、やっぱりというか矢印が私に向いた。


 「それで?こんなガチ目のプラモ屋で女の子と何してんだよ?女の子と二人ッきりなんてお前には似合わんぜ?」


 「喋んなよ?チンピラ」


 「あ、《《初めまして》》、金剛 葉美(こんごう はみ)と言います。〈フル・・・古野さんにプラモの作り方を教えて貰ってるんです」


 そう、初めましてだ。

 〈ジーク〉の中の人が女の子だとバレたら『バープラ』は即辞める。

 〈フルカゲ〉と〈ロボキチ〉の二人とリアルで知り合ったからといってそのルールは変らない。

 金剛 葉美が〈ジーク〉であると知られるのはアウトだ。

 

 背中に冷や汗を感じながら、意図した出来事ではないとはいえ、なんだか隠し事をしている様な気分になる。

 

 「そういうことだ、つまりそういう関係じゃねえ。・・・つーかそういう関係だったらプラモ屋に連れてくるのはアウトじゃねえか・・・?」


 「違いねえ、呆れられるだけならまだマシ・・・ヘタしたら一発アウトだな」


 「そういう・・・?・・・!」


 『そういう』というのが男女交際のことだと気づいて、〈ジーク〉の時に〈フルカゲ〉に言われた心臓に悪い言葉の数々と帽子で悪漢の拳を受け止め、少し困った様な笑顔が脳裏をよぎる。

 

 (いけない!)


 持ち前の演技力を駆使し、何とか表情にはでない様に努める。

 たぶん顔は赤くなっていないはずだ。


 (そうだ・・・古野さんが〈フルカゲ〉ならあのセリフも古野さんが言っていたってことなんだよね・・・)


 今さら当たり前の事実に思い至る。

 同時に表情が崩れない様に気をつけながら別のことに思考をさき、感情をニュートラルに戻そうとする。

 

 (でも話している感じは・・・ゲームの時ほどノってない?ロールプレイだから?でも実際にわかって見るとそんな感じはあんまりしない・・・)


 考えられるとしたら、テンションによって言動の感じが変っている?

 雰囲気に左右されるタイプなのかもしれない。


 ゲームという特殊な環境と、いつもと違う自分の姿にテンションが上がり、言葉尻やセリフの抑揚などが無意識の内に変化しているのではないかと演技人の葉美は見る。


 そういう奴は役が自分にハマっていたら無類の強みが生まれる・・・こともある、かもしれない・・・って先輩が言ってたっけ・・・?

 あとは私みたいに一貫してロールプレイをするんじゃなくて、思い出した時にやってるっていうパターンが組み合わさってる感じかな・・・


 「ああ、金剛さん、紹介が遅れてごめん。このチンピラは友人で羽刈 鋳造(はかり ちゅうぞう)と言う少しだけ名の知れたプラモデラーなんだ」


 「まあ、こいつとちょっと前に暴れたから知ってるかもだけど『バープラ』だと〈ロボキチ〉って名前でやってる、よろしくな」


 「ええ、よろしくお願いします」


 知ってます、現地にいました。

 なんならその後ご一緒させていただきました。


 「・・・お前、リアルバレとか気にしないのな」


 「俺は超有名だから隠しても作品でリアルバレするんだよ」


 「あれれぇ?少しって言ったの気にされてますぅ?」


 時折ゲーム内でも見た煽り(光景)が見える辺り、リアルでも関係性は大して変らない様だ。


 「それで、どんな風にするつもりなんだ?その〈ジーナス〉だろ?」


 テーブルの上には私が組み上げた〈ジーナス〉と〈フルカゲ〉の〈スケルトン〉が置いてある。

 

 「それをこれから決めるんだよ」


 「可変機は変形時に塗膜がこすれて剥がれるからな、ヤスリがけ必須だぞ?そこんとこちゃんと教えてるんだろうな?」


 「まだそこまでいっとらんわ」


 「おいおい、随分とノンビリだな?モチベーションは無限に沸き続けるわけじゃねえんだぜ?じっくり教えんのも良いが、ある程度スピーディーに進めねえと飽きてクオリティが下がっちまう」


 「いやいや、一昨日買って、昨日組み上がったばっかりだぞ?十分スピーディーだろ」


 「効率化を重視しろってことだ、塗装する予定なら組み上げないでランナーからパーツ外してまとめるとくだけで良かっただろ、またバラすの手間じゃねえか」


 「合わせ目の確認とか配色決めはどうするんだよ?」


 「配色は説明書の写真やネットから写真持ってきてきめりゃいいし、合わせ目が出る所は表面処理してる最中に教えてやれば良かっただろ?大体目立つ合わせ目ができる所ってパターンあんだからよ」


 そう言って、羽刈は〈ジーナス〉の改造方針を早口で喋り出す。


 「組み上がりを見た感じ、初プラモなんだろ?ミキシングのパーツも無いだろうし、〈ジーナス〉には余りパーツもねえんだから大きくシルエットを変える改造はできねえ。できるとしたらパーツを減らしたり削ったりする改造だが・・・、飛行機に変形するプラモでそれはオススメできねえな、不格好になるかもしれねえし説得力がなくなる場合が多い。全体的なブラッシュアップを全力でやって、塗装でオリジナリティを出す方向でいくのが無難だろ」

 

 正直、あんまり何言ってるか理解できなかった。

 早口で喋り出した友人を見かねたのか、古野さんが言葉を挟んで遮る。


 「ストップだ、羽刈。初心者なんだ、俺らのやり方だと取りこぼす物があるかもしれないから、ゆっくりやってるんだよ」


 「でもよぉ・・・」


 「飽きて完成しなかったならそれはそれで良いんだよ。確かに俺らからすると勿体なく見えるかもしれないけど、その時間で何かの気づきを得れるかもしれないし、より価値のある物をを見つけられるかもしれないんだから」


 羽刈は難しい顔をしていたがやがて一理あると納得したらしく謝罪した。


 「すまねぇ、金剛さん。余計な口出しをしたみてぇだ」


 「い、いえ、気にしないでください」


 「ああ、それにこういうやり方や考え方もある、っていうのは知ってて損はない。風貌と口調が終わってるけど言ってることはある種正しいしな。今後も作り続けて慣れてきたら羽刈のやり方をやってみるのもありだ」


 「・・・古野、もう口出しはしねえけど、何か手伝えることあるか?詫びがしたい」


 見た目に反して義理型い性格らしい羽刈はお詫びに手伝いを申し出た。


 「いや、お詫びなんてしなくても・・・」


 「じゃあ、切り出し手伝え」

 

 そう言って、古野さんは鞄から取りだしたポーチからニッパーと透明なクリアケースを先程入手した二つのプラモデルの箱の上にのせてを羽刈に渡す。

 クリアケースは中に敷居があって、いくつかの部屋に分れている。

 百均で売っている薬ケースの大きい奴、という感じだ。


 「切り出し・・・?ってこれお前のプラモじゃねえか!?詫びいれるのはお前にじゃねえ!」


 「その二つミキシングする予定だから余ったパーツを金剛さんにあげるんだよ、一度斬りで良いからなる早で組め」


 「ちょ!待ておい、さすがの俺でも箱二つは日が暮れるぞ!?」


 「あ、説明書は貰ってくぞ、どのパーツが使えるか見せるのに使うから。とりあえずランナーごとに分けてくれ、手が空いたら俺もやるから」


 「おい、こら!」


 「じゃあ金剛さん、どんな感じにしたい?そのままキレイに作って色塗るだけでも良いと思うけど、新しいパーツを加えるのも面白いよ。この中から欲しいパーツがあれば使って良いから、ちょっと見てみてよ」


 「聞けやぁ!!」



 その後、遠条店長が「暇ー楽しそうー混ぜてー」と言って顔を見せたと思ったら途端にお客さんが来店し始めカウンターに戻らなくてはならないという悲しい背中を見ることになったり、〈ジーナス〉の分解中に私が誤って折ってしまったパーツを羽刈が鮮やかな手際で修復したり、参考にと見せてもらった〈スケルトン〉のギミックに驚いたりと、色々あった。


 自分が〈ジーク〉であるとバレない様に気をつけながら、その日の夕方、〈ジーナス〉と〈フルカゲ〉の新作。

 二つのプラモデルのシルエット()が完成した。

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