目指すべきは
予定通り〈エンジョウ模型店〉へ赴くと、すでに金剛さんは店内にいた。
遠条さんとレジも兼ねているカウンターで何か話していた様だ。
「お!来たね古野君、おはよう」
「おはようございます、古野さん」
「おはようございます」
二人に挨拶をしつつ、俺もカウンターに近づいていく。
「話は聞いてるよー、裏の机、使って良いから」
「さすが遠条さん、話が早いっすね」
「君が女の子を待たせてる間に色々と聞かせてもらってたんだよ。待ち合わせ場所には女の子より先にいるのが基本だぜ?」
「いや!私気にしてませんから!」
遠条さんのからかい混じりの冗談に金剛さんが抗議の声を上げるが、俺は面白がってるのを利用して作業場所を借りられるならそれで良かったのでスルーだ。
一昨日、金剛さんが購入したプラモデル、〈ジーナス〉は驚くべき事に購入した次の日の朝には形を成した。
変形機構を搭載していることから工数が多く、俺ですら二日に分けて組むであろうキットである〈ジーナス〉を金剛さんは一気に組み上げたのだ。
今日は一先ず組み上がった〈ジーナス〉にどのようなオリジナリティを付与するかの相談だ。
改造や塗装をするならどのようにするのが良いのか?
何が難しくて、何が可能なのか?
そう言ったことの意見ややり方を伝授するために集まったのだ。
「じゃあ遠条さん、遠慮なく机借りますね」
「あ、そうそう、入荷した商品も置いてあるから一つ選んで、後でレジまで持って来てね」
入荷した商品、というのは俺に『バープラ』を勧めることでメーカーのお得意様から特別に卸して貰った再販未定のレアキットのことだろう。
〈エンジョウ模型店〉は多くの人にプラモデルを触って欲しいという遠条さんの方針から新商品や新入荷の商品は店に来てから一週間経つまでは一人一個の購入制限を設けている。
そのため宝の山の中から一つだけを選ぶという葛藤を強いられるが、一番最初に、それもゆっくり選べるというだけで十分贅沢だろう。
「了解っす!じゃあ、行こうか金剛さん。塗装はしたいんだったよね?」
「はい、あ、失礼します。遠条さん」
「ごゆっくりー」
そう言って、俺はカウンターの奥にあるスタッフ用の小部屋に向い、金剛さんが後に続く。
小部屋の中央に大きめのテーブルとパイプ椅子が一つ置いてあるだけのシンプルな休憩スペースといった感じで、小部屋の角にプラモデルの箱が積まれている。
恐らく、あれらが入荷したレアキット達だろう。
壁に立てかけられたいた来客用のパイプ椅子を用意しながら、金剛さんに聞こえないように独り言ちる。
「しっかし、いきなり塗装かぁ・・・」
正直に言って、最近のプラモデルは塗装しなくても十分に楽しめるクオリティの物が多い。
〈ジーナス〉も例外ではなく、色分け、稼働など、申し分ないできである。
しかし、金剛さんは塗装までやってみたいと言う。
正確には、できるであろうことを手を抜かずにやってみたい、ということらしい。
個人的には珍しい部類の初心者であると思う。
一般的には、キットを説明書通りに作る素組から始めて、筆塗り、合わせ目消し、ミキシングなどの改造、スプレー缶塗装、エアブラシ塗装、と段階的にグレードアップしていくものだ。
これは階段を上がるのとは似て異なる。
どちらかと言えばエレベーターの方がイメージに合う。
その際の心情は『何か、凝る人は色々やってるけど、俺はこの位でいいや』であることが多いからだ。
要は、『そこまでしなくてもいいや』とか思ってる内に、いつの間にかどんどん深みにハマって行き、最終的にはそこそこのプラスチック加工技術が身についてしまうのである。
趣味として続けて行く内にいつの間にか、それが普通になってしまった、と言う様に。
無論、物作りが好みか、という適正もあるし、色々な世代の人間がいる界隈なので、全てがそうだとは言わないが。
しかし、初プラモで、即塗装、という初心者は間違い無く珍しい部類だろう。
それとも『バープラ』がキッカケと考えれば、今後は珍しいことではなくなるのだろうか?
何にしても、俺は今から金剛さんに素組の後は何ができるのか、を説明しなければならないのだろう。
そして、それは膨大だ。
合わせ目消しに始まり、ヒケ処理、スジ彫り、モールドの追加、プラバンを用いた情報量の増加、造形パテを用いた形状変更、可動域の拡張、ミキシング・・・。
ハッキリ言って、何でもできるし、どれだけでも手を入れられる。
まずはどの程度を目指すのか明確にし、必要な工程を選ばなければ、マジで完成までに一年とかかかってしまうのだ。
さて、どう説明するのがわかりやすいだろう?
考えつつも一つだけ案がある。
しかし、それをやるべきか迷う。
一番わ良い方法であるのは間違いが無いのだが、色んな意味で躊躇せざるを得ない案だ。
・・・そういう風にできてるとこあるし、しょうがないか・・・
「ごめん金剛さん、先に遠条さんの所に行ってくる」
「わかりました」
タオルにくるんで持って来ていた〈ジーナス〉を取り出している金剛さんに一言つげ、一目見た瞬間からこれだ、と決めていたプラモの箱を一つ持って遠条さんの所へ行く。
・・・・・・
「え!?それって・・・」
戻って来た俺の手の中の物を見て、金剛さんは驚いた声を出す。
それはそうだろう。
今し方購入したレアキットを小脇に抱えた俺の手の中には一つのプラモデルがある。
〈スケルトン〉だ。
〈スケルトン〉というすでに完成しているプラモデルを教材にし、合わせ目消しなどの作業の説明をする。
そうした方が、想像しやすく、理解を得やすいと考えたのだ。
〈スケルトン〉は一部改造を施しているし、基本的なブラッシュアップ作業は行なっているので俺が作ったプラモの中では最適な作品といえる。
自分の作品自慢みたいでちょっと恥ずかしいのに目をつむれば最適の案だろう。
「も、持ち出して良い物なんですか?」
もともと〈スケルトン〉は塗装の見本例みたいな立ち位置で製作した作品だから使用用途としては真っ当に正しい。
「あー、うん大丈夫だよ。もともとコレは手に持って見た方が良いタイプの作品だから」
制作者俺だし。
「・・・もしかして、そのプラモデル・・・古野さんが作ったんですか?」
まあ、当然そうなるよね。
こればかりは仕方がない。
店に展示してある作例を店員以外で持ち出すことができるのは制作者くらいだろう。
そしてショーケースに阻まれずに見れば、これが『バ―プラ』で暴れているあの〈スケルトン〉であるとわかってしまう公算が高い。
それは即ち、俺が〈フルカゲ〉だということがバレるということだ。
リアルバレである。
「あー・・・うん、そうだよ」
それでも、これが最善ならやらざるを得ないだろう。
教えを請われた先人の立場である俺が、自分の都合で最善を選ばないのは失礼を通りこして不義理だ。
「じゃあ・・・!もしかして古野さんが〈フルk・・・「おーう、〈フルカゲ〉ー、約束のモン持って来てやったぞ-!」
金剛さんが俺の正体を口にだそうとしたが、それを遮るデカい声が俺の後ろから飛んで来た。
「あん?何だよ?」
「・・・。」
「・・・。」
そこには『バープラ』の時と違って金髪オールバックに革ジャンという、チンピラそのものみたいな男が紙袋を掲げて立っている。
〈ロボキチ〉こと、羽刈鋳造であった。




