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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
ブルーリベリオン
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秘書は疑り、天才は踊る


 「はぁ・・・」


 『バーチャル・プラモデル・オンライン』通称『バープラ』開発主任付の秘書である犬飼は普段より片付いた上司の部屋で大きなため息をついていた。


 犬飼の勤める〈バール・ロール社〉は玩具メーカーとしては老舗と呼ばれる程の大手メーカーで、特にプラモデルに関しては最大手の企業である。

 そして『バープラ』は社運を賭けた一大プロジェクトであり、その開発主任の秘書に、と抜擢された時は『自分も出世したものだ』と嬉しく思ったのだが・・・。


 「・・・なんで私は上司の部屋の掃除をしているのかしら・・・」


 私はデジタルな部署の責任者の秘書よね?家政婦ではないはずよね?という疑問だ。

  無論、整理整頓は業務の範疇ではある、がメインの仕事では絶対にないはずだ。

 この部屋の主は片付けなどできないし、しないからだと自ら心の中で解答し、元ヤンの心が顔に出そうになるのを堪える。

 別に誰が見ているわけでも無いのだが、今は一応、仕事中である。

 あの上司の前でならもう構わないが、他の・・・例えば、社長や後輩の部下などの前で元ヤンが出るのはまずいことくらいは想像できる。

 感情を顔に出さない様にする訓練は普段からしておかないと、大事な場面で大失敗が生まれてしまう。


 「はぁー・・・」


 肺の中の空気を一度全てはき出し、気持ちを切り替える。


 秘書らしい仕事をしよう。

 

 そう思って、上司の使っているノートパソコンを開き、動画投稿サイトや掲示板を複数窓で開き、閲覧し始める。


 『バープラ』内で現在最も話題になっている情報を集めようと思ったのだ。

 しかし、調べた情報に犬飼は歯噛みすることとなった。



 ・・・・・・またあのプレイヤーだ。



 今最も注目されているプレイヤーにして、開発主任のお気に入り。

 ゲームを始めてすぐにレイドボスを葬ったプラモデル(機体)の制作者。

 バランスブレイカー一歩手前の、運営側の人間としては眉をひそめざるを得ないスキルを発現した機体。


 犬飼自身はそのプレイヤーに対して特に悪感情は抱いていない。

 むしろ良い宣伝をしてくれたとも思うくらいだ。


 だが、このプレイヤーが話題に上がる度に不安になる。

 

 開発主任は以前からこの〈スケルトン〉と呼ばれる機体を知っていた。


 そして、以前、再販未定のレアなキットを個人的なコネで卸していた〈エンジョウ模型店〉という店に開発主任は自ら赴いているようだった。


 ・・・バカと天才は紙一重という。


 天才はスゴイ。

 自分の様な凡人には到底できない様なことを平然とやってのける。

 しかし、凡人の気持ちを理解できず、普通では無いからこそ、自分の様な者が見たら『バカじゃねーのこいつ』と吐き捨てる様な突拍子も無いことを《《やらかす》》。


 非常ぉーーーに度し難いが、あのお気楽な開発主任は間違い無く天才側だろう。

 だから常識的に考えてやらないようなことを、タブーなことを理解したうえでやらかしていてもおかしくない。


 つまり、犬飼はこう疑っているのだ。



 この〈スケルトン〉という機体、開発主任あいつエコヒイキ()が入ってねーか?と。



 ゲームの運営側、それもトップである開発主任が特定のプレイヤーを優遇していたとしたら、それは大問題だ。


 例えば、有名な配信者に案件として番組に出てもらい、ゲームを紹介してもらったサービスとしてアイテムなどを授与する、ということはある。

 これは特定プレイヤーの優遇に当るだろう。

 ただし、それは今後も宣伝にご協力くださいという暗黙のお願いのためであり、宣伝効果を期待しての物。

 いわば、ゲームの存続に一役買う有効な手段だ。

 そういった場合でも授与されるアイテムは記念品以上の意味を持たせることはできない。


 なぜなら、平等ではなくなるから。

 審判が敵チームにいる試合に不満を感じない人間はいない。

 当たり前だが運営はプレイヤーに対して、平等でなくてはならないのだ。

 

 不安を胸に抱きつつ、犬飼はさらに別のデータを開く。


 「これは・・・!」


 思わず、眉間に皺ができた所で、部屋のドアが開いた。


 「いやぁー・・・疲れたぁー、まったく・・・お褒めの言葉なんてつまらないものはいらないってのに・・・あのオッサン(社長)め・・・ん?」


 会社のトップに対して、貴重な時間を無駄にさせやがってと毒づきながら入って来たこの部屋の主は、優秀で元ヤンな美人の秘書が自身のパソコンを触っているのを視界に捉えた。


 「あれー?犬飼ちゃん、それ僕のPCだよねー?」


 「あなたの、ではなく会社のです。見られたら困る様なデータがあるんですか?」


 実際にはこの天才のために用意された物で、特例として自由に使って良いとされているはずのパソコンなので『僕の』というのも事実ではあるだが、会社の備品というのもまた真実である。


 「いや!無いよっ!でも『ネコチャン』と書かれたファイルだけは開けないでください!!」


 「そのファイルなら先程確認して抹消しました。死ねよおっぱい星人」


 きょえぇぇぇぇ!!!と怪鳥の様な奇声を上げながら床で悶える上司を見ても犬飼の眉間から皺が無くなることは無かった。


 「主任、お聞きしたいことがあります」


 犬飼の声音は真剣そのもの、非常にシリアスなモノだったはずだ。

 なのに問われた側は未だにふざけた雰囲気を崩さない。


 「なにを!?なにを聞きたいって言うんだい!?人のPCのデータを消しておいて!質問に答えて欲しいならまずは君のスリーサイズを教えたまぶぐわぁ!!!」


 「普通にセクハラだよ馬鹿野郎!!!!」


 床に転がっていた上司に跳び蹴りをお見舞いしつつ、パソコンを上司の目の前にドン!と置く。

 

 「おい、これはどういうことだ?」


 「えっ?どうしたの?なんでもう元ヤンモード?早くない?」


 パソコンに映し出されているのは『バープラ』内のログデータ。

 〈スペース(宇宙)〉エリアに出入りしたプレイヤーの名前が並んでいた。

 そこに載っている名前は三名。

 その中には〈フルカゲ〉という開発主任お気に入りのプレイヤーの名前があった。


 「いくらなんでも、おかしいでしょう?始めて一週間の初心者がレイドボスをほぼ単機で倒して、隠されていたエリアまで見つけ出すなんて」


 「・・・マジ?」


 「〈リアルプラモ〉の性能はどの様に決まるんですか?このプレイヤーのデータに手を加えたりしてないですよね?説明をお願いします。」


 この上司はセクハラ発言はするが、セクハラ行為はしないし、セクハラ発言の報復攻撃(物理)は甘んじて受けることから、救えないが、ある意味、潔い人物だと犬飼は評価していた。

 だからこういうアンフェアなことはしないと思いたかった。

 しかし、さすがにできすぎている。

 まさか、本当に一人のプレイヤーを優遇しやがったのか?

 隠していたエリアの情報まで漏らしたのか?

 場合によってはしかるべき所に報告を上げなければならない。

 そういう緊張が犬飼の胸の中にはあった。


 「フフ・・・ハハ・・・アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


 突然、足の下で男は笑い出した。

 その狂人じみた笑い声に思わず後ずさり、立ち上がることを許してしまう。


 「犬飼秘書!君はどう思う!?」


 「・・・何がですか?」


 普段とは違う興奮した様子の上司を気味悪がりつつ、質問の意図を考えるが、恐らく考えるだけ無駄だと結論づける。


 「導かれたから英雄なのか!?英雄だから導かれたのか!?いいや!どちらでもかまわない、確かなことはただ一つ!彼はこのゲームに愛されている!!」


 「・・・・・・・・・」


 「ああ、すまない、質問に答えよう!」


 自分の中で勝手に結論がでたからか、高ぶりを残しつつも、先程の犬飼の質問に対する答えを蕩々と語り出す。


 「まず、犬飼秘書が考えている様な特定のプレイヤーを優遇するみたいなことはしていないとも!これは純粋に彼らの成果だ!だからこそ僕はこんなにも興奮しているのだからね!」


 「では・・・」


 「次に、〈リアルプラモ〉の性能がどの様に決まるかだが!」


 ダメだ、会話にならない。


 「これはスキャン装置に組み込まれたAIが決めている!プラモデルの状態を各種センサーで測定し、ネットを介して使われたキットの情報を集めて入力しているわけだね!キモは使われているAIとセンサーさ!これらは特別製で、センサーが経年劣化などの情報を読み取り、AIがそのプラモデルにどの様な歴史があるのかを算出する!それを分析することで性能を決めているのさ!」


 さらっと言ったがこの開発主任が制作したプラスチックキット作品測定出力機〈スキャン装置〉は現代技術における最高峰だ。

 わずかな傷、摩擦痕からこの物体が辿ってきた歴史を事細かに読み解くのだから、いわば、無機物の記憶を読むに等しい。


 「・・・AIにはスキャン装置ごとに違う個性・性格のAIが搭載されていて、個体ごとに算出結果が微妙に異なる・・・、それはより高度なAIを育てるために必要なプロセスだった・・・でしたっけ?」


 息継ぎの瞬間に無理矢理口を挟んだ犬飼が目の前の上司から以前聞き出した(シメ上げた)情報を口に出す。

 個性や性格といっても、似たような選択肢が現れた時にはAI自身の好みで選択肢を選ぶ、程度の遊びだったはずではないのか?


 「そう!それによって同じ作品をスキャンしてもスキャン装置ごとに算出される性能に違いが生まれるのさ!世界に全く同じ存在など存在しない!それは同じように見えるだけで、実際には歴史や選択が確実に異なるのさ!」


 やりたいことは何となくわかる。

 ゲームに登場するアイテムなどは基本的にはコピー品だ。

 それも現実の物と違い完璧に同一の。

 電子の世界なのだし、エンターテイメントの世界なのだから当たり前だ。

 この天才はそれが気に入らなかったのだろう。


 コピペでサボるなよ、と。

 

 同じように見えても明確に違いはあり、その差こそがオリジナリティであり、世界の格差の正体なのだと。


 「・・・では、〈エンジョウ模型店〉に置いてあるスキャン装置に何か特別なプログラムを入れたり、センサーを他の物より強化したりなど、特別扱いはしていないのですね?」


 「もちろんしていないさ!あそこの店主とは顔なじみだけど、誓って特別扱いはしていない!〈スケルトン〉が規格外なのはその歴史故さ!」


 開発主任は一つの模型作品について熱を持って語り出す。

 

 あのプラモデルは手に取って見るのに適した作品であること。

 長い年月ショーケースの中で誰の手にも触れられず、身に宿したギミックが日の目を見れなかったこと。

 それ故に、ようやく空気のある場所に出た、その作品は大きな炎を宿したこと。


 犬飼の胸中にもはや疑念の念は無かった。

 恐らく口にしていることは真実だし、上司の興奮振りに冷めてきて、どうでも良くなってきたというのもある。


 「ああ、残念だ!無念でならない!どうして僕の技術ではプラモデルという存在に意思を持たせることができないのだろう!『バープラ』(あの世界)に降り立ったことでどれだけ歓喜したのか!その叫び声を聞けないなんて!!」




 そろそろ、気付け(暴力)を入れて落ちつかせようか。

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