胸の内の選択肢はいつだって不自由
俺、〈ジーク〉、〈ロボキチ〉の三人は現在〈荒野〉エリアへと出向いていた。
〈スケルトン〉の俺。
〈ジード・フリート〉の〈ジーク〉。
そして、〈イン・ガリバー〉という機体名の〈ロボキチ〉が乗る、ホバー走行式の重機体。
「〈ジーク〉、本当に良いのか?これからやるの初級のミッションだぜ?」
「ええ、お二人がよろしければですけど・・・」
「まともな経験者がいるのは心強い。じゃあ、ちょっと付き合ってくれ」
「オイコラ!まともじゃない経験者がいるみてぇな言い方だなぁ!」
〈コロッセオ〉を後にしたあと、俺と〈ロボキチ〉は当初の予定通りフィールドに出よう、という話になったのだ。
最初っから連れ回すつもりで呼び出した〈ロボキチ〉と違って、流れで連れ出した〈ジーク〉を連れ回すのは悪いと思って、どうするか聞いたら、
「・・・邪魔じゃなければ、ご一緒しても良いですか?」
と言うので、それなら、せっかく人数もいることだし、俺《初心者》の初級ミッションを一気に消化してしまおう、となったのである。
受けたミッションは全部で5つ。
基本的には野良エネミーの討伐だが、一つだけ毛色の違うミッションがある。
『監視ドローン設置依頼A』。
読みゃわかるのだが、ドローンをフィールドの指定された場所に設置して来い、という依頼。
面倒なのは、その数と場所。
設置ノルマ:4機
設置指定エリア:〈廃都〉
他4つの討伐ミッション区域が〈荒野〉なのに対し、この『監視ドローン設置依頼A』という依頼だけ、〈廃都〉エリアまで行かなくてはならない。
三人で固まって〈荒野〉から順々に処理していくというのもありなのだが、経験者二人(バカ+トッププレイヤー)がいる状態での初心者ミッションはハッキリ言って作業だろう。
というわけで、二チームに分れることにした。
〈廃都〉への『|監視ドローン設置依頼A《お使い》』に一人。
〈荒野〉エリアで他4つのミッションに二人。
「じゃあ、ロボ、お使いよろしく」
「なんでだよ!!お使いなら〈スケルトン〉が行った方が早えだろうが!!」
「おいおい、経験者と初心者で分けるつもりか?初心者をハブにするの良くないと思います」
「あんなイカレた機体に乗ってる初心者がいるかぁ!!」
「あの・・・、僕が行きましょうか?」
「いや、〈ジーク〉は俺といてほしいな」
「えっ、あ、はい・・・!」
現在〈スケルトン〉と〈フルカゲ〉は有名人だ。
さっきみたいなトラブルに巻き込まれないとも限らない。
中には初心者の俺じゃあ、何がなんだかわからない、という種類のトラブルもあるだろう。
その時、頼りになるのが隣にいる経験者なわけだが、ロボ野郎だとまた荒事になりかねん。
「なんでパーティー組んで、ソロで動かねえとならねえんだぁ!」
お前がバカだからだよ
「お前がバカだからだよ」
「あぁん!!」
いっけね・・・!声に出てた。
「わかった、わかった、じゃあジャンケンで決めよう。負けた方がお使いに行く、それで良いか?」
「誰がバカだ、・・・恨みっこナシだぜ」
「じゃ、行くぞー、ジャーン、ケーン、ほい」
俺:パー
ロボ:グー
「チクショォォォォォォォォッ!!!!」
「じゃ、〈廃都〉の入り口で合流なー」
いいかげん、グー以外を出せるようになれよ・・・。
〈ロボキチ〉の機体が叫びながら走り去って行くのを見送りながら、
「じゃあ、こっちも行こうか」
「・・・あ!はい!」
何かうわの空だったっぽい〈ジーク〉。
〈ジード・フリート〉の姿なので表情がわからないのだが、大丈夫そ?
「で、でも、〈ロボキチ〉さん一人で行かせて大丈夫だったんですか?」
「まあ、〈ナパーム・スラッガー〉で来てたら、さすがにこっちが行ったんだけど・・・」
ロボがガチ機・・・というよりはお気に入りの機体として〈ナパーム・スラッガー〉より前に〈展示館〉から引き出していた機体。
〈イン・ガリバー〉。
〈スケルトン〉よりも一回り大きい体躯に、両肩に担いだ二丁のバズーカ、背には近接戦用であろう巨大なハルバードという『力こそパワー』のわかりやすい例とも言える武装で身を固めたダークグレーの機体。
ホバー走行を採用しているため、それなりの機動力と攻撃力を両立させている様に見える。
〈ナパーム・スラッガー〉はフィールドに出てミッションをこなすには機動力がなさ過ぎて論外だったが、 〈イン・ガリバー〉ならば経戦能力含めて〈ナパーム・スラッガー〉よりはまともに動けるだろう。
あれなら一人で行動しても自衛できるはずだ。
気になるのは、〈イン・ガリバー〉の原型機、つまり元となったキットが何なのかわからないこと。
ロボットのデザインというものは、例えデザイナーが同じでも作品ごとに独特の雰囲気を持っているものだ。
わかりやすい所でいうと、〈ドッグ・ファイティング〉は登場機体の全てに変形機構が備わっている、とか。
そういう作品ごとにある雰囲気が〈イン・ガリバー〉には感じられない。
単に俺が知らない作品のロボットをベースにしているだけなのかもしれないが・・・。
「・・・あいつも一回引退して戻って来たばっかの復帰勢だし、久しぶりの機体に身体を慣らした方が良いだろ」
〈ナパーム・スラッガー〉は足回り終わりすぎてるからノーカンで。
「そうですね・・・、機体に身体を慣らしておくのは重要です」
さすがは〈ジーク〉、トッププレイヤーだ。
ウォーミング・アップを軽視しない。
「そんじゃあ、こっちも二手に分れて、討伐対象のエネミー狩っていこう。同じエリア内なら通信できるんだったよな?」
「はい、・・・〈フルカゲ〉さん、くれぐれも気をつけてください。さっきみたいなプレイヤーが襲って来るとも限りませんので・・・」
〈ジーク〉が着いてきてくれたのは、それもあってか・・・。
どうやら〈ジーク〉は先程の〈ガスト〉の様なプレイヤーがPKを仕掛けに来るかもと案じて同行してくれたみたいだ。
「〈スケルトン〉なら大概の奴には捕らないだろうから、大丈夫だとは思うが・・・、まあ、何かあったらすぐに合流しよう」
「・・・では、〈廃都〉の入り口を目指しながら行きましょう!僕は、エリアの右側を迂回する形で向いますね!」
「了解、こっちは左側だな。じゃあ行くか、早くしないとロボの奴が先にミッション終わらせちまう」
・・・・・・
〈フルカゲ〉と別れた〈ジーク〉は、何とか〈ジーク〉のままいられたことにホッとする。
というのも
(はぁぁぁぁぁ!!なんなの!!あの人!いきなり一緒にいてほしいとか!!いや、たぶん、メンバーを振り分けるならって意味なんだろうけど!!言葉選びのセンスどうなってんのよ!!いつの間にか呼び捨てだし!!敬語が取れて距離が近くなった感じがするしぃ!!!)
実をいうと、かなり危なかった。
〈ジーク〉というキャラクターを演じている葉美は自らにいくつか制約を課している。
想定した〈ジーク〉のキャラ崩壊が起らない様に振る舞うこと。
なにより、中身が女性だとバレないこと。
『バープラ』はアバターの声まで変るため、声も男(若干高めに設定してあるが)になる。
声優を目指す身としてはズルも良いところだが、声色に惑わされずに男性になれるというのは純粋な演技力の練習と考えればありだと思えた。
だからこそ、女性だとバレるのは自分の演技が失敗したということであり、役に徹し切れなかったということになる。
この制約が守れなかった時〈ジーク〉というキャラクターが死ぬ。
つまり、『バープラ』の引退というペナルティが課されているのだ。
〈フルカゲ〉と話している時、体感〈ジーク〉が七割、葉美が三割といった感じだった。
三割も葉美の部分が表層に出てしまっては、ダメだ。
そんなのわかる人には簡単にわかってしまう。
しかし、先程から脳裏にチラつくのは〈ジャン〉の拳を受け止めて、〈ジーク〉を守ってくれたあの時の表情。
あんなに衝撃的な試合があった後だというのに、あの光景が瞼から離れてくれない。
これは好意か?
〈フルカゲ〉の性別はわからない。
たぶん、男・・・な気がするが、葉美の様にロールプレイをしているのなら、女ギャングは少し男勝りになるはずだ。
女の人でも不思議じゃない。
つまり、確証がない。
では、憧れか?
〈展示館〉での〈フルカゲ〉の振るまいは、まさしくヒーローと言って良いものだった。
実際にアニメのキャラクターに会った様な、感動から、高揚しているのか?
好意か。
憧れか。
・・・わからない・・・
ただ言えるのは、葉美はどちらを選んでも良いが、〈ジーク〉では憧れとして処理するしかない、ということ。
・・・しっかりしなくては。
今、僕は〈ジーク〉だ。
気を引き締めろ。
瞼から離れてくれないなら、それを込みで演技しろ。
心の天秤が常に均衡を保つのをイメージするんだ。
「・・・・・・よし!」
まずは、目の前のタスクに集中する。
〈ジーク〉として相応しい働きをしよう。




