キル・オーダー
あのイケメンが〈ジーク〉と呼ばれているのを確認し、声を聞いた瞬間、俺はひとまず、その場を離れる選択をした。
〈ブルー・シート〉でアバターの外見を変装しているとはいえ、声は白いギャングと変っていないのだ。
声や仕草から、〈ブルー・シート〉が〈フルカゲ〉だとバレる恐れがあった。
別に〈ジーク〉ならバレても問題無さそうではあるのだが、タイミングが悪すぎる。
何やら揉め事の最中だったのを、〈ロボキチ〉がわざわざ、かき回しに行きやがったからだ。
少しはツレのことを考えろ
こうなると、あの付近は確実に悪目立ちするだろう。
出したばかりの〈ブルー・シート〉で注目を浴びてしまっては変装の意味が無くなるし、〈フルカゲ〉だとバレるリスクも上がる。
せっかく用意した、お忍び様の衣装が一時間もしない内にダメになるとか冗談じゃねえ。
なら、放置が安定か?
それもNOだ。
〈ロボキチ〉は声がデカいし、アバターが特徴的だ。
この騒ぎが終わっても、しばらくは(少なくとも〈鑑賞エリア〉では)目を引くプレイヤーとなるだろう。
つまり、この後もあいつは目立つ、クソが。
何より〈ジーク〉だ。
〈ジーク〉にはゴリラ討伐の時に協力してもらった、所謂『借り』がある。
そのうえ、〈ロボキチ〉が迷惑をかけているなら介入しないわけには行かないだろう。
そんなわけで俺は人気の無い場所まで移動し、物陰に隠れて〈ブルー・シート〉を解除しに行ったのだ。
どうせヘイトを稼ぐなら、すでにタゲられている姿の方が良いと考えて。
こうして、白い女ギャング〈フルカゲ〉に戻った俺はすぐに〈ジーク〉の元に戻ろうとしたのだが・・・
「あの!〈スケルトン〉の人ですよね!」
「バスゴリ戦見ました!スゴかったです!!」
〈フルカゲ〉は現在プレイヤーに対する一番のデコイ。
まぁー、話しかけられるわ・・・
近いはずの目的地が遠いの何の・・・
「ありがとう、ツレを待たせてるから」
と言いながら、やたらと時間をかけて来た道を戻ると、案の定、野次馬が形成されており、しかもブーイングの嵐だった。
「何してんだ、あのバカ・・・」
ロマンで幼女になった変態に悪態をついてから、野次馬へと歩を進める。
「ごめんよ、ツレがいるんだ、通してくれ」
「え?〈スケルトン〉!」
「〈フルカゲ〉!?」
堂々と歩く俺に野次馬達は次々、道を譲ってくれて、〈ジーク〉達のいる中心が見える。
そこには・・・
その身を盾に子供を庇う〈ジーク〉
叫ぶ巨漢のプレイヤーとその姿に驚いているやせ細ったプレイヤー。
尋常では無い状況に、歩いてはいられなかった。
ロボ野郎が自分の作品の悪口を聞いて、明らかに揉めている所へ怒鳴り込んで行ったのは見た。
十中八九、その『揉め事』は『荒事』へとレベルアップしかけている。
直感的に始動したのは正解だった。
走り出してから二歩目。
巨漢のプレイヤーが拳を振り上げた。
あのまま拳を振り下ろしたら、ちょうど〈ジーク〉の後頭部に当る。
後はもう考えてられなかった。
走り出して落ちそうになった帽子を右手で押さえ、手に帽子がくっついたまま、右手を前に出す。
バシっと柔らかい物同士がぶつかる音。
しかし、殴られた衝撃はあれど痛みは無い。
大柄な体格の一撃に反して、衝突音は地味な物だった。
当然だ。
ここは町の中。
安全地帯だ。
ダメージという概念は排除されている。
巨漢の拳に帽子を被せる様にして受け止めた俺と、ゆっくりと目を開けた〈ジーク〉の目が合う。
〈ジーク〉はどうやら〈|ロボキチ〉を庇ったらしい。
・・・つくづくカッコいいよなぁこの人。
俺みたいな女の子に縁がない野郎からすると、こんなイケメンフェイスを平然と使う様な野郎には、なかなか良い感情が沸かないのだが、ここまで行動が伴っちまうと認めざるを得ない。
「・・・お久しぶりです〈ジーク〉さん。すいません、ツレがお世話になりまして・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「〈ジーク〉さん?」
「あっ!す、すいません!お久しぶりです!!」
何、今の間?
「・・・大丈夫ですか?」
「はい!全然!全く!問題ありません!!」
何か、バグったっつーか・・・キャラが崩れかけてないか?
本当に大丈夫かよ・・・と〈ジーク〉に言葉をかけようと口を開く前に、
「おう、遅かったじゃねえか・・・!」
と、〈ロボキチ〉が〈ジーク〉から離れて、偉そうに一勝負終えました、みたいな面でのたまったもんだから、とりあえず蹴り飛ばす。
サッカーボールキックである。
白い女ギャングは女性にしては身長高めに設定してあるので、マジでサッカーボールをシュートしたみたいになる。
「ぐはぁ!!!」
おー、踏ん張らないと結構派手に飛ぶんだな。
「いっ・・・たくはねえけど!!何しやがる!!」
「黙れ、バカ野郎。人を放置したうえに〈ジーク〉に迷惑かけやがって」
「ぐっ!!」
こいつはバカだが、人のことが考えられないわけじゃない。
俺がお忍びのために用意した〈ブルー・シート〉ではなく、目立つからと避けていた〈フルカゲ〉の姿でこの場にいる以上、手間をかけたことは理解したはずだ。
「察するに、お前の作品に難癖つけたのはそこの二人であって、〈ジーク〉さんはお前の作品を観てただけだろ?それを大騒ぎして、巻き込んで、挙げ句の果てに庇ってもらうとかさぁ・・・なんか言うことあるんじゃねえの?」
ロールプレイか元々の性格なのか、わからないが、ここまでカッコつけがキマってる〈ジーク〉が人の作った物を悪く言うとは思えない。
たぶん巻き込まれたんだろう。
「・・・・・・・・・、悪かった〈ジーク〉あと・・・あんがとう・・・」
「あぁ・・・いや、気にしないでください」
不器用だが潔く謝罪と感謝を伝えて頭を下げる〈ロボキチ〉と調子を取り戻してきている〈ジーク〉が気まずそうに、それを受けいれる。
俺が登場したことで、野次馬のテンションは下がりつつある。
差し込むなら今の内だろう。
「あんたらもだ!!ちょっと人数が多すぎるとは思わないのか?たった二人を何人で罵倒してたんだ!?いくら、こいつらが悪くたってこれじゃ集団リンチと変んないんじゃないのか!?」
野次馬にも一言、言っておかなくては。
糾弾していた側を第三者が責める。
これは必要な儀式だ。
そうじゃないと、こいつらが立ち去りにくい。
痛み分けにするには、こちらの柔らかい部分もチラ見せしないと。
俺の言葉を受けて、そそくさと立ち去る者、舌打ちをして立ち去る者と反応は様々だったが、反論は無い。
事の中心である〈ロボキチ〉が静まっているのが効いている。
ふぅ・・・、中折れ帽子を被り直す。
野次馬の数も減った。
残りは・・・っと、
「・・・あんたらももういいだろ、行っちまえよ」
後はこのデブとヒョロガリの二人組が退場すれば、この場は収めたと言えるはずだ。
こいつらにしたって、もうこの場にいたくないだろう。
特に抵抗することなく、出て行ってくれる・・・、と思っていた。
「ふざけんな・・・、仲裁したつもりかよ」
「・・・こけにしやがって」
マジかよ・・・。
まだ、噛みつく元気があるのか?
「ああ、まだ納得いってねぇ」
しかも落ちついたと思った〈ロボキチ〉まで食いついて来やがった。
「おい、いい加減に・・・「わかってる」
食い気味に俺の言葉を遮る軍服幼女は言う。
「俺はやり方を間違えた。関係無ぇ奴に迷惑をかけた。だが、それとこれとは話が別だ。やっぱ、自分が苦労して作った物を悪く言われて黙ってはいられねえ!」
「・・・2on2だ」
ヒョロガリの〈スルメ〉が言う。
「〈闘技場エリア〉の〈コロッセオ〉!そこで、白黒つけよう。お前らが勝ったら素直に謝罪してやる!その代わり俺達が勝ったら、あのプラモの展示は取り止めてもらう!」
「・・・いいぜ、それでいこうや」
おい、まて、2on2?
2対2だと?
それって、もしかしなくとも俺含まれてるよなぁ!?
「おい、勝手に巻き込むなバカ!こっちはやるなんて言ってねえぞ!」
予想外に巻き込まれた俺は、了承も得ずに承諾した〈ロボキチ〉に抗議するが、この野郎、引き下がらねえ!
「頼む!」
「嫌だね!」
「報酬はだす!」
「金の問題じゃ・・・!」
「俺の積みプラから好きなモン一個!何でもくれてやる!!」
「・・・マジ?」
〈ロボキチ〉の言葉に俺は口を閉ざさざるをえない。
積みプラ。
それはプラモデラー達の罪《積み》。
後で作ろう、いつか作ろう、まだ大事にしておこう、という先送り精神が形作る巨大な質量。
それらは一見、収納を潰し、部屋の面積をどんどん減らしていく邪魔物。
しかし、プラモデラーにとっては積上げられた宝の山であり、苦労して集めたコレクションだ。
・・・〈ロボキチ〉は雑誌に載るほどのプラモデラーだ。
そんな男が秘蔵している物《宝》、絶対にレアモノがある。
定価の何倍もする値になっている物どころか、ヘタしたら、もう市場に流れていない限定キットだってあるかもしれないのだ。
それを、譲るなんて・・・マジかこいつ!?
「・・・この喧嘩はもう意地の張り合いだ。痛いが、しょうがねえ。その代わり、払うモン払うからにはしっかり仕事してもらうぜ・・・」
なるほどな・・・そこまで本気ってわけか。
「・・・わかった。その依頼、受けてやるよ。」
希望は皆殺しでOKか?




