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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
硝子の巨人と白い殺し屋
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人は人だと忘れることなかれ


 「てめえのセンスが悪いのがいけないんだろ!」


 「酷評されたからって俺らに噛みつくなよ!」


 「デブとガリのアバター使ってる奴らがセンスについてとやかく言うんじゃ・・・待てよ?てめえら、さては面倒くさがってデフォルトの体型弄らなかったんだろ!キャラメイクの時に出て来るマネキンは最初リアルの背格好で出て来るよなぁ!!」


 「それがどうしたってんだよ!!」


 「いやぁ?何も悪くねえよ?ただリアルの身体がだらしねえと、VR(こっち)でも、どうしようもねえんだなぁと思ってよぉ!!」


 「関係ねえだろが!!」


 「ロリコン野郎に言われたくねえ!」


 「ロリコンじゃねえっつってんだろ!!」



 口論は白熱していた。


 ゲーマー側のプレイヤーとして〈ジーク〉に詰め寄り、あろうことか他人の作ったプラモデルを無遠慮にこきおろした二人のプレイヤー。

 大柄な〈ジャン〉とヒョロガリの〈スルメ〉。


 〈ジーク〉が直前まで観ていたプラモデルの制作者であり、タイミング悪く自分の作品に難癖付けられている所を目撃して激昂したプレイヤー。

 (メチャクチャ口が悪い)軍服の幼女〈ロボキチ〉。


 まさか、制作者が現れるとは思っていなかった〈ジャン〉と〈スルメ〉も最初は〈ロボキチ〉の剣幕に押され気味で、陰口を本人に聞かれた後ろめたさが感じられた。

 しかし、容赦ない幼女の口撃が逆に二人の勢いを取り戻させ、二人組という『数』の有利を理解してからは、明らかに侮辱した二人組が発端であるはずなのに開き直って言い返す始末だ。


 正直、見てられない。

 子供の喧嘩は、子供だから見ていて微笑ましいのであって、そこそこ良識のある年齢の人間が意地になり、開き直って『自分が正しい』と声高に叫ぶ姿は失笑すら誘えない。


 彼らは気づいているのだろうか?

 騒ぎを聞きつけて、遠巻きに野次馬ができはじめているこの状況を。

 

 「ちょ、ちょっと!一端落ちついて下さい!!」


 三人の剣幕に呑まれて、固まっていた〈ジーク〉が仲裁に入ろうとようやく動く。

 

 「ああん!?こちとら苦労して作ったモンにツバ吐きかけられたんだぞ!!黙ってられるわけねえだろうが!!!」


 「こいつの口の悪さは見てたろ!!マナーがなってないのはこいつの方だ!!」


 「このガキの肩をを持つ気か!?やっぱり裏切るのか〈ジーク〉!!」


 ダメだ・・・!

 どっちも完全に頭に血が登り切ってる。

 一瞬ヘイトが向いただけで、マシンガンの斉射を食らった気分だ。


 これはもう自然に収束するのを待つしかないか・・・そう思って一歩後ろに下がった瞬間、バカが状況を悪化させた。


 「けっ!第一、展示してある物に感想を言うのは鑑賞側の自由だろうが!!酷評されんのが嫌なら見せびらかすんじゃねえ!!」


 ヒョロガリの〈スルメ〉が言い放った一言が爆弾の導火線に火を付けた。


 〈ロボキチ〉に・・・だけではない。


 周りに居た野次馬達。


 ここは〈鑑賞エリア〉。


 ここにいるプレイヤーの多くはプラモデラーで、〈展示館〉をの中身を作っている人間達だ。


 「さっきからうるせえんだよ!!」


 突然、野次馬から怒号が上がる。


 「別にあんた達みたいのに見て欲しいわけじゃないわ!!」


 「感想は無理矢理、押しつけていいもんじゃないだろ!!」


 「これだから、物作りのできないゲーマー連中は!!」


 火の付いた爆弾は次々と爆発する。

 もしも怒りという爆発が目に見える物だったなら、今、間違い無く辺り一面火の海だろう。

 

 作品を見て、何を思うかは自由。

 それだけは正しい。

 しかし、思ったことを全て口に出して良い訳ではない。 

 ハッキリ言う性格だから・・・、とかサバサバした気質だから・・・とか言い訳されても受け手側には関係ない。

 否定された、傷つけられたという結果は変らないし消えないのだから。


 口に出す言葉。

 胸の中に秘める言葉。


 それらを正しく選択するのがマナーというもので、それができなかった者に周囲は容赦しない。


 「ここからでていけぇぇ!!」


 「ここからいなくなれーー!!」


 「お前らの存在そのものが目障りなんだよ!!」


 暴動寸前だ。

 遺憾なことに、この帰れコールの中には恐らく〈ジーク〉も含まれてしまっている。


 「・・・へっ!そういうこった。鑑賞マナーって奴がなってねーんだよ!てめえらは!!おら!ごめんなさいも言えねーのか!!人としてのマナーも知らねえか!?あぁ!!!?」


 畳みかける様に〈ロボキチ〉が言い放つ。

 これは事実上の勝利宣言だ。

 自分達の失言で『数』の有利は完全に覆った。

 この場で〈ジャン〉と〈スルメ〉が勝つということは、もうあり得ない。

 だから、この後の彼らの賢い選択肢はそう多くないハズなのだ。

 

 謝って逃げるか、黙ってにげるか。


 ・・・ハッキリ名言しておこう。

 この状況は〈ジャン〉と〈スルメ〉が完全に悪い。

 現実ではないがゆえの奔放な言動。

 たかがゲームといえど、他人を軽んじた結果の自業自得。


 だが、周りの熱量も高すぎた。

 悪者も人間だということを忘れられるくらいに。

 例え熱量を上げたのが彼ら自身だったとしても、人が人であることを忘れるということは、自分も人から離れてしまうということを、見失った。

 自分達の苛立ち、ムカつきを『悪の糾弾』という免罪符で叩きつけた。

 集団で行なわれる、その行為は端から見たら決して正常には見えないと気づかずに。


 「クソどもがぁ!うるせえんだよ!!」


 追い詰められすぎた人間は理性で行動できない。

 結果として、最悪の行動を取りがちだ。


 「おらぁ!!」


 〈ジャン〉がその大柄なアバターゆえの太い腕を振りかぶる。


 あ


 殴る


 子供


 咄嗟に、〈ジーク(葉美)〉は幼女を庇う。

 幼女に覆い被さって盾になる。


 目の前の幼女がネカマで、本当に子供なわけじゃないことくらい理解している。

 だからこれは、頭で動いたわけじゃない。

 身体こころが勝手に動いた。

 

 来るであろう衝撃を覚悟し、目を閉ざす瞼に力がこもる。



 ・・・来ない?


 いつまでたっても殴られた衝撃が来ない。


 恐る恐る瞼を開ける。


 白


 真っ白いスーツに丸いサングランス(色眼鏡)

 

 中折れ帽子で拳を受け止める長い黒髪の女性


 顔見知りに会えてちょっと嬉しそうに、でも少し申し訳なさそうに笑う、白いギャング


 〈スケルトン〉の〈フルカゲ〉


 「・・・お久しぶりです〈ジーク〉さん。すいません、ツレ(バカ)がお世話になりまして・・・」

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