ロマンは自らに求めるモノなり
〈格納空間〉からラウンジエリアに戻った俺は、堂々と町中に出ることができた。
「よし・・・、変装としては問題ないな」
今の俺は、水色の髪の毛先に火が灯った様なツインテールの全身マント少女で、白い女ギャングとは姿が全く変っているし、頭の上に表示されているはずのプレイヤーネームも〈フルカゲ〉ではなく作品名の〈ブルー・シート〉になっているから、気づかれるはずもない。
わかる人間には美プラだとわかるのか、たまに視線を感じるが、気になるほどではないのでセーフ。
「えーっと・・・待ち合わせ場所は〈鑑賞エリア〉だったっけ?」
マップを開いて、場所を確認、歩き出す。
〈鑑賞エリア〉はその名の通り、スキャンしたプラモデルをゲーム内で展示できるエリアだ。
アップデート前まで『バープラ』はゲームのシステムや操作性は良いが、プラモデルで遊ぶには厳しい、という『ちょっと風変わりな格ゲー』として認識されていた。
ユーザー層はプラモデラーより、ゲーマーの方が大多数になったが、それでもプラモデラー達をこの世界に引き留めたのが、この〈鑑賞エリア〉だ。
サービス開始当初の時点で、『作ったプラモデルを操縦して遊ぶ』というコンセプト自体は失敗したが、プラモデルが元々備えていた楽しみ方、〈鑑賞〉をメインに据えたこのエリアだけはプラモデラー達も文句の付けようが無かった。
このゲームの主な問題点だったのは、〈ゲーム内機体〉とスキャンした〈リアルプラモ〉の性能差、そして、そのスキャン機能の厳しさ。
要は、〈ゲーム内機体〉に比べて〈リアルプラモ〉の多くが実戦に堪えなかったのが原因だ。
そのため機体の性能なんか、そもそも論外であるこの〈鑑賞エリア〉に限った場合のみ、『バープラ』の評価は高かった。
クリアパーツを硝子に見えるレベルで描写するグラフィックだ。
データに落とし込まれたことにより、むしろ現実よりも輝くプラモがここでは見れる。
〈鑑賞エリア〉はプラモデラー達にとって、このゲーム唯一の救いの場所、〈聖域〉として『バープラ』を支えた偉大なエリアなのだ。
・・・聞くところによると〈鑑賞エリア〉に来るためだけに『バープラ』をやっているプラモデラーもいるらしいからな・・・
まず、確実に他のエリアに比べて、プラモデラーが多い場所のはずだ。
今〈フルカゲ〉として足を踏み入れたら、〈スケルトン〉のことを聞きたい奴らがエサに群がる鯉みたいになるのが目に浮かぶ。
早く見つけろよ検証班。
「・・・あ、これか」
蛍光グリーンに光るマンホールくらいの円。
〈ワープサークル〉と言うらしい。
〈セントラルタウン〉内の他エリアへの移動は主にこれを使う。
主に、と言うのは他にも移動の方法が存在するからだが、まあ今の俺には関係ないことだ。
〈ワープサークル〉の上に乗ると、『他エリアへ移動しますか?』とウインドウが表示される。
YESを選択し、続いて出てきた行き先の一覧から〈鑑賞エリア〉を選択することで、視界が光りに包まれ、景色が変る。
「おお・・・!、ここもスゴいな」
『バープラ』を始めてすぐに〈スケルトン〉で大暴れしたせいで、あんまり観光できていないのだが、俺がさっきまでいた〈工場エリア〉も字面から想像する様な油クサい感じではなく、ガレージが付いている建物が多い感じの近未来都市って感じの町並みだった。
打って変わって〈鑑賞エリア〉は何というか、レトロモダンって感じの町並みだ。
〈工場エリア〉よりも街路樹など緑が多く、建物や道に使われている素材もレンガや木材と素材がわかる物だからか、親しみやすく、なんだか落ちつく。
これは確かに博物館とか美術館がよく似合いそうな、歴史を感じさせる雰囲気だ。
「お、来たな〈フルっ・・・、〈ブルー・シート〉!」
と、突然声を掛けられ、声のした方を見る。
やけに声が高い気がするということは女性か?
と思い、辺りを見る・・・が、どこだ?
それらしいのが見当たらないぞ?
「こっちだ!下!」
「下?」
首を曲げるとそこには軍服を着た5歳くらいの小さな女の子がこちらを見上げていた。
「・・・お前、〈ロボキチ〉か?」
「おう」
「お前、まさか、ロリコンだったのか・・・」
「違うわ!これはロマンを求めた結果だ!」
どうやら、このロマンとやらを求めた結果、幼女になった男が待ち合わせをしていた俺の数少ないプラモ友達である〈ロボキチ〉であるらしい。
うわぁ・・・受け入れ難てぇ~・・・
〈ロボキチ〉こと、本名羽刈 鋳造とは、俺がエアブラシで塗装を始めたばかりの頃に知り合った。
家にエアブラシ用のコンプレッサーが無かった頃、俺は電車でプラモの作成スペースを貸し出しているお店に出向き、そこで塗装作品を作っていたのだ。
そこで、たまたま隣で作業していた〈ロボキチ〉が図々しくも「銀色(の塗料)分けてくれ」と話しかけてきたのがキッカケで、よく話す様になった。
自室に塗装環境が揃ったことで、その店には行かなくなったがロボ系の作品を好んで作成する〈ロボキチ〉とは馬が合い、SNSなどを通じて今日まで友人関係が続いていたのだが・・・。
「こんな形で友達の特殊性癖とか知りたくなかった・・・!」
「ちげえっつってんだろ!!話聞けやぁ!!」
「だって精一杯の言い訳がロマンだろ!!それは無理だって!!浪漫を求めて何で幼女になるんだよ!!滅んでしまえそんな浪漫は!!」
「いいか!?とにかく一度落ち着け!!そして聞け!!」
怪しい物を見る目つきの俺に、どういう思考回路を経て幼女になったのかを〈ロボキチ〉は語り出す。
「いいか?まず大前提として、俺はロボットが好きなわけだ。ドンパチやる戦場で人型の機械がぶつかり合う様に心奪われた人間の一人だ。わかるな?」
こくこく(首を縦に振る)
「そういう憧れってのは大体、アニメとか見て抱くモノだろ?」
「幼女が操縦するロボットアニメなんてあったか?設定的に厳しくね?」
「黙って聞け」
はい
「アニメにはキャラクターが必要不可欠だ。で、俺は考えたわけだ。俺の作ったプラモデルに乗るのはどんなキャラクターが良いんだろうって」
一種のロールプレイみたいなモノか?
自分のアバターの姿も含めて作品の一部としてる感じ?
「無骨でパワフル、それでいて精密な一面を持ち、格好良さの中に兵器としての怖さも合わせ持つ、そんなロボットに乗るキャラクターは、その逆だと良いんじゃないかと思ったんだ」
?
「すなわち、小さく、幼く、か弱い見た目の女の子!一見するとか弱い幼女が、戦場では巨大なロボットに乗って無双し、敵から恐れられるんだ!ロマンを感じるシチュエーションだと思わないか!?」
なるほど
「つまり・・・お前が実はイカれた変態だったということか・・・」
「ちっがうっ!!」
もう面倒くせえよ
それ理解しても何か得があると思えないんだよぉ・・・
〈鑑賞エリア〉で軍服幼女と言い合いをする青髪ツインテマントがいた、という奇抜な噂を聞いたのはかなり後のことだった。




