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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
硝子の巨人と白い殺し屋
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欲する衝動


 (似てる・・・〈スケルトン(あの機体)〉に)


 葉美ジークはあの戦場の中で最も〈スケルトン〉を間近で見たプレイヤーだ。

 〈スケルトン〉・・・今、『バープラ』内で一番、話題になっている〈リアルプラモ〉。

 

 脳裏によぎる。

 外装を煌めかせながらフィールドを駆け回る硝子を纏ったロボット。

 ニヤリと笑った白い女ギャングの顔。


 ショーケースの中で堂々と立っているこのプラモデルはあの〈スケルトン〉なのだろうか?

 確信は無い。

 プラモデル初心者の葉美には判断できない。

 同じキットを使った、ただの似た作品なのかもしれない。

 だが、直感的にこれはそうなんじゃないかと思った。


 (もしかしたら、彼女フルカゲはこの店を使っている・・・?)


 葉美が今日ここに来た目的は自分が本気でプラモデルを作ったとしたら、どの程度の作品モノができるのかを確かめるためだ。

 選択肢の確認である。

 自分ジークに〈リアルプラモ〉を使うという選択肢はそもそもあるのか?

 その選択肢は選ぶにたるモノなのかを確かめるために、わざわざネットで調べて、プラモを専門に取り扱っている〈エンジョウ模型店(この店)〉に足を運んだのだ。

 

 ・・・正直〈スケルトン〉の姿に影響されたのは・・・あると思う。

 

 あの絶望的な状況をひっくり返した姿に何も感じなかったわけがない。

 クリアの外装から透けて見えたあの笑顔も。

 〈スケルトン〉が持っていた力も。

 ハッキリ言って羨ましい。


 〈ジーク〉を演じている葉美と違って、恐らく〈フルカゲ〉は演じてなんかいない。

 ほとんど素で、あの結果を叩き出し、見せつけた。

 〈ジーク〉よりも自由で、英雄的だった。

 

 私が作った〈ジーク〉というキャラクターなら、この胸の内に湧き出た感情を憧れとして処理するだろう。

 だが、金剛 葉美に戻ってしまうと、嫉妬しかない。


 今、〈ジーク〉というキャラが終わるかどうかの瀬戸際だ。

 現状〈ジーク〉のキャラ的に〈リアルプラモ〉を使う選択肢は選べない。

 人々が〈ジーク〉に〈ジード・フリート(ゲーム内機体)〉に乗ることを望み、それを無視するのは解釈違いだから。

 だが、このまま〈ゲーム内機体〉を使い続けても敗北が重なる気がする、そうなれば結局のところ、同じ結果になる。

 常敗者は英雄と呼ばれない。


 しかし、葉美が簡単に諦める訳にはいかない。

 〈ジーク〉は自分が生み出して命を吹き込んでいるキャラクターだ。

 誰もがどうでも良いと思っても、葉美だけは〈ジーク〉のことをできる限り考え続けなければならない。

 それがキャラクターに命を吹き込む声優という仕事を目指すうえで、胸の内に無ければならない心構えだと思うから。

 

 金剛 葉美だけは抗わなくては。

 それが、本気で演じるということだ。


 「あの・・・、ここ、塗料コーナーなんですけど・・・どうかしました?」


 「あ、すいません・・・」


 プラモ選びを手伝ってくれていた男の子(確か、古野くんと呼ばれていたっけ?)に声をかけられて、我に帰る。

 いけない、プラモを選んでいる最中だった。

 〈スケルトン〉(かもしれない)に、つい魅入ってしまっていた。


 ・・・ふと思った、彼はこの店の常連で、『バープラ』をやっていると言っていた・・・。

 ならば、〈スケルトン(フルカゲ)〉について何か知っているかもしれない。


 「あの・・・このプラモデルって、あの〈スケルトン〉なんでしょうか?」


 「ス、〈スケルトン〉?ですかぁ?」


 「知りませんか?今『バープラ』で話題の機体なんですけど・・・」

 

 「い、いや~、始めたばかりで、何のことかと・・・」


 知らないのか・・・もしかしたらメカ系のエリアじゃない所で遊んでいたのかな?


 「じゃあ、このプラモデルを作った人・・・いえ、こういう作品を作るにはどうすれば良いんでしょうか?」


 〈フルカゲ〉のことを聞こうかと思ったが寸前でそれは控える。

 さすがに、それはストーカーみたいだし、リアル関係を探るのはマナー以前にモラル的に良くない。


 古野くんは少し考え始めた。

 こんなこと聞かれるのは少ないだろう。

 困らせてしまっているかもしれない。

 やがて、彼は言葉にした。

 

 「うーん・・・衝動、ですかね?」


 「衝動?」


 ちょっと意味がわからない。

 技術的な話を期待していたのだが、抽象的な感じだ。

 どういうことなのだろう?


 申し訳ないのだが、実を言うと、古野くんが言っていることは先程から私にはピンと来ていない。

 ただ、この人はプラモデルが好きで、真剣だということ、それは十分伝わってきた。

 だからこそ、あの場を離れて少し落ちついて考えたかったのだが・・・。

 ・・・今さらながら、少し感じ悪かったかもしれない。


 古野くんはさすがに言葉が足りないと思ったのか、言葉を選んでいる感じで喋り出した。


 「えーっと・・・何と言いますか・・・塗装とかの表現技法的なモノはネットに幾らでも転がってるんで、やろうと思えば、そんなに難しいことじゃ無いんです。もちろん始めは上手くいかないかもですけど」


 それは、葉美も目にしたことがある。

 多分、動画の尺的な都合なのだろうが、プラモデルを作成して紹介する動画には作り方まで解説する物が多い。


 「だから、自分の中にある『こんな物が欲しい』、『作って見たい』っていう衝動が作品のオリジナリティだったり、クオリティに繋がるんじゃないかって思うんです」


 少しだけ、葉美の中でも言語化ができてきたので、聞いてみる。


 「・・・さっきのモチベーションの話もそうでしたけど、メンタル的なパワーをそこまで重視する必要あるんですか?」


 「良い作品を作りたいなら、そうですね。少なくとも僕は必要だと思います」


 玩具の工作程度でそこまでの心構えが必要なのだろうか?

 そう思ったが、気づいた。

 ハッとした。

 目の前の〈スケルトン〉を見る。

 

 これは玩具に括って良いのか?

 いや、ただの玩具とは言えない。

 細かいことはわからない。

 どんな風に出来ているのかもわからない。

 だが事実として、私はこのプラモデルに魅入っていた。

 まだまだ大人とは言えないが、そこそこ精神的に育った女子高生が、門外漢のただの玩具に釘付けになるわけがない。


 鋼の色に塗装されたフレーム。

 それがクリアパーツを透して、何と表現すれば良いのかわからない色に輝いている。

 

 玩具ホビーじゃない。

 これは、どちらかというと芸術アートの分野に近いモノだ。

 少なくとも、目の前のこれは。

 

 モノ創りだ。

 

 そう思い立った瞬間、古野くんの言っていたことが喉を通った気がした。


 なるほど、メンタルのパワーは必要だ。

 声優だって広い視野で見れば〈表現〉であり〈制作〉だ。

 拘りが、執着が、オリジナリティが、興味が、楽しみが、ドキドキが、ワクワクが、愛が。

 必要不可欠だ。


 「・・・あの、まだ自己紹介をしていませんでしたよね?私は金剛 葉美と言います」


 「え?はい・・・古野・・・です」


 「古野さん、さっきのプラモを作ってみたいんですけど・・・良かったら作り方とかの面倒も見てくれませんか?」


 『バープラ』で使えるかはわからない。

 だけど、ホントの本気でやってみたくなった。


 

 

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