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プラスチックへ愛を込めて  作者: 田中ドラゴン
硝子の巨人と白い殺し屋
15/85

心のままに選ぶ物


 「・・・これで良しっと・・・」


 名も無き(俺が忘れたor付けてない)プラモに、新しく名前も付けてスキャンは完了した。

 用事は概ね済んだので後はプラモの棚でも眺めて帰るかなーと、遠条さんの方を見れば、俺がプラモのスキャンをしている間に来店したのだろう客と話している。


 女の子だ。


 〈エンジョウ模型店〉はまあ、プラモ屋だ。

 おもちゃ屋ではなく、プラモ屋だ。

 遠条さんの人柄のおかげで何となく入りやすい部類の店ではあると思うのだが、店内の商品はそこそこガチのプラモ用具も置いてある。

 そのため、客層は偏っているというのが俺の見たてだ。

 常連のプラモが趣味、というより生きがいの域にまで達しているベテラン。

 プラモを始めたばかりで塗装へのチャレンジなど、ステップアップのために来る中堅層。

 その辺りがほとんどで、極めて稀に、新しくプラモを作ってみたい!という初心者が来るというイメージだ。


 どの層の人間かはわからないが女の子とは珍しい・・・

 

 遠条さんに何か質問しているっぽいから、中堅か新規かな?

 まあ、遠条さんもプラモデルの普及に貢献しながら、趣味で飯を食うために店を開いてる人だから新規の方が嬉しいだろうな。店的にも。

 

 邪魔しないように帰るか。


 そう思って、未練がましくチラっとプラモの棚の方を見るが、今日はもともと何か買うつもりは無かったので真っ直ぐ店を出ることにする。


 何も言わずに店を出るのも無愛想な気がするから、遠条さんに会釈だけして・・・


 「あ、古野君!ちょうど良いところに、スキャン終わったんでしょ?ちょっと来て!」


 「え?はぁ・・・?」


 何か呼ばれた。

 何で?

 不思議に思いつつも遠条さんと客の女の子の所へと向うと、


 「この子がさ、『バープラ』で使うプラモデルを選ぶの、手伝って欲しいらしいんだけど、僕『バープラ』やったことないからさ、古野君見てあげてよ」


 「え?いや・・・俺も始めたばっか・・・」


 というか、俺まだ一回しかプレイしてねえんだけど・・・


 どうやら女の子はプラモデル初心者の様で、『バープラ』で使うプラモの選定に遠条さんの意見を聞いていたらしい。

 

 女の子を見ると、肩くらいまで伸ばしたショートカットの黒髪で、整った顔立ちをしている。

 歳が近そうな感じがするが、結構可愛い・・・と思う。

 プラモばっか弄ってる人間に女の子の美醜なんて測れるはずも無いんです・・・


 というか、オイコラ店員?

 それ店員の仕事ですよね?


 「あの、迷惑でしたら構いませんので・・・」


 ほら、女の子が苦笑いで遠慮しだしちゃったよ・・・

 やっぱり客同士は気まずいんじゃないかな・・・


 「あー大丈夫、大丈夫!彼は常連さんでね!僕の弟子みたいなもんなんだ!ちょっと人見知りだけどプラモの腕は確かだし、『バープラ』も最近触ったばかりだから、僕よりは適任なはずだよ!」


 ねえ、俺は?

 俺への配慮とかは?

 別に良いけどさぁ・・・


 「・・・まあ、僕で良ければ手伝いますけど・・・良いですかね?」


 「・・・それなら、お願いして良いですか」


 弟子扱いされてちょっと嬉しかったのもあって、承諾する。

 一応、敬語のままで行こう・・・歳上とかだったら失礼だし。


 「じゃあ、とりあえず棚を見に行来ましょうか、欲しいのはロボット系ですか?」


 「そうですね、なるべくスピードがありそうなのが良いです」


 『バープラ』だったらロボ系がメジャーかな?と思って聞いたのだけど、性能を気にしてる辺りはプラモデラーというよりはゲーマーって感じだな。

 とすると、『バープラ』はプラモ界隈にゲーマーという新たな客層を呼び込むことに成功したということだろうか。

 スキルという〈ゲーム内プラモ〉には無いシステムを楽しみたくてプラモデルを購入するゲーマーがこれから増えるのかもしれない。


 クソゲーの汚名返上しただけでスゲえ影響力だ・・・しっかりコンテンツに貢献してやがる・・・

 

 「ロボット系の棚はここですね。まずはザッと見て気になるのが無いか見てみると良いと思いますよ」


 少し投げやりだが、こういうのは結局、自分の琴線に触れるかどうかが一番重要だ。

 何の情報も無しにプラモデルを買う時のポジティブな理由は『何となく気に入ったから(好みだったから)』以外に無い、と俺は思っている。

 そういうプラモが一生の思い出になったりする。


 『バープラ』内で搭乗する用のプラモということで、ある程度の選択は必要だろうがプラモデルには〈作る〉という工程が必要なのだ。

 だから、俺の役割は制作難易度や問題点などのネガティブよりな情報を、なるべくフラットに教えてあげることだろう。

 『それでも作りたい』と思える物があれば、それ以上は無い。

 候補が複数出て、お金に余裕があるなら『まずは簡単な物を作ってから本命を作ってみる』というのもありだ。


 「はい、わかりました」


 金剛さんは棚に並べられているプラモデルのパッケージを眺めて回り始めた。

 

 こういう時、NGなのは『これが良い』『これはダメだ』など答えとなる意見を俺が言うこと。

 例え、選択肢に入らない物を選んだとしても、その箱は彼女の感性が選んだ物だ。


 決定権は俺に無いことを意識しろ・・・

 

 俺は自分が厄介な古参モデラーにならない様に注意しながら、自分もプラモの棚を眺める。


 「・・・あの、これってどんな機体ですか?」


 「それは・・・」


 彼女が選んだのは『ドッグ・ファイティング』というロボットアニメのライバル機。

 『起動戦討記アファム』と同じく放送してから現代までの長い間愛されてきた、幅広い年代が知るシリーズである。

 特徴としては、登場するロボットが全て変形機であること。

 見所は何と言ってもドッグファイト。

 高速で飛び交う飛行機達の撃合い(ドッグファイト)から、ロボットへ変形しての殴り合いが織り成すファイティング(殴り合い)

 ロボットアニメを進めるという話であれば、『起動戦討記アファム』よりも『ドッグ・ファイティング』を俺は推す。

 その位の名作だ。


 俺は原作の設定、制作難易度、問題点、『バープラ』にスキャンした場合の予想など、思いつく限りの情報を列挙する。


 「・・・って感じで、変形機だから構造が複雑でちょっとややこしいかもしれないのと、『バープラ』だと・・・一体型で操作できんのかな?」


 「変形機も一体型で操作できるみたいですよ。慣れないと変形中に事故るらしいですけど」


 「マジか・・・気を付けよう・・・」


 変形機・・・実はちょっと気になってたんだけど、もう少しゲームに慣れてからじゃないと無様なことになりそうだなぁ・・・まあ、しばらくは〈スケルトン〉で慣らすべきか・・・


 「でも、そっかぁ・・・ちょっと初心者の私には難しいかなぁ・・・」


 残念そうに彼女は、箱を棚に戻そうとする。


 「確かに難しいけど、作れない程じゃないと思いますよ?・・・ちょっと根気がいるかもしれないってだけで・・・」


 初心者では確かに製作難易度はそこそこ高めかもしれない。

 それは事実だ。

 変形機は設定上、複雑な仕組みをしていることが多い。

 パーツ数は増える・・・説明書が理解し難くなる・・・細く破損しやすいパーツがある・・・、細かいギミックを楽しめる分、工数も増えるのがプラモデルという物だ。

 中には、寝そべって羽を広げるだけで飛行形態!と言い張る機体もあるが、『ドッグ・ファイティング』の機体はリアル趣向で、しっかりとフレームが稼働して飛行機の形になるタイプ。

 そのうえ、このキットは差し替え無しの完全変形。

 つまり、パーツを加えたり、大きく除外したりせずに、単体で変形が可能なプラモデルとなっている。

 俺の様なプラモデルを組み慣れた人間から見れば、拍手モンの技術が詰まった変態キットなのだが、初心者には重みに感じるかもしれない。


 しかし、俺は言う。

 そこそこ長い間、プラモデルを触ってきた先人として。


 「プラモデルを作るのに必要なのは根気なんです。指より小さいパーツを何個も切りだして組み立てるんだから、モチベーションが無いとやってられない。」


 「え?でもそれって・・・楽しいんですか?」


 当然の疑問だろう。

 根気なんて物は趣味や遊びではなるべく遠ざけたい概念のはずだ。


 「楽しいですよ、俺みたいに作り続けた奴は、プラモデルが組み上がって完成した時の嬉しさを知っているから、それを楽しみに作るんです。」


 プラモデルとは突き詰めようと思えば、どこまでも拘れる物だ。

 正直、面倒くさい作業とか死ぬほどある。

 それ自体はダルイの一言なのだ。

 無論、そんなの気にしないで楽しむというのも悪くない。

 最近のキットなら組み上げることさえできれば、十分楽しめるクオリティーの物ができあがる様になっている。

 しかし、その作業をすれば良い物ができるとなればやってしまう人間もいる。

 出来上がった作品を組んで眺める瞬間を楽しみに。


 「でも、一番始め・・・初心者の時は、そんな楽しみなんて知らないから、アニメだったり、箱の完成写真だったりを見て、気づかない内に芽生えていたモチベーションで夢中になるんです。」


 俺が最初に作ったプラモもそうだった。

 アニメに夢中になって、好きなロボットを画面の外で、見て触りたくて組み上げた。


 「・・・私、そういうの無いんですけど・・・もしかして向いてないって言いたいんですかね・・・?」


 「あ、いや、そうじゃありません、ただ第一印象を大切にして貰いたいんです」


 「?」


 「プラモデルは作る難しさで諦める必要無いんです。目の前に在って欲しい実物を望む物なんですよ」


 画面の外の現実で眺めたい物。

 手に持って触ってみたい物。

 プラモデルに望むのはそういうことで、選ぶべきはそれが叶う物だと俺は思っている。


 「目の前に在って欲しい物・・・」


 そう呟くと、彼女は戻した箱を見て、黙ってしまった。


 いけない、少し説教クサくなってしまった。

 注意していたのに・・・これでは厄介な古参モデラーそのものだ。


 「あーいや、すいません、・・・そのプラモにした方が良いと言いたいわけじゃないんです。ただ、難しくても時間をかければできるし、壊れても直す方法がプラモにはあるので、好きな物を選んで欲しくて・・・」


 「・・・もう少し、他の箱を見て回っても良いですか?」


 「あ、どうぞ・・・」


 そう言って歩き出してしまった・・・


 うわー・・・やっちまったぁ・・・

 マジになりすぎだって引かれたんだろうなぁ・・・

 遠条さんに申し訳な・・・くはないけれど(バイトでもないのに押しつけたのが悪い)、俺の心はしっかりダメージを受けた。

 俺、営業とか向いてないんだろうなぁ・・・はぁ・・・


 ひとしきり沈んで、顔を上げると女の子の姿が無い。


 あれ?


 ロボットの棚はここだけのはずなんだけど・・・?


 別の所へ行ってしまったのだろうか?


 そう思って通路を探すと、プラモデル用の塗料が並べてある棚の所に女の子はいた。

 

 彼女は、棚の上に飾られているショーケースを見ている。

 いや、凝視している。

 ショーケースの中には、外装がクリアパーツでできていて、中身のフレームが丸見えのロボットがいる。


 彼女は、俺の作った〈スケルトン〉に釘付けになっていた。


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