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冤罪メイド、味方は放蕩王子だけ  作者: 上津英
第1章 捕まったドブネズミ
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5 「こんにちは、大罪人」

 あの傲岸王子が死んだ。

 ロンガ最強の竜騎士団長が。


「ディ、ディアス様……が?」


 ディアスなら数時間前まで生きていたではないか。

 カイへ手紙を書いて。惚れたとかなんとか、自信満々に言っていた。

 それが。


「竜騎士団に顔を出さない王子を訝しんで団員が声を掛けに行った時には、王子は背中を短剣で刺されて殺されていたんだ! お前しかあの部屋どころか廊下には入れないんだ。だったらドブネズミがやったに決まってる! お前以外廊下から誰も出て来ていないと証言する者は多いしな! あの部屋に隠し通路は無いんだ!」

「そっ、そんな……嘘つくなっ!」


 ディアスが死んだ。

 あの実は心優しい青年が。

 それは、自分の頭を停止させるには十分だった。


「……その話が本当だったとしてっ、私がディアス様を殺す理由があるもんか!」

「あるだろ! お前の部屋からマクドールの貴族とやり取りしている手紙が出て来たんだよ! 国王が病に臥せっている今、次なる王を殺せばロンガの国力は一気に落ちる。だからお前は王子を暗殺し、マクドールから金をせしめるつもりだったんだ! 浮浪児のやりそうな事だっ! 配送ギルドに良く行くお前なら密書なんざ楽にやり取り出来ただろうな!」

「なっ……!」


 言葉が詰まった。

 勝手に部屋を漁られると言う暴挙にも絶句したが――自分が隣国と通じていた? 実質自分から両親を奪ったあの国と?


「そんな事してない、するもんかっ! 何かの間違いに決まって――」

「黙れっ!」

「っう!!」


 事実無根だと主張しようとしたが、腹を蹴られそれは出来なかった。


「こんなに証拠が揃っているのにまだ言い訳するか! これだから浮浪児なんかの雇用は嫌だったんだ……絶対に問題を起こすとは思っていたが、まさかこんな大変な事をしてくれるとはっ」

「っう」


 両目から涙が止まらなかった。

 ディアスが死んだ。

 城内で一番気を許した人を、自分が殺した事になっている。

 そんな事するわけないのに。


「ふんっ。まだ聞きたい事がある、お前には狂わずに居て貰わないといけないんだ。今はこれくらいにしてやる!」

「……だかっ、らぁ……!」


 自分の足首に冷たい足枷をつけながら、看守達が思い出したように笑う。


「にしてもまさか開かずの部屋の中身が動物園だったとはな、武勇を誇るディアス王子に少しも似つかわしくない」

「な」


 独房を出ていく看守達の声に唇が震える。それはディアスが一番言われたくない言葉だ。


「待てっ!! ディアス様に謝れ!!」


 独房の外に聞こえるよう目いっぱい声を張り上げる。


「私は! マクドールと通じてなんかいないっ! きっと全部、全部っ、私に――戦災孤児に罪を擦り付ける為の物!! 信じてっ!!」


 足枷の鎖が伸びるギリギリまで鉄格子に近付き、階下に聞こえるよう大声で叫んだ。


「私はやってない!! 真犯人は別に居るの!! ねぇってば!! 聞いてんのか!?」


 喉が張り裂けんばかりに声を張るも、廊下に己の声がただ反響するだけ。


「私は、やってな……っ」


 窓から再び朝日が差し込むまで何度も叫んだが、誰かが自分の声に反応する事は無く、ただ喉が痛んだだけだった。




 それからの事は良く覚えていない。

 明かりが少ない牢獄に居るせいか、時間感覚がまるでないのだ。


「やり取りしていたマクドール人との詳細を教えろ!」


 そう大臣達が取り調べに来たが何も答えられなかった。

 どうやってディアスを殺害出来たのかは謎だが、何もやっていないのだから何か言えるわけがない。


「だからやってないってば!! っう!」


 誰かに嵌められた、と訴えても聞いてはくれず、八つ当たりのような蹴りを1つ腹に入れられ大臣達は去って行った。

 後は看守が固くパサついたパンとコップ一杯の水を朝夕に持ってきては、鉄格子近くに置いて去っていくだけ。

 夜にはただただ涙が止まらなかった。


「ディアス……様……っ」


 どうしてディアスが殺されないといけないのか。

 どうして自分がこんな目に遭わないといけないのか。

 どうして誰も自分の話を聞いてくれないのか。


──もしお前の立場が悪くなったら俺が口添えくらいしてやる。


 ディアスの言葉が頭から離れない。

 今がその「立場が悪くなったら」だと言うのに、この牢獄から一向に出られる気がしない。


(ディアス様本当に……)


 ディアスが死んだなんて嘘では、とも思ったが、青髪の王子が姿を見せないあたり、真実でしか無いのだろう。


「私は……やっていない……」


 誰も聞いてくれない言葉を呟くのは何度目だろうか。

 自分はきっとこのまま冤罪を着せられ処刑されるのだ。

 目の前がただただ暗い。


──その時。


 慌てふためく女看守の声が聞こえてきたのだ。


「ミック王子、本当にお1人で大丈夫なのですか!?」

「あちらは拘束されているのでしょう、問題ありません。寧ろ私1人のが大罪人も話しやすいかと」


 代わり映えしない世界に、涼やかな声が響いたのだ。

 何時もと違う事柄に、己の目に光が戻るのが分かる。


(誰……?)


 その人は光石で出来た燭台──光石ではなく火を使うのは高い身分であるからだ──を持っている。


「ふう……こうして鉄格子越しに会うだけだと言うのに、看守は心配し過ぎなんですよ。そう思いません?」


 おかげでカツ、と鉄格子越しの前に立つ人物が良く見えた。


「…………貴方は」


 思ってもいなかった人物の登場に目を見張る。第2礼拝堂付近で何度も見掛けた事がある。

 青みがかった金髪を綺麗に切り揃えたおかっぱ頭。

 夏の山のように濃い、少し釣り上がった緑色の目。

 絹を使った白色のシャツは清潔感と高潔さを醸し出しているよう。

 ディアスとカイの異母兄弟──第2王子ミック・ミカエラ・ロンガだったのだ。


「こんにちは、大罪人」


 武芸は不得意ながら知略に長け、毎日神に祈りを捧げている品行方正な人物。

 物腰柔らかく誰にでも丁寧に喋り、常に優しげな微笑を浮かべている事からミックを慕う者は多く、傲岸王子、放蕩王子と並んで優美王子と呼ばれている。

 礼拝堂に常に王子が居ては平民が見に来て嫌だ──そんな苦情が貴族から多く出て、殆どミック専用の第2礼拝堂が作られた程だ。


「父は病状が悪化し動けないので、代わりに私が次期国王たらん兄を殺した大罪人の顔を見に来ました。随分衰弱されていますが、看守達はちゃんと貴女を正当に扱っているのでしょうか……」


 ふうむ、とこちらを見下ろしてくる青年が一筋の光に見えた。

 この人なら自分の話を聞いてくれるのではないか。看守の靴音が遠ざかっていくのも好機でしかない。


「ミック様! 私は無実なんです! どうか話を聞いて下さいっ!」


 ガチャガチャッ、と鎖が伸びる最大限の距離までミックに近付く。


「と、言いますと?」

「私はマクドールと通じてなどおりませんっ! 確かに私は良く配送ギルドに行っていましたが、それはカイ様へディアス様からの手紙を出す──」

「もう良い」


 しかし。

 自分の訴えは最後まで聞いて貰えなかった。

 ミックに遮られたからだ。

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