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冤罪メイド、味方は放蕩王子だけ  作者: 上津英
第1章 捕まったドブネズミ
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4 「ご苦労様、後はこちらが代わる。6階の独房にぶち込むぞ!」

(やっぱ止めておこう。その内ディアス様がポロっと言うかもだし)


 そう結論を出し、サテラは手紙の配送の手続きを終える。


「有り難う御座いましたー!」


 女性事務の明るい声を背に配送ギルド「スマリュー」の外に出ると、初夏のじめついた空気が肌にまとわりついた。

(今日は珍しく晴れてたのにもう暗くなってる……少し損した気分)

 もうすっかり空も暗いが、光石(こうせき)──ロンガがある霊峰トゥルバが排出する石──のランタンがあちこちにある為、街は明るい。

 竜による配送は現在位置が分からない者にも高確率で荷物を送れるメリットがあるが、料金が高額で手続きに時間が掛かるのがデメリットだ。

 今日は混んでいたので、自分も木製長椅子に座って2時間は待った。


(路地裏にはガラが悪いのも見える……あんな政策打ち出してるし、12年経ってもまだまだ戦争の爪痕は残ってるな)


 外面はすっかり復興も済んだ城下町は、ドレスを着た令嬢も居て活気に満ちている。

 しかし、1本裏を歩けばいきなり殴られそうな程空気が悪い。


「そこのお兄ちゃん、竜に運搬させた新鮮な魚が入ってるんだけどどうだい? 活きの良いのが入ったんだよ!」

「おっそりゃあ本当か? 良いねぇ!」


 空も夜色に変わってきたからか。

 煉瓦で出来た城下町の一角、客引きに勤しむ飲み屋の男性店員の元気な声が耳に入ってくる。店からはガーリックソテーの匂いが漂って来ている。


(新鮮な魚か、良いなぁ。山にあるロンガじゃなかなか食べられないもんね。新鮮な海の幸はロンガ人の初恋相手、って言われるくらいだし)


 今は王城の隅にあるメイド用の部屋に住み込んでいるが、平民の自分まで海の幸が回って来る事は無い。


(もし魚を食べられる時は魚のパン粉焼きが食べたいな。あれ好き……)


 パン粉焼きを口に食べた時のサクッとした食感を思い出し目元を緩ませた──その時。


「居たぞっ!!」


 鋪道に野太い声が響いたのだ。

 同時に。

 道の両脇にある街路樹から、ザッと男性達が3人飛び出してくる。


「っ!?」


 驚きのあまりビクッと足が止まる。

 街路樹に隠れていたのも意味が分からない。まるで誰かを待ち伏せていたかのよう。


「捕まえろっ!!」


 もっと意味が分からなかったのは──男性達が、脇目も振らず自分に飛び掛かって来た事だ。


「私っ!?」


 ただただ困惑する事しか出来なかった。

 まさかこの人達は人攫いで、自分なんぞを攫う気なのか。

 それなのにどうしてこんな人目の多い道で襲撃するのか。

 道を歩く国民もギョッとしている。


「いたっ!」


 考えを巡らせていたその一瞬に3人掛かりで押し倒され、砂利で顔が擦れた。ジャリッと至近距離から嫌な音がし、唇から血が滲む。


「サテラ・クェンビー確保成功!! このまま城へ連れて行くっ!」

「はいっ!」


 キビキビ喋る男性は門番だ。顔に見覚えがある。


「一体なっ何!?」

「黙れ人殺しがっ!」

「ひとっ……!?」


 擦り切れた唇の痛みを感じながら唖然とする。

 人殺し。

 だから自分は押し倒されているのだろうか。何一つ覚えがないと言うのに。


「この大罪人を連行しろっ!」

「はい!」

「いたっ!」


 腕を後ろ手に拘束され、無理矢理立ち上がらされた。引っ張られて関節が痛み苦痛に眉を寄せる。

 頬に貼り付いた砂利が落ちる感覚がしたが、多くはまだ貼り付いたまま。

 この汚れた顔はランタンに照らされ、何事だと周囲に集まりだした人にばっちり見られているのだろう。


「ちょっと、いきなり何!? 私が人殺し? 変な事言わないでっ! そもそも誰を殺したって!? 貴方達は言葉が足らなさ過ぎるっ!!」


 強引に王城まで引っ張られ、痛みに顔を歪めながら叫ぶ。


「うるさい黙れ、このドブネズミがっ!!」

「──きゃっ!」


 しかし、男はバチリ! と頬を叩いて来るだけ。


「良いから黙って着いて来い!」

「……っ」


 意味が分からぬ状況に。理不尽な扱いに。全身の痛みに。

 堪え切れなくなった涙が溢れ頬を伝った。


(何なのこれは……私は何もやっていないと言うのに……)


 自分が人を殺していないのは確かだ。

 この人達は何か勘違いをしている。落ち着いた頃に話せば誤解も解ける筈。

 きっと、そうだ。


「ふんっ」


 抵抗する気もなくなり黙りこくった自分に、男はどこか満足気に笑い遠慮なく腕を引っ張って行く。

 途中から竜騎士が頭上を飛んでいる気配まで加わった。

 まるで、国家転覆を企んだ犯罪者を連行するかのよう。

 成り行きを好奇の目で見ていた一般市民は、結局城の門までぞろぞろと着いて来た。


「俺等も中に入れてくれよー!」

「お前らはここまでだっ!


 門の中まで一般市民が入れない事に、楽しそうに文句を言う声を聞きながら顔を顰める。

 自分はこれからどうなるのだろう。

 不安と恐怖で胸がはち切れそうな自分に、すっかり夜になった空は答えてくれなかった。




「ちょっとこっち手伝っておくれっ!」


 王城は行事前日──自分は終戦12年目を祝う竜騎士団によるパレードしか手伝った事はないけれど──のように落ち着きが無かった。

 慌ただしく回廊を走るメイド長が遠くに見える。

 初夏に男性3人に拘束されているので暑い。

 1つに結んだオレンジ色の髪をメイドキャップに納めているものの、先程からずっと首筋に汗をかいている。

 頭上から監視してくる竜の気配は、城の一番奥にある監獄棟に連行されるまで続いた。


「大罪人サテラ・クェンビー連行してきました!」

「ご苦労様、後はこちらが代わる。6階の独房にぶち込むぞ!」

「はっ!」


 自分を最上階まで連行する役が、書類を見ていた看守達に代わった。看守達も自分をぐいぐいと物のように扱う。


「ほら入れ!」

「きゃっ!」


 ドンッと背中を押され、窓から僅かに差し込む月明かりと光石1個だけが灯る牢獄に突き飛ばされる。

 膝から崩れ、摩擦で膝に焼けるような痛みが走った。


「っ、いい加減教えてっ! 私が何を、誰を殺したって言うんですか!!」


 頬の砂利をようやく落としながら問う。


「今更しらばっくれるんじゃねーよドブネズミ! お前がディアス王子を殺したのは分かってるんだよっ!!」

「──えっ?」


 ディアス。

 殺した。

 思ってもいなかった単語に目を見張る。

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