表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冤罪メイド、味方は放蕩王子だけ  作者: 上津英
第4章 柔らかいシーツの上で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/34

34 「そこの格好良いお兄さん……って何だ、女連れか」

 それは一国の王子と言うより、ショックを受けへこんでいる普通の青年だ。


「…………」


 そうしたくなる気持ちは分かる。

 自分も、寝る前は元気だった浮浪児仲間が朝起きたら冷たくなっていた時は、こんな風に項垂れたものだった。

 だから自分も、コリーの足に背を預けて地面にしゃがみ込む。

 思うのはフィーにも裏切られた事、フィロレッタで育った重さ、ディアスの──カイの気持ち。

 衣服越しに伝わるコリーの体温が今は何よりも安心出来る。


「……」


 涼しくも暖かくもない風が髪を揺らす事、幾ばくか。


「はあああぁぁ〜……」


 ふと。

 カイが大きな溜め息を吐いたのだ。

 顔を上げて頭上を見ると、カイはもうすっかり体を起こして何時も通りの表情を浮かべていた。


「ロンガから逃げてばっか、か…………」


 その目元には確かに、涙を流した跡が。

 ほんの少し翳りがあるように思えて、どう返したものかと悩んでしまった。

 だからか、また数秒風の音だけがする時間が出来てしまった。


「何でここでは黙るんだよ」


 返事がない事にむっと膨れると、カイはコリーから飛び降りて自分を見下ろしてくる。


「この前は、自分が喋らなかったら俺が喋らないだろうからって言ってくれた癖に」

「申し訳ありません。私もフィー様の事が……ショックでしたもので」


 でもそうだな、と思う。ここは自分がカイを引っ張った方が良いだろう。

 自分も立ち上がり、カイと顔を近付ける。

 ロンガでは山中で密会する男女が多いので、遠目で自分達を目撃した一般人が変に気を遣って見ないフリをしてくれるだろう事は、不幸中の幸いだと思う。


「カイ様、提案なのですが今日はどこか安い宿に泊まりませんか? 父が遺したペリン、使いましょう?」


 こんな気持ちで王子が野宿なんて出来ないだろう。そう思っての提案だった。

 そうだな、と何処か安堵したような声が返ってくる。本人もキツいと思っていたのだろう。

 近くの村に安い宿がある事を祈りながら移動する事になった。

 途中、バタバタッ! と頭上から鳥達の羽ばたきがし息を飲んだ。


「うわー……」


 竜が近くを飛んでいるかと思うと背筋が寒くなる。

 少し歩いたところ、トゥルバ山の5合目程。

 そこにあったのは、そこそこに大きな色町だった。

 あまり国境近くで遊びたくないマクドール商人に人気なのだろう、まだ午前──午前だからか──だと言うのに、あちこちに荷馬車や竜までも停まっている。


「そこの格好良いお兄さん……って何だ、女連れか」

「っ」


 コリーを停留所に停めた直後、自分より少し年上と言った若い娼婦が客引きに勤しんでいて、声を掛けられた。


「そう言う事。だからさ、ここら辺に良い宿ある? 安いと有り難い」


 ビクつく自分と違い、カイは堂々と娼婦と話していた。

 カイの目は腫れているが、娼婦が気にした様子はない。


「ん〜あそこの桃色の看板の宿とか。ってかお兄さん王子様に似てるね? 今逃亡中だかの──」


 気付かれた!? と表情が強張った時。


「っ」


 肩にカイの腕が回り、娼婦から顔を隠すように自分を抱き寄せたのだ。


「良く言われる。おかげでこんな風に女にモテてるよ。じゃあ今度よろしくー」


 軽薄な遊び人、と言った返しが頭上から聞こえる。


「っ〜!」


 一緒に口裏を合わせられたら良かったのだろうが、胸板に顔を押し付けられているので喋るどころか息を吸う余裕もない。


「こう言う時は堂々とした方が良いんだよ」


 昨日の今日でまだ脳裏にカイの裸が焼き付いていて、この茶色い服の下が如何なっているのかありありと思い起こせると言うのに。

 どうしてこんな事になっているのだろう。顔面がただただ熱い。


「んー…………っ」


 ふざけるな離せこのクソ放蕩王子、と口汚く叫んで足を踏みたいが、この状況でそんな事出来る訳も無く。

 この場は誤魔化し慣れていそうなカイに任せようと、目を伏せ先程よりも頬を預けていた。

 それからの事は良く覚えていない。

 顔を上げたくなかったし、馴染みの無い色町、聞き慣れぬ用語を耳にしながら身を強張らせていた。


「着いたぞ」


 ふと安心したようなカイの声がし、そろそろと顔を上げた。

 安宿。

 今いる木造の部屋は、まさにそういう言葉が似合う場所だった。

 明かりは、薄くて白いカーテンが掛かったままの窓からが殆ど。他は枕元に小さな光石が1つ置かれているだけで薄暗い。

 それに。


「有り難う御座います……うう」


 耳を澄まさずとも四方から嬌声が聞こえて来て、自分には少々刺激が強すぎる。

 入り口に立ち尽くしている自分と違い「ふ〜」と息を吐いたカイは早々に寝台に寝転がりそっぽを向く。


「……」


 このまま黙っているのも周囲の声が気になるし、一息ついた後いそいそと部屋にあった水差しからコップに水を注ぎ、ぬるい水を喉に流し込む。


「俺も欲しい」


 そんな自分の気配を察したのだろう。

 そっぽを向いたままのカイが話し掛けて来たのだ。


「あ、はい、持っていきます」


 同室で音があるのが有り難く、カイの分の水も木のコップに注いで持っていきコップを差し出した時。


「どうぞ――っ!?」


 寝返りを打ってこちらを向いたカイに、ぐいっと手首を引き寄せられたのだ。

 突然の事に抵抗なんて出来るわけが無い。

 されるがままにカイの上に倒れ込み、手に持ったコップがパシャッっと板張りの床に落ちた音がした。


「もっ申し訳ありません……!」


 揉み合うような形になり事態が分からず、ひとまず謝ってカイの上から退こうと思った。

 が。


「待てって」


 淡々と感情の読めない声で告げて来るカイが、何時の間にか自分を押し倒すような形で上に乗っていた。


「カ、カイ様……っ?」


 なんだ、この態勢は。

 どうして自分は押し倒されているのだ。

 様子を窺うようにカイを見ても、目の前の青年は口を閉ざしたまま。

 それが余計に肩に力が入る理由になっている。


「っ……」


 数秒もこうも至近距離だと、そう言えばカイの顔は整っていたな、とかそんな事を思い出して、目の前の緑色の瞳をつい見つめてしまう。

お読み頂き有り難う御座います!

ここで一旦投稿を休憩させて頂きます。年内には投稿再開しますので、またお付き合い下さると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ