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冤罪メイド、味方は放蕩王子だけ  作者: 上津英
第4章 柔らかいシーツの上で

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27 「サテラちゃんもカイちゃんに騙されないようにするのよ?」

■第4章 柔らかいシーツの上で




(やっぱりこの人……ちょっと不思議)


 改めてそう思いながら、闇が深まる森の中に吸い込まれていく。


「そう……かもしれませんね。王子にああ言う事を言われては、勘違いしてしまう方は絶対出るでしょう」

「ねー、ミカエラ様とかメイド時代それを狙って国王に近寄ったらしいよ。だからイリア様が嫌がって、第2王妃になってからも険悪だったって話」

「はあ……」


 元々はメイドだった第2王妃と、正妃。

 彼女達が対立するのも、当然の帰結なのかもしれない。


――ミック王子は王位に固執してる節も、貴方達ご兄弟を嫌っている節も確かにあったので……っ。

――多分ミカエラ様とミック兄上は、俺等兄弟を徹底的に避けてたんだろうな。

(母親を気にしていたミックがディアス様達兄弟を嫌っているのはこの辺りが理由なのかもなぁ……)


 フィーに手を引かれながら考えていた時。

 どこかニヤついた口調でフィーが言ってきた、


「サテラちゃんもカイちゃんに騙されないようにするのよ?」

「ぶっ」


 突然そんな事を言われ吹き出してしまった。


「大丈夫ですフィー様ご心配には及びませんそもそも私平民ですし私にはカイ様にそのような感情ありませんしカイ様だってありませんそれにカイ様は女で遊びはしそうですが女を騙すタイプには見えま――」

「うんうん、そうだねー良く喋るねー確かにカイちゃんはそうかもねー? でも、寂しがり屋なんじゃないかなぁ? そう言う男は危ないよー」


 動揺を隠すように思わず早口になってしまった。

 自分の言葉を遮るように、どこかにたついた声のフィーが返事をする。

 寂しがり屋。

 あの放蕩王子の人間性――情に厚い所や、冗談がとてもつまらない仕方ない所とか――を少しは理解しているつもりだが、それは考えた事が無かった。

 でも、そうかもしれない。

 裏切られて傷付くのも、置いて行かれて動揺するのも。


「……」


 カイについて考えていた時。

 ビュッ! と風を切って全速力でマクドールへ羽ばたく竜が頭上を飛んで行ったのだ。


「えっ!?」


 竜がこんなにスピードを出して飛ぶのはおかしい。


「あーあ」


 驚きに言葉を失った自分とは対照的に、しかしフィーは冷静だった。

 一目散に空を飛んでいく竜は、すぐにトゥルバ湖を越えマクドールの領空に差し掛かろうとする。

 と。

 ドカン! と。

 パレードで花火が上がる時のような破裂音が、周囲の空気を震わせる。

 すぐに地面から竜に向かって砲台が上がり、それに続けとばかりに無数の弓矢が射出される。

 戦時中を思い出すような大気の揺れに、焦げ臭さ。

 覚えがある。

 戦に似ているが、戦ではない。

 クワバ村で何度も味わい、見る度父が溜め息を吐いていた物。

 容赦のない、これは。


「飛空制限の制裁……誰かが飛空制限を破ったのですか?」


 口を動かしている間矢が1本、竜の腹部に刺さったのが見えた。

 グラリと竜が大きく傾いた隙に、何処からかまた竜が飛んで来ては傷付いた竜──もうすっかり飛空意欲を無くしている──の飛行をサポートしている。騎手同士で話しているのは、事情聴取をしているのだろう。


「そうみたい。ロンガだけ飛んでいれば良いのに、バッカすぎ」


 低い声で吐き捨てるフィーにも言葉を失った。

 子供っぽいこの人が言うには、あまりにも毒が多くて似つかわしくなかったから。

 背を向けているこの人は、今どんな表情でこの言葉を口にしているのだろう。


「飛空制限を破る人、結構いるのよ。つい忘れちゃう人から、わざと破ろうとする人まで。わざと、の人の方が多いかな」


 そんな自分の気持ちを知ってか知らずか、まるで愚痴るかのように舌足らずな声が続いた。


「麓に住んでいた時も飛空制限の制裁は良く起きておりました。わざと……そんな事する人がいるんですか?」

「うん。うちに金使わせたい奴等から、また戦争を起こしたくてきっかけを作ろうとしてる奴等まで。こんなボヤみたいなきっかげで戦争なんて起きるわけないのに。きっかけを作るなら、もっと大きくて派手なのにしなさいよ、って感じ」


 武器商人、奴隷商人、傭兵斡旋業。

 邪魔な身内を前線に送りたい人。

 戦争は一部の人間がとにかく甘い蜜を吸う──いつかギルベルトがそんな事をボヤいていた。

 だから戦争を勃発させたい人間が居るのはまあ分かる。

 ──分かる、が。


「私はもう、戦争は嫌です」


 ボソッと呟いた筈の声には、思った以上に力が入っていた。眉間に皺が出来ている。

 火に包まれた親を目の当たりにしてしまうような、自分と同じような思いをする子が増えるのは嫌だった。


「……」


 返事のないフィーは、一体何を思っているのだろう。

 山中から焦げ臭さが消えるまで数分歩いたところに、フィーの騎竜はぽつんと佇んでいた。

 小柄で気の強そうな竜は雌なのか、頭にコサージュが如く1輪の薔薇と真珠のように加工された光石が飾られていて、発光している分少しだけ目立っていた。

 フィーの武器なのだろう。赤い槍も鞍の上に置かれている。

 赤き舞姫は、己の騎竜とはさして仲が良くないらしい。


「コリーって言うの」


 カイとアンドのように声を掛けたりせず、淡々と紹介される。


「家に着いたら別館に身を潜めてたら良いよ。投獄されてからもう1週間でしょ? うちは誰もサテラちゃんを気にしないと思うから、カイちゃんを迎えに行ってる間ゆっくり休んでて。フィーはその後こっそりマクドールを飛べる根回しをしておくから」

「えっ、誰も気にしないって、私は大罪人ですよ?」

「うん、でも大丈夫。指名手配犯や全裸の美女が居ようとあいつら気にしないもん」


 そんな馬鹿な、と思ったが、ニコッと笑顔で断言されればそれ以上何も言えなかった。


(……うーん……フィー様も変わった人ではあるけど、この人を生んだフィロレッタ家もフィロレッタ家で何かありそう……)


 これから向かう館に一抹の不安を抱きながらも、コリーに乗ったフィーに頭を下げる。


「はい、何から何まで有り難う御座います」

「良いって良いって。ミックちゃんにぎゃふんと言わせる為頑張ろうね~じゃー後ろに乗って? ギュッとしがみついて顔隠してくれて良いから」

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