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冤罪メイド、味方は放蕩王子だけ  作者: 上津英
第3章 敵か味方か

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25 「サテラってもしかして兄上の事好き――」

「フィーは兄上の許婚なんだ」


 許婚。

 ディアスの。


「は!?」


 予想していなかった言葉がびっくり箱のように飛び出して来て、頭の中が真っ白になる。


──つまりお前は俺に口説かれたい、と言う訳だろう。

──お前と話すのは楽しいからな。


 思い出すのはディアスに言われた数々の言葉。

 あの傲岸王子は人にこんな事を言っておいて、実は許婚が居たと言うのか。

 ディアスの事が好きだったとかでは決してない。それにディアスの立場なら、疾風王みたいに第2王妃も考えるだろう。愛の無い政略結婚だったのかもしれない。

 分かっている。分かってはいる、が。

 これは紛う事なく女の敵だ。


「頭おかしいんじゃないですかあの人っ!?」


 開かずの部屋の癖に誰かが出入りしている気配があったのも納得だ。きっとフィーが出入りしていたのだろう。


「サ、サテラ、落ち着け。声が大きい」

「もっ……申し訳ありませんでした」


 慄いているカイに宥められ我に返る。つい大声を出してしまった。

 途端に恥ずかしくなって俯き小さくなっていると、おずおずと言った様子で尋ねられる。


「サテラってもしかして兄上の事好き――」

「無いです有り得ません。ただ少々許せないと思っただけですええ」


 被さる様に否定をし、洞窟内の空気を変えるようにコホン! と咳払いを1つ。


「えーっと、だからフィーは俺の幼馴染って言うか、姉でさ。2人の婚約が決まったのは戦後すぐ飛空制限が定まった頃で、俺が丁度亡命から帰って来た辺りからの付き合いだから」

「待って下さい。敗戦国の王子が政略結婚をするのは仕方ないでしょうが、それが自国の侯爵令嬢なのは少しおかしくないですか?」

「そうでもない。フィロレッタは国境にある家だからロンガとマクドール領空の番犬の任を任されている。フィロレッタはトゥルバ山の東西南北に屋敷を構えて一族を割り振り、どこよりも飛空制限を意識し、時にはロンガの竜を容赦なく撃ち落してきた家なんだ」


 神妙な顔でカイは続ける。

 淀みなくこう言う説明を出来る辺り、この人も確かに王子なのだろう。


「じゃないとロンガは飛空制限を破ったってまた大陸中を敵に回し、再び戦禍を巻き散らす。だからフィロレッタ令嬢とロンガ王子が結婚するのは、飛空制限をロンガは今後も守っていく、という対外アピールになるんだよ。最初は兄上もフィーも何であんな奴と、ってお互い嫌がってたんだ。だから兄上、余計意固地になって開かずの部屋を作ったんだ」


 なるほど……と頷く。梨はもう全部食べ終わった。

 クワバ村に居た頃、時折国境近くの空で竜が揉み合っていた。

 「飛空制限を破った奴が居たな」と暗い顔をした父が教えてくれたあれは、あの人の家が先導していたのか。


「でも最近はあの2人仲良かったよ、プレゼント交換とか良くしててさ。だからフィーは当然兄上の死に疑問を抱いているだろうし、マクドールにパドラックを探しに行くにしてもフィロレッタは外せない。どうだ? 俺の本気の案」


 頭に赤いターバンを巻きながら首を縦に振る。


「良く同じ口であんなつまらない事を言えたな、と思うくらい良い案だと思います」


 素直に褒めると、カイが「へへっ」と嬉しそうに目を細めていた。


「それと質問なのですが、ディアス様とミックは戦時中亡命していませんよね? でもカイ様はしております。それはどうしてですか?」


 自分の質問にカイの表情が一変し、胃酸が逆流でもしたかのように苦々しくなった。


「あー……産まれたばかり、だったからだ。兄上は時期王としてロンガと向き合う為自主的に残った、小さかったのに偉いよなぁ。ミック兄上は知らないが……大方ミカエラ様が、ディアスが残るなら貴方も残れ、とか言ったんじゃないか?」


 なるほど、と頷く。


「ロンガは鉄壁の防御力を誇るから、王子だろうと結構簡単に残れたんだよ。俺は流石に駄目だったし、一時帰国した時母上は結局戦火で死んじゃったけどさ…………」


 カイの声がどんどん小さくなる。あまりこの話題に触れて欲しくないのだろう。

 それが分かり、話題を変える。


「では早速国境に――っ」


 参りましょう。

 そう言おうと思った。

――が。

 突然滝を割って「ビュッ!」と1本の槍が洞窟を攻撃してきて、最後まで言えなかった。


「うわっ!?」

「なんだっ!?」


 幸い槍が突いたのは自分達の顔の間。運が悪かったらアンドの腹が破れていたか、顔に穴が開いていた。

 急いで剣を持ったカイが応戦し、アンドも丸太のような尻尾を何時でも振れるよう警戒している。

 一気に洞窟の空気が張り詰める。

 次の瞬間、滝を割って現れたのは濡れるのを厭わぬ様子の女性騎士。


「やっぱり潜伏していたか、犯罪者達! 声がしたから怪しいと思ったが、まさか本当に居るとはなっ!」


 大きな声を出しすぎたようだ──少し前の自分は馬鹿だったと反省する。


「王子相手に犯罪者呼ばわりかよ……!!」

「殆ど国を留守にしていたお前の何が王子だっ!! ディアス様を殺した奴を匿って恥ずかしくないのか!!」

「っうるさい!」


 槍を掴んだカイは、女性の言葉に苦しそうに顔を顰める。


「っ!」


 その隙を突き騎士が槍を引いた為、引っ張られバランスを崩したカイの指を刃が抜け血が噴き出す。


「ぶああああ!」

「うわああっ!」


 カイがアンドの上に倒れ込んだ瞬間、アンドが尾を鞭のように振り女性を滝壺に薙ぎ倒す。


「乗れ!」


 バシャンッ!! と盛大な水音が響く中、アンドの手綱を掴みながらカイが叫ぶ。


「はいっ!!」


 光石を3つ掴み、自分もアンドに飛び乗る。

 中途半端に愛竜にしがみついたカイと共に、滝を割って夕焼け空の下に飛び出す。


「私は無罪なんだよ!!」

「っいた!」


 湿度の高さから解放されたものの、風を切る心地良さも十分堪能出来ない。

 有罪だと少しも疑わず決め付けられた事も手伝い、滝壺から浮かび上がる金髪に光石を投げつける。


「──大罪人、王子発見!」


 ロンガの空はそこまで広くない。

 騒ぎを聞き付けたのか、夕焼け空を舞っていた他の竜騎士にすぐに発見されてしまった。


「クソッ」


 鞍まで這い上がって体勢を安定させたカイが舌打ち、逃げるように樹海に急降下する。


「もうこのままフィロレッタに行くぞ!」


 そうカイが叫び樹海に潜り、地面スレスレまで到着した直後。

 突然、アンドが暴れ出したのだ。


「アンド!? うわっ」

「きゃあ!」


 くるっと回転され頭を下に向けられ、粉をふるいにかける時のように揺らされては、当然重力に負け落ちる。


「ぶあああっ!」


 抗う術もなく地面に2人で落ち──アンドは再び空に戻って行ってしまった。


「アンド!? アンド! アンド! 戻って来いっ!」


 最大限に目を見開いてカイが驚いている。

 しかし、アンドが再び地面に降下する気配は無かった。


「アンド──っ」


 竜がこのように騎手を振り落とす行動に出るのは有り得ない。

 そう、有り得ないのだ。だから気付いた。

 これは父と同じ──。


「カイ様、アンドは囮になってくれたんです! 私達を逃がす為に! まさか樹海に入った一瞬で騎手だけ居なくなるとは相手もすぐに思い至りませんから!」

「っでも! 人が乗っていないのなんてすぐに気付く!」


 カイが動転しているのは明らかだった。


「だからこそ今すぐに私達は逃げるべきなんです!」

「アンドを見捨てろって言うのかっ!?」


 このまま騒いでいては危ない。今は馬も居ないし、自分にはカイを引きずる力も無い。

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