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冤罪メイド、味方は放蕩王子だけ  作者: 上津英
第3章 敵か味方か

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23 「分かった。後で竜騎士団兵舎に持って行く」

「ところでサテラ、ここには休息に来たんだろ。休んだらどうだ? ミック兄上をどう追い詰めるか、俺もその間に考えておくから」


 話題を変えるかのようにカイが明るい調子で言い、「どうぞ」とばかりに人が寝そべられるくらいのスペースがある3段目を指差した。


(上手く話をすり替えられたな。まあ……会ったばっかのメイドだしね)


 自分も変更された話題に乗り、早速光石も何もない3段目に横になる。


「有り難う御座います、ではそうさせて頂きます。恐らく1日は起きないかと。あっ外に梨の木がありますので、空腹を覚えましたら慎重に調達してきて下さい」


 馬車の時と同じく、頭から赤いターバンを外し枕にする。


「お休みなさい」

「ああ、お休み」


 横になって目を瞑り気持ちを落ち着かせるように何度か深呼吸を繰り返していると、一気に疲労が襲い掛かってきた。

 緊張の糸がプツリと切れたのだろう。肩や足首の痛みが思い出したように疼き始める。


(……相手が誰でも、人間って裏切るんだな)


 目を開けるのも億劫な中、思うのは先程の事。


(長く一緒に居た人に仕事だった、ってあっさり捨てられるの……辛いだろうなぁ)


 あの時のカイの気持ちを思うと、自分まで胸が苦しくなる。


(もうここまで来たら誰も裏切らないかな? だと良いなぁ。カイ様は情に厚い所があるし、続いたらキツいって……)


 馬車の中でカイは自分が寝た後こっそり泣いていた。今日もそうする気なのだろうか。

 もし気が付いても見ない振りをしよう。

 そう思えるくらいにはカイは仲間で、ディアスの弟ではなくカイ・ハンフリー・ロンガだ。

 そう思ってすぐ、サテラは深い睡眠の中に誘わられていった。


***


「カイが大罪人と一緒に逃げたぁ? どうしてまたそんな事に?」


 思ってもいなかった使者からの報告に、礼拝堂に居たミック・ミカエラ・ロンガは自分の声が裏返るのが分かった。


「その場に居た使用人の供述によりますと、そもそも大罪人の脱獄を手伝ったのも匿っていたのもカイ王子だと言うんです」

「何故カイがそんな事を?」

「カイ王子はどうしてか、大罪人が冤罪だと思ったようです。しかもミック王子が魔法使いを使ってディアス王子を暗殺した、などと信じているようでして……」

「っな私がそんな事する訳無いじゃないですかっ!!」


 否定の声は自分でも驚く程大きく、自分と使者しかいない第2礼拝堂に反響する程だった。


「こほん……失礼しました」


 あまりに大声だったからか、兜を被った男が目を丸くしている。慌てて咳払いをし表情を取り繕う。


「いえ、ミック王子が怒るのも当然ですよ。魔法使いなんかを信じるカイ王子の方がどうかしています」


 その言葉にはただ笑って返したが、内心動揺している自分が居た。

 どうして諸国を旅していたカイがパドラックの事を知っていて、どうしてこの事件の真実に――ドブネズミが冤罪だと気が付けたのか。

 パドラックの事は何処かの国で耳にしたのだろうか。それとも自分みたいに酔った父から聞いた事があるのか。


「はは……本当に申し訳ありませんでした」


 目を泳がせながらもう一度謝った時。

 バタッ! と第2礼拝堂の扉が勢いよく開いたのだ。


「あっ、お話し中だった? ごめんねー」


 入って来たのは赤い長髪が印象的な女性──フィー・フィロレッタだった。

 礼拝堂に自分以外の人間が居た事に驚いたらしく、凛とした雰囲気のある女性は子供のように目を丸くしていた。


「どうかしましたか? フィロレッタ侯爵令嬢」

「では私はこれで失礼します。また何かありましたらご報告致します!」


 フィーが自分に用事がある事に気付いたのだろう。

 使者は邪魔をしないようにとすぐ礼拝堂から出て行く。

 それを見送った後青色の瞳が本題だとばかりに向けられる。


「ねえ。カイちゃんとサテラちゃんが一緒に逃げてる、ってのは聞いた? カイちゃん魔法使いとか言ってるみたいでヒヤッとしちゃった」

「今聞いた。カイなんかに計画を掻き乱されて、腹立たしい限りだ」

「メイドだけならまだしも、一応カイちゃんはロンガの王子だもんね……フィーもカイちゃんが関わって来たのは嫌だなぁ」


 ムスッと拗ねたように頰を膨らませてフィーは呟く。

 赤き舞姫なる二つ名を持つ程の実力者である一方、フィーは25の割にとても子供っぽい。舌足らずな喋り方がそれを後押ししている。


(だからこそこの計画に乗ってきたんだが……時々、幼稚すぎて呆れるな)


 自分の胸中を知らないフィーが、報告だとばかりにお喋りを続けてくる。


「そうそう後ね! クワバ村に嵐騎士が居たのよ。死体に居てさ、古参のおっさん達がショック受けてたな。サテラちゃん嵐騎士の養女だったんだって! ミックちゃんも嵐騎士知ってるよね? ギルベルト・レーベンハイト。稽古つけて貰ってたよね? やっちゃったねぇ」

「ふんっ、別にあんな奴が死のうと何とも思わんよ。あいつ、説明下手な癖に良く人を怒って嫌いだったんだよ。死んで清々した」


 ふう、と溜め息をついたのはカイのせいだけではなかった。


「ふーん。あっそれでさ、フィーは思うのよ。逃亡中のカイちゃんが秘密裏に頼るとしたら、それはフィーしか居なくない? って!」


 フィーが弾んだ声で続けてくる。その言葉にハッとした。

 カイがフィーを頼る。

 この状況なら十分考えられる可能性だ。

 なにせフィーは──。


「……そうか、確かにな。ふふっ」

「でしょ? だからパドラックちゃんからくすねて来た魔法薬、フィーにくれない? ほら、会いたい人の場所が分かるってヤツ。タイミングを見てこっちから会いに行って、無理矢理にでも頼らせるよ」

「分かった。後で竜騎士団兵舎に持って行く」


 厄介な事になった、と思ったがそんな事なさそうだ。

 堪え切れず笑いを漏らすと、胸を張っていたフィーもふふっと笑う。


「で、聞きたいんだけど。サテラちゃん達がフィーを頼って来たら、それは殺しちゃって良いの?」

「ああ、寧ろそうしてくれ。カイもドブネズミも生きていた方が面倒臭い。私達の目的は王位を継いだ後にあるのだしな、今の時点の厄介事は早く終わらせるに限る」

「ん、分かった。にしてもミックちゃん……弟相手に遠慮ないね?」


 コクッと頷いたフィーはこちらを見上げながら続けて来る。その顔には今も笑みが浮かんでいた。


「弟と言っても異母だ。それにあの兄弟は嫌いなんだ、あいつらを見るとイライラする」


 吐き捨てるように言うと「あ〜ちょっと分かるかも」と小さい声が返ってきた。


「じゃっ、ミックちゃんはその性悪な本性が世間にバレないように頑張って演技を続けててね」

「余計なお世話だ」


 フンっと鼻を鳴らして答え、用が済んだとばかりにさっさと礼拝堂から出て行く姿を確認する。


「ふー……そうだ、私はこんな雑事に構ってはいけないんだ」

 疲れたと目を伏せながら今後の事を考えていく。

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