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冤罪メイド、味方は放蕩王子だけ  作者: 上津英
第3章 敵か味方か

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22 「……そんなに見るな」

「金や宝石も掘れないただの洞窟です。加えてこんな樹海にある場所ですから、密会にすら使われない程誰も興味がない知る人ぞ知る隠れ家なんです。ここなら当分身を潜められると思います」


 洞窟の中にアンドも入ると圧迫感が増した。自然とアンドの居ない最上段にカイと腰を並べる。


「私達は良く、魔法使いが1人になりたくて作った洞窟なんだろうね、と話したものです。だってこの洞窟にコウモリは近寄りませんし、少し人工的ですから」

「私達、って? 光石があったり焚火の跡があったりするけど、もしかして……先生の別荘?」


 発想を絞り出したかのようなカイの言葉に首を横に振る。


「違います。戦後私達浮浪児は怪我をすると、大人達に疎ましがらずに休む為に暫くここで暮らすと言う暗黙の了解があったんです。ですからここには光石があり焚火の跡があるんです、流石にもう誰も使っていないようですが……アンドが水飛沫を防いでくれるおかげで、あの時より環境がいいかも」


 ハッキリ否定してくれるなぁ、とカイは笑った後、成る程、と頷いた。


「戦災孤児も生きる為に必死だったんだな。……正直考えた事無かったよ」


 ボヤく放蕩王子の声には、疲労の色が窺えた。


「まずは父が遺してくれた匿香薬を飲みましょう。そろそろ私の匂いを覚える竜も出て来るでしょうし、カイ様に至っては配送ギルドの竜が既に覚えていますしね」

「あ、俺に手紙を届けに来るのはアンドがやっていたんだよ。その点はまだ心配ない」


 鼻の利く竜は、特定の人間の匂いを覚え位置を特定する事が出来る。

 だからディアスが居場所の分からないカイに手紙を送れ、脱獄直後に自分もカイを指名手配犯ではないと思えた。

 しかし強い臭いを放つ餌を煎じた薬を飲めば、竜の鼻を誤魔化す事が出来るのだ。

 探偵竜から逃げたい者から学生間の罰ゲーム、造血作用が期待出来るし切り傷に良い軟膏にもなる為、入手がしやすい。


「匿香薬……って、凄く不味いんだろ? 絶対飲むなって兄上から言われてたから、初めて飲むな……抵抗ある」

「私はこれも栄養だと割り切って飲んだ事があります。はい、とても不味いです」

「嫌だ飲むの…………っ」


 ブツブツ言いながらも粉薬を流し入れ盛大に顔を顰め、アンドに乗り上げ手酌で滝の水を飲むカイにふふっと笑みが零れた。


「こら、笑うな……本当に美味しくない……」

「すみません、でもちゃんと飲んでて偉いなーっと思いまして」

「そう言ってくれるのは嬉しい……けどな、サテラと俺は1つしか変わらないぞ。人を子供みたいに言うんじゃない」


 一向にカイが顰めっ面で言うのが面白くて、すみませんと繰り返しながら肩を震わせつつ自分も匿香薬を飲んだ。やっぱり不味い。


「ったく」


 そんな自分を見てカイもまた悪態をつきながら笑う。

 ここで休んで良かった。

 やっと笑えた。

 それだけで気持ちが楽になる。

 すぐ近くで滝が落ちているので洞窟内の湿度は高いが、アンドが弟分を気遣っているのか犬の尻尾のように翼を振ってくれる為風があり、夏の台所よりもずっと涼しい。


「カイ様、これからの事ですが。恐らくカイ様も私を匿った罪状で追われていると思います。見付からないよう気を付けながらミックを追い詰めるのが一番ではないかと思うのですが、どうでしょう?」

「ああ、俺もそう思う。兄上や先生の為にもミック兄上を許しちゃ駄目だ」


 カイはそこで一度言葉を区切り、恨めしそうに続ける。


「俺がサテラを助けた時あんなにコソコソしてたのも、誰かが俺を必要以上に城に入れさせないように根回ししてたからっぽいんだ。現場を荒らされたくないので、とか、これ以上ご遺体を見てはショックが、とか。王子は連絡があるまで別荘で待機しててください、の一点張り。思えばあれは、俺をサテラやミック兄上と接触させない為だったんだ。クソッ」

「カイ様って……ミックとディアス様で随分思い入れが違いますよね? やはり同母兄と異母兄の違いなのでしょうか?」

「だな。離宮で暮らしていたミック兄上と会うのは行事の時だけで良くて月2回、悪くて季節に1回。先生の稽古も別だったし、日常の食事を囲んだ事も実は無くて、廊下ですれ違う事すら無かった。俺が放蕩していたのを抜きにしても、あんまり話した事が無いんだ。母上とミカエラ様は仲が悪かったし、多分ミカエラ様とミック兄上は、俺等兄弟を徹底的に避けてたんだろうな」


 ポツポツと話すカイの横顔を見ながら思う。

 思えばカイは、最初ミックがディアスを殺したと聞かされた時「あの人がそんな事する訳無いだろ」とは決して言わなかった。ただ魔法使いの実在性を疑っていただけで。

 筆まめだったディアスも、弟やギルベルトには良く手紙を書いていたのにミック宛の手紙を書いていた事は無かった。


(それにはこう言った背景も含まれていたのか。こんなに歪な兄弟関係だったと言うのに、ディアス様暗殺の嫌疑をミックが掛けられなかったとはね。王城の人はよっぽど私が嫌だったのか……)


 腕利きのディアスが殺されたら、平民ならまず王位争いを疑う。

 でも貴族はまず平民の卑しさを疑うものらしい。


「実はミックが物凄い性悪だった事はご存知でしたか? 思いっきり顔を歪めながら、私の事をドブネズミドブネズミと連呼して下さいましたが」

「いや……でもまあ、想像に難くない。本性まで優美で居られる人間は居ないし、王家なんて誰でも難ありだ」


 カイの言葉に妙に納得した。

 疾風王クレフは大酒飲みで、正妃イリヤは凄く気が強かったと聞く。

 ディアスもあんなだったしミックは言わずもがな。


(メイド上がりの第2王妃も野心家だったとか……となると、この人も何かあるのか。放蕩王子だし)


 目の前の王子を観察するように見てたからだろう。


「……そんなに見るな」

「あ、申し訳ありません」


 まじまじと見られていた事に気付いたカイは、自分の視線の真意に気が付いたようだ。フッと罰が悪そうに笑い目を逸らされた。

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