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冤罪メイド、味方は放蕩王子だけ  作者: 上津英
第3章 敵か味方か

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21 「私が喋らなかったら、カイ様は一生黙っている気がしましたので」

「やっぱり! 私がこの場に居る理由は、私が冤罪だと知っているなら分かって当然! わざわざしらばっくれて聞いて来るなんて、何かやましい事があるの……でしょう……!」


 気が付けばいつの間にか使用人達が立ち上がっていて、じっとこちらを見下ろしていたのだ。


「っ」


 一種異様なその光景に気圧され、カイの後ろに隠れるように後ずさる。すぐに冷たくて固い窓枠が背に当たった。


「あーあ、気付かれちまいましたか」


 自分の言葉に一番に反応したのは、カイと剣を交わしている男だった。

 その唇は、牢獄で対峙したミックと同じく歪に歪んでいた。


「ドブネズミが紅茶に混ぜた眠り薬に気が付きやがったおかげで、お2人を拘束するべくちょいっと手荒な方法に出なきゃいけなくなったじゃないですか」

「もしかしたら本当に、ミック様が魔法使いと共謀なんかしてディアス様を殺したのかもしれません。でも、真実は暴かない方が良い時もあるんです! 次期国王のミック様を敵に回すなんて出来ません! 私犯罪者になるのは嫌です!」

「俺達ずっとカイ様と諸国を巡ってきましたし、楽しい時もたくさんありましたが、それは結局は仕事。地獄まで貴方に付き合う義理はないんですよ。ですから俺達決めたんです、大罪人とそれを匿ったカイ様と引き換えに次期国王に重宝して貰う事を!」

「な…………っ!?」


 すぐ近くにある緑色の目が驚きに見開かれる。


──裏切られた。頼りにしようとしていたこの人達にまで。


「そんな……っ」


 確かにミックに歯向かうのは、貴族社会のロンガではリスクの塊だろう。

 だからといって、真実を捻じ曲げてミックにこびへつらい、あっさりカイを見捨てるのか。仕事だったと唾を吐いて。


「だから王子、犯罪者になって下さいよ! それが今まで放蕩王子に付き合ってきた俺達への一番の給料だ!」


 屈強な男が一際大きな声を出し、剣を振りかざす。


「お前、等……っ……」


 不味い。

 今だって手が震えショックを隠せぬ様子のカイが、知った顔ぶれにどれほど対処出来ると言うのか。

 自分が師の養女と知るや毒気を抜かれ、守り抜いてくれようとしたこの人が──。


「カイ様っ!」


 気付けば叫んでいた。

 カイに飛びつきパリンッ! と窓ガラスを割って、夜の帳が下り始めた外に飛び出す。

 城下町は標高が高い所にあるからか吹く風が涼しい。


「なにっ!?」

「馬鹿なっ!」


 室内から驚く声が聞こえる。

 突然の浮遊感にかカイも口を開けて驚いていた。


「アンドっ!! 来て!!」


 落下に転ずる直前、目一杯若い竜の名を叫んだ。夜空の下、己の声が反響する。

 剣で今すぐ斬られる心配は無くなったが、このままだと芝生の上に落下。

 打撲や骨折で済めばまだ良い。最悪死ぬ。

 アンドは確かにカイとは仲が良かったが、果たして自分の声に反応してくれるだろうか。


──地面に落ちるまでが数分にも感じた時。


「ぶあああ!!」


 大気を震わす竜の声と、羽ばたきによる強い風を全身に感じた。


「っは!」


 一拍後、何かの上に落下した痛みが走り呼吸が止まる。

 どうやら、駆け付けて来たアンドの鞍に落下する事が出来たらしい。


「っ人を殺す気かっ!!」

「緊急事態でしたお許し下さい!」


 落下の衝撃で我に返ったのか、状況を察したらしいカイが急いで運転席に座り手綱を握る。


「クソッ! ミック様に犯罪者が逃げた事を報告しろっ!」


 無事逃げおおせた自分達に、客室に居る従者が悔しそうに吐き捨てた。

 犯罪者。

 その声を聞いてカイの肩に力が入ったのが分かった。


「……とりあえず何処かに逃げるぞ」


 ぽつ、と言ったカイがどのような表情をしているのか、この位置からは伺い知る事は出来ない。

 けれど、樹海へ向かって風を切る心地良さとは正反対の表情をしているのだろう、とだけは思った。




「カイ様、あそこの滝の裏にひとまず隠れませんか? アンドには少々窮屈でしょうが、良い洞窟が広がっているんです。もう城下町から随分離れた山間部まで来たとは言え、私達が長時間空を飛んでいるのは得策とは言えません。見付かったら死ぬでしょうから。竜騎士団に見付かる恐れもありますし、私も数日休息を頂きたいです」


 窓から飛び降りてから10分程が経っただろうか。

 動悸が落ち着いて来た事、浮浪児時代に良くお世話になっていた滝が月光に浮かび上がっている事に気付き、すっかり黙り込んでしまったカイに小声で話し掛ける。


「……お前、ボロボロな癖して良く喋るよなあ」

「私が喋らなかったら、カイ様は一生黙っている気がしましたので」


 自分の声にフッと笑い、カイはアンドの高度を下げた。


「良く分かったな、その通りだよ。おかげで、そういう意味じゃ元気出た。……あいつらは全員伯爵家や子爵家の人間なんだ。あの黒髪の執事はマクドール出身だし、マクドールと通じているかもってされているサテラからは特に逃げたかったんだろ。あいつらがミック兄上に味方するのは当然だったのかな。あーあ、何で気付かなかったんだろう……」


 最後だけ苦しそうな声でボヤいた数秒後。

 アンドは人気のない滝壺のすぐ近くに生えている木陰に降下し、羽を下ろした。


「一瞬だけ濡れます」

「アンドの羽の下に居れば良い」


 4足でカイの後を追うアンドは、その言葉に己の羽を傘のように自分の頭上に広げる。

 自分の腰程しかないアンドは小柄だ。難なく即席の傘に納まった自分と違い、背の高いカイは窮屈そうだった。


(樹海だけあってこの辺りは変わらないな……復興も積極的に行われている様子無いし)


 頭上と周囲を気にしながら、そっと洞窟の中に足を踏み入れる。頬に跳ね返った水飛沫がツ、と伝い落ちた。

 洞窟の中は荷馬車程度の広さだった。

 獣臭すらしないこの洞窟は5段の上り階段状になっている。脇には小指を入れられそうな空気穴があり、すっかり暗くなった外が窺える。

 3段目以外の各段差の端に光石が積まれていて、最上段は早朝の空ほどに明るい。

 4段目の端には火を焚いたような跡も残っていて、少し前まで人が住んでいたかのような生活感があった。


「なに、ここ」

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