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冤罪メイド、味方は放蕩王子だけ  作者: 上津英
第1章 捕まったドブネズミ
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2 「顔は良いな。俺の弟だから当然だが」

「いえ、こうなる事は分かっていましたから。有り難う御座いました、では私も失礼致します」


 伏し目がちになりながら返し、一礼して自分も王城に足を向ける。


「……頑張ってね」


 すれ違いざま副団長に言われ、サテラはもう一度頭を下げる。

 今のメイド達のように自分を悪く言う人は確かに多い。王城で働く貴族は自分のような平民が嫌いだから。

 が、ディアスや今のように優しくしてくれる人も多いのも事実。


(だから頑張れるんだけど)


 目の前には雄大な山々とどこまでも続く青空が広がっており、飛行中の竜による影がぽつぽつと芝生の上に落ちている。

 何時もと変わらぬロンガ王国の光景に、サテラは自然と目を細めていた。




「先程、こういう事がありました。ドブネズミのせいでディアス様の立場が悪くなるのは、私としても嬉しくありません。提案なのですが、部屋付きのメイドを交代されてはどうでしょうか?」


 ディアスの寝台のシーツを交換しながらサテラは口を動かす。

 寒村の村長の家よりもずっと広い、屋内庭園付きの第1王子の部屋。

 ここには今、サテラとディアスとディアスが飼っている20匹近い動物──犬猫は勿論ハリネズミから豚まで居て、間続きの屋内庭園には鳥かごや観葉植物が並ぶちょっとした動物園だ──が居る。


「はっ、愚問だな。言っただろう、この部屋をお前以外に掃除させたくないんだ。なのに噂如きでお前を手放すか。なに、もしお前の立場が悪くなったら俺が口添えくらいしてやる」


 青色の長髪を1つ結びにした24歳の眉目秀麗なこの第1王子は「傲岸王子」と呼ばれる程不遜だ。

しかしディアスが本当は動植物が大好きで、弟思いの心優しい青年である事を自分は知っている。

 今日は腹筋も懸垂も素振りもせず黒いチョーカーに白いチュニックを着て、机で手紙を書いている傲岸王子に鼻で笑い飛ばされる。


「それは……有り難う御座います」

「それくらい構わん。お前と話すのは楽しいからな」

「ディアス様、そのような事軽々しくメイドに言ってはいけません。人に聞かれたら勘違いされますよ?」


 自分は11年ぶりにこの部屋の掃除を許されたメイド。

 ディアスは「浮浪児の自分なら、動物だらけのこの部屋を掃除出来る」と踏んで直々にスカウトしてきたのだろうが、何も語らないので先程のように噂話の格好の的になっているのだ。


「ん? 何だお前、俺に惚れてたのか?」


 ディアスの目が僅かに驚きに見開かれ──楽しそうに細められる。


「惚れてません今の何処を聞いたらそうなるのですか。故第2王妃は元々メイドだったと伺いました。そのような前列がありますので、ディアス様の愛妾になりたいメイドは多いそうです。私は違いますけど。となると、ディアス様の今の言葉はメイド同士の関係を悪化させる可能性が──」

「分かった分かった、そう御託を並べるな。つまりお前は俺に口説かれたい、と言う訳だろう。その夕焼け色の髪が好きだ、とでも言えば良いか?」

「…………もう良いです。分かってないだろこの傲岸王子」


 最後はボソッと呟く。

 ふいっとディアスから顔を逸らせば余計笑われた。


「ところで! 今日も弟君にお手紙を書かれているのですか? それとも恩師?」


 話題を変えながら、今度は室内を闊歩していた白猫のブラッシングをするべく床に座る。

 意外に筆まめなディアスは、弟を始め何時もあちこちに手紙を書いている。


「弟だ。恐らく父上はもう長くない。だから早く国に戻るように、と。今あいつは遠い国を旅しているらしいからな」

「ああ……。私、第3王子とはお会いした事が無いのですが、どのようなお方なのですか?」


 カイ・ハンフリー・ロンガ。

 ブラブラとあちこちの国を放浪している為に放蕩王子と呼ばれている、ディアスの同母弟。

 第1王子が6個年の離れた弟を溺愛している事は、麓の農村にも伝わってきた程有名な話だ。


「顔は良いな。俺の弟だから当然だが」

「性格を教えて下さい」


 膝上の温もりを撫でながら返すと、何処かつまらなさそうに言われる。


「……カイは明るくて誰とでも仲良くなれる良い奴だ。俺の事が大好きでな、良く笑って可愛いんだ。このチョーカーもカイとお揃いなんだ」


 嬉しそうな表情に少し羨ましくなった。

 自分の血縁はみんな戦争で死んだが、ディアスは違うのだ。


「カイ様もディアス様のように腕が立つのでしょうか?」


 王国1の竜騎士と名を轟かせ竜騎士団長――これは身分も大きいが――まで務めるディアスの弟なら実力も似る物なのだろうか。

 兄弟が居ない興味から尋ねたが、このような質問を傲岸王子にする物ではなかったとすぐに気付く。


「はっ、ロンガに俺以上の竜騎士が居るわけ無かろう。カイは未熟な竜騎士さ」

「……ですよね、ディアス様に聞く事じゃありませんでした。申し訳ありません」


 己の失言に気付き早々に謝罪をする。

 ──が。


「謝るな。陸の上ではあいつのが強い」

「えっ?」


 驚いた。

 竜騎士にとって空戦と陸戦では雲泥の差があるだろうが、ディアスがここまでハッキリ言うとは思っていなかったのだ。

 弟可愛さに言っているわけでは無さそうなので余計に。


「あいつは戦時中俺と違って亡命しててな。そのせいで陸戦のが心得がある……それだけだ」


 ディアスはつまらなさそうに言い、視線を手紙へ戻す。


「あいつは仕方無い奴でな。堅苦しい王城の雰囲気を嫌っているし、竜騎士団にも入っていない。だから、国に戻った時は城じゃなくて城下の別荘に住んでいる。カイが国に戻ったら紹介してやろう、俺の竜に乗せてやるから会いに行くか」

「有り難うございます。楽しみにしております」

「サテラ、俺はそろそろ騎士団に行かねばならぬ。動物の世話はもう良い、これを配送ギルドまで出しに行ってくれ」

「了解しました。ではまた明日伺います」


 白猫を床上に戻して立ち上がり、ディアスから手紙を受け取る。


「ああ、動物の世話が得意なお前が居てくれて助かっている。おかげで次は何を飼うか考えるのが楽しいんだ」

「そう言って頂き有り難うございます。せっかくご指名頂きましたので、ディアス様に後悔させまいと励んでいるんです。元々動物は好きですし、政策の声が掛かるまで父が経営していた小さな牧場を手伝っておりましたので」

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