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冤罪メイド、味方は放蕩王子だけ  作者: 上津英
第2章 逃亡生活の始まり

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14 「簡単に言うな!! 俺には無理なんだよっ!!」

「違います! 先程も言いましたが、私はディアス様を殺していませんし、マクドールとも通じておりません! マクドール独立戦争で孤児になった私が、マクドールに加担するとお思いですか? それにカイ様は、ミックがディアス様を暗殺する動機に少しも心当たりがないと言い切れるのですか? 貴方はずっと国を空けていたと言うのに?」


 こうなったら相手を揺さぶって時間を先伸ばすしかない、と緑色の目を真っ直ぐ見ながら落ち着いて言葉を紡ぐ。

 愛竜を労ったり、兄の敵討ちをしようとしたり、館の鎮火を優先させたり。

 今は怒っているが、カイは本来優しい人間なのだろう。

 だから揺さぶるような言葉も、狡いのは承知で言ってみる価値があるのでは。

 今なら対話出来るのでは。

 そう思った。


「っそれは」


 思った通り、カイの視線が揺れた。


「確かに俺は、ミック兄上とあんまり関わった事がない……から、ミック兄上がお前に冤罪を着せない、とは言い切れないさ」


 迷っている。

 その事に気付き一筋の光明が見えて来たように思う。祈るような気持ちでカイを見る。


「でしたらっ」


 ――信じてください。

 そう訴えようとした言葉は、動揺したように目を伏せたカイの大声によってかき消された。


「でもな! 父上も兄上も失くし今ロンガは混乱の中にあるんだ、俺だってもうわけが分からないんだよっ! そんな中で王になれそうなミック兄上を、魔法使いだ何だで追い詰めていいわけあるかっ!」


 苦しそうに吐き出されたその言葉は、18のこの王子の本心のように思えた。

 カイはきっと、自分を断罪すれば気持ちが楽になると信じているのだろう。

 人の気持ちはけれど、些細な事で変わる物。

 だから自分も負けじと声を上げる。


「そんなのカイ様が王になれば済みます!」


 王位が心配なら自分がやれば良い。


「っ」


 そう思って言ったが──カイは先程よりもずっと苦しそうに眉を顰めて息を飲んだ。


「簡単に言うな!! 俺には無理なんだよっ!!」


 その一言で逆上したかのように、グッと首に触れていた剣に力が入った。


「簡単に……っ!!」


 ──斬られる!

 自分も言い過ぎた。キツく目を瞑り、もう駄目だと覚悟する。

 しかし。

 途端、剣が自分から勢い良く離れたのだ。


「へ」

「っ!」


 カイが息を詰まらせた直後、ガキッ! と言う音が響き何か重たい物が地面に落ちた。

 何事だ、と目を開け──人の頭蓋骨ほどの大きさの落石を、カイが剣で弾き返したのだと理解する。


「サテラもカイ王子も大声を出しすぎですよ。気付かれてしまいます」


 同時に。

 頭上から男性の声がした。

 少し低い嗄れた声。

 誰の声かすぐに分かった。会えるか分からない可能性に賭けてた、何よりも会いたかった人物の物だったから。


「父さん!」


 目を見開いていた。

 この場所に気付いてくれた。自分の思いを知ってくれた。血の繋がらない娘に会いに来てくれた。

 こんな状況でも無かったら立ち上がって、初老と言える父に飛び付いたのに。

 悔しさと見付けてくれた嬉しさもあり、気付けば涙が溢れていた。


「父さん……! えっ」


 顔を上げ驚いた。

 グスタフは何時もよりずっと猫背で、額から膝下まで血まみれだったのだ。


「父さん、大丈夫っ? とうさ……っ!」

「父さん、って……」


 突然の乱入者にすっかり毒気を抜かれたのか、カイは剣を片手に呆然と立ち尽くしている。

 庭弄りの最中に襲われたのだろう。

 白いシャツを血と泥で汚した父はガーデニング用品を何時も入れている布地の腰袋をぶら下げながら、木の幹に手を突いて慎重に段差を下りて近付いて来る。

 軽やかとは言えぬ動きに、その血が父の物だと悟り頭がクラクラする。


「やっぱり……お前はここで泣くんだな」

「だって、心配してたんだから! ミックに嵌められて冤罪を着せられたんだけど、口封じに父さんを殺すみたいな事をあいつ言いやがるからっ! ねえその怪我大丈夫なの? ミックが派遣した竜騎士団にやられたのっ?」


 ボロボロと泣きながら白髪の男性の心配をする。


「ミック王子? そうか……そうか」


 ミックの名前にグスタフは驚いたように目を見張った後、自分と目を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「確かに竜騎士団がお前の話を聞きに村に来て、最後には不意を突かれて槍で襲われたがな。少し突かれただけだ、致命傷ではない。村はもう戦場だ……俺は逃げられたが、他の村人は…………まさか、竜騎士団が国民を虐殺するとはな。ディアス王子の敵討ちだとばかりに血気盛んで……飛空制限が出来てからのロンガは落ちたものよ」


 ふうう、と深く息を吐き父は、静かに言葉を川辺に響かせていく。


「それよりも、お前の方がよっぽど痛々しい。大丈夫なのか?」

「大丈夫な訳ないよ……すっごく痛い。でも父さんに会いたかったから。ごめんね父さん、こんな馬鹿な事に巻き込んで……っ。村の人も……っ」


 父の言葉に一段と涙が溢れた。

 他の村人が殺された──自分達を無視し続けた人達の事はどうでも良いと思っていたのに、実際に話を聞くと申し訳無くて堪らなくなってしまったのだ。


「あの……」


 その時。

 ふとカイが話し掛けてきたのだ。


(そうだ、カイ様が居たんだった! すっかり黙ってしまったから忘れてた──)


 肩をビクつかせながらカイを見上げる。

 ぽたり、と朝露が一滴黒い外套に落ちたカイは、自分よりもグスタフを見ていたのだ。ただただ状況を整理するような、何処か困惑した表情で。


「先生、だよな……? 俺等に竜の乗り方や稽古を付けてくれた……先代竜騎士団長、嵐騎士(らんきし)ギルベルト・レーベンハイト……」

「へ?」


 突然の言葉に思考が停止する。

 カイは今何と言っただろうか。

 父を見ながら、別人の名前を口にした気がする。騎士、とも言った気がする。

 それに、ギルベルト・レーベンハイト。

 その名前は。

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