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冤罪メイド、味方は放蕩王子だけ  作者: 上津英
第1章 捕まったドブネズミ
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1 「無礼よこのドブネズミっ!」

お読み頂き有り難う御座います。約14万字予定の身分違い恋愛ファンタジーです。

『これは濡れ衣を着せられたメイドが、王妃になるまでの物語――』




■第1章 捕まったドブネズミ




「浮浪児だった癖に」


 悪意に満ちた女性の声が、竜小屋の入口からハッキリと聞こえてきた。


「何であんなのがディアス王子の竜の世話を任されてんの? ドブネズミなんかからご飯貰ったら変な病気まで貰っちゃうのに。あの竜、いつかディアス王子を落としちゃわないか心配だわ」

「しっ声が大きいわよ! 聞こえたらどうするの? まぁ確かに何であんな可愛くないのを、とは思うけどねー?」

「ね〜。ディアス王子も何でドブネズミなんか……あいつ、どうやって誘ったんだか」


 メイド達の声は楽しそうに弾んでいる。

 わざとこちらに聞こえるように言っているのだ。


(また始まった……せっかくの仕事仲間がこんなに悪口が好きだったなんて。って言うか悪口言う前に仕事しろよ……)


 聞きたくないのに聞こえて来る悪口に、竜餌の入った樽を持ったサテラ・クェンビーは「ふう」と呆れ気味に息を吐く。

 チクチク胸を刺す小声を背に、大獅子のように大きく翼の生えた緑色の生き物に竜餌を与えていく。

 と。


「ぶああぁぁーっ!!」


 満足げな竜の鳴き声が小屋に響いたのだ。

 臭気が風に乗り、入口の女性達の眉を顰めさせる。


「くっさっ!!」


 先程掃除したとは言え餌に糞、竜の臭いが染み込んだ部屋は、鳥小屋が無臭に思える程臭い。


「本当臭いっ! 竜の国育ちとは言え、鼻がひん曲がりそうなこの臭いだけは苦手。あの浮浪児、良くこんな臭い仕事出来るよね!」

「ドブネズミだもん、これくらい慣れてんのよ。だからこんな臭い仕事やらせてあげてるんだけど」

「そこは流石の浮浪児ね。あーあ、ディアス王子もどうせなら私達みたいな名家の者を信頼してくれないかしら……11年間誰にも任せなかった部屋の掃除を、ディアス王子ってば突然ドブネズミなんかに任せちゃって。あんな平民なんかを愛人にする気だって噂は本当なのかしら?」

「折角の政策だから浮浪児を厚遇しようとディアス王子はお考えなのでは? ほら、きっと王位指名もうすぐでしょ? 優しいところアピールしないと」


 悪口がディアスにまで及びそうになり、ピクッと眉が跳ねた。

 自分が悪口を言われる分には構わないが、他の人に飛び火するのは我慢出来なかった。


(いい加減うるせーなー……人に押し付けたっきり結局何にも仕事しなかったし……)


 丁度竜餌をあげ終わった事もあり、サテラは空になってもなお臭い樽を両手で持つ。


「お疲れ様、今日も良い子で居てくれて有り難う。また明日来るよ」


 小屋を出る為出入り口に向かうと、メイドの1人が綺麗に描かれた眉を歪める。


「くっさ!!」


 そう言い、伝染病患者を避けるかのような勢いでバッと自分から飛び退く。

 視界が開け、目の前に広がる初夏の山と青空が良く見えた。

 足を止めメイドを交互に見た後、嫌味なまでににっこりと笑みを浮かべる。


「竜小屋の掃除、竜の餌やり終わりました。新入りの仕事っぷり、助言と共に見守ってて下さり有り難う御座いました」

「あっ、そっそう……お疲れ様」


 その笑みにメイドの1人が、罰が悪そうに目を逸らす。


「ですがその助言、2点間違っている箇所がありましたので指摘させて頂きたいです」

「な、なによ……?」


 笑みを絶やさず続ける自分に、女性達は気圧されているようだった。


「戦災孤児だった私が浮浪児としてドブネズミのように生きていたのも、浮浪児の雇用促進政策で2週間前にメイドになったのも確かです。ただ私は5年前、12の時に養父に拾われていますので私を浮浪児と言うには些か語弊があるかと思います。王城のメイドともあろう方が、まさか新しく雇用された人間の出自も把握されていなかったのでしょうか?」

「なっ!?」


 まさかこうハッキリ言い返されるとは思っていなかったのだろう。

 メイド達の眉が釣り上がる。


「2つ目はディアス様の事です。ディアス様は確かに傲岸不遜な方ですが、王位指名を有利に運ぶ為に私を重宝するような愚かな方では決してありません」


 一度そこで言葉を切り、サテラは振り返って竜小屋にチラッと視線を向ける。


「竜小屋にも入れない貴女達より、私の方が仕事が出来るからかと思います。そこを間違えないで下さい」


 落ち着いて告げると、メイド達の顔が赤くなった。


「喧嘩売ってんの!? 良く回る口だこと!」


 怒り眉のメイド達の声は大きい。

 ここは山頂。

 その声は反響し、少し離れた所に建っている竜騎士団本部にも届いただろう。


「無礼よこのドブネズミっ!」


 逆上したメイドの1人に胸倉を掴まれ、圧迫感に息を詰まらせる。

 手に持っていた樽がゴトンッと草原に落ち、臭気を周囲に漂わせた。


「っ」


 生意気な平民に苦悶の表情を浮かべさせる事に成功し、ふふんっと満足そうな声がすぐ近くから聞こえて来る。


「みんなあんたの事をドブネズミって呼んでるんだからね!」


 しかし。

 メイド達の後方を見ている自分の唇に笑みが浮かんでいる事に気付き、すぐに女性が不思議そうに目を丸くする。


「ちょっとドブネズミ、何で笑って――」

「はいはい、そこまで!」


 ――不意に、第三者の声が割り込んできたのだ。

 ほんの少しだけ舌足らずな女性の声。

 女性の肩に手を置き自分から引き剥がしてくれたのは、竜騎士団の副団長である侯爵令嬢だった。


「さっきからうるさいなぁ、何でメイド同士で喧嘩してるの?」

「ふっ副団長!?」


 目が据わっている有力者を見て、メイド達の顔がザッと青褪める。


「貴女達の顔、覚えたからね。もうっ新人イビりよりもっと大事な事があるでしょ?」

「もっ申し訳ありませんっ!」


 メイド達は唇を震わせている。

 体の向きを変えて副団長に向かって2人で頭を下げている姿には、もう誰かの──自分やディアスの悪口を言う余裕すら無さそうだ。


「じゃー早く仕事に戻って!!」

「はっはい!!」


 その姿にサテラは満足げに唇を持ち上げ、草原に無造作に転がっている樽に視線を向ける。


「では、こちらの樽を洗っておいて下さいますか? ほんの少しだけ臭いとは思いますが、先輩方なら問題ありませんよね? 私はディアス様の部屋の掃除がありますので」

「はっ!?」


 自分の言葉にメイド達はガバッと顔を上げる。

 が。


「い、いえ……そう、ね……これくらい、出来るわよ……じゃあ宜しくね……」


 何時の間にか副団長を始め、数多の団員達に見られていた事に気付くと悔しそうに渋々頷いた。

 2人で嫌そうに樽を持ち、そそくさとこの場を立ち去っていく。


「全くもー。ドブネズミ、かぁ。初めての戦災孤児枠で入ると色々言われちゃって大変ね」

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