【現代】誰もいない教室
「aesthetic escape」同様、Pixivの古いアカウントで書いたショートショートです。
そしてこれも同じく、ヤバホラ小説という企画用に書きました。
原文そのまま持ってきたけど、「〇〇」じゃなく「――」で良かった気もする。
以下、Pixivのキャプションから引用。
「双子ってかわいい!」と手放しに喜ばれる方をたまに見かけるが、私にとって双子は因果な存在であります。生まれながらのクローンであり「どちらでも構わない存在」であり、ありのままに振舞えば振舞うほど「同じ」になってしまうために自己喪失に似たものを感じる、というのが持論です。そういう双子ばかりでは断じてないんですがそういう双子もいることにはいるわけで。自分を自分として認識されないのが怖い。でも自分ではない「誰か」ですらなく誰にも認識されないのはもっと怖いかもしれない、という話。
「いないはずの人が返事をして数が合わない――なんて怪談があるが、いるのに返事をしないというのはどういう了見かな○○さん」
そんな声と共に少女の頭めがけて筒状に丸めたプリントの束が振り下ろされ、ぽけん、と間抜けな音をたてた。それに驚いて少女ははっと顔を上げ、いつの間にか机のすぐそばに立っていた教師を見やる。周囲ではくすくすと笑う同級生たちの声がした。
しかし彼女は当惑しきった表情で、
「わたしの名前はまだ呼ばれていません」
と答えた。その言葉に笑い声が大きくなる。
「いや、ちゃんと呼んだんだよ。なのに返事をしなかったから言ってるんだ。寝ぼけているのかな、○○さん」
「それ、わたしの名前じゃありません」
笑い声は爆笑とどよめきの入り混じったものに変わった。一方少女の顔はますます困惑の色が濃くなり、暗く沈んでいく。
彼女には教師の言う名前がどうしても聞き取れなかった。だが、聞きなれない音であるのでそれが自分の名前でないことだけははっきりと判る。
これは何かいじめの類なのだろうかと少女は半ば泣きそうになりながら思った。
その様子を見て取った教師はさすがに心配になったのか、
「それは何かの遊びか罰ゲームなのかい? 君が○○さんでなければ誰なんだ?」
と少女に尋ねる。
その問いに彼女は雷に打たれでもしたように体をこわばらせた。
そう問われてみると、自分の名前が何であるのか判らなかったからだ。
思い切って顔を上げ、教室をぐるりと見回してみた。整然と並ぶ机を前にして椅子に座っている生徒たちの顔は確かに見覚えがあるはずなのに区別ができず、名前も判らない。
彼らはまるで彼女自身も含め亡霊のようだった。
「○○さん?」
「はい、それはわたしです」
あわてて少女はそう言った。
誰かに名前を呼ばれ認識されない限り、ここには誰もいないのと同じなのだ。
自分が自然にふるまえばふるまうほど双子の兄弟に似てしまう、自分らしさを失うと感じ、自己確立に狂ったように必死だった頃に抱えていた恐怖を書いたものでした。
こんなもん、誰が理解するんだという内容の観念小説みたいなもの。
しかも双子でもそんなことを考える人は非常にまれなので(おそらく自己確立で破綻するからだろう)、本当に誰が理解するんだという感じ。
しかしこれはまぎれもなく、私の中にあった恐怖。




