ミルクココア
ミルクの粉のやつ、べんりです。
赤ちゃん用では、ありません。
ミルクを沸かすのは めんどうだから
粉のやつをとかして 使ってた
ミルク用の 電気ポットをもう一台
買おうかしらって つぶやいたら
電気ポットに ミルクを注いで
ぐつぐつ 沸かしておくだなんて
そんなのやめなよ ばかみたいって
必死で止めてくれた ともだちがいて
あたしは ほんとに幸せものだって思う
でも あたしは そのともだちのことばを
ちゃんと しんじてあげることができなかった
じぶんで たしかめてみるまでは
そんな ばかな って
鼻ちょうちんで笑って ゆらゆらさせてた
いままで だって じゅうぶん
むしろ ほかのみんなより ずっとたくさん
山盛りのスプーンで カップへと
カカオブラウンの粉を はこんできたって
あたしは 思ってる
なのに まだ たりないのか
まぜても また まぜても
カップの底には かたまりがのこるというのに
なのに まだ たりないとでもいうのか
だから
あたしは べつの方法を えらんで生きてきた
粉のやつで ミルクを加えて
白く濁ったものを おいしくすすってた
なのに それは必要ではなかったというのか
まだ たりていなかっただけだと そう いうのか
ちょっと ためしに
ミルクの粉のやつを くわえるのをやめて
まだ白く濁ってない カップへと
底に かたまりがのこるのを 承知のうえで
カカオブラウンの粉を これでもかと
これで満足なのかと さらにほうりこんだ
混ぜるスプーンにも カップの底で
古い沼に 沈んだ泥みたいな
とけのこりの てごたえをかんじたけど
どうやら ぬしさま までは棲みついていないよう
意を決するでもなく
くちびるを ちょっとだけ にゅんってゆがめてから
ひとすすり もうひとすすり
ミルクをいれなくても
ちゃんとミルクココアはあまくなるよ
カカオブラウンの粉を
もっと だどっと いれてごらん
やっぱり そのとおりだった
うたぐってたけど やっぱりだった
もつべきものは ともだちだった
まだ にがい って あまくないや って
ミルクの粉のやつで ココアを白く濁すより
ミルクココアを しんじて
ともだちのことばを しんじて
そして あたしの じぶんのことだって しんじて
もっと だどっと
カカオブラウンの粉を ほうりこめばよかったのだ
そんな ばかな
だけど やっぱりだ
ミルクをいれなくても
ちゃんとミルクココアはあまくなる
ミルクの粉のやつも
ミルク用の電気ポットを もう一台も
これからは 買わなくていい
もしも 白く濁ったのが好きなら
ミルクの粉のやつを いれれてもいいんだよ
あたしも たまにはそうしたいって
そんな気分になるだろうなとは 思うから
だけど ともだちがおしえてくれて
あたしが じぶんでたしかめた
ミルクをいれなくても
ちゃんとミルクココアはあまくなる
あまくなるまで
カカオブラウンの粉を ほうりこめばいい
それまでは きっと まだ たりてないんだって
そこんところが すぱんっと わかった
カップの底に とけのこって
古い沼に沈んだ泥みたいな その奥に
ぬしさま が棲みついていたとしても
スプーンを ぐるんっと おおきくまわしたら
ひとすすり もうひとすすり
どろっとした かたまりのなかに
まだ 粉のままのカカオブラウンが
のこってることが わりとあるけど
このぱさぱさしたやつに
ついに ぬしさま の正体 見たり!
あしたの スポーツ各紙の1面は
スターさまの熱愛だから
3面の白黒に おいやられるのが
ややぼんやりと 目に浮かんできた
もうちょっと かきまぜてみようかな
スプーンを ぐるるるんと おおきく
何回か また おおきく何回か まわした
それでも どうしても
カップの底には かたまりがとけのこる
そしてひとすすり もうひとすすり
さらにひとすすり もうひとすすり
カップラーメンに入れて、チャウダー風にしたり。