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突撃

 登校中に私とイルは目が合うようになった。でも一瞬。恥ずかしくて目を逸らしてしまって顔を上げると彼も私を見ていない。

 その間に彼に会いに行く下準備を開始。卒業後の仕事を考えると一人で安全に出歩けるようになるのは大切みたいな話し合いを両親としたらわりとあっさり。

 注意事項を私が理解しているかやポチがしっかり番犬になるかなどを確認したり話し合いも短時間では無かったけど反対はされなかった。

 学校で習った安全に歩く方法、時間帯、場所などを改めて教えられて「もうすく元服ですしね」と母に笑いかけられた。

 父も「息抜きは必要だしポチは頼りになるからな」と笑顔。

 積み上げてきた信用信頼の結果を私は裏切る予定なのでとてつもない罪悪感。でも計画を中止する気持ちはまるで湧かない。


 それから佃煮屋の佃煮を持ち上げてというか、普通に気に入ったので「我が家の商品を売り込もう」とか「営業の練習をする」と言って寄り道理由と資金も確保。

 箱入り気味で大人しめで素直な私はなんだかんだ商家の娘だから知恵——今回は悪知恵——が働くし行動力もあるなと感じた。

 なにせ私は普通に佃煮屋へ営業をかけ始めた。まずは売り込む前に従業員と親しくなる作戦。実績作りは大切だから気合い十分。

 一週間おいてから佃煮屋の従業員に「お礼のお礼です。彼にお願いします」となんとか手紙を預けてイルからの返事待ち。恋関係だと途端に恥ずかしくなってしまう。


 両親それぞれとポチの散歩経路を確認。経路は一つにしないでポチの気分次第でこっちもあっちもと場所を広げてヤイラ小神社も含めた。

 それからこの経路ならこの店に営業をかけたいからまずはポチを利用して挨拶をするとか棒手売り関係の考察をするみたいにこの散歩は家業のためだぞと積極的に訴えた。

 胸がチクチク痛むけど毎朝イルと目が合ってニコッと笑いかけられるから私は彼に会うぞとか親しくなったら二人の未来を掴むためだととても張り切っている。

 努力に関してはイル関係なしに私にとって良い影響があることなのでこれでは胸は痛まない。


 許されるくらいポチの散歩で遅く帰る下準備はわりと済んだので手紙の返事はまだないけれど、イルと早く喋りたくて仕方がなくて五月の末にポチを連れてヤイラ小神社へ行く事にした。

 ヤイラ小神社は我が家からは近くないけどうんと遠い場所ではない。

 私は彼よりも早く学校が終わるけど趣味会後に帰宅してヤイラ小神社へ向かうと彼が居る時間に間に合わないか彼と話す時間がイマイチ無い疑惑。

 なので今日は「頭が少し痛い」と言って趣味会を休んで一人で帰宅。

 こういう時って一人で帰るからやはり私達の町内会はゆるゆる見張りだと再認識。

 こうして早めに帰宅して「先生の都合で趣味会が無かったです」としれっと嘘をついてポチを連れて散歩に出発。


(挑戦してみたら自由だな。まぁ私はなんだかんだ庶民的な商家の娘だしな。お出掛けに使用人が常に張り付くらしいお嬢様は大変そう)


 それなりの華族、大商家、大豪家のお嬢様は私よりも余程窮屈な「あそこへ嫁げ」みたいな結婚をするという。

 代わりに早くから結納して結婚相手とはかなり交流する。相手の家の仕事もどんどん覚えていく。道が提示されているとある意味諦めがつくのだろうか。


(紅葉草子では諦められていないけどあれは文学。自由になりたいって憧れる気持ちは私くらいのお嬢さんでも分かるから人気なんだよな)


 もっと格式の高い家になると八歳半元服から男性に顔を見せないように育つ。この国は身分で文化が結構違う。

 王都内の東西南北、中央区、農村地区、海辺街などでも文化や価値観が異なる。同じ南地区でも一区とこの三区で違いがあるし遠い遠い六区もきっと別世界。


(そう考えると私達は同じ南三区で同じ六番地。一番地なんて半日以上歩き続けないと行けないから私とイルさんは同じ世界の住人だな。同じ庶民層で味噌と醤油のお店だからさらに庶民感だし)


 彼の手習先や父親の奉公先は私が自由になれる時間帯で不審がられない範囲ではどこだか調べられなかった。六番地もうんと広い。

 国立系の学校は番地の真ん中に集まり気味だから同じ六番地でも東西南北の反対方面に住んでいたらかなりの距離。私は近めだけど学校に二時間、三時間かけて通う者もいる。

 我が家がもう少し小さな商家だったり兄がいて私は売り子や兄の補佐担当だったらあまり障害のない恋なのに、と地面の小石を軽く蹴りながらヤイラ小神社へ向かう。

 私が到着する頃は彼の下校時刻を過ぎている予定であの学校からヤイラ小神社は近め。

 

(事業に影響がないようにシエルさんに嫌われる方法ってなんだろう)


 イルが手に入りそうならシエルから離れられるようにらしないとならない。

 相手は特に悪くない家業に良い影響の格上の家から逃れる方法。考えているけど今のところ何も思いついていない。


(私はむしろシエルさんを骨抜きにして少し格上で役に立つ家をしっかり手に入れないといけない立場……。やんわり父に言われたしな……)


 そのシエルからの手紙の内容が最近変化した。保険だからのらくら細々と文通をしておきなさい、から好きにどうぞと親に言われた疑惑。

 

(イルさんを知らなかったら普通に楽しい内容で早く会いたいなぁって思っていたんだろうな……。というか思ってた……)


 イルに会いにいかなければ軌道修正出来るのに私の口は嘘をついて足はこうして神社へ向かってしまう。

 手紙は受け取らないで風鈴は無視とか、返事はしないぞと言い聞かせても無駄だったし。


(これは噂の不倫と同じだな。イルさんに不誠実。シエルさんや彼の家族にも不誠実。両親にも家にも奉公人達にも不誠実。私が私の心に素直でいると不誠実だらけ)


 私の心にだけ誠実。世の中は持ちつ持たれつなのにそれってどうよ。

 イルと楽しく過ごして帰りが遅くなる時はポチが自由過ぎて遅くなったと言うから私はポチにさえ不誠実になる。

 私はそれなりに素直で良い性格だと思っていたけど全然違った。


(こんなの性悪女性だから私は失恋する。噂の初恋をしっかりして噂の失恋。傷ついたら絆されるからシエルさんと上手くいくかもしれない……)


 これは私のしょうもなさを自己理解するとかシエルとの為の初恋なのかな。

 歩みを止めない言い訳ばかり探して私は歩き続けている。


(紅葉草子もやめたくてもやめられなかった。燃え上がる情熱的な恋はそうなのかと思っていたけど淡い気持ちで既にこうなのか。恋って不思議。枯れ木桜が人間になるくらいの力がある訳だしな)


 私の初恋も万年桜のような結末が良い。相思相愛になって皆も含めて末永く幸せに暮らしました。

 ヤイラ小神社の敷地内へ入ると掃除している人が一人いた。この間父と前を通り過ぎた時は居なかったので毎日は居ないか時間帯の違い。

 ここは小神社なのて神主や巫女は常駐していない、地域で管理するところ。

 参拝して犬の散歩ですよ風に社の周りを歩いてみる。掃除人は特に私を見ない。何も気にしないようだ。


(イルさんは居ないのかな……)


 彼の姿は見当たらない。そう思ったけど社の真裏をそうっと覗くと彼が居た。

 そこに勝手に乗って良いの? と思ってしまう切り目縁に腰掛けて片足を立てている。

 裾がはだけていて足がかなり見えてしまっている!

 箱入り気味のお嬢さんである私にはわりと過激な姿。上半身裸よりは全然大丈夫たけど。


(たまに見るお父さんの足と違って筋肉が……)


 彼は立てた足の膝に腕を乗せて鉛筆をゆらゆらさせながら本を読んでいる。


(勉強してる……)


 この小神社は鎮守社だけど学業の副神様を祀っているようだからここで真面目に勉強をすると後押ししてもらえる可能性。

 イルはいくつか勉強する場所があると手紙に書いていた。ここで勉強は験担ぎかもしれない。

 下準備までしてここまで来たから私は勇気を出す。はしたない事は既にわりとしたし嘘をつきまくりの悪女なので私はイルに話しかける!

 この裏手にくるまでにも咲いていたけど彼の前方に青い紫陽花がいくつもあって咲きかけている。私はお邪魔虫のポチの紐を縁柱に結んだ。


「あ、あの。あの、イルさん。こんにちは。メルです……」


 顔を上げたイルは私を見て目を見開いて何回か瞬きをした。


「み、見張りのポチです」


 ポチを掌で示して俯く。意を決して来て勇気を振り絞って話しかけたけど恥ずかしい。


「えー! えー⁈ さ、咲いたら、もう少し咲いたら返事を書こうと思っていたのに。えー! 夕焼け空になってきていますよ!」


 怖い、と逃げられるかもしれないとビクビクしながらイルの様子見。彼は着物の裾を直して切り目縁の上で正座した。


「その、手紙が面白かったので話してみたくて。飼い犬の散歩は息抜きです。今年元服なので見張りなしで歩く練習でもあります……」


 ポチは叔父の犬で我が家ではなくて店舗作業場である朝日屋の看板犬なのに飼い犬とはまたしても私は嘘つき娘。


「面白かった? 面白い事なんて書きましたっけ。えー。ポチ。ポチポチ模様だからポチか。へぇ。犬を飼っているんですね」


 斑点模様をポチポチ模様と呼ぶのか。そういえば叔父はなぜポチと名付けたのだろう。聞いてみよう。

 チラチラ彼の様子を確認。笑ってくれないみたいだけど逃げもしないようだ。


「悪い事にならないように、迷惑をかけないようにします。その、学費返還など困ると思いますので。許可も見張りも無理なのでポチが見張りです。ポチが噛んでいない。だから何もされていないと言います」

「いや別に噛まれるような事はしないですけど、学費返還? 学費返還ってなんですか?」


 えいっ、と顔を上げると彼は首を傾げていた。私は恥ずかしくてまたすぐに俯いた。


「何もしていないのに何をした、と私の親に難癖をつけられて犯罪者扱いされたら兵官さんになれなくて学費支援分を返せと言われるかもしれません」

「……ええっ! そうなんですか⁈ 俺のことなのに俺が分かっていなかったです! バカだから教えてもらえて助かりました。確認しよう。悪さはしないけど難癖に注意なのか。難癖結婚疑惑がいるし難癖は怖いです。ありがとうございます」


 難癖結婚って何。

 正座のままお辞儀された。とても立派に見える綺麗な礼で少し驚く。礼儀作法も学校で習うのかな。


「あの。綺麗なお辞儀ですが学校で訓練するのですか? 兵官さんの授業は想像出来ません」

「剣術道場が厳しいのと手本が沢山いるから真似です。学校ではそういう訓練は特に。挨拶や返事にはうるさいです。女学校の授業を教えてくれたから俺も軽く書こうと思っていました」

「いつ来られるか分からないので欲しいです。お手紙はお手紙で……」


 彼が逃げないのは私や我が家は難癖をつけないと思った?

 いや、彼は私の事も家の事も何も知らないから信用ゼロだ。

 彼は一方的な難癖には負けないはず。なにせ彼は私が誘ったような手紙を持っている。他にも色々。だからどうか逃げないで欲しい。彼ともっと話してみたい。

 

「あ、ああ。はい。その、まあ。住む世界の違う友人もええのかなぁとか。なんとなく住む世界が違う存在だと思っていたけど、ハッキリしたけど、少しは同じ世界なのかなって……。思ったり思わなかったり……です」


 チラッと確認すると彼はそっぽを向いて髪を掻いていた。とても照れ臭そうに見える。下街男性はハレンチなんて嘘!

 それか人による。男子学生も女学生も人によるからそうか。当たり前のことなのに私の視野は狭過ぎだ。

 そうか。友人だ。私達は友人。道が分かれるまでの友人。

 もしも、もしもうんと細くて薄ぼんやりした道がハッキリしたら一緒に歩けるかもしれないけど未来はあやふやで希望は少ない。

 

「私は社会勉強で、そちらは妹さんの為に情報収集をしたいという利害が一致した友人です。何かあればそう言います。それにそちらは私の事を知りません。友人にはイルさんのような兵官さんと縁結び出来るような者もいるので常識的な文通くらいは許されることです。私の事を知らないから何も悪くないです」


 逃げないで、と思って一気に喋ってしまった。緊張しているのもあって息が少し苦しい。


「えっ。あり得なくはないのかなと思いましたけどやっぱりいるんですか⁈ 俺みたいなって成り上がろうとしてる奴っていうか、働き出してそうなった人というか」


 イルが直してくれた鼻緒の結び目を見つめていたけどまたチラッと彼の様子を確認。彼は一瞬嬉しそうな表情を浮かべた。


「知らないから悪くない……。あー……。まあコソコソみたいですし……」


 今は戸惑い顔をしている。困り顔ともいう。

 恋敵や彼が好みの容姿のお嬢さんと上手くいってしまうかもしれないから教えなければ良かった!


「我が家は相手の家の保険でして……。相手の家が他の家が良いとなれば何も無くなります。相手が格上だからとか事業関係でこちらは保険役でいないといけないです」


 私はやはり卑怯者。保険から本命になった話を聞いているのに大嘘つき。とても不誠実。


(でもあのかわゆい女学生さんに取られたくない……)


 私は諦めないといけないのにズルい。彼女の家や兄弟姉妹構成や家業なんて知らないけど。

 それでイルとの未来なんて細い糸くらいしかないのに縋りついて両手を握り締める私は酷い。

 しかし手を離したら手に入らない。失ったものは見つかる事があるけど捨てたら終わりだ。

 理性と気持ちがせめぎ合ってとても矛盾している。今、紅葉草子を読み返したら理解出来なかったり共感出来なかったところに感情移入しそう。


「保険……。俺の家みたいなド貧乏平家でもあるんで。大した技術はないみたいだけど妹の相手は職人がええとかあるんで大きな家だともっと大変そうです。俺は不器用下手くそ過ぎて職人は無理って言われていて」

「平家職人の娘さんでもそのような不自由さがあるのですね」

「ええ。あと心配だから平家親父も娘に見張りや付き添いをつけています。俺も気にかけています。そうするべきだと思います」


 平家娘も見張られたり付き添い人がいるのか。同じ庶民層だけど平民層と中流層だから私よりも自由な気がしていたけど世間知らずなだったようだ。

 我が家には若い女性奉公人がいないから商家の友人達から学ぶべきだ。しかし時間がないな。

 こう考えると毎日忙しくて色々しているつもりだったけどあらゆる事で知識不足。時間は有限でまだ未成年で世界も狭いから卒業後から修行で見識を広げる予定だから当然と言えば当然か。

 イルは切れ目縁から降りてこちらを向いたまま後退して私から少し離れた。そっぽを向いたままで髪も掻いている。


「あの、まあ、ほら。先は分からないので保険ならしばらくそのまま? 俺もしばらく学生や試用期間です。それで友人です」

「私は見識を広めたいです。なので友人ですね」

「うん。角の近くに座ります。人はあまり来ないけど来ても一人に見える的な。それで手が届かないところ。君が安全です」


 そう告げるとイルは荷物を持って移動して角を曲がった。


(逃げないで話してくれるってこと! 本当に誠実そうな人……。いや、こうやって人は騙されるんだな。いいや。騙されたい。そもそも私が騙してる……。また騙した……)


 私はポチの紐をほどいてイルが曲がった角の近くまで移動した。それでポチを縁柱に結び直して切れ目縁の端に腰掛けてみた。

 そっと覗いてみたらイルは私の方を見ないで切れ目縁に正座して本を眺めていた。

 この位置は確かにお互い手を伸ばしても届かない。でも声は聞こえそう。それでいて誰かが来ても私達が連れとはすぐに気が付かない。

 私が来た方向から見たら私はポチといるだけ。彼側からだと勉強している彼の姿だけが見える。

 両方から確認して人が二人いると思っても知り合い友人と思わない可能性あり。これは少し卑怯技?

 これはお互いにとって素晴らしい案な気がする。


「あー。あの」

「はい」

「帰らなくて大丈夫ですか?」

「いえ。鐘が鳴ったら帰ります」

「俺もそのくらいです。あの」

「はい」

「問題を出してもらってもええですか? 声で覚えるかもしれません。バカなんで覚えが悪くて。明日小試験で。まあわりと小試験があります」

「……はい」


 差し出された教科書を受け取って開かれている(ぺーじ)を眺めてやはり努力家なんだなと思った。印や語呂合わせや単語の解説が書き付けされている。

 

(これは法律……)


「イルさんは学校は今の学校が始めてですか?」

「ええ。寺子屋から特別寺子屋でなんとか今の学校に殴り込みです」


 小等校も中等校も通えない、通わない平民層は多い。平家だと入学枠が少なくて学費も高め。

 職人家系の家は八歳元服直後から親の下で働ける。味噌作り職人の息子は八歳から働いてくれて我が家で勉強や教養を学んでやがて柱となる。

 同じ平家なら親の見習いになれる仕事の家が格が上、なんていう。それでその仕事によってまた差がある。味噌作り職人より大工、大工よりも火消しみたいに。

 火消しは特殊平家か。あの人達は漁家や農家と同じくかなり特殊て特別な平家。

 平家は学校に通いにくい代わりに奉公人になる基礎を学ぶ寺子屋がある。もう少し勉強したい人や学費免除狙いで編入や各種専門高等校狙いだと寺子屋後に特別寺子屋。

 生まれた時点であまり未来を選べないのは常識だ。家柄で行動制限もあるし。学校に通えないような平家だとあれこれ知らない人もいる。私が知らない制度もきっと沢山あるだろう。


「これはとても大変そうです」


 寺子屋までだと読み書き算術など奉公人になるのに最低限必要な勉強まで。特別寺子屋は場所や依頼内容による。

 彼は今の学校に入学する為の勉強を依頼してひたすらそれ特化の勉強をしてきただろう。


(今の学校の入試特化の勉強をして今だからきっと基礎があちこち抜けている。私でさえこの教科書だと単語の意味から始めないといけない。バカなんでってこれは平家だと余計に難しい……)


 読み上げて彼が答えることになった。分からなかったら私が読んだ後に彼が復唱をする。

 一度教科書を返して欲しいと言われたので返して少し無言。それでまたお願いしますと教科書が戻ってきた。

 私は開かれている(ページ)を見て少し笑った。小くて下手くそなポチが描いてある。


「あの」

「はい」

「鉛筆を借りても良いですか?」

「ええ」


 差し出された鉛筆を受け取って少し迷って彼の真似。アジの紫陽花ではなくてたんぽぽの紫陽花。黄陽花と書いてみる。彼が書いたポチの近くに描いてみた。


(たんぽぽって伝わるかな。いつも楽しそうに笑っている貴方の事です。そうは書けないけど……)


 そうして鐘が鳴るまで私達は雑談をしないで勉強を続けた。

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