表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/55

縁結びの副神の微笑み4

 梅雨明けのような晴天の日曜日の朝、俺はあまりにも早く目が覚めて出掛けるまで落ち着かなかった。

 世話焼きシオンが昨夜着物はこれだとか、朝に格好つけの髪型にしてやると言ってくれたけど自分で決めた。

 落ち着かないから散歩して汗をかいて、汗臭いと思われたら最悪と気がついて朝から水浴びとバカである。

 練習で簡易お見合いを両手の指の数くらいしたのにこんなに緊張したことはない。

 出掛ける時間になり待ち合わせ場所で今の学校の友人三人と合流して二区の公園へ向かった。

 一目惚れから始まり色々あって今日、ではなくて家と家の縁結びをしてきてついに会うから家業の邪魔をしないで欲しいみたいに牽制してある。

 メルの友人達か知り合いは俺の友人達の家に合わせたような女性が来る予定。

 友人達に既定路線のような縁談なのに巻き込んでくれて出会いを提供してくれるとはありがたいと褒められた。

 そう言われてからダエワ家の旦那の狙いはこれか? 俺の友人達に我が家の印象を良くして恩着せみたいな事? とふとそう思った。

 今日、俺達の補助には父の補佐人を務める幼い頃から世話になっているツァンが帯同してくれている。

 俺が友人達と話している間、彼は自分は居ませんみたいな態度で歩いていたのにメル達と合流する場所へ到着すると一言「坊ちゃん、顔が強張っているから笑顔です」と耳打ちされて背中を軽く叩かれた。

 おそらくツァンは父から何か聞いている。元服したのに坊ちゃんはやめて欲しい。


「ありがとうございます」


 友人達に聞こえないように小声でお礼を告げたら子どもを見るような微笑ましそうな目で見られてしまった。

 元服したのに坊ちゃん扱いは以下略。

 メルは友人三人と母親と姉と帰宅が遅くなっても良いように用心棒の男性奉公人と来ると聞いている。


(……吐きそう)


 ぼんやりしているうちにメル達と合流して全員、順番に名前だけの自己紹介をして俺達は大寄せへ向かうことになった。

 挨拶の間、母親の隣というか少し後ろで伏せ目で微笑むメルをガン見。目が合った瞬間目を逸らしそう。

 質素だけど洒落感のある日傘をさしていて、着物は水色と白の市松模様の小紋で飾り物はない。

 母がソイス家は貧しめの商家みたいに思っていた理由も頷ける。

 発表会の日はもっとお洒落で着物ももっと良いものを身につけていたけど格下の家の友人二人に合わせたような感じがする。


(国立女学校は背伸びする家とのんびりしたい下流華族のお嬢さんが混じっていると言うしな。メルさんはあっちの古美術商の娘さんと似たような格家らしいのにこの持ち物では分からないな)


 古美術商の娘は結構美人で彼女は多分浮絵屋経営者の息子のハインと家業を合わせてくれた疑惑。

 事前に渡された釣書でそれが分かっていたハインが美人だ! と浮かれ気味に見える。


(メルさんは格上狙いの時は発表会の時みたいな格好になるのか? 今日は?)


 暑い日に涼しげな藍色のリボンで一つ結びにした髪が微風でさらさらと揺れる。近くで見てみて艶々している細い髪の毛だと思った。

 この間ミレイに会えて、初めてのお出掛け時は着物を悩みに悩んで気合を入れ過ぎと思われたくなくて逆にお洒落出来なかったと聞いた。


(メルさんもそれか?)


 その話しを聞いてからシオンは不貞腐れている。自分も初めてのお出掛けがミレイではないのに自分が彼女の初めてのお出掛け相手ではない事が嫌だと言う。


(たかが街を歩いて茶屋でお喋りくらいの簡易お見合いの事なのに心が狭過ぎる)


 歩き出したのでようやくメルの隣を歩いて話せると思って緊張しているように見える強張った微笑みの彼女の隣に並んだ。

 メルは俺以外と付き添い付きでお出掛けどころか誰とも文通したことがないと聞いている。


「改めましてメルさん。初めましてではないですがこうしてお話しするのは初めてなので初めましてシエルです」


 最初の挨拶はしっかり考えてあって心の中で何度も練習した。どうか噛みませんように。


「快晴で幸先が良い気がして嬉しいです。公園だけどここは柳緑花紅(りゅうりょくかこう)ですね」


 噛まなかったし用意した四字熟語を忘れていなかった!

 前よりもかなり知的になったはずなので知的と思われたい。シオンのことを猫被りや格好つけと思った頃が懐かしい。俺もシオンの真似みたいになっている。

 メルは黙っていて困り笑いで俯いている。初対面のミレイと上手く話せなかったことを思い出す。彼女もあの時の俺のように喋れないのだろうか。


(頭の中を覗けたらええ……。じゃなくて良いのにな。父上も使う訛りを中々直せない)


春風駘蕩(しゅんぷうたいとう)で気持ちが良いです。ああ、もう春は終わっていました」


 喋った。俺に対してメルが喋った。小さめでゆっくりな声。これまで耳にした彼女の話し方と結構違う。

 俺が見聞きしてきた彼女の声や姿があるから今のメルはやはり緊張していると分かる。何も知らなかったらとても大人しい女性だと感じたに違いない。

 心臓が口から飛び出るような勢いで動悸がして手汗も酷い。

 俺は彼女にずっと会いたかった。それでメルもらしい、という話を彼女の父親から聞いているし前に直接耳にした。だから彼女が俺に慣れたら目を見合わせて笑い合えるだろう。

 その時の俺はどんな心境になるのやら。今は変な事を口走ったりしないかとか、転んでみっともない事にならないか不安でならない。


「初夏は晩春かと。初めて来たけど良い場所ですね」


 春は終わっていただから気を遣うとこうか?

 そうっと俺の方を見上げたメルが俺に微笑みかけてくれた。困り笑いを浮かべている。


(……。はっ。息が止まった。目が合った)


「初めましてシエルさん。私は雨上がりの虹が好みなので雨が良かったです」


 そうなのか。彼女は友人達よりも色白だし一人だけまだ日傘をさしているから日焼けする強い日差しは苦手とか?

 それなら雲が集まって軽く雨が降って虹が出れば良いのに。雨降りの歌とか祈りってなんだ?

 雨上がりみたいな言葉があったけど何だっけ?

 気の利いた台詞、気の利いた台詞……。

 

「虹を見られたら得した気分になりますね。それなら雨の日も楽しめそうというか、考え方次第ということですね。前向きというか、良いですね」


 唇を歪ませるとメルは俯いた。唇を強めに結んで無理して笑っている、みたいな表情。

 冗談とか愉快な話で笑わせて緊張をときたいけど俺自身がそれどころではない。

 練習してきてこれってどういうことだ。何も対策しないで会っていたら悲惨な事になっていただろう。


(あれだ。お調子者気味のシオン兄上みたいな会話は無理だから褒めよう。褒めるしかない。褒めたいのもあるし嬉しいって笑ってくれたら俺が嬉しい)


「暑いですね」

「今日は八月並な気がします。それにしても顔合わせの時もですけど可愛らしい髪型ですね。涼しげな気がします。風で揺れるので」

「……」


 予想に反してメルはますます俯いて眉間に皺を作った。唇は微笑みの形だ。


(ミレイさんのように笑わなかった……)


 ここから俺はどういう話題を出したら良いんだ⁈


「シエルさんは男性にしては髪が長めなので暑そうです」


 付き添い付きで出掛けた女性を褒めたら照れ笑いで感謝を言われたことしかないのに予想外の返事がきた。

 えっ、これはどういう意味だ?


(助けてシオン兄上! 連れてくれば良かった! ミレイさんとのデートを今日のこのお出掛けに巻き込めば良かった!)


 俺の髪はそんなに長いわけではない。短い髪が好みですってことか?


「そうですか? それなら切ろうかな。短い方が好みでしたら」


 口滑りみたいに言葉が出てきた。ルロン物語でこういう駆け引きみたいな台詞があったなと思ったからだ。

 メルはしばらく無言で目を少し丸くして唇を動かした。


「シエルさんは女性に慣れていて自信のある方なのですね。人気がありそうな方ですもの。良い事だと思います」


 そう告げるとメルは目をさらに丸くして「あっ」と聞こえそうな形に口を開いた。


(……。こんな事を言われるなんて想像してなかった! えっ。ええっ⁈)


 俺が女性慣れしている自信家。どこからそんな評価が出てきた⁉︎

 人気がありそうな方ってどこが。なぜだ。それでメルがこの言葉を口にした真意はなんだ。


(助けてシオン兄上! 練習してきてこんな会話になったことはない……)

 

「あの、お姉さんに話忘れていたことがあります。友人達は皆、今日は男性と話す練習に来たのでお願いします。きっと助かります」


 そう告げるとメルは俺から逃げるように後ろへ下がった。少し目で追ったら後ろを歩く姉の隣に並んで顔をしかめていた。

 姉と何か話すと思って全神経を耳に注ぐ。


「シエルさんが色男で驚きです」


 メルの姉ニライに色男と褒められた。それはどうも。容姿が良いらしいのは女性と会うようになってそこそこ実感した。ただ誰しも好みがあるからメル好みかが不安。

 俺はモテなくて良いからメルに好みだと言われたい。その願望が「好みなら髪を短くする」という台詞として現れたのだろう。

 色黒ムキムキ男が好みと言われたら困る。体は鍛えられるだろうけど俺は日焼け出来ない体質だ。濃い顔とか太い眉が良いも困る。垂れ目が良いも困る。髭面も困る。俺は体毛が薄い。


「——……ても好みです。私は慣れた方に優しく扱われるのも——……します。ルロンのように」


 声が小さくて全ては聞き取れない。俺がニライの好みらしいのはどうでもいい。興味ない。


(慣れた方に優しく……そこそこ平均以下並みに慣れただけなのになぜ誤解された⁈ ルロン⁈ ルロン⁈ 俺はあのフラフラ色ボケバカは嫌いだ。女性はなんか好きらしいって聞いたけど本当にルロンみたいなのがええのか!)


 シオンはルロンは女とヤりたい放題で羨ましい男だよな、と笑っていたけど単なる色悪欲にまみれた男だと思う。

 雅さとか恋をしたら抑えられない良い例でもあるらしくその気持ちは読んでいてたまに分かる。

 皇居文化としては常識や雅なことらしいけど、雅さは学べて使えた……それか。

 格好つけを一生懸命したからルロンみたいな雅な格好良い男みたいに受け取られたってことだろう。多分そうだ。どこが⁈ そんな会話したか⁈


「私はルロンは嫌いです。——……ってハンさんが——……すよ。——……私は他の職人さん方とお見合いです」


 ……。

 ……⁉︎

 好まれたくて一緒懸命格好つけをしたら嫌われた⁈

 

(練習でこうなったことはないのに本命でこれって何でというか……。下調べ! ルロン物語の話題を文通でサラッと出してルロン嫌いか確認すれば良かった話だ!!!)


 またシオンにお前はバカだと言われる。

 他の職人さん方とお見合いって何だ。盗み聞きをしっかりしたいから姉寄りに移動しつつ少し後ろに近寄った。


「でも私はハンさんのあの情熱的なところが好みなので。仕事に熱ですけど。律儀でつまらないけど結納したらどうなるか楽しみです」


 ハンって今日ソイス家の用心棒として来ている奉公人の名前だ。


(姉と結納予定の奉公人ってあの男性。へえ。つまり姉とあのハンは今日付き添い付きデートみたいなもの)


 まあニライとか興味ない。いや未来の義姉候補だからむしろ味方につけるべき相手だ。興味を持たねば。ハンもそうだ。この情報は大切。俺は今日ハンに取り入った方が良い。


「ハンさんの階級が上がったらでしたよね」

「ええ。メルさん。ルロンならそれはそれで気楽ですよ。こちらもそこそこ遊べます。かなりの格差ではないですから」


(どういう意味だそれは。仮面夫婦で不倫し合えるとか? なんていう姉というか女性だ。律儀でつまらないっていうのも慎みがなくて破廉恥(ハレンチ)……メルさんも? この姉だと妹も影響されるよな。姉妹仲はとても良いと聞いている)


 俺は慎ましい女性が好みのようで花街教育の実経験は逃亡した。襲われるような感じだったのが嫌だった。


(この姉と似たような感じなら俺はメルさんを好まないってこと)


 甘いような香の匂いと妖艶な笑みの遊女が俺の頬を撫でた時は嫌だと感じて逃げた。

 あれがメルだと……嫌ではないな。俺は単にメルではないから逃亡したのか。


「私は遊びたくないから嫌です。遊び人ではないなんてお父さんもお母さんも嘘つきです」


 とてつもなく不機嫌そうな声が耳に突き刺さった。耳から心臓に達したのか胸が痛い。


「あらまあ、メルさんがへそ曲がり」

「私は誠実な方が良いです。縁談拒否が無理でも……。そのくらい……」


 これは本当に嫌われた!

 俺はわりと普通の会話をしただけなのに遊び人ってなんだ。なぜあの会話でこのような泣きそうな声を聞く羽目になる。


(分からない。メルさんは謎だ。どういうことだ。俺は何をしてしまったんだ……)


 そこからメルは無言。ニライが「拗ねてる」とか「シエルさんの友人達から探ってみたら?」と声を掛けても無言である。

 ようやく会えて笑い合って楽しく喋れると思って来たのになぜこのような事態。


(拗ねてる……。俺を誠実で遊ばない男性だと思っていたのに会話で誤解して拗ねた。縁談拒否が無理でもって……向こうはそう思っているのか)


 シオンは不在だけど頼れるツァンがいるぞ、と思ってさり気なく友人達に話しかけながら移動したら大寄せ会場へ到着。

 そこからメルは母親と一緒にいるようになった。大寄せ後の散策時にツァンに相談と思ったら俺の隣をニライが陣取った。


「改めて初めましてシエルさん。メルさんの姉のニライです」

「本日は付き添いをありがとうございます」

「未来の弟候補を見たくて来ました」


 ニライは悪戯っぽく笑った。顔立ちが似ているけど彼女はメルより勝ち気顔。


(未来の弟候補を見たくてってメルさんも予想外の事を言ったけど姉はさらにというかこの女性こそ謎だ)


「メルさんは暑くて少し具合が悪いなんて言い出しましたけどすっかり拗ねています。急に笑ったりため息を吐いたり拗ねたり忙しい妹です」

「あの、少し聞こえました。自分のどこがルロンらしいのか、嫌なのか自分では分かりません」


 メルの姉なので俺を助けてくれるとは思えないけど一応愚痴を言ってみる。

 急に笑ったりってハインと楽しそうにニコニコ話し始めたことか⁈


(あれは俺の場所のはずだったのに俺はなぜか嫌われた……)


 そこまで格好つけたつもりはないし褒めたのにどういうことだ。


「私もあの会話であそこまで拗ねた理由が分かりません。友人関係なのか性格なのか幼いというか、乙女心が強い初心(うぶ)ちゃんです。理想の男性とシエルさんが同じだと思っていたのでしょうか。謎です」


 乙女心が強い初心(うぶ)ちゃん?

 これは駆け引きなのか真実なのか謎だ。

 ルロンは嫌いとか遊び人は嫌という価値観自体は嬉しいお知らせ。


「自分を理想化ですか?」


 俺こそメルの事を褒めたら笑ってくれる女性だと勝手に思っていた。


「あのルッツさんのように照れ照れして欲しかったんですかね」

「……」


 ルッツは確かにメルに照れているように見える。そのルッツの隣でメルは楽しそうに笑っていて悲しい。

 ミレイに緊張して照れたあの頃の俺だったらメルと笑い合えた疑惑。


(ミレイさんはシオン兄上のしょうもないところを好んでいる疑惑。それを知っているのに背伸びして格好つけた俺が悪い!)


「その左足の足袋、柄ありで洒落ていますけど左右で柄が春と夏で違いますね。メルさんは気がつくのでしょうか。気がうかないだろうから教えておきますね」


 俺は自分の足袋を確認。何もない足袋にしようと思ったらシオンが話題になるかもしれないし友人の兄が教えてくれたから洒落ておけと貸してくれた刺繍入りの足袋。

 離れた席だけど一緒に見た万年桜の話題を出せるかもと思った桜柄と今の季節に合う竹笹と悩んだ結果チグハグ。


(げっ。なぜこんなことに。俺に無様気味に照れて欲しかったかもしれないメルさんにこの変なチグハグ足袋を教える……。後押し?)


 俺の一つ年下のルッツの手足が一緒に出るのを何度か見たけどあれだとメルの印象は良かった可能性大。


(練習は要らなかったってこと。俺は無駄にメルさんに会えなかっただけ……ではないな。母上問題の解決が必要だったから時間は必要でメルさんとの知的な文通も練習が必要だった)


 ニライがゼアと話していたケイを呼んで三人で雑談になり、少しするとニライはハンの隣へ去った。

 

(ツァンに相談する隙がない!)


 ケイと挨拶をして彼女はメルと親しいのか単に今回連れてくるのに都合の良い相手だったのか探ろうと思ったら彼女の方から教えてくれた。

 彼女の家はメルと同じ町内会。二人は幼馴染で登下校も教室も同じ。メルが趣味会を辞めたから少し話す時間が減って寂しいという話をされた。ケイはお喋りめな女性のようだ。


「まあ、最近寂しいのはどなたかがメルさんの気持ちをさらったからです」

「そうなのですか。そうですか。それは羨ましい方です」


 誰だそいつは。メルに男の影、そんな話は聞いていない。


(羨ましいってこれは口が滑った!)


「……シエルさんって鈍いですか?」

「……えっ?」

「お母上が張り切っていてメルさんは保険と聞いていました。それが最近変化したからこうしてお出掛けになったと。それで最近寂しいです」

「……ええっ⁈」


 つまり俺?

 助けてシオン!

 ツァンでも良い。ハイン達でも構わない。この悪巧みみたいなケイの笑顔はなんだ!


「あはは。ええ反応をありがとうございます。これは朗報です。シエルさんは見た目や雰囲気と少し違う方のようですね」


 ニライといいケイといいメルの周りの女性はこういう若干人を食った感じなのか⁈

 そこからケイの恋愛相談を軽くされて冷たくなった気がする幼馴染を口ではもういいと言っているけど良くない。男心を取り戻す方法はあるのか尋ねられた。

 

「男と言っても千差万別なので分かりません。役立たずですみません。うーん。兄上達や友人に尋ねてメルさんへの手紙に書きます」

「私に直接でも構いませんよ。あれこれ縁談中と聞きました。我が家はダエワ家さんに得がないのでメルさん探りですとか練習みたいな気分でどうですか?」

「あれこれ縁談は母上を諦めさせる為と女性に多少慣れる練習でようやくメルさんに会って良いとなったので誤解されたくないです」


 ……。

 ペラペラ喋ってくれるしケイを女性として意識していないから普通に喋れていた。素だから本音がダダ漏れ。これは恥ずかしい。


「ふーん。ハインさんも教えていただきたいです」


 ふーんってなんだ⁈

 ケイが前を歩くハインとモモに声を掛けたので四人で雑談になった。

 今度四人で噂の西風甘味、ケーキを食べに行かないかという話題。

 メルが居ないお出掛けとか興味ない。いや興味ないは禁止なので「メルさんは甘いものは好みますか?」とメルも連れて行きたい雰囲気を出しておいた。メルが行かないなら俺も行かない。

 ケイもモモもメルとがっつり友人のようなのであれこれ探れる疑惑だけど話の主導権を握らない。もう一人も同じような感じだった。

 解散になって俺は結構グッタリ。なにせメルと話したいのにそのメルは母親にベッタリ。あとは俺以外の者達と楽しそうにお喋り。それで近寄ろうとするとさり気なく逃げられる。

 メルに嫌われた俺の心はバキバキである。


「シエルさん、メルさんのご友人にやたら試されていましたね」

「サラッと褒めたらルロンみたいとは気の毒だけどかわゆいですね。あんなに拗ねて」

「良かったですねシエルさん」


 ハイン達に笑顔を向けられて俺は目が点というか何がなんだか分からないので尋ねたら若干呆れられた。

 遊び人と勘違いされた俺はメルの友人達に文通やお出掛けを断るか、遊び人ではないか試されていたらしい。

 俺は遊び人ではないからそれを普通に回避。


「何がメルさんは家同士の関係ですか。妬いたり落ち込んだり忙しいですね」

「一年以上文通していたなんて聞いていませんよ」

「シエルさんって変わり者というか見た目と中身が合っていないから女関係でも愉快なんですね」


 あの友人達がメルに俺は遊び人やルロンではないと言ってくれそうで、あれだけ拗ねたり緊張して一人にだけ近寄れないのは特別扱いだから良かったなと笑われた。

 友人達と解散後、今度はツァンに似たような事を言われた。


「可愛らしい方でしたね。坊ちゃんがサラッと褒めたらルロンみたいって。周りは微笑ましそうに見ているのに坊ちゃんは青ざめていて笑えました」

「サラッと褒めたらって噛まないように必死だったのに衝撃的です」

「坊ちゃんは動揺が顔に出にくいですからね。友人に対して照れながら必死に文通お申し込みを見たりしているからだろうと聞きました。それが同年代の男性の印象だったのでしょう。あと坊ちゃんの縁談話が伝わってあるからですね」

「誤解は解けると思いますか?」

「お母上に朝からずっと髪型を悩んで唸っていた話をしておきました。あとその足袋のこともです」


 メルの母親からツァンへの伝言があって「夢見る年頃と言いますか、幼めな娘ですみません。しっかり者なんですけどね」だそうだ。


「坊ちゃんと似たようなものかと」

「……。まあ、はい」


 帰宅後、父だと恥ずかしいからシオンに話したら「好機だシエル」と言われた。


 バカにしているような態度だったかもしれないけど格下なんて思っていなくて母の理想が高くて悪かった。

 こちらがお願いする立場。娘さんに誤解されたようだけどあの反応は期待や気持ちの裏返しだと思うので嬉しいです。

 メル一筋みたいだった話を軽くして家同士だけではなくて気持ちがあるので本縁談をしたいです。お願いします。


「そういう感じで結婚お申し込みだ。誠意のないフラフラした男性だと誤解されているようなので違いますと殴り込み。よし、父上と相談会をするぞ」


 ソイス家に結婚お申し込みをする打診したら「お願いします」という返事。

 メルとは文通で前から交流している。家同士の情報はとっくに交換済みてお互い調査も沢山している。

 なので結婚お申し込みは形だけでその後両家で顔合わせの食事をすると言われた。

 今までの交流の仕方や調査状況だと互いを探ったりある程度の気持ちを確認するお見合いは飛ばせる。

 早々に結納して俺もメルも両方の家の事を学びやすくする。家業同士も強く結んでいくという。

 俺はメルにどんな手紙を送ろうか庭で池を眺めながら悩んでこれだ! と思って立ち上がったら浮かれなのか足が滑って庭の池に落ちた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ