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縁結びの副神の微笑み3

 月に二回メルと文通出来ることになったけど、父やシオンの予想通り母が鬼門。

 内容を読まれてメルの教養確認をして「保険にはまあ悪くなさそうですね」である。

 逆に俺も下手な内容を書けないので季節のお便りみたいになっていてこれでは文通と言えないと不満気味。


(急がば回れ。俺は母上が文句を言いにくい息子になる。言い返せるようになる。メルさんでなくても恋人や嫁を守るのは俺だし、自分のためにも母との付き合い方を学んでいかないと)


 母は母で心配性とか色々らしい。今まで父とそういう話をしてこなかったけど、俺が変わり者なところや幼い頃に病気ばかりだったから母は過保護気味。

 ソイス家は我が家が前向きでメルも俺からの手紙を少しは楽しみにしてくれているらしいので他の縁談、この年齢だと申し込まれる文通お申し込みくらいは切ってくれているという。


(急がば回れ。学生になったら母上の様子を見つつ簡易お見合いか結婚お申し込み。それでメルさんと会って嫌がられると袖振りされるけどそれはそれ。今はそれよりも前の問題。他の縁談を腐して父上や兄上達と一緒に両家共栄案を考えて少しずつ実行していく……)


 舞台に上がるには準備が必要で俺は現在その下積み中。俺はメルの父とも少しずつ話し始めた。

 シオンの最初の作戦は正解で、ソイス家の旦那は未来の息子、家の柱候補を探しているから以前の朴念仁みたいな俺だといくら家業的には格上の家の息子でも厳しかった。

 メルの父親は俺の事を前向きな努力家とは羨ましい息子さんです、みたいに言ってくれるそうだ。

 父が俺に「ほら見ろ。結果も大事だが過程も大切だ」と言って軽い説教と褒め言葉をくれた。

 去年から朝日屋へ定期的に通ってポチを懐柔したり店の様子や従業員に近寄っているのは誰にも内緒。単に恥ずかしいからである。


 俺は出会った日にまたメルに会いたくて地元の桃の節句のお祭りへ友人達と行って朝日屋の出店の客になった。メルは裏で働いていた。

 明るく元気な姉が売り子役で友人が少し見惚れていたけど俺はメル贔屓(ひいき)

 彼女はお祭りを楽しんで来て良いと奉公人らしき者に言われたのに「働くのは勉強です」と笑顔を返した。そういうところに去年と同じく見惚れてしまった。


(また上手いなこの味噌田楽。去年と味が違う)


 俺はこの日も他地区の珍しい物、変わった万華鏡を見つけてつい購入。

 でもその二週間後、人生で初めて簡易お見合いをしてメルの事を忘れかけた。

 俺としては練習の文通の相手とやはり練習の付き添い付きお出掛けを実施。

 付き添い人の彼女の姉と三人でお出掛け。お出掛け内容は軽く散歩と茶屋でお喋り。

 緊張したけどシオンと一緒にたまに会うミレイで若い女性に慣れたから普通に話せて楽しかった。

 おまけに相手は美人だし照れていてかわゆかった。


(メルさん関係は面倒。あれをやれ、これをやれ、兄達のようになりつつなりたい料理人もしろ。彼女だと俺は料理人の道のまま)


 父は俺に優秀な兄達のようにあれこれ出来る器の大きな男になって欲しいからメルを釣り餌にしているだけ。


(まあ、前よりも父上と親しくなった気がするし褒められるし自信もついたから気分はええ)


 帰り道に浮かれ気分で家へ向かいつつ鼻歌混じりで寄り道。

 本屋で何か話題を仕入れようと思ったら店内でメルと母親に遭遇した。


(生活圏が若干異なるのにどういうことだ⁈)


 メルは他の客が落とした本数冊を何食わぬ顔で元に戻して会計中の母親に合流した。


(……)

 

 比較して美人なのは今日人生初めてデートした女性。俺はメルと話した事がない。彼女の情報をほとんど知らない。


(なぜ今日会う。どうして今の行動を見かける。いつも優しい……。それも普通みたいな顔をして……)


 その後、俺はデート後のお礼の手紙を忘れ続けて母に怒られた。それで相手も怒ったか悲しまれて二回目のお出掛けはなし。

 別の文通相手と簡易お見合いと言われて、メルが本を戻す夢から彼女とデートする夢ばかり見るようになり、そのあと何やらこれやら妄想が止まらなくて眠りが浅くて風邪をひいて付き添い付きデートの前日から熱発。

 その相手は翌週に別の男性と簡易お見合いをして俺との文通を切った。


 春になりシオンと結納したミレイが出る演奏会に家族と行ったらまたしてもメル発見。

 ミレイと同じ琴門教室でその教室が主催しているのでメルが居るのは当然である。彼女は昨年秋と同じ曲を演奏した。


(上手くなった気がする)


 本屋で見かけた時は毛先を集めてリボンで髪を束ねた髪型だったけど、今日は構造不明の縄みたいな髪型で銀色の髪飾りが揺れている。

 少し体を動かしながら演奏しているので光苔の灯りが髪飾りに反射して煌めく。


(あっ、間違えた。頑張れ……)


 晴天の下の雪原で火を持って踊る娘は雪の華。

 火樹銀花にはそういう自分の心を奪った女性が輝いて見える、という意味もあるらしい。


(こういうこと?)


 演奏会の後は両家で食事会。場所は我が家が営む店。俺は挨拶後に叔父と共に腕を振るう予定。

 会場を後にする時に俺はメルをわりと近くで目撃した。


「……確かここを真っ直ぐ進んで最初の角を曲がって左手側です」

「ありがとうございます。声を掛けて下さり助かりました」

「メルさん! 何をしているんですか! 勝手に居なくなると危ないです。行きますよ」

「はい、ごめんなさいお母さん!」


 旅装束の老婆に笑顔と小さな手振りするとメルは小走りになって前方にいる母親の方へ向かった。

 キラリ、キラキラと銀色の花髪飾りが揺れて太陽の光で乱反射。桜の花びらがひらひらと俺の顔の横をよぎった。


(桜、桜、舞い散る桜か……。万年桜は桜の精……。桜の精……)


 龍神王様に永遠を与えられた万年桜は満開であればある程傷ついた村人達の笑顔を作れると考えて、長く長く咲こうとして永久の力を削ってどんどん枯れていく。

 万年桜はとうとう枯れ木桜になってしまって誰も見に来なくなってしまったのに「不幸はもうないのだろう。良かった」と笑顔で朽ち果てようとする。

 そこへ戦で傷つき丘の上で死ぬと思った青年がやってきて、刀をいくつも刺されている枯れ木桜から刀を抜いて傷だらけの幹を撫で、もう自分は死ぬから自分用の包帯は要らないと枯れ木桜の幹に巻く。

 恋に落ちた枯れ木桜は残っている命は彼の為にあったと喜んで与える。夜が明けると死にかけだった青年の怪我はすっかり治っていた。


(万年桜は枯れずにどんどん美しくなり桜の精になれた。青年と誓いのお酒を酌み交わして人になった……。恋は女性を美しくするとか優しさは美へ繋がる話……)


 優しい女性が恋に落ちるのは優しい男性。俺はこれまで誰かの為に何かをした事があっただろうか。


(俺は彼女に優しい人と思われる自信がないな……)


 優しい人になりたい。俺はそう意識するようになった。メル関係なくまた俺は変われる。良い方向に成長したい。なにせ意識を変化させたらまたあちこちから褒められた。

 季節は移ろい夏になり、シオンとミレイと彼女の母親と向こうの家の用心棒と俺の五人で花火大会へ行くことになった。

 特別な行事である花火大会へ行く付き添い付きデートになぜ俺も一緒なのか謎だったけど朝日屋の出店へ寄ったのでそれが理由だと判明した。

 弟に優しい世話焼きシオンの気遣いである。


「まだ会えないけど会いたいかと思って。居ない可能性もあったけどいたな。縁ありみたいで良いことだ。まあ、別に他の女性に浮気しても良いけどその気配がないからさ」

「……会える日は来ると思いますか?」

「今のところ順調だろう。もう少し縁談潰しをしておけ。お前は言われた通り励みに励んでろ。父上と俺に任せとけ。おっ、花火が上がり始めた。有料席へ急ごう」


 今夜のメルは両親と共に出店で働く従業員達への挨拶や労いにきた、というような様子だった。

 味噌田楽や味噌付き冷やしきゅうりを買ってもメルは働いていなくてもうお店を離れそうなのでお店には近寄らず。

 遠目で少し眺めて兄達に続いて移動開始。後ろ髪引かれて振り向いたら彼女は夜空を見上げて満面の笑顔を浮かべていた。

 星が瞬く夜空に咲いた花が彼女の瞳に映っているように目がキラキラしている。

 つられて上を見ると何度も見たことのある花火が息を飲む程美しかった。


(これがちはやぶる? 花火は特別な景色だけどそれがより特別な景色に見える……)


 ちはやぶる神代もきかずマルム川唐紅に水くくるとは。これは紅葉草子に出てくる龍歌。

 マルム川の一面が紅葉で真っ赤になってしまうとは龍王神様副神様の時代にも聞いたことがない。それ程美しく幻想的な景色だ。


(景色の龍歌だと思っていた感性なしのバカな俺がこんな感想を抱くのは……)


 マルム川は紅葉草子の主役が初恋の人と出会った場所。この国のどこの川なのか分からないし異国の川かもしれない幻の地。

 恋人同士や夫婦で見ることが出来たらより強い絆で結ばれるという伝説の川。

 二人で訪れた川に紅葉を浮かべたらマルム川。そのように紅葉を使って見立てて二人の絆や縁が深まるように願う。

 ちはやぶるは景色の歌だけど物語上で「私の燃える想いが激しい水の流れを真っ赤に染め上げてしまうほど、龍王神様副神様の時代からと思えるくらいにあなたをお慕いしています」と語られたから景色の龍歌だけど恋龍歌である。

 裏返して強く恋慕っているので景色が美しく見えることをちはやぶると表現する。

 夜空の火樹銀花はちはやぶるです。こう口にしたり文で書いたら慈雨京雪華と紅葉草子から「とても慕っています」という意味になる。

 とても好きです。愛していますなんて中々口に出来ない想いをとても言いやすくしてくれる。

 教養があるという見せびらかしとか格好つけと思っていたけどこうして目の前に本当にちはやぶるが現れて少々感激。

 春に見た火樹銀花もそうである。単なる景色を表す四字熟語で去年はそれすら知らなかったのに……。


(来年の今頃はメルさんと会えている可能性……。見たい。彼女と二人で並んで打ち上げ花火を見たい。同じような感想を抱いてくれたら……)


 それはあまりにも幸せな事ではないだろうか。

 出掛けるたびに笑顔の彼女が隣を歩いてくれたら俺の目にはいつも銀花が映ることになる。

 この世に存在しない幻の花が咲き続ける。俺が咲かせ続ける。それ程の幸福はきっと他にはない。


(って、俺もわりと文学脳になってきた。これはほぼ慈雨京雪華の表現だし)


 季節は秋になり朝日屋で懐柔したポチと遊んで帰ろうとした時に使用人らしき年配女性とメルと友人達とすれ違った。

 思わず戻って少し距離を保って後をつけてしまった。

 メルは友人三人と楽しそうに笑っていて会話が気になって仕方がないのでもう少し近くへ寄ってみる。俺は一体何をしているんだか。これでは付きまといだ。どうやらメルの家でお泊まり会らしい。


「……ルさんと会うことは無いかもしれません。我が家は保険らしいので」

「不自由な縁談が来ると大変ですね」

「メルさん。期待して会えるぞと思っていた方が縁結び出来るかもしれません。気持ちは大事です。縁結びの副神様はそう言っています」

「お父さんが彼は素敵な方みたいな話を聞かせてくれるのでたまにこう、一度くらい会えますようにと心の中で頼んでいます」


(うおっ。俺の話。素敵。お父上は俺の事をメルさんに良い意味で話してくれているのか)


「メルさんはお稽古で終わった課題の積恋歌(つもるこいうた)をまだまだ弾くつもりですしね」

「シエルさん、私をさらってって事ですよね?」

「もうっ! そ、そ、そうではありません。本番で間違えずに弾きたいからです。先生も同じ曲を突き詰めるのも良いことだと言っています」

「先生も、だからメルさん発信です。突き詰めるのも、ということは他の曲も勧められていますね」

「ち、違います」

「メルさん。目が泳いでいます。顔も赤いです。あとたまに鼻歌していますよ」

「嘘っ」

「嘘でーす」

「メルさんは隠し事が下手ですね。顔がすぐに赤くなるから可愛いです」


 聞いていたいけど盗み聞きはあれなので、もうやめようと背中を向けて早歩き。

 メルの友人の嘘でーすの言い方が前に聞いたメルの言い方と同じだった。


(メルさんは俺に会いたい気持ちがあるのか。そうなのか。そうか。あとあの考え方は参考になるな。俺は何も思わなかった。言い方から推測か)


 この後の記憶はあまりなくて玄関を登り損ねて俺は捻挫した。なんだか既視感。

 その秋、俺はまたしてもミレイも参加する発表会でメルの演奏を聴いた。また同じ曲でその積恋歌はまた上達していた。

 彼女は失敗したという表情は浮かべなくて、切ない旋律よりもどことなくフワフワしてむずむずする曲に感じられた。

 俺にそのうち会いたい、さらいにきてという意味で弾いているかもしれないと知ったから曲どうこうではなくて自分の願望。


 年末十二月に俺は元服を迎えてあちこちで祝われた。予想外のことに母よりも父が号泣。

 俺はかなり心配な息子だったけどこんなに大きくなったとかあれこれ。それにシアドとシオンも続いて困惑。三人とも酔いすぎだ。なぜ主役の俺ではなくて父と兄二人が酔い潰れる。

 

 そのように春夏秋冬季節は巡って元服して翌月には専門高等校に所属組合の学費補助ありで入学。

 桃の節句に彼女と出会うか、顔合わせをした万年桜の時期に出会うか迷って俺は桜の季節を選択。

 花見の時期であれこれ忙しいのとシアドの結納話が浮上してそれが優先で俺に関する家族会議が少し遅れた。

 ついにソイス家に簡易お見合いや結婚お申し込みをする会議である。

 前日の夜に父に心変わりしないのもたまに彼女に遭遇していた話も驚きだ、と笑われた。父やシオンの想定通り母は難色を示した。


「旦那様、シエルさんはまだまだこれからなのに結婚お申し込みだなんて何を言っているのですか」

「エレアさん。秋にはミレイさんをお嫁に迎えられそうです。シアドも格上狙いで上手くいきそう。三男の嫁は格下の方が良いです」


 勝ち気で兄嫁と対立するような嫁だと困る。最近調べたらメルはミレイと同じ琴門教室へ通っていた。

 ソイス家は格下は格下でも掘り出し物。理由はこうだとか、メル本人はしっかり国立女学校で学んでいて華族のミレイと同じ琴門教室通いみたいに質良く育てられているみたいな話を父が延々としていく。

 そこに俺が励み出したのはメルが理由という話をして追撃。


「実際に会って交流したら結納に至らないかもしれません。しかしシエルはこのように励みに励んで結果も出しました。つまりメルさんは現在息子の副神様です。朝日屋は取引先だったし縁があると思います」

「母上、同じ庶民同士だと気楽な気がします。格上ばかりで固めると親戚付き合いで息が詰まるのでは?」

「そうです母上。これだから庶民は、と言われそうな時にもう一軒庶民があると盾に出来る気がします」


 俺の事なのに父と兄二人が話してくれて楽。俺が必死になると母が機嫌を損ねるかもしれない、父が母は拗ねるかもと言うので俺は黙っている作戦である。


「片方の娘だけ上の学校へ入れて姉妹で教養共有や格上のツテコネ獲得みたいに工夫する家は没落しにくいかと」

「地元住人や常連さんに奉公人達からの信用信頼が厚いからそれを楽して手に入れられるのは得です」


 家が狭いと兄嫁達に嫌がられるから三男は婿入りの方が良いのではないか。

 この縁談が破れても励んで変化した俺には良い縁があるだろう。

 今までの話がどんどん出てきてなんだか面白い。

 中々首を縦に振らない漁師の懐に入って仕入れ値を下げる時にもこういう遠くを見る作戦は使える。

 なので俺はあれこれ分析したり考察したりそれを踏まえてシアドやシオンと討論会を重ねてきた。

 父の作戦や願い通りに今の俺は料理人も良いけど経営とか全体指揮に興味が湧いている。


「掘り出し物なので保険にしきれない家です。なのに一年以上そっけない文通ばかりだから返事は明らかです。逃げられそうです」

「……」

「エレアさん。エレアさんがシエルさんに縁談を探したり縁談相手に会わせていた話は筒抜けです。やんわり言われました。シエルさんの気持ちもありますし簡易お見合いくらい良いかと」

「掘り出し物ですか……。文通内容や個人的な調査で悪いお嬢さんではないのは私も確認しています……」


 書類を見ながら母は渋い顔をしている。


「兄頼りのシエルさんに婿なんて出来ますか? 正直、嫁取りの方が楽です。シオンさんの性格ならまあ婿入りでも悪くないですけど。それに料理人はどうするのですか。シエルさんはそれがずっと目標です」


 母はこういう心配をしてくれるのか。意外だしわりと嬉しい。


「励みますが兄上夫婦に頼ります。自分は人に頼りまくりのまま料理人もします。代わりに向こうの家にもそれを頼みます。我が家の事もして欲しいしメルさんにしっかり柱になって欲しいと」

「婿取りで婿に逃げられて終わりだと困るから娘二人もそれなりの経営者にするでしょう。というよりもそう聞いています。姉は間も無く育ててきた奉公人と結納だそうです」

「メルさんはしっかり者のようで卒業前から家業修行を本格化したいと自ら提案して趣味会も辞めたそうです」


 父から聞いた話によればそうらしい。過保護な箱入り娘教育は終わりで両親から学ぶ内容を増やしたり、昼夜問わず安全に歩く練習と言って夕方にポチの散歩を開始したと聞いた。

 大人しさを改善するつもりなのか散歩をしながら挨拶やお店の宣伝までしているらしい。

 それとは別件で自分で目をつけた佃煮屋へ営業練習もしているそうだ。

 ソイス家は教育費を工夫して節約して貯蓄に回して有事や事業拡大費に貯めている疑惑。

 こちらが支援をして得があるとそれを吐き出させる事が可能になる。


「そうなると庶民層向けの店舗を増やしてシアドかシオンに頭になってもらってシエルが料理長の店という夢があります。朝日屋系列の店なので向こうの利権だけどこちらも利権に噛めます」

「シエルさんのお店……。それは良い案ですね。そうですか。貯蓄はわりとですか。見なりや持ち物や家や姉妹への教育格差はこういう事ですか。調べがかなり甘かったです」


 野心家母というよりも息子が心配のようだ。この案が一番母の心を動かした様子。

 母は微笑んで再度「ずっと好んで懸命に料理に励んでいるシエルさんにいつかお店。それはこの家とでも続く話ですか」と言ってくれたので少し涙腺が緩んだ。とても意外な本音を聞いてしまった。

 あれこれ話した結果、下準備と調査をしてきて作戦通り母の軟化に成功。俺はついに念願のメルと自由文通へ移行。

 これまで上から目線で保険役にしていたから殴り込みや押し付けはせずに相談を開始するということになった。

 メルの父親とは何度も会っているので父と共に俺もメルの父親と話をした。会うたびに歓迎のような雰囲気を出しつつ見定めるような視線を感じるから怖い。


 こうして俺とメルが会う日が決定。友人四人と指定公園へ行ってたまたま会ったメル達と大寄せに参加、という内容。

 付き添いありで二人で出掛けるのが最初と思っていたのにどういうことだ。

 俺の友人達に恩を売ってツテコネ強化? と思ったら俺に縁談を与えてきた母に気遣った疑惑。


「エレアさんが原因でソイス家を保険にしていたと調査でバレているようだ。こちらの思惑は色々だったけど向こうも駆け引きが上手いな」と父は笑った。


 考える練習なのであれこれ考察したけどそれよりもついにメルと会って話す事で頭がいっぱいである。

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