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お見合い3

 デオンはイルの意思や意見、彼が出せる条件を隠れているような私達に提示したら彼を帰して私達と話をするのだろうか。彼等の話はまだ続くみたい。


「短期損害分のお金の問題は解決傾向。それで君は全然譲っていない。むしろ妹さん達にも得がある。彼女は縋りつきたい君と縁結び。彼女の家は裏切られる可能性が低くなって恩返ししてもらえそう。短期損害分も穴埋めできそうだ」

「先生、目から鱗ばかりです」

「こうなると問題は彼女の方だ。これまで彼女がこんな風に君に譲る話をした事はあるか?」


 私?


「あー……ないです。俺が地区兵官で家業と特に関係なくいられるように大黒柱になれるように励み中。そう聞いています」

「つまりその程度って事だ。君はあれこれ彼女の為に譲ろうと悩んだのに当の本人は何も」


 デオンはいきなり私を切りつけてきた。これは耳が痛すぎるけど指摘通りだ。


「何も……。ああ、そうです」


 イルの声色が低めになって声の大きさも小さくなった。


「彼女は君と一緒にいたいと嫌々ゴネるのに自分の身を削る気はなくて持っているものを減らす気持ちも家族に譲らせる気もないって事だ。君任せだ」

「そうか。彼女の気持ちも俺みたいに小さいって事です。俺以上何か未満です。ド貧乏家族と暮らしますとは言わなそうです。すぐに祝言も。相手の男と交流して俺と両天秤の方が得です」


 私の気持ちを勝手に決めないで欲しいけど状況証拠的にこうなってしまうのは良く分かる。これには反論出来ない。否定しても信じてもらえなそう。


「君は簡易お見合い程度の気持ちで単に彼女に誠意を返したい。大手を振って出掛けたいだけ。なのに祝言お申し込みみたいになった挙句に袖振りされる」

「えー。それは嫌というかおかしな話です。それはおかしいです」

「なんだか君は相手の気持ちが強いなら自分もで、そうでなければ自分も気持ちが小さいみたいに感じるんだが。破談になったら十年後に別のお嬢さん狙いとも言ったし」

「いえ、どちらでも一緒です。彼女が大騒ぎしても嫌なら逃げます」

「なのに祝言します、生涯の宝物になりますなのか?」


 私もそう思う。イルの発言は矛盾しているように感じる。


「五年間指一本触れないから結納前半と同じです。苦楽を共にして離縁にならなくて共にいられたらきっと生涯の宝物になります」

「つまり気持ちが大きくならなければ離縁するってことだな。触らなくて私が後始末をするから」

「はい。そうです。でも癒されるかわゆいお嬢さんと毎日一緒に過ごしたら気持ちは大きくなる気がします」

「メルさんと、ではなくてお嬢さんとなのか?」

「えっ?」

「癒されるお嬢さんなら誰でも同じなのか?」

「分かりません。他にお嬢さんはいないです」


 これは私の心を(えぐ)った。私の気持ちが小さいと思われるのは自業自得だし本当の事な気さえしてくる。それに加えてこれ。


「メルさんやサリアさんが君を見つけたように他にもいるぞ。出てくるぞ。君は選べるってことだ。癒されるお嬢さんの中からさらに君の望む何かを持つ女性をゆっくり選べる」

「あー。俺の望む何か? えー。なんでしょう」

「君は噂の恋穴落ちもまだ、みたいに言ったので君の中で何かあるのだろう。見た目の好みなのか性格なのか私には分からないが」

「俺も分かりません。照れ照れ慎まし癒し系とかそんなのは分かりますけどそこにさらにって。お嬢さんを選べるって贅沢過ぎる話です」

「でも選べる可能性があるぞ。自己反省の結果自ら出した改善案をしっかり為して励み続ければそうなる」

「お嬢さんを選べる……。へえ。そう言われるとますます中身は結納の祝言案はイマイチです。彼女の気持ちは実は小さくて俺もそうだからお互い話になりません」


 風向きが一気に悪くなった。デオンは私とネビーの仲を取り持ちたくないのかもしれない。

 それにしてもイルはデオンの掌の上でころころ転がるな。


「そうなると何も譲っていない彼女に対する返事は最初の案の方だと思う」

「そうです。そうなります。そうか。俺が譲れる人生の半分は何か悩んだのも金を稼ぎに行くぞもトンチンカンでした。先生は凄いです」

「無駄に年を取ってないし元地区本部兵官でこの道場の経営者。門下生の縁結びも色々見てきたし相談に乗ってきたり仲人もしている。バカでしょうもないのだから次から先に言いなさい」

「はい。バカでしょうもない未熟者なので短期間で自分だけで悩むのは諦めました。次からはもっと早く相談します」


 またバカと言われたのにこの返事。素直。バカでしょうもないと言われたのに素直だな。

 お嬢さんが好みで選べるなら選びたいというのもとても正直。私は小さなため息を吐いた。結局ここに戻るのか。

 ダエワ家も父の事も関係なくて私とイルの仲がそもそも問題ってこと。それも私の気持ちの面でまでそうだと言われてしまった。


「あれこれ考えられそうな基礎案を二つ出したがこれより以前の話がある」

「はい。なんでしょうか」

「君はお申し込みではなくて返事をしたいと言ったよな」

「はい」

「そもそも申し込まれたのか?」

「えっ」

「彼女は視野の狭い彼女なりにうんと考えて、君と相手を天秤にかけてずっと相手を選んでいる。つまり申し込まれていない。それとも彼女に何か頼まれたか?」


 デオンの指摘通り私はイルに何も頼んでいない。これもそもそもの問題ってこと。私にイルへの気持ちがあまり無いという根拠がまた増やされてしまった。


「頼まれていないです。でも俺以外は嫌だと言うてくれました。ああ、でもそうでもないってことです。相手を選んでいるっていうことはそうです」

「申し込まれていないのに返事もなにもないだろう」

「えー!」

「だけど君は正々堂々彼女の家の門を叩いて付き添い付きでお出掛けしたいという気持ちはあるんだよな?」

「はい。そうです。友人以上恋人未満でこの先はそうしないと分からなくて逃げるよりもそうしたいです」

「返事ではなくてお申し込みだろうそれは」

「……そうなります。そうです!」


 門を叩いて土下座する気持ちはないと言われていたのにお申し込みしたい、という言葉を聞けるとは思わなかった。


「相手の男を一先ず蹴散らして同じ土俵に立ちたいのも自分の為だろう。彼女ではなくて。邪魔がいようが彼女に頼まれていなくても君自身が彼女にお申し込みをしたい。そういうことだろう」

「自分のことなのに分かっていなかったです」

「君は他のお嬢さん相手にそれをするつもりはあるのか? 文通お申し込みをしてみようとか、簡易お見合いをしたいとか。私は他のお嬢さんでも縁結びのとっかかりなら可能と教えたがどうだ」

「無いです。選べるようになると信じて余計なことは考えないで新たな目標の花咲ジジイと元々の目標の大豪邸成り上がり地区兵官に突き進むのが先です」

「つまりメルさんは君の中である程度は特別ということだ」

「はい。それは彼女にも言いました。中途半端に特別です」

「門を立て叩いて土下座する気はない、という気持ちは違ったな」

「土下座はしないけど門は叩きたいでした! 別の事で悩みまくっていたからその辺りについて深く考えていなかったです。うわあ、やはり俺はバカです」


 バカというよりも自分の気持ちに鈍いってことなのだろうか。


「そうなるとやはり最初の案の方になる。君がしたいのは簡易お見合いのお申し込みだ」

「そうなります」

「彼女を言いくるめてさらに口説いて利用して妹さん達、特にリルさんを栄えさせる。そのつもりはないか?」

「俺はそういうのは嫌いです。道具とか利用とか。おまけに先生の助力を増やしたり尻拭い役をさせることになるから嫌です。お互いに気持ちがあるならともかく違ったから嫌です」


 中身は結納の祝言案に乗り気だったのに断固拒否みたいになった。


「そうか。まあ、君はそうだろうな」


 策士。この為に私の気持ちは小さいとかイルに改めて本人の無自覚な気持ちがどの程度か教えたってこと。


「お互いに気持ちがあるなら話し合いをしてくれると思いますが、違うから両親も俺と同じような考えの人間なので猛反対します」

「やはり現時点ではすぐに祝言案、嫁入りしてもらうのは無しってことだな」

「はい。無しです。えー、こうなると俺はメルさんの縁談の邪魔をしないように身を引くかどうかが悩みになります」

「そうなるな。しばらく考えてみるか?」


 ここが今日の非公式お見合いの終着点ってことみたい。


「グルグル悩みまくりだったので引く気はないです。相手の男ととにかく結納させたくない、だから邪魔します。こっちが勝手にお申し込みだと迷惑をかけないし結納前の相手が彼女の家への条件を釣り上げるかもしれないから役に立ちます」


 引かない程度には、シエルに対抗してお出掛けしたいくらいの気持ちがイルにはあるんだ。


「それはその通りだ。一目惚れして調べて結納もお見合いもまだのようだからお申し込みします。それは言える」

「叱責や謝罪要求だろうけど家に呼ばれるから一度ゴネる機会はあります。一回は好機があります」

「密会は褒めるのと逆だが怪我の功名というやつだ。印象最悪だから聞く耳を持ってもらえないかもしれないが」

「そこに先生を付き合わせるのは忍びないけど助けてもらいたいです。必ず何かで恩を返します!」


 私への返事から私にお申し込みに決定ってこと。その際に彼側から提示される条件ももう聞いた。

 

「断られたらどうする」

「全然分かりません。今の縁談相手に条件で勝って堂々とお出掛けしたい、だからそこまでは何か粘る気がします」

「勝てるまで何かを譲るってことか」

「半分までです。でもメルさんに実際のところ俺をどこまで慕っているのか確認していないです。そこは大切です。お互い様だから譲れない彼女には譲れないでしょう。そうか。あの嫌々もそうでもないのか。いや俺以外は結構嫌そうです」

「当然それは私にも分からない。結納を遅らせられたのにまた急いで結納話になったから何か特別な事情があるかもしれない」

「ん? 彼女に他の縁談話が来そうだから囲われたんですよね?」

「相手の家が他の縁談に対抗してくれたならその他の縁談と天秤に乗せてさらに得を獲得とか駆け引きをするけどしないで結納みたいだから何かありそうな気がする」

「何か……。それは俺にも先生にも分かりませんね」

「ああ。それは話し合わないと分からない。彼女の覚悟も不明。君が祝言なら確実だと言ったらその案に乗るかもしれない」

「彼女に気持ちがあるなら俺もそのくらいの気持ちはあるから先生に助けられたいです。道具とか利用でないならとても良い案です」


 すぐに祝言案が戻ってきた!

 

「やはり彼女に気持ちがあれば君の気持ちも大きいみたいに感じるんだがどうなんだ」

「なぜですか? 祝言案も結納と同じだから結納案と同じです」

「お嬢さんを選びたいという希望はどこへ消えた」

「消えてないです。彼女と破談ならまた選びます。メルさんを別に自分で見つけたり選んでないけど特別は特別だから選んだってことです」

「この縁談話が終わるまで彼女と誰かを比較する気はないということか」

「当たり前です。二股はしません」

「二股はしませんって恋仲ではないだろう。恋かも分からないと言っていたよな」

「中途半端でも特別だから他の女は袖振りです。現に袖振りしています」


 私はイルに好かれているには好かれているけど恋ではない。そうなの?

 彼が変わり者なのはここまででもあれこれ感じたけどこれも謎。謎過ぎる。常に話し合わないときっと誤解の嵐だ。


「君が袖振りしている中にお嬢さんはいないだろう? なのに比較しないのか。それこそ自分の中途半端な気持ちがなんなのか分かると思う。私には君の心は計りかねる」

「いないけど……」


 少し沈黙が流れた。誰かいるの?


「先生。少し気になるお嬢さんはいます」

「なんだ。いるのか」

「明日の朝、会えないか訪ねる予定です……。色恋ではないけど……」

「サリアさんか」

「ええ。比較とか色恋ではないけど彼女はメルさんととても違う気がします。俺が知り合った事のある他の女とも。誰にもあの手紙のことのような事を言われたことがないです」


 彼女の事を考えると嫌な予感、胸がザワザワするのはこれか。


「それはまあ置いておいて。ここから先は自分達で話し合うのではなくて先方も交えて話し合いという事です」

「相手の家に娘に一目惚れした男が乗り込んできたと言えるので迷惑にならないだろう。返事だと面倒な事になる。君は嘘があまりつけない。でもお申し込みする気持ちがあったからあまり嘘ではないな」

「はい。他の悩みや考えでぐちゃぐちゃだった気持ちが整理出来ました。ありがとうございます」

「友人以上恋人未満と自分で言った通り友人以上の気持ちがしっかりあるようだな。だから彼女と別れたくなくて次の関係に進みたくて悩みに悩んだのだろう」

「そうみたいです。そうでした」


 嬉しいのか嬉しくないのか複雑な気分。先程のサリアの事も引っかかるしやはり友情以上恋未満ってこと。

 こんなに自分の気持ちを理解していない人っているんだ。デオンが君は彼女をとても慕っていると言い出したら「そうかも」って言い出したりしないよね⁈


「君はよく分からないところがある。君は彼女を相当慕っているんじゃないか?」

「それはないです。それなら祝言案で殴り込みます。貧乏家は嫌だと言うなら金も借ります。返せるだろうから借ります。妹と友人がねんごろなんて心底嫌だけどルカを俺の幼馴染に任せて家ごと頼むとかなんでもします」


 私の想像とは答えが違った。そう言われたからこう、ではなくてしっかり自分の気持ちの大きさは分かっているんだな。

 デオンはイルのあやふやな想いを形にしただけということだ。

 

「そうなのか。そうか。君のことは分かるようで分からないからこのようにキッパリ言われると助かる」

「あちこちで単純明快な分かりやすい男って言われるけど分かりにくいですか?」

「表面的な付き合いだけだとそうなるが、こうして深く話すと分かりにくい時がある。なにせ君は時々君自身の事を理解していない。返事をしたい、ではなくてお申し込みしたいだったように」

「あー。なぜでしょう。バカだからですか? ああ。メルさんの気持ちに関して誤解や思い込みがありました。つまり自惚れです。またしょうもない自分を発見してしまいました。直さないといけません」


 彼の中で私の恋心は小さいと認識されたな。デオンのせいとか策だけではなくて状況証拠で裏付けされてイルにそう思われた。

 破談確定なのでその方が良いのかな。破談になるから私は彼に傷ついて欲しくない。私は悲しいけどこれだけ色々聞けた。

 私は彼の人生の中でそれなりに特別な存在になれた。他の袖振りされている女性達よりは上。それを知ることが出来た。

 デオンは私に対しても配慮してくれている気がする。


「私が示した祝言案も結納みたいなもので気持ちが大きくならなければ離縁と言ったしな。それをして彼女の傷を大きく深くしても構わないってことだ。こういうところはそんなに彼女に心を寄せていないと感じる」

「構わないのではなくて覚悟して選ぶのは彼女です。俺も同じです。楽しいだけの深い人間関係なんてないです。配慮はするけど傷つけることもあります」

「ある程度分かったしあとは相手の気持ちや出方次第だ。君がしたいのは結納前に簡易お見合いのお申し込み。堂々と出掛けたい。それだ」

「はい」


 私と彼の縁結びに必要だったのはやはり時間なのだろうか。もしもなんてないけど……。

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