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火樹銀花

 最近の私達はほぼ毎日会っていて私が用意したお線香が半分燃え終わるまでの時間は雑談をしている。

 私が提案したら勉強もするけど話もしたいからそうしようと了承してくれた。

 挨拶だけの日は消滅して三、四回に一回と日曜日は会わない日にして別の場所を散歩している。

 佃煮屋を介すので手紙の頻度は相変わらずにしてある。次の春か秋までこのままでいられそうなのは私としては心地良い。

 書面半結納の話は元服後の十月の予定になってその間に私とシエルが会う話は特にない。

 文通で私の拗ねや誤解を解いて半結納からゆっくり交流という話になってくれて助かった。

 と、思っていたのに家族で花火大会へ行くのにシエルも参加すると父に言われた。

 大勢で行きたいと諦めずに他の家や人を気にかけて欲しい作戦を提案しよう。そう思ったけどその前にイルに相談した。


「俺としては微妙な心境ですけど、君の気が変わるかもしれないからしっかり会って話してみてはどうですか? 前にも言いましたけど」

「はい。でも花火大会は嫌です。イルさんと見られないのに花火を一緒に見るのは嫌です。何もない日に特別感のないお出掛けなら我慢します」


 私は空気を蹴るつもりで足をゆらゆらさせた。もう知られているから私はもう気持ちを漏らしまくりだ。

 龍歌や直接的な言葉で伝えていないだけ。彼も友人以上恋人未満のような態度を隠さない。

 前よりも誠実な関係なので親密度は増した気もするし壁がまだまだ厚い気もする。その壁はシエルとの縁が切れてイルの事を両親に話さないと壊れないのも分かっている。


「今の家族と行ける花火大会は少ないから一緒には嫌です。言い方は遠慮して下さいですかね。俺が思いつくのはそれくらいです」

「また皆でと言って誰かと縁結びされてしまえ、と思っていました」

「なんかまた拗れそうな気がしませんか? 自分に素っ気ないのに他の男とはそれなりか、下手したら楽しそうだったから焦ったようですし」

「はい。そう思って相談しました」

「単に断るとアレだから金がある同士何か観に行くのはどうですか? 音楽会とか陽舞伎(よぶき)など。あまり喋らなくて済みます。喋った方が良いけど喋らなくて良い的な」


 これは妬きもち?

 違くてもそう思うと気分が良いからそう思っておこう。


「人混みだと距離が近くなったりしそうで嫌なのでそう提案してみます」

「断られたけど誘われただと気分良しです。俺は駆け引きが苦手なのでこういう話をされる事もあるかと思って先輩に聞きました」


 私と会っていない時間にも私のことを考えてくれている時間があるんだ。それは嬉しい話。


「どのように尋ねたのですか?」

「無下に出来ない格上の娘さんから上手く逃げたいです。先輩ならどうしますか、みたいにです」

「自分の事に変換したのですね。イルさんと違って異性と交流が全然ない私には無理な相談の仕方です。その相談で少し譲って出掛けた後に続きはどうすると言われました?」

「相手の反応によると。察して引き下がってくれればええけど世の中には理不尽に食い下がってくるの奴もいるとかその場合はこうとか色々教えてくれました。常識的な食い下がりならええですけど」


 現在の私はイルにそうやってぶら下がっている。彼としては常識的な範囲だから許してくれている。今の状況はそうだと信じたい。


「私もイルさんにぶら下がっています。なので私にぶら下がる相手に文句は言えません。なにせシエルさんはとても常識的な範囲の事しかしていません」

「そっ。相手は悪くないのに理不尽に嫌がったり否定するのは悪手です。親が調査済みの問題のない良い男を断るのも少し逃げるのも少し交流してから。俺は食われていますね。それで俺もどうぞどうぞって。あはは」

「それを言ったら私も食べられていてどうぞとなっています」

「共食いですね。前より気楽で痛くないです」

「ええ。共食いです。それは良かったです」


 イルはやはり嘘が苦手で誠実でありたい人なんだろうな。私の心も軽くなっているから賛成。


「怖いのは相手を無視し過ぎる奴です。その辺りを知るにも会った方が良いです。家のために家が欲しいのか、君自体をかなり欲しいのか。我欲をかなり優先する性格なのか。怖くないか」

「そうでした。もしも豹変するなら困るのは私以上に奉公人達です」

「怒り方を知っておく方がええです。怒り方や叱り方には人柄が出るそうです。色々な人がいるから日々勉強中です」


 両親相手だとつい反発心が先立つしイルと引き離される! と暴走しそうになるけどこうして本人に諭されると納得してしまう。悲しいけれど心配されていると分かるから。


「経営者に加わるなら大事な要素な気がします。父にその話をどう思うか、彼はどうなのか尋ねてみます」


 イルの怒りは見たことがないけど叱られた事はある。夜に抜け出すのは危険だからしてはいけないという怖めの声でのお説教。

 ハッキリ理由を告げて否定だったな。食い下がったらどう言うのだろう。譲歩するのかな。もっと叱られるのかな。

 でも花火大会は家族と行くと決まってイルは仕事なので一緒に行けないのはもう確定しているから夜に抜け出す理由がない。

 日曜に私の家からかなり離れた街中を一緒に歩きたいと言いたい。夜に抜け出すのは危ないから昼間。通り魔に本来夫婦でしかしない尊い行為をされて殺されたくない。母に怖いと言ったらそう言われた。それは怖いだけではないと。

 文学ではいつもと違った事をすると目撃されたり事件が起こるから安全第一。なので日曜に会いたいとかまた散歩したいと言わないでおく。


「ちなみに花火大会なんですが俺はグラト大橋警備の補佐になりました。稽古なしで学校が終わったら勤務です」

「主会場です。いつも行っています」

「おお。どこを見回りするか分からないので会う事は無理でも似た景色を見られますね」

「そう思って眺めます。残念ですがお線香が終わります」

「勉強時間ですね。今日は助けて下さい。また上手い語呂合わせが欲しいです。その間に別の勉強をします」

「はい。良いですよ」


 私はもう彼に我が家を一緒に背負って欲しいという考えはない。

 彼は家族を背負いたい人で私も家を背負いたいから仲間だ。同じような気持ちがあるから私達は理解し合えると前向きになることにした。イルが前向きだから見習う。

 別れ際、彼は珍しくお別れの言葉の後にすぐに走り出さなかった。


「年間予定の張り出しを確認しないで放置かド忘れで今朝学友に言われました。職員用に黄泉迎え送り休みがあって、それに合わせて来週は職業訓練です。なので登校しません」

「分かりました」


 これは残念なお知らせだ。来週は彼に会えないってこと。


「俺は半見習いなのでそれが長くなるだけなんですが番隊の人と師匠が決めて早朝勤務です。その後、昼過ぎからほのぼの稽古の指導補佐の補佐。それで夕方からは息抜きをしろと言われました。なのに早朝勤務です。夜遊びするなって事です。してないのに」

「毎日過密予定だと思うので少しでも休んで下さい」

「金が欲しいから親父の店かツテコネで何かしたいと言いました」

「えっ。それでは息抜きにならないです」

「そういう訳で多少金が入るのでたまにくれる握り飯のお礼にお菓子でも。物でお礼をしたかったです。甘いものは好みですか?」

「はい! はい! ありがとうございます。いえ、要りません。今の気持ちで嬉しいです」

「貧乏人なので遠慮されると思って先回りです。甘いものが苦手なら母ちゃんにでもあげようかと。そこから分割されて妹達な気がしますけど」


 彼の袖の中から棒の先に袋がついているものが現れた。嬉しすぎて受け取る手が少し震える。彼が優しい微笑みを浮かべているから余計に。


「じゃあ、また来週以降。花火大会がある週です。ポチポチ犬。暑いけど働けよ」


 駆け出した彼が振り返って軽く手を振ってまた前を向いた。いつも走るから気になって尋ねたら間に合わないからではなくて鍛錬。

 ソワソワして私はその場で紐で結んである袋を外した。うさぎの形の飴細工だ。


(かわゆい。なんでうさぎなんだろう。でもかわゆい。嬉しい。嬉し過ぎる。分割ってこれを割って五人に配るの?)


 私はズル賢いので花火大会で飴袋が欲しいと父にねだってみようと思った。それを一つ一つ紙で包んでイルに家族分贈る。彼にはお得意様がくれたと言えば良い。

 彼の一銅貨の価値と私の一銅貨の価値は異なる。この飴細工は高級品ではないけど彼からすると高級品だ。だから私にとってもとても高価な贈り物。


(食べるのもったいないけど無駄には出来ないから様子をみつつ食べよう。この紐、飴のわりに立派だしかわゆい。チグハグな商品だな)


 紐は朱色と白で組まれているし袋に対して少し太めでしかも長い。


(わざと? こっちがお返し? 髪結用の紐に見える)


 そうな気がする。とてもそうな気する。人生で初めて男性から髪飾りを贈られた!

 その後一週間、正確には日曜から日曜まで八日間、私は毎日この紐を使いたい衝動を抑えて三日ごとにしてポチとの散歩はヤイラ小神社とは全く違う方向にして寂しくも嬉しい時間を過ごした。

 再来週の花火大会にシオンが来る話はイルへの相談話通り両親に提案してみて音楽会へ行きたいと話したらあっさり了承。

 シエルの怒り方や叱り方を知りたい話や両親から私の傾向をシエルに教えて相手はそれで良いのかの確認もしてもらった。

 シエルは怒ると黙り込んで話さなくなる傾向があるらしい。 


「接待先や客対応で冷静なのは長所です。良いことを知れました。でも不機嫌で理由も分からずに黙り込むのは私とは合わない気がしませんか?」

「お前も彼もまだまだ子どもだから家族親戚で育てていく。直すから直して欲しいと頼む」

「はい」


 これはもしや、と思ってお互いの欠点を少し交換するのも大切ではないかと父に提案しようとしたけどイマイチそうだからやめた。

 これもイルと相談してからと思ったけど実際に交流して自分の目や耳で確かめろとまた言われるのは明らか。

 相互理解をしようとしていると誤解されたようなので失敗くらいの勢いだ。

 子どものように拗ねているという設定でのらくらのらくら引き伸ばし。それで拗ねたり嫌な態度の私にシエルが会ったら思っていたのと違うと呆れられるのを待つ。


 花火大会の週の月曜日、待ちに待ったイルとの再会日。今日は先に勉強で後から息抜きをしましょうと言われた。特に異論はなくて頼まれないからそれぞれ勉強。

 いつまで経っても雑談は始まらなくて解散を告げる鐘の音が鳴ってしまった。髪飾りにした紐の話題を出せなくて残念。帰る前に言おう。


「あのイルさん」

「少しだけ残れますか?」


 向かい合って解散の前、座っている状態、顔を見ないところでそう言われた。


「はい。少しなら」

「わりとすぐ終わります」


 イルが前に現れて、少し離れた位置にいる彼に手招きされたので切れ目縁から降りた。


「コホン。俺は少しは信頼されたと思うのでそのポチポチ犬は今からすることを邪魔しそうだからここに縛ってもらってもええですか?」

「はい。少しどころか信頼しています」

「ダメです。油断大敵です。常に警戒しましょう。そういう訳でポチポチ犬をそこに縛って片手に唐辛子細入れを持ちましょう」


 どういうこと?

 

「不思議そうな顔をしない。ええですか。番犬を縛れなんて警戒しないといけません。これまでが油断させる時間や作戦かもしれませんよ?」

「でも縛って欲しいのですね」

「はい。なので武器を持つように言いました」

「イルさんが非常識なくらい近寄ったら武器を持つことにします」


 油断すると襲われるということならいっそ私は彼に襲われたい。

 絶対に優しいしとんでもないハレンチ行為もしないと思う。武器を持つようにっと言う人は人を襲わない……そう油断してはいけないの?

 別に良いや。イルに怖い感じで襲われたら自業自得で彼の人生も破滅する。


「手を伸ばしたら届く位置はもう危険領域ですよ」

「そもそもイルさんは私が貴方に襲われたと大騒ぎするとかなり面倒くさい事になります。借金、逮捕、裁判などです。それこそが私の武器です」

「おお。そうでした。そういう意味では信用があります。面倒というか両親に切腹させられます」

「あの、それは下街文化ですか?」

「いや、近所? 本人達? 俺も納得してそうしますけど。難癖なら身体検査をしろとか大騒ぎして周りにかなり相談して逃げます」


 よく分からないけど今日は長く一緒にいられるようだからいたいし不安ゼロなのでポチを縁柱へ繋いだ。イルがポチから少し離れたところへ移動したので私もついていく。

 しゃがんで手招きされて場所を示されたので私はそこにしゃがんだ。


「金を少し稼ぐ話をしたと思います」

「はい」

「なので一緒に見たいと言ってくれた花火です。少し明るいけどわりと暗くなってきて日陰だし良いかなと」

「えっ? 花火ですか?」


 これは全く予想していなかった事態。イルは着物の袖から蝋燭(ろうそく)を出した。次は火打ち石。彼は蝋燭(ろうそく)に火をつけて縁の下の石の上に立ててくれた。


「遊びはそこらにあるもので工夫しろ。食べるのが優先だから遊びやお菓子で贅沢をするなと言う親ですけどたまにはどうかと聞いたらええと言うから妹達に玩具花火(おもちゃはなび)を買いました」

「まあ。きっと喜ばれましたよね」

「日曜は半見習いがないから昨日したんですけど少ない量だけど楽しそうでした。それで俺も楽しかったです。踊り出すし歌うし喋るし重いしやかましくて。あはは」


 イルが一番楽しそうな笑みを浮かべるのは妹達の話をする時だ。とても可愛がっていると伝わってくる。


「私の分までありがとうございます。あの。この髪飾りもありがとうございます」

「髪飾り? えっ?」


 違うの?


「あー。高めだと思いました。小さめの飴のくせに高いから美味いのかなって。安いものより高い方と思って。飴より紐が目立つなと思ったらそういう事ですか。いや、なんか言われたような気がします」

「ふふっ。そうですか。たまたまですか。でも嬉しいです」

「……。花火はこれしかないです。もう少し種類があったしもう何本かと思ったけど妹達が楽しそうだからついつい。これが俺の気持ちです。妹達に甘くて君はその下。でも妹達とは花火をしていないです」


 そうして渡されたのは花咲花火二本と牡丹花火一本だった。今のは中途半端に特別と同じ意味だろう。私はそれで構わない。彼の中途半端に特別はこのようにかなり特別扱いだ。


「三本もあります」

「縁起数字です、なんて言い訳をします。これが俺の今の甲斐性です。あはは。俺は花咲花火一本。君と勝負しようと思いました。長く咲いた方が勝ちです」


 私はこのイルの優しさや明るい笑い声や飾らないところが好きだ。他にも好きなところは沢山あるけど特に好き。

 ニコリと笑われたのもあるけどいつもよりも距離が近くてかなりドキドキする。


「私に練習をさせてくれるのですね」

「ええ」

「勝ったら何がありますか?」

「それを決めるのは勝った人です。手軽に出来る事を相手に要求しましょう」

「はい」


 ケイ達と玩具花火会をしようと言っていたけど今年はしなくていいや。理由をつけて不参加しよう。


「最初は牡丹花火にします。別々に眺められるのも良いですがこれは打ち上げ花火の代わりです」

「ヒュー」


 イルが口笛を吹き始めたので私は花火を火に近づけて「ドーン」と口にしてみた。ほぼ同時に彼も「ドーン」と同じ事を言った。

 斜めに持って牡丹花火の輝きを眺める。これぞまさしく火樹銀花。


「綺麗です」

「願い事を三回すると叶うらしいです」

「えっ。知らない風習です。早くしないと消えてしまいます」

「今勝手に考えました」

「あっ、消えます。急がないと」

「俺が代わりに願っておきました」

「なんてですか?」

「俺が勝て、です」

「私の事ではありません!」

「嘘です。七夕飾りに願った事が叶いますように、です。よっしゃあ! 勝負です勝負。あっ、先に練習でしたね。あはは」


 私もずっと笑ってばかり。一本の短い牡丹花火だけで長めにこんなに楽しめるって不思議。

 次は花咲花火、と張り切って火をつけて緊張しながら火種を見つめていたら玉になってすぐに落下。なんで⁉︎


「咲いてないですよ、花。昨日と今日で最速です」

「なぜですか⁈ こんなの私も初めてです」

「練習がこれってこれは俺の勝ちですね。せーの、でいきますよ」

「はい」


 負けたくない!

 でもイルから私への頼み事も気になる。同時に火をつけて花よ咲けと念じる。


「今度は咲きました」

「油断していると落ちますよ」

「最後まで咲かせます」

「俺もそうします。そうしたら引き分けです」


 この世にこんなに美しい花はきっと存在しない、なんて思うくらい煌いて見える火に見惚れる。

 花火大会で夜空にいくつも咲く花々を並んで眺められないけど二人っきりで二人だけの花火なんて素敵。


「あっ、落ちた。落ちました。あと少しだったのに」

「私はまだ咲いています」

「頑張れー」

「頑張れー」


 最速の次は最後まで咲いてくれた。私達の時間もこれで終わりということになる。急にしんみりだ。


「イルさんは勝ったら私に何を頼もうと思っていました?」

「たかろうと思って。花火大会の出店で小さな女の子が喜びそうな玩具を買ってきて欲しいです。五銅貨以下でお願いします。俺は仕事中で下っ端のさらに下っ端なので買えません」


 たかる、と言ったのに彼は懐から古褪せたお財布を出して中から五銅貨をつまんで私へ渡した。

 片手で受け取って私はそのお金をお財布へしまった。頼み事は自分の事ではないんだな。


「スリが多発するから祭りの日は財布に紐を結びましょう。いや、日頃からでもええくらいです」

「分かりました。そうします」

「片付けて解散です」


 イルが腰に下げている竹筒水筒から水を出して火の始末。ゴミも蝋燭(ろうそく)もあっという間に片付けれた。二人とも立ち上がって解散の挨拶。

 直後にイルの手が髪の毛に伸びてきて私はビクリと体をすくめた。まさか頭を撫でてくれるの?

 嬉しいけど恥ずかしい! と思ったら左側にりぼん結びをしていた髪飾りの紐を解かれた。


「形に残る贈り物はコソコソが終わったらと思っていたので預かっておきます。最初の付き添い付きのお出掛けの際に渡します」

「えっ? ああ、はい」


 困り笑いを投げられて浮かれていた私の気持ちは一気に沈んだ。


「では帰りましょう。頼み事を考えておいて下さい」

「はい。考えておきます」

「ポチポチ犬。今日も花火大会の日もしっかり働けよ」

 

 少し歩いてポチの頭を撫で回すとイルはじゃあ、と走り出した。

 この帰り道、夕焼け終わりで家々の前の青白い光苔の灯りを眺めながら街全体がまるで花咲花火みたいに光り輝いている。


(花咲花火の火樹銀花と同じ。いつも見ているのに違う……)


 私はそんな感想を抱いた。いつも見ていた世界がまるで別世界のようだ。

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