ありのままの私
「待ってください、あなた。それは今月の食費です。それを持っていかれたら、子供たちが……」
「うるせぇ! 俺が働いて稼いできた金だ! どう使おうと俺の勝手だろうが!」
私は妻を蹴り飛ばす。
給料袋を握りしめてパチンコ店に向かった。
「くそっ、出やがらねぇ! イカサマじゃねぇのか!?」
今日は勝てると思ったのに、給料の大半がパチンコ台に吸い込まれた。
ムシャクシャした私は、筺体を蹴りつける。
店の奥から、体格のいい二人の男とともに店長らしき人物が出てきた。
「困りますねぇお客さん。──おいお前たち、つまみ出せ」
「ま、待ってくれ……! 今日はたまたま虫の居処が悪かっただけで──」
私の言い訳が聞き入れられることはなかった。
男たちに店の外に連れ出された私は、暗がりで痛めつけられ、路地に放り出された。
「くそっ……!」
私は安い居酒屋チェーンに入ると、クソ使えない店員を罵りながら酒をかっ喰らう。
少しだけ溜飲を下げた私は、レジで代金を放り投げ、帰宅した。
家に帰ると誰もいなかった。
机の上の書き置きには、妻の文字で、子供を連れて出ていく旨と弁護士の連絡先が書かれていた。
「ふざけやがって……!」
私は怒りの向かうままに、家の壁や家具に当たり散らす。
壁に穴が空き、食器棚が倒れ、壁掛けの時計が割れて床に落ちた。
「どうしてこうなるんだよ……」
私は、荒れ果てて誰もいなくなった我が家で、崩れ落ちる。
誰もありのままの私を愛してくれない。
世界から拒絶されたような絶望を、私は感じていた。