表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

この世界にはヒロインがいない。

作者: 三波翔介

こんな話を読みたいです。書いてくれる方が居たら感想から連絡ください。


 この世界には漫画やアニメに出てくるような個性的で可愛いヒロインなんて存在しない。


 ある日、曲がり角でぶつかった美少女が同じクラスに転校してきたり、空から突然女の子が降ってきたり、美少女からとんでもない使命を与えられたり、などこの世界では起こり得ない事なのだ。


 そんな事は生まれて16年、受験も経験した高校1年ともなれば誰しもわかっている事で「空から女の子が降ってこないかなー」だとか言うと笑われるか白い目で見られるかの2択である。


 高校生にもなると大多数の人間が恋愛に興味を抱く。ついこの間まで部活一筋で頑張ってきた奴もぎこちないながらも同じクラスの女の子に声をかけている様を見ると今までとのギャップから笑いさえ込み上げてきそうだった。


 俺も中学まで全くモテなかった訳ではない。少ないながら俺にも彼女獲得イベントが存在した。ただ、俺は今までの人生で一度も男女の交際というものをしたことがなかった。俺は夢を見ていた。ユーモア溢れる美少女に振り回されたり、突然の出来事から偶然美少女と出会い恋をする。そんな物語の中の“ボーイミーツガール”というものに憧れていた。


 俺は馬鹿かもしれない。そんなくだらないエゴで折角の彼女を作る機会を棒に振るうなんて......。


 そんな俺ももうこの世界にはそんな物語に出てくるようなヒロインなどこの世界には存在しない事など理解している。そんな夢物語など追いかけている暇なんかあれば一人前に男を磨いて彼女の1人でも作ろうなどと考えながら今日も始業時間ギリギリの8:29分に教室の席に座った。



「座れ、今日は大事な連絡がある入ってこい」


 クラスがシンと鎮まり注目が入ってくる者に向く。


「鷹見カヤ。茨城県から来た」


 鷹見カヤ。長髪でポニーテールの彼女は冷たいようにも感じる吊り目が我々をじっと覗かせながら続ける。


「私は貴方方との馴れ合いなど望んでない。なるべく喋りかけないでくれると助かる」

 

 そういうと鷹見はクラスで唯一空いている1番後ろの席に座った。



 彼女、鷹見カヤが転校して来て2週間が経った。最初のうちはあの挨拶で誰も関わろうとしなかったが彼女は幸運にも(彼女からしたら迷惑甚だしい話だが)美少女だった。先陣を切ったクラスのお調子者が彼女に話かけた。クラスの注目がそこに向かい、「話かけないで、私は貴方との関わりなど望んでいない」キッパリとわかりきった反応でそう答えた。


 そんなヒロインの突然の登場に俺も喜ばなかった訳ではない。しかし、いざその存在を目の当たりにするとハッキリと感じることがあった。“俺は主人公じゃなかった”と。


 ただ俺にも楽しみができた。彼女が取り巻く物語を外から傍観する事だ。ただストーカーなどと疑われたくはないのであくまでクラスメイトとしての限度内でだ。


 彼女の朝は遅い。始業時間ギリギリに来る俺と偶に来る時間が重なるくらいには遅い。凄い勢いで走り学校まで疾走する姿を何度も見た。また彼女は運動神経も良ければ成績も良いらしい。


 この高校は地区1番、県で2か3番目くらいには頭がいい高校だがその中で彼女が転校して来て最初の定期テストで学年トップの成績を叩き出した。その事から彼女はクラスは愚か学年、学校全体からも注目話題を呼び“1年に鷹見カヤという美少女がいる”という噂を呼んだ。

 

 部活の勧誘などと理由をつけて彼女に話しかけようという輩が出てくるが彼女は変わらず他を寄せ付けない。


 そして彼女は帰りは凄まじく早く帰る。終業の挨拶を終えると同時に教室から飛び出して家に帰って行く。バイトでもしているのではないかと噂にもなるが店で鷹見カヤを見つけたという情報はない。


 彼女が教室から飛び出すと俺は部室に行く。そこからは彼女の観察は朝まで持ち越される。


 夜俺は部活の練習を終えて祖父の所有する山に向かう。山といっても秋に松茸が生えるだけの山だ。1ヶ月に一度程かつて俺は運動ついでにここに訪れていた。前に訪れたのは高校入学前だったか、ここに来るのは久しぶりだ。人一人いないこの場所はとても静かで日々のフラストレーションが発散される。岩陰で寝そべってみたりなどするととても気持ちいい。


 「guooo!」


 誰もいない山の中からそんな咆哮が聞こえた。こんな山に獣などいたのか。そんな話一度も聞いたことが無かったが。咆哮が聞こえた方に目を向けると赤い目、黒く禍々しい毛を有した獅子程ある獣と目が合う。


 な に あ れ


 聞いてない。この山は愚か日本にさえあんな獣がいる事など知らない。何だあれは狼か、虎かそんな事を考える余裕もなく滑り落ちるようにして山を降る。幸い地の利は俺にある。幼い頃からここで遊んできた俺は岩の位置気の模様までとは言わなくても大体の位置関係は理解していた。


 街を目指して俺は山を降る。依然として獣はまだ俺の後ろを追いかける。本気で走れば追いつかれる事はないくらいの速度。山の下部に近づく、その瞬間油断からか下をよく見ず蔓に引っかかってしまった。


 (おいおいそんなベタなことあって良いのかよ)


 そんな呆気ない最期に覚悟をする。獣は俺に飛びかかろうと宙へ上がる。そのまま俺に放物線を描くが如く飛びかかろうとした瞬間、背後から呪術のような声が聞こえ獣は消えた。声の聞こえた方を見ると長髪ポニーテール鷹見カヤがいた。


「鷹見カヤ?」


「っ、!!」


 名前を呼ばれ驚いた様子でこっちを見る。


「学校の奴だったか......。こんなところで何をしているのよ?」


 俺は立ち上がり息を整え終えて答える。


「散歩?」


 はぁ?と呆れたような顔で彼女はこっちを見る。


「ここは危険だわ。散歩したいなら今度から別の場所にしなさい。じゃないと“死ぬわよ”」


 鷹見カヤは重みのある言葉を使い俺に促す。そう言い残し彼女はこの場所から去る。


「待ってくれ。君は一体、君の力は一体何だ!?」


 彼女は止まり一言だけ返した。


「別に貴方には関係ないわ」と。




 やはり俺は主人公じゃない。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ