ぜったいダメな奴
はじめて書いてみてます。えっちらおっちら進めていきます。三(っ・ω・)っ(ずさー
平手が頬を打つ。
贅を凝らした部屋の中に、平手の音が響き、その後に静寂が満ちた。
そんな静寂と相反するように、頭の中は煮えくり返っていた。
目の前には、衣服が乱れた女がいた。青い顔で自分の右手と男を交互に見て怯え、その目には涙がたまっている。
今更冷静になっても遅いというものだった。今すぐ首を撥ね飛ばされても文句は言えない行動なのだ。
俺の寝室にまで足を運んでおいて今更の話だ。往生際の悪い女だった。
騎士爵の男と相思相愛なのは知っているが、そんな事は俺の知った事ではない。
『この女は侯爵である俺を殴った』
俺にとってそれがただ唯一の、意味のある現実だった。
激昂の言葉を放とうとしたその瞬間。
打たれたせいか、頭に昇った血のせいか。
――それとも、女の瞳から零れる涙が美しく煌めいたせいなのか――。
ぐらりと頭が揺れた。
何かが割れて、壊れが気がする。何かが崩れた気がする。ようやく永い眠りから、目が覚めたような感覚がした。
思わず両目を覆うように額に手を当て、頭を振る。
倒れなかった事は、感じためまいからすれば奇跡的と言えた。めまいは瞬間的なもので、気付けば収まっており今や不調はない。
額に当てていた手を下ろせば、依然変わらず目の前には青ざめた半裸の女がいた。
いや、半裸にひん剥いたのは自分だ。青ざめさせているのも自分のせいだ。覚えている。
下級貴族の娘だ。侯爵の中でも上位に位置する俺を殴ってしまえば血の気も失せようというもの。それでも負けじとこちらから視線を外さないのは、彼女の気位か、誇りだろうか。
想い人がいるというのに権力を笠に着て寝室に呼び寄せたのも、俺だ。この人生においても初めての試みだった。
確かに。確かにそういうものは滾るのかもしれない。いや白状しよう、滾った。
あれはちょっとずるい何かがあるのだろう。でなければ、俺の記憶の中にあるそういう薄い本がやたら流行った時代はなかっただろう。
実際にやればもう修羅場やら血の海を見るであろう出来事だが、そのシチュエーションはきっと魅力的なのだ。恋愛映画とかも何気に不倫率は高かった気がする。
そんな記憶がこの状況を起こしたのだろうか。それとも貴族が典型的に驕っただけなのか。
俺は確かに、この行為をした所でどうとでもできる権力者なのだろう。だが、それと実際にやっていいかは別問題だ。
思考が巡り、一つの結論が脳裏で導かれた瞬間、ベッドの向かいに半裸の女を置いたままにも関わらず俺は思わず叫んだ。
「――リアルNTRとか絶対だめだろ――!?」
あまりにも酷い状況で。しかし、それでいてい致命的な状況の一歩手前で前世の記憶を取り戻した。
この物語は、そんな中年貴族の物語。