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怪しくなる雲行き

 次の日、俺たちは俺の領地になる予定の野原に行った。草木はボーボーで背も高く、根も深く張っている。何から手を付けていいのやら全くわからなかった。

 とにかく知識がないので、やはりその道のプロであるトスカ村の村長に段取りを任せることにした。

 村から移民、とは言っても距離も対して離れていないんだが、それでもかなり難航しているようだった。原因は俺の下に付くのを躊躇っているからだろう。それでも家を継げない次男三男は居るので、全く居ないわけでは無さそうだ。

「なあ、俺自身が耕した土地はどうなるんだ?」

 俺はラディに質問した。

「正真正銘、お前のものだ。そこで取れる作物はすべて、ハヤトの懐に入る」

「自分で耕して自分で育てて、うへぇー……俺の描いていたラクラクぬくぬく貴族生活からは程遠いなぁ。地侍みたいなもんじゃないか」

「賦役として村の人間にやらせるという手もある。無論、村の人間はタダ働きさせられるから心象は最悪だろうな。村全体の利益になる公共事業なんかならまだマシなんだろうが」

「面倒くさいなぁ……役人の真似事をしなきゃならんのか」

「真似事じゃなくて、まさにその役人の仕事をするんだよ!」

「言われてみればそうだな」

「そんなに嫌なら、耕さなきゃ良いだろ。どうせ税金として何割か取るんだから、全部農民に上げちまえ」

「バカヤロー! そんな財政基盤がガタガタじゃこの先、生きていけんぞ!! 飢饉の時に農民から食料を奪い取ったら、もう戦争じゃないか!!」

「どの口がいうんだ!」

 まあ、食料売って金よこせと主君に迫ったのが昨日だからな。返す言葉もない。

「自前の農地は必要だって言いたいんだよ! もしも領民が金持って力つけられでもしてみろ、あのレティエ公国の二の舞だぞ!」

「むっ!」

「農民から追放された領主なのだが、実はスーパー指導者で領民を見返す事ができませんでした、なんてギャグでも言えるか!」

 ラディが押し黙った。ふん、完璧な論破だ。

「なら、開墾に勤しむことだ。木を掘り返すのは死ぬほど大変だぞ」

「ぐっ!」

 その通りなのだった。

「しかし、俺は本当に騎士になったのか?」

「どういう事だ?」

「なんかよぉ、叙任式というか、なんというか、主君に忠誠を誓う儀式だとか、書類だとか、そんなもん一切なかったなぁと思ってな」

「まあ、正式に騎士に叙されたとは言えないな。そもそも、国王だってまだ生きてるし……まあ死にそうなんだが。言っちゃなんだがな、王女ごときのラーレンティアに叙勲する権利なんて無い。女王として即位でもしない限りはな」

 俺たちが村に来てから数日たったが、犬に噛まれた国王さんはまだ目を覚まさなかった。一応ラーレンティアが政務を代行しているような形なんだが……

「もしもよ、王が目を覚ましてよぉ、俺の騎士の件だとか、土地を与える件だとか、すべてお流れになるなるて、無いよなぁ?」

「……」

「おい、なんとか言えよ! 言って!!」

「俺も浮かれていたんだ……」

「なんと言うことだ……ローエングリン伯ハヤート・フォン・アーリマーは志半ばにして領地を失う……」

「は?」

「だから、ローエングリン……」

「オマエ、ハ、イツ、ハクシャク、ニ、ナッタ?」

「俺の国ではな、戦国時代に勝手に役職を名乗る武士……まあ騎士みたいなもんだ、そう言うやつがいっぱい居たんだよ。だから別にいいじゃないか……減るもんでもないし」

「良い訳ないだろ。だいたいフォンってなんだよ!」

「さぁ……」

「ローエングリンって何処だよ!!」

「こ↑こ↓」

 ラディは背負っている剣を抜いた。

「冗談の通じない奴め。ほら、俺の全財産だ。十円玉。これで許してください」

「なんだその銅貨?」

「俺の故郷の貨幣さ。ポケットにあった」

「ほぅ……ちなみにこれで何を買えるんだ?」

「うめぇ棒一本」

「……はぁ?」

「さくさく食べられる棒さ!」

「はぁ……お前がまともに説明する気がないことがわかった」

 実際、どう説明すればいいかわからないしなぁ。

「まともな物を買うにはこれがあと十枚、いや百枚は居るな。つまり、あげても惜しくもない程度の金額なのさ」

「ふん、まあ貰っといてやる」

 ラディは俺から十円を受け取ると、ポケットから取り出した小さな巾着袋の中に入れた。

「お前の財布ちっちゃくねぇか?」

「財布じゃない」

 そういうと、その巾着袋から何かを取り出した。

「なんだそれ、指輪か?」

 それは綺麗な藍色の宝石がはめ込まれた指輪だった。リングは黄金色に輝き見るからに高そうだった。

「ああ、これをやるよ」

「おいおい、明らかに良さそうなやつじゃないか! 受け取れねえよ」

「家の家宝さ。預かっててくれよ。それをお前が持っている限り、俺はハヤトの家臣だ!」

「十円玉なんかと交換でか!?」

「あぁ……」

「なら、せめて他のやつを……」

 衣服のありとあらゆるポケットを探ったが、上着にヴェ○タースオリジナルが三個あるだけで、ほかは何もなかった。その十円も、ポケットの間に挟まっていてたまたま団長に取られ損ねたものなのだ。というか、なぜ飴玉が残っているんだ?

「しゃーない、この指輪は預かっておくぜ!」

 俺は指輪をはめてみることにした。しかし全く合わなかった。

 仕方がないので。ポケットの中にしまった。後で紐をもらってネックレスにでもしよう。

「ハヤト、アーリマーってのは姓か?」

「ああ、そうだけど。でも、伸ばさないからな。ちょっとこっちのイントネーションに会わせて気取って言っただけだからな!」

「俺にもあるんだ」

「へ?」

「俺はメッテルス。ラディ・メッテルス。皆には内緒だぜ」


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