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海賊の国バーリ

「疲れた。くそぺちゃぱい女め。積荷を降ろさせやがって……」

 バーリの街を散策しようと思っていたが、積荷を下ろしていたせいで日も傾いてしまった。みんなクタクタだ。レネとロラン除いて。

 パーリの港は騒がしい。良く言えば活気がある、悪く言えば物騒だ。

 なにしろ海賊船の入港を認めているイカれた港だからな。さすがの商業都市ボルサヴァも海賊を港に入れたりはしない。……表向きの話だけどな。

 そんな港のすぐそばで商売している様なやつはろくな奴がいない。少し知恵のある海賊は、港から離れた店に略奪品を下ろすもんだが、ペーペーの下っ端海賊なんぞは、仲間に隠してくすねてきた品をこんなところで捌こうとするんだ。案の定買取額に難癖をつけたしったぱ海賊は、海賊よりも海賊らしい店の主人にぶっ殺される。もしくは幸運にも身ぐるみをすべて失う程度で済まされるやつもいる。

 そんな姿があちらこちらで見れる、本当にイカれた港だ。

 物事を斜めに見るひょうげた人間ならば、良い見世物小屋だ、とも思えるのだろうが、腹を抱えて笑うなぞしようもんなら、いらぬとばっちりを受けてしまうのでちらりと横目を向けるに留めるのが良いだろう。

 さて、問題は今日の宿だが、流石にそこまでマルガリータに頼るわけにもいかない。あいつらだって怪しまれたら困るだろうし、俺たちだって困る。

「どうしたもんかな……やっぱりいつものあの宿屋にでもいくか?」

 レナード盗賊団にいた頃よく利用していた宿屋のことだ。ま、日数ではまぁまぁ利用していたんだが、回数で言えば一回なんだけどな。

 その宿屋は港から程よく離れ、程よく静かで、程よく安い宿屋だ。一階が飯屋になっていて、なかなか味もいい。二階には、俺たちみたいな団体客を泊められる大きな部屋もある。盗賊の頭であるレナード団長が、こんな行商人が使うような宿屋を利用するのはちょっと不思議だったが、今や確かめようもない。

「ほう、こんな街にもまともな宿があるのですね」

 言ったのはアルフレドだった。

「お前……それ宿屋の主人やマルガリータの前で絶対言うなよ」

「? なぜです?」

「トスカ村をど田舎って言われて気分いいのかよ!」

「まあ、あまり良くはありませんが、事実ですので……」

「……お前空気読めない奴だったんだな。マッジで余計なこと言うなよ!!」

 この完璧超人がなぜだ……と思ったが、そういえばグレゴール爺さんの息子だった。

 宿の扉を開くとカランコロンと鐘がなる。

「いらっしゃい! おや……あんたはレナードの所の!! 無事だったんかい!?」

「お久しぶりですレダさん」

 宿屋の女将は、結構な大人物だ。盗賊相手に一歩も臆さないし、かと言って蔑みもしない。

「ということは、レナードのやつも一緒かい!?」

「あ……いや…それが、なんと言ったらいいか」

「……そうかい」

 俺の顔色で色々察してくれたようだ。

「すんません……」

「いや、風の噂で大体のことは知っているんさ。奴は、どんな最後だった?」

「……立派に、仲間を庇って死にました」

 俺は嘘をついた。団長は最後の最後まで苦しみながら死んだ。うわ言は、つらいとか、苦しいとかばっかりだった。

「ハッハッハ! あんたも嘘が下手だね! あいつがそんなことするかね!」

「はは……」

「あんがとね……嘘でも、そう言ってくれて」

「……墓所はメルシャフのブラート市にあります。その街の教会に埋めてもらいました」

「そうかい……盗賊が墓なんて作って貰えたんだ、あの人も本望さね。……そんなことより、商売しなきゃね! あんたら何人だい?」

「八人です」

「じゃあ二階の大部屋で良いかね? 一日大銀貨一枚でいいよ」

「八人で!? 食事もついて?」

「ああ、特別にね!」

 これくらいの宿ならば、一人中銀貨一枚と小銀貨一枚程度が相場だ。中銀貨は二枚で大銀貨と一緒、中銀貨は小銀貨五枚で一緒ってところだな。

「十日ぐらい居るつもりだから、はいとりあえず十枚!」

 俺は財布から銀貨を取り出し手渡した。マルガリータに殆ど払っちまったが、少しくすねておいたのがあったんだなぁ〜。

「ひい、ふう、み……うん、確かに受け取ったよ。……ん? これサヴォアの銀貨じゃないかい?」

「え? だめですか?」

「うーん……これは旧銀貨か。……いやね、どうやら打ち直すらしくてね、まだ見かけてはないけどずいぶん質が落ちるらしいんだよ」

「うわぁ……戦争ですかね」

 貨幣を打ち直すのは戦費を稼ぐためによくやる事なのだ。

「さあね。まったく、最近はきな臭い話ばかりだよ。リラ! こっちおいで!!」

 レダは拭き掃除をしていた女中を呼んだ。

「お客様を案内しておくれ。二階の大部屋へね」

「はい」


「きれいな部屋だ」

 アルフレドはずいぶんと感心していた。

「とにかくだ、まずは娼館の間取りを調べないとな。アクイリアの居る部屋とか、脱出経路とかもな」

 俺は椅子の背もたれを前にして座った。

「フレックだろ。そういうのは得意だし」

 ラディは言った。

「忍び込めっていうのか!?」

 不満そうにフレックは言う。

「お前じゃ客として入れてくんないだろ」

「おいらだってボンボンのフリぐらいできらぁ!」

「お前がぁ? ほんとにぃ?」

「バカにすんな!」

 ぷんすかフレックは怒る。俺はそんなフレックを見て笑っていたが、今度はそっぽを向いてしまった。

「そういえばラディ、いくらなんだ? 高級娼婦って」

「金貨三枚」

「……つまりいくらだ?」

 金貨なんて縁がなさすぎてイマイチ価値がわからなかった。銅貨か銀貨ぐらいしか使わないからな。ただすごく高いということしか知らない。

「大体大銀貨九十枚ってところだな」

「一晩で!? うそだろ……ちょっとしたひと財産じゃないか!」

 高いとは思っていたが、それほどとは思わなかった。

「よくそんなに持ってたなラディ」

「実はな……俺も入れなかったんだ」

「え?」

「入り口だけだ。値段聞かされて帰った」

「……? じゃあどうやってアクイリアが娼館に居るって知ったんだよ?」

「窓辺に居たんだよ……それをたまたま見かけてな」

「人違いじゃないよな……?」

「店のやつには聞いた。戦災で生き別れた縁者だと言ったら、確かにそうだと言っていた。今は違う名を名乗っているらしいが……」

 源氏名ってやつか。

「おっ! いいこと思いついたぜ」

 俺の突然の発言にみんなが注目する。

「なんだよ、どんな案だ!」

「ラディ、お前が客として入って、アクイリアを連れて窓から飛び降りろ! 間取りなんて調べる必要もないしな!」

「はぁ!? 死ねってか!」

 ちっちっち、と俺は人差し指を左右に揺らす。

「俺たちが受け止める」

 ラディは、はぁ〜、と大きなため息をついた。

「布を広げて受け止めれば大丈夫だって!」

「本当かよ……」

「その後娼館の玄関に油をまいて火をつける! そして逃げるだけだ。用意するのは、布と油だけだ!」

「金は?」

「払う必要なし!」

「素性のしれない俺なんかが、後払いなんてできるわけ無いだろ!」

「……ほら、お前はレティエの公子だし……」

「言えるか!」

「マルガリータになんとかしてもらおう。困ったときの公女さまだ!」

 ふっふっふ、俺から奪った(渡した)銀貨袋を返してもらうだけさ。なんの問題もないことだ!

「でも騒ぎを大きくしないといけないのでしょう? 入り口に火を放つ程度でいいのかしら」

 レネが痛いところをつく。

「いっそのこと娼館全部を燃やしてしまうのはどうでしょうか」

 アルフレドはやべー提案をする。

「それはちょっと……」

「どうやって火をつけるかだな」

 ラディはノリノリだった。貴族ってどんな脳みそしてるんだ?

「お前ら、加減ってものを知らないのか!」

「これくらいやんなきゃ侯爵も動かないだろうさ」

 そうかもしれない、けどもなぁ。

「……はぁ、衛兵の鎧がありゃあなんとかなるかも」

「どいうことだ? ハヤト?」

「ラディが騒ぎを起こして、俺たちが衛兵に扮して中にはいるんだ。油を隠し持ってな」

「入れてくれるか?」

「窓辺から投身自殺のふりでもしたら、流石に大丈夫だろう。騒ぎだって大きくなるしな」

「どう脱出する?」

「検討中だ!」

 はぁ〜、と大きなため息がラディから出た。みんなも呆れて、俺の案は結局保留となった。

「ひとまずは脱出ルート決めて、頭に叩き込まなければならないな。港まではどう逃げるか。徒歩か、それとも馬か」

 ロホスは言った。

「マルガリータに言えば馬車ぐらい貸してくれるかな……」

「盗んじゃえば? その方が騒ぎは大きくなるね!」

 ロランはまたぶっ飛んだことを言う。

「そんなことしたら、警戒が強くなってアクイリアを分捕るとき面倒なことになるぞ!」

「逃げるときに盗めばいいんじゃないかい?」

 フーゴは言った。

「そんな都合よく馬車があるもんかよー」

「馬車があるところを逃げ道にすればいいじゃないか」

 うっ、フーゴのくせにいい事を言うな。

「とにかく、明日は街を回ろう。地図は……高いから無理だが、逃げ道を頭に叩き込んでおかないといけないからな」

「簡単な地図なら俺っち作れるぜ」

 フレックが思いもよらないことを言った。

「まじかよ!」

「いや、流石にそれは目立つ。今の時期にそんなことを街中でやれば間諜だと疑われかねない」

 ラディが釘を刺す。アルフレドも頷いた。

「大丈夫大丈夫、帰ってから書くから!」

「憶えていられるのかよ、すげーなそれは。ま、問題は紙がないってことなんだが」

「そんな高級品を使わなくても適当なボロ布にでも書けばいいだろうが!」

 ラディは言った。そうか、布に書けばいいのか。

 だか俺の反骨精神は、一度も抵抗せずに正論を受け入れることはできなかった。

「ぬ、布なんてないし……」

「なんで俺とアクイリアを受け止めるための布は買えて、地図の布は買わないんだよ!」

 苦し紛れの一言もバッサリと切り捨てられてしまった。

 そう言えばこっちに来てから紙なんて見たことないな。紙って高級品だったのか。

 一応ラディに読みは教えてもらったが書くのは全然無理だしあっても使うことはないだろうけど。

「とにかく明日だ明日。俺はもう疲れて動きたくないんだ。飯! 酒! そしてねる!」


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