表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/24

ヴィスコンティ家

「ヴィスコンティ家は二つの流れがある。侯爵を継承する家と海賊団を継承する家じゃ」

「じゃあ、マルガリータは海賊団を継承する家……じゃないんだな」

「そうじゃ。わらわは侯爵の、つまりヴィスコンティ家嫡流に生まれた。しかしわらわはおなご、婿を取らなければならない身じゃ」

「マルガリータ……結婚していたのか?」

「違う! わらわは結婚などしていないわ!」

「前侯爵がお亡くなりになられた時、お嬢……マルガリータ様の義理の叔父に当たる、現侯爵アルバーノが異議を唱えたのです」

 バジーリオが話した。

「ああ……相続問題ってやつか。世知辛いなぁ」

「アルバーノは、最初は摂政として国政を代行するに留めていたのですが、次第に増長し、侯位を簒奪してしまったのです。宮廷では、すでに自らの配下を重席に座らせ、旧来の家臣たちは閑職へと追いやられていたので、反対するものはいなかった……できなかったのです」

「そして……半年ほど前、わらわは結婚を迫られた……」

 苦虫を潰し様な顔でマルガリータは言った。

「ん? 叔父さんにか?」

「違う……すでに叔母と結婚しているアルバーノにわらわの血は必要ないのじゃ。相手は……くっ! よりにもよってあのサヴォアの公子なのじゃ!!」

「バーリがサヴォアと仲が悪いことぐらいは、俺でも知ってるぞ! うそだろ!」

「ノクトゥア家は西側の諸侯をひとまとめにして、メルシャフと戦争をするつもりなのじゃ!! その象徴としてバーリとサヴォアの友好にわらわを使うつもりじゃった。しかも邪魔者のわらわを追い出しバーリを完全に手中に収めることもできる……アルバーノにとっては一石二鳥の良き話、というわけじゃ」

「我々家臣団は決起しました。マルガリータ様をお救いするために……」

「それが半年前……まさか! あんときか!?」

 マルガリータと出会った時だ。

「そうじゃ、ハヤト……おぬしが助けてくれなければ、わらわは……」

「ハヤト殿には感謝しています」

「つーかよ、お前ら海賊歴半年なの? 特にバジーリオは……その見た目で!?」

「ハヤト……そこじゃない、そこじゃないだろ……」

 ラディは俺をたしなめる。

「我々は侯爵と交渉し、マルガリータ様は侯爵位の請求権を放棄する代わりにドーファン海賊団を相続しました。……名ばかりではありますがな」

「名ばかり?」

「今、海賊団の船員は殆どがマルガリータ様についてきた、バーリ旧来の家臣たちです。アルバーノは自前の海軍……いや海賊船団を有しております。もともとドーファン海賊団として活動していた、アルバーノの手下共です」

「つまり、不穏分子をひとまとめにして、体よく使い潰そうとしているのじゃよ。ドーファンという名だけ与えてな!」

「アルバーノも今バーリ国内で争うことを良しとは思わなかったのでしょう。ことが事だけに、アルバーノの配下の者にも快くも思わない者もいる故。しかし……」

 バジーリオの顔が曇る。

「しかし?」

「我々の、家臣たちの親族は人質として城に軟禁されてしまったのです。我が妻も……」

「わらわたちは今屈辱の毎日を送っておる。アルバーノの言いなりで、様々な船を襲い……その上前を殆ど取られ、臣下たちの労をねぎらってやることもできぬ! 侯国はノクトゥア家の属国と揶揄され、あろうことかサヴォアなんぞと……これでは、ヴィスコンティ家累代の祖霊たちに顔向けができぬ……」

 バーリも色々大変なんだ、ということはわかった。しかし……

「つまりよ……どうしたいんだよ? 俺たちは娼館を襲いに行くんであって、バーリに攻め入るわけじゃないぞ! しかもたった八人だぞ!!」

「騒ぎを大きくしてほしい……」

「?」

「おぬしたちが、娼館を襲うとき、騒ぎをできるだけ大きくしてほしいのじゃ。そのすきに我々は人質を奪還する!」

「うっ……! それは……ちょっと、危ない……」

「ちょっとどころじゃないぞハヤト!」

 沈黙が包む。騒ぎが大きくなれば、それだけ兵も多く動員されるんだから、実行する俺たちの死ぬリスクはひじょーに高くなる。

 だからといって、騒ぎを小さく抑えたとしても、マルガリータたちの協力を得られなかったら俺たちは退路ない。ハイリスク、ハイリターンってやつか。

 それだけじゃない。マルガリータたちが失敗するって可能性だってある。

 どうしたものか……考えに考えたが、やはり答えは一つしなかった。

「……少し人手を貸してくれないか。俺たちも、八人だけじゃあ大きくするにもな……」

「……! 無論だ!」

 マルガリータは、花が咲いたように明るい顔になった。

「ハヤト、良いのか?」

 ラディはどこか不安そうに言った。

「もともと無謀なことをしようとしてるんだ。むしろ人手が増えて確率は上がったさ。それに、目的だって似たようなもんじゃねえか」

「どういうことだ?」

「マルガリータたちだって、助けたい人がいて、助けたいってことさ」

「……そうだな!」

「それに……」

「なんだ?」

「……悔いはしたくねえもんな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ