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悪夢の後

 夢をみた。昔のことだ。

 あれは、俺がまだ盗賊団に拾われたばっかりの頃だった。ラディもまだ居ない、本当に入ったばかりの頃だった。ロホスは俺よりも前に盗賊団に入っているので居たが、まだろくに話もしていない頃だった。

 夫婦二人の行商人を襲ったんだ。俺の初陣って奴だが、なんせ盗賊団三十人、まあ全員が襲ったわけじゃないか、安全な初陣だった。

 小さい馬車に、いっぱいに積められた麦やらなんやらの穀物が手に入ったなかなかの美味い仕事だった。

 俺は、後ろでただついて回っただけで、初陣なんて大層なことをしていなかったが、それでもアウトローな事をやる抵抗感やら、悲鳴を上げる馬車の主たちの悲惨な顔を見ると、酷く罪悪感を感じて……自分がしていることが恐ろしくてたまらなかった。

 略奪を終えると、仲間の一人が夫婦の主人の方を殺して、奥さんの方をを担ぎ上げて根城まで持って帰った。まあ……そういうことをするつもりでな。

 脚の腱を切られて、歩くこともできなくして、それは悲惨な姿だった。仲間に回されてぐったりしていて身を任せ……いや捨てているようだった。

 そして俺の番が回ってきた。

 本当は嫌だったんだ。俺はこんなことをしたくなかった……だが、してしまった。仲間たちからハブられたくなくて、一人で生きていくことが怖くて、したんだ。

 だらんと垂れた女の腕を掴んで、俺は……

 女は終わるまで俺を見ていなかったのに、終わる直前に、ギロッ、と俺の顔を見た。女の目は、いろんな感情が混ざった真っ暗な色を帯びていた。それがたまらなく怖かった。恐ろしかった。自分の罪が形になったような、そんな目が恐ろしくて恐ろしくて、俺はたまらなかった。

 女は口を開いた。かすれた声で俺に言った。

「殺して……」

 俺は……言われた通り女を殺してしまった。

 何度も何度も、胸を刺した。何度も何度も何度も何度も。殺せと言われたから、殺したんだ。

 錯乱した俺を止めたのはロホスだった。

 もう心臓だって止まったはずの女は俺の方を見ていた。ずっと、ずっと俺だけを見ている。やめてくれ、そんな目で俺を見ないでくれ。助けを求めているのか? 恨んでいるのか? 憎んでいるのか!? 俺は、殺せと言われたから殺したんだ! 助けてくれと言われれば、助けたはずだ! やめてくれ、そんな目で、俺を見ないでくれ……

 それ以来、俺は回されてた女を殺す癖がついた。そして殺したあとは、いつも同じ夢を見る。最初に殺した、女の夢だ。

「ここは……そうか、マルガリータの船に乗せてもらったんだっけか……」

 見慣れぬ一室は、船の中とは思えない綺麗な部屋だった。ベットがあり、窓もあり、さながら上等な宿の一室のようだった。

 起き上がると全身が酷く汗ばんでいて、非常に気持ちが悪かった。あの夢を見るといつものこうなるんだ。

 あの後の記憶があやふやだ。取り乱したりはしていなかったが筈だが……どうなったんだろうか。

 窓を開けると、群青色の深い色の海が広がっていた。海風が部屋を駆け巡って、温かいような涼しいような、そんな風が心地よかった。

「起きたようじゃな」

 ドアは音もなく開けられていた。そこにはマルガリータが居た。

「ああ、起きた。うーん……なんで俺はここで寝てたんだ?」

「覚えとらんのか?」

「うーん……ないなぁ……」

「あの後、立ち上がったと思ったら急に倒れおったのじゃ! まったく、ほんの少しわらわの寝床を貸してやるつもりだったのに! 一日も使いおって!」

「あ……そうなのか。すまんな、あの奴隷船じゃろくに眠れなかったから、疲れが出ちまったようだ」

 マルガリータは、昨日のことを聞いてこなかった。気遣ってくれているのかどうか、それはわからないがありがたい。

 俺は部屋をキョロキョロと見渡した。

「そうか、ここマルガリータの部屋か! へー綺麗じゃん」

 マルガリータはずけずけと入ると、近くにあった椅子に座る。

「なんじゃ気持ちの悪い。それよりも、おぬし! なにゆえバーリへゆくというのじゃ!」

「むっ! し、所用で……」

「その所要とやらを聞いておるのだ!」

「うーん……ちょっと言えないなぁ……」

「言わぬなら海へ放り投げるぞ!!」

「そこをなんとか……」

「だめじゃ!」

「うーむ……」

 言っていいのかな……バーリの娼館襲うことを。ま海賊だし、役人にしょっぴく事もしないだろうが、いかんせんやることがやることだけに、バーリの住人であるマルガリータには言いづらい。たが、もとから脱出するとき船に乗せてもらおうと予定していたし……良いかな。

「言うけどさ……手伝って!」

「はぁ!? なぜおぬしの企てにわらわが手伝わなければならぬのじゃ!?」

「むっ……そう言われると、ちょっとこ困るなぁ」

 なにか、なんくせをつけられる手はないか……考えに考えた末、そういえば、あの船はどうしたのだろうか、と思いだした。

「そういえばさ、あの奴隷船どうした?」

「配下の者に命じて、操縦させておるわ。なかなか悪くない船じゃからな。あのまま沈ませるのももったいないので、我がドーファン海賊団の二番船となる予定じゃ!」

「おいおい、勝手にお前のものにするんじゃねえぜ!」

「なに!?」

「だってよ、あれは俺たちが奪ったようなもんだぜ! だったら俺たちにも分前は然るべきだと思うけどなぁ」

 ま、実際は殆ど双子だけでなんだけどもな。

「むっ! それは貴様たちの命が……」

「俺たちの命は、あの宝箱の財宝だろ!」

「むむむ……」

「そういうわけだ。対価は払ってもらうぜ! 俺たちの作戦の手助けをな!」

「……銀貨を背に隠していたくせに」

「!!」

 俺は背中を探った。確かに隠してあった銀貨の袋はなくなっていた。それはそうか。

「これかのぅ? たんまりあるのぅ!」

 マルガリータがすっと出したのは紛れもなく俺がくすねた銀貨の袋だった。これみよがしに袋を揺さぶり銀貨の擦れる音を響かせた。

「それは! 俺の路銀だ!」

「嘘をつけ! こんな銀貨があるのなら、あんな船に乗っているはずがなかろう!」

「うぎぎ……」

「まあ、これは返してやろうかのう! 船の代金として!」

「ぐぎぎ……」

「フッフッフ!」

「なら、その金で、俺たちに協力してくれないか!」

「これを対価に……? これほどの大金はなかなか手に入らぬぞ?」

「それでも足りないだろうな。高級娼婦を身請けするには。あの財宝が全部俺たちの物ならば、話は違っていただろうに……」

「娼婦……? 身請け……? どういうことだ!」

「俺たちは、これからバーリの娼館を襲いに行く。お前には、バーリ脱出の手助けをしてもらいたいんだ」

「馬鹿な、正気か!?」

「だと思うけど……」

「なんじゃその言い方は!」

「んなこと言われてもよ、俺だって怖いんだよ! 怖いって思えるんだから正気だとは思うんだけど……やろうとしていることがことだからなぁ……」

「よりにもよって、バーリの……なぜバーリの街の娼館を……」

「仲間がな、囚われてるんだよ」

「盗賊の仲間が娼婦などになっておるのだ。察しはつくのぅ……」

「たぶん、お前の想像とは違うぜ。ま、説明するのは控えるがな」

「王家の騎士なのだろう? なぜ、そのような暴挙を……」

「だーかーら、言えねって! ラディの事情なんだよ!」

「そんな不透明な事情で、我々が協力するものか! してもらいたいのなら、腹を割って話すのじゃ!!」

「むぐぅ……」

 だからといって、ラディの出生の秘密も、アクイリアのことも、俺一人で言えるか! 言えねぇよなぁ。

「ラディを呼んでくれ。相談してみっから」

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